ボクイキ委員長
うちのクラスに一人、とっても真面目なやつがいる。 黒髪、黒目とまるでどこかの生き残りのような風体の少年だが、顔立ちはまあまあ 整っているものの、 表情筋を動かさないことにかけてはアカデミー随一だ。 プラス黒縁メガネ。 近寄りにくいったらありゃしない。 しかもその少年、口調がきつい。 だれに対してもそうだが男女差別無く。 人気者にも嫌われ者にも総じて変わらぬその態度。いっそ素晴らしい。 拍手をしてやりたいほどだ。 おかげで親しい友人という物を持たずクラスでも微妙に浮いた存在だったりする。 だが、だからと言って嫌われているわけでもなく、クラスの委員長に任命されるほどの ぴか一の頭脳と適度にクラスをまとめるだけのカリスマも持っていたりする。 彼に任せればまずたいていの事は大丈夫だろう。 そう皆が思っていたりするのも事実であった。 「奈良。うずまき。昨日授業をサボった分のペナルティーを預かってきたぞ。」 「「・・・げっっっ」」 バンと机に叩きつけるように置かれたのはA4サイズのプリント。 「一人2枚だ。たいした量じゃあ無いからすぐに終わるだろう。今からやって帰るまで にイルカ先生に提出しろよ。」 「無理っっっぜってーーー無理!」 ドベのうずまきナルトがプリント2枚を簡単に終わらせられるはずが無い。 「大丈夫だ。奈良なら出来る。とっとと写せ。」 コンコンとプリントの上から机を叩いてみせた委員長に思わずその場にいたキバ達が 笑い出した。 「委員長がカンニング推奨していいのかよ」 ニヤリと口の端を持ち上げシカマルが問えば 「ばれなければ良い。」 きっぱりと。こんな融通が利くあたりが彼が嫌われないところなのだろう。 「俺ってばイインチョーが教えてくれると思ってたのにー」 カンニングの許可を貰ってラッキーな筈のナルトはといえばブーブーと口をとがらせ 不満の様子。 ナルトがこの笑顔一つ見せてくれないツレナイ委員長を大好きなのは周知の事実で あったから誰もがその様子に納得していた。 「時間の無駄だ。」 「・・・ひでぇーーってばよ」 きっぱりと、コンマ一秒の間すらなく答えられ、ナルトはヘニャリと情けない顔をみせた。 そんなある日、あいも変わらず嫌な先生はいるもので、今日はそんな奴にとっ捕まり、 嫌味やらなにやらぐだぐだ言われていた時のことだ。 (なっげーーー) 良くそんなに言うことがあるなぁ・・と呆れるを通り越して感動すらしてしまいそうな 教師の顔をうんざり眺めているとイヤンな感じにエキサイトし始めたそのおっさんが体罰と いう名の暴力をふるいそうになったそのとき 「先生。もう授業は始まってますよ。そんなの構っていないで可愛い生徒に勉強を教えに 行ったらどうですか」 冷ややかな声が廊下に響いた。 口を出すと余計に怒り出すので下手に入り込めなかった友人達や、野次馬根性で遠巻きにみて いた子供達も誰もがその凍りそうなほどの声音に背筋を冷やした。 それは声をかけられた教師も同様。 赤かった顔は心なしか青く。 「い・・いんちょ・・」 「お前のせいで授業が遅れるのは迷惑だ。とっとと教室に入れ。お前達ももうとっくに チャイムは鳴ってるぞ。 ボイコットでもする気か?」 片方の眉を持ち上げはき捨てた委員長はそれだけ言うと一人静かに教室へと戻っていった。 その後にすごすごと続くクラスメイトたち。 さっきのおっさんはコッソリと逃げ出していた。←氷点下の委員長に恐れをなしたらしい。 そしてナルト他、友人達ももちろん教室へと向かったが、女の子達の顔が心なしか怖い。 なにやら激しく憤っている様子である。 恐る恐る休み時間に尋ねてみれば、どうやらナルトの為にムカついてくれていたようだ。 「何あれっっ何様ーーーー」 「ナルトじゃなくてあのネチネチうざったるいおっさんが悪いんじゃない!」 握りこぶしを怒りで震わせながら、イノとサクラが叫ぶ。 教室に委員長がいないのは確認済みだからいいけど。 「確かにあれは腹立ったよなー」 「そんなの扱いは無いよねぇ。」 いつもは委員長批判には加わらないキバとチョージまで同意する。 それをまぁまぁ、となだめるのは寡黙なシノと気弱なヒナタのみ。押されて負けるのは 目に見える。 そんな様子にナルトは、はにかんだ笑みをみせた。 自分のために怒ってくれる友人達の気持ちは嬉しい。さっきだって何度も助けに入ろう としてくれた。 シカマルが止めてくれなければ下手したら教師相手に乱闘騒ぎになりそうなくらいに 物騒な顔をしていた彼ら。 だからこそ、知って欲しいと思う。 彼ら以外にも物凄く心配してくれて、事態を大きくしないように配慮して助けてくれる。 そんな凄い彼のことを。 「イインチョーはそれでいいんだってば」 ナルトは嬉しそうにそう言った。 「何言ってんのよ。あんたが1番怒るべきでしょっ」 「んーとさ。委員長ってさ入学した時からずっと俺と同じクラスなの」 「え?」 「だから俺ってば他の誰より委員長のこと知ってるってば」 「そんなに長く一緒だったってのにあの態度?」 「一匹狼だもん。」 けろりと。 しかもニシシッと笑いながら言ったナルトに誰もが言葉を失った。 そう、ナルト自身が1番知っている。 誰よりも優しいのは委員長だと。 誰よりも公平で、人の言葉に流されないで、己を突き進む、そんな凄い人。 アカデミー中でイルカの次に信頼している少年。←シカはすでに殿堂いり(笑) 今はこんなにもナルトを気にかけてくれる人間がいる。だが入学当初。 ナルトにとって周りは全て敵だった。 当時、クラスで1番頭の良い少年が委員長を任されていた。 人当たりは良くないが、義務感はあり、そつなく頼まれた事をこなしていた。 クラス内の落ちこぼれの面倒すらも…。 「俺知らなかったんだぁ。てっきり委員長って仕事柄俺の面倒みてたんだと思ってた。」 本人がキッパリそう言い切ったから疑いもせず。 だがよくよく考えればすぐわかったはずなのだ。あのアカデミーの大人達がうずまきナルト の為に未来ある優秀な生徒を動かすはずがないのだから。 「怪我してたら治療してくれたし、無理矢理中庭に連れ出されそうになったら引き止めて くれたし」 なんだか凄くいろいろ助けてモラッタ。 「決定的だったのは卒業試験」 最初の試験。ナルトはドベらしくもちろん受からず、委員長は常に成績トップだったにも 関わらず落ちた。 「なんで?」 「俺のこと助けたり庇ったりしたせーで先生達に目ぇつけられちゃったみたいだってば」 それを知った時ほんっとーに落ち込んだ。 たくさん謝った。 「でも委員長は」 『ナルトの為じゃない。僕自身の信念に基づいて動いた結果だ。悔いはないよ。ってゆーか 気にされたほうが不愉快だね。』 「って言われちゃったってば」 「委員長らしいってゆーか」 「いっそ清々しいわね」 「うん」 花が綻びる瞬間。そんな綺麗な笑顔をみせる。 「だから俺ってば委員長が大好きなんだってば」 下忍になりました。 めでたく卒業デス!! 危うかったですがきっちり卒業ですとも。 それもこれも 「イルカ先生ありがとーー!」 ってなもんだ。 予想はしていたが妨害ありがと先生方。 そして今年もありがと委員長。 今までありがとう本当に。この2人には感謝してもし足りない。 5年もの長い間、ずっと近くで励ましてくれたイルカ先生。 5年ずっと同じクラスで1番の危機には必ず助けてくれた委員長。 大好きでした。 そしてこれからもずっと大好きです。 「お先にってばよ委員長」 「ようやくお前から開放されるようだな」 「あー酷いってばよ!先に下忍になる俺に嫉妬だってば?」 「ばぁか。」 口調はいつもきついけど、いつだってその瞳は優しい。 きっと無意識のその瞳になんど救われたことか。 「まだまだ先は長いんだからな。まっすぐいつも通りぶつかってけよ。ナルト」 「うん、うん委員長。俺ってば逃げないで頑張るってばよ」 先は長い。きっと辛い事はたくさんあるだろう。 心配してくれてありがとう。 今、この時にそんな事思ってくれる人がいてとても嬉しい。 「たくさんたくさん。ありがと委員長」 言葉に現せないくらいの感謝を同じくらいの歳の子に・・・シカマルと三代目以外に感じる 日が来るなんて。 なんて幸せな事だろうか。 「なんの事だ?僕は委員長として落ちこぼれの面倒を見ただけだからな」 「先生に頼まれて?」 「そうだ」 最後まで嘘ばっか。 イルカ先生以外の大人がそんな事頼むわけないじゃないか。 「意地っ張り」 「…るせーよ」 きっと俺がそれに気付いているのを知っているから、そっぽ向いてるんだろうけどさ。 感謝されて照れるなんて。委員長らしすぎ。 「なー委員長はさ」 「ん?」 「おっきくなったら何になりたい?」 「…お前は火影だよな」 「当然だってばよ!!」 言い切れば委員長はフと楽しそうに笑った。 ああ、なんて綺麗な笑顔だろうか。心の底からの微笑みにこちらも嬉しくなってくる。 「なら僕も決定だ。」 「なに?何になるってば?火影は俺んだからダメだってばよ」 「ばぁか。そんな大層なもん狙わねぇよ」 「んじゃぁ」 「言わない。内緒だ。」 「あーずっけぇ!!」 本当に知りたかったのに。少しでも委員長の夢の手助け出来たら…って思ったのに。 でも凄く楽しそうに委員長が笑ったから。 「いつか解るってば?」 「ああ。必ずなってみせるから」 委員長なら。きっとなんだって出来る。 手を振り卒業していくナルトの背を見送って、同じく隣で柔らかな瞳でナルトを見送っていた 少年を見おろした。 きっと本人は自分がそんな瞳をしているなんて気づいていないのだろう。 言ったら『見間違いじゃないですか』と冷たく言われそうなので決して言うつもりはないが。 少年はナルトが去った方に目を向けたまま口を開いた。 「イルカ先生。」 「なんだ?」 「僕も・・・イルカ先生みたいな教師になれるかな。」 「っっ!」 「あいつが火影になるって言ったから。俺はこの腐ったアカデミーを変えてみせる。」 腐った教師に習えば腐った思考が植えつけられる。そんな教師なんて必要ない。 将来あいつが背負って立つ木の葉の為にも。 夢のような話をしていると思う。 この先あいつみたいに辛い思いをする子供が居なくなるように。 それでもそう呟いた少年の瞳はとても強く。 「難しいぞ」 「・・・己を貫くのはきっと大人社会のほうが大変だ。僕はイルカ先生がどれだけ凄いか、 ずっと見てきて少しは知ってるつもりだから。」 「委員長」 「はい?」 「ずっとずっとナルトにそう呼ばれていたな。」 「ええ、あいつ僕が委員長じゃなくても関係なく呼んでましたからね。」 「ずっと。5年の間。お前がナルトを見守っていたのを俺は知っているぞ。他の生徒達の フォローを色々していたのもな。」 「・・・記憶にありませんけど。」 眉を寄せ心外だと言いたげな委員長にイルカは苦笑するしかなかった。 「もうすでにお前は俺なんかよりも凄い奴だよ。子供の社会だって難しい、その中でそれだけ 自分を貫いてこれたんだから。」 「まだ足りない。」 「そうだな。精神力は確かに充分だが、まだ足りない。大人社会で生きるのに必要なのは力だよ。」 「え?」 柔和なイルカの顔を思わず見上げてくる子供の顔はいつもより少し幼い。 意外なことを聞いたとばかりな表情にイルカは笑みに少し黒いものをにじませた 「パワーだ。物理的な力。解るか?」 「どうして」 静かな問いかけに思わず言葉にもれたのはそんな疑問。 力が必要な理由を聞いたわけではない。 「万年中忍の俺がここまで生き延びれたのが不思議か?」 そう。大人の社会で力が必要なら。きっと彼はとっくの昔にいない。 コクと小さく頷けば 「まぁ・・・そうだな。委員長は口が堅そうだしいっか。こう見えて強いぞ俺は」 クナイを取り出し軽い動作で空へと放る・・・ように見えたが ドサッ 「!?」 「まぁこんな奴らがわんさかいてな。最初は大変だったぞー」 黒い服の男が肩をおさえて地面に転がっているのを呆然と見るしかなかった委員長にイルカは 暢気な声で説明した。 「ナルトと会う前からけっこう目をつけられていてな。大人ってのは卑怯なもので、邪魔な奴 は排除するらしい。」 「そんなバカな。」 「だろ?俺も最初はそう思った。いやー青かったあのころは。」 実際被害にあった本人が言っているのだから事実なのだろうが。なにやら緊迫感がないのは イルカだからだろうか。 「ナルトに構いだしてからは凄かったぞ。元暗部とか借り出してきたっぽいし。」 さすがに現役暗部は火影の命以外で動くはずが無いから。 「元ってっっっ暗部ってっっっなんでっなんで生きてるんですかっっっ」 「だから言ったろ。こう見えて強いぞ俺はって」 未だ転がり続けている男にチラッと視線を移し心底めんどくさそうにイルカは近づき頭のつぼ を刺激する。 「し――――――」 「死んでない死んでない。しばらく脳を麻痺させただけだからな。」 こわっそれ怖いからっっ。 笑顔で言わんでくれよ。 ちょっぴり及び腰になった委員長にありゃやりすぎたか?とイルカは照れたように鼻の頭をかいた。 「委員長。何が何でも来年は下忍になってすぐに中忍になれよ。」 「え?」 「それ以降はアカデミーにくるんだろ?大人の社会で生きていけるように俺が教えるよ。 生き方を。」 「イルカ・・・先生。」 「真っ直ぐ自分の忍道を曲げない。あれは・・・お前の言葉だもんな。」 目をみはる少年にイルカは微笑んだ。 ナルトが口にしていたあの言葉は、委員長が昔ぽつりとこぼした自分の生き方だとイルカは 知っている。 ナルトが嬉しそうに教えてくれたから。 「真っ直ぐのまま生きていけるように。全てを秘め、忍んで生きることはできるか?」 真剣な問いかけに 「できる、できないじゃない。やる。そう決めた。真っ直ぐ自分の忍道を曲げないために。 あいつに負けないために。」 会心の返事が返ってきて。 イルカは抑えきれない涙を隠すために空を仰いだ。 青い青い。晴れ渡ったあの子の目のような空を。

話は終わってるけど細部を詰めたいお話。なにげにお気に入りなのでもうちょっと手を加えるつもりです。