それはたしか久しぶりにカラリと晴れた五月のことだった。

 

最近雨が続いたせいで空気が湿っぽい。そんな中、毛利探偵事務所に少女の

爽やかな声が響いた。

「コナンくーん。コナ・・あっ。お父さん。もうっまた昼間っからビール飲んでっ。」

いつものごとくいつもの事務机に座り暇とばかりにビールを

かっくらう父、毛利小五郎に腰に手をあて、母親よろしくお小言をくれる。

そんな蘭に「ああ?」と目をむけつつも、新たなビール缶に手をだす小五郎。

だがそれを許す蘭ではない。

「あっこら蘭っそれは最後のビールなんだぞっ」

スッと最後の一缶を奪われ情けない声で小五郎が対抗する。

「だーめ。どーせ夜も飲む気なんでしょ?まったくもうっ。

 それよりお父さんコナン君見なかった?」

言われ小五郎は「んー」と半分以上活動していない頭を働かせる。

なーんか見たような気ぃもするなぁぁ・・・とつぶやいた数瞬後はっと思い出す。

「あのガキならさっきまでそこに・・・いた・・と思ったんだがな?いねーなぁ。」

はたして小五郎のさっきとはいつのことやら。酔っぱらいはこれだから・・・

と蘭は肩をすくめる。

おやぁとまだ、首をひねっている父に別に期待していなかった蘭はがっかりすることもなく

ビールを片づけに事務所を出た。

恨めしげな目で蘭が消えるまで見続けていたが、やがて諦めたのかイスの背もたれに

ギィっと寄りかかった。背をぐっとそらし逆さまな体勢で窓の外を見やる。

「あーあ。ビールとられちまったよ。ちっ。ったくあのガキがどっか行くからいけね

ーんだ。まったくどこ行きやがったんだか。」

大体コナンというガキはいつもきちんとしている。どこかへ出掛けるとき

必ず小五郎か蘭に一言言って出掛ける。それを破ったことは覚えてる限りでは

なかったはずだ。だからこそ今回のいつの間にか家にいない・・・という事態は思った

以上に小五郎の胸に陰をおとしたようだった。

ぐっと体勢を戻すと首をコキコキ鳴らす。

ぐちぐち文句をたれつつもさりげに目を彷徨わせる小五郎。

たぶん無意識に探しているのだろう。

認めたくはない・・・だがいないとなると気になるのはどうしようもない。

「ちぇ。酒もなくなっちまったし・・・」

やる気のない様子で愛用のタバコを胸ポケットから取り出そう・・として

「っとタバコも切れやがった・・。」


ちっと舌打ちをすると何故かイライラして机を指でトントンたたく。

何にいらついてるんだ俺は?酒とられたからか?タバコきれたからか?

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・

わかってるさ・・・あのガキがいないから・・・

「タバコ買いに行くかな・・ついでに散歩にでも行くか。」

自分に言い聞かせるようにつぶやく。そう、これは言い訳。

「蘭ー俺はタバコ買いに外ちょっくら出てくるからなー」

大声で叫ぶと返事も待たずにサイフ片手に家を飛び出した。

開けはなたれたままのドアを見つめクスクス蘭は笑う。

「もう。お父さんったらコナン君探しにいくなら行くって素直に言えばいいのに」

すっかり見抜いている娘は父が開け放したままの事務所の

戸を楽しげに閉めたのだった。

 


「あっちぃぃぃ。ったく、まだ五月だってのにくそ暑いな・・。っとタバコタバコ〜」

とか言いつついつもの自販機を通り過ぎ公園へと足をのばす。ぱたぱたと

服を仰ぎ風をおくる。気温は28℃と夏並になってきた。

そんな中歩くなんて自分で自分が信じられない小五郎。普通ならぜっっっっったいに

しない行為だ。

「ま、散歩だしなたまにはな」

自分自身にすら言い訳をしつつ、ぶらぶら公園を横切る。

休日だけあって親子連れが多い。コナンはよくあの悪ガキどもとグランドでサッカーとか

をしているらしい。ふっとそれを思い出しグランドの方へと足を向ける小五郎。

「あ?いねーな・・・」

ってことは・・・・・博士の家か?

眉をよせ、考え込みつつ公園の外へと足は向かう。

・・・と。

「あ?なんだこんな所にいるじゃねーかあのくそガキ。」

公園とグランドの間に立ちそびえる結構たくさんの木々。

その木々の隙間からにコナンの後ろ姿を発見し心なしかホッとした自分にチッと舌打ちを

うつ。認めたくない自分がまだいる。コナンを大切に思う自分をまだ

認めたくない。いや、もちろん家族の一員としては大切にしている。

だがこの感情がそれにとどまっているのだろうか?

自分でもなんだかわからない焦燥感にイライラする。

そしてつい八つ当たり気味にコナンにあたってしまっているのかもしれない。

そこまで考えてこちらに背を向けているコナンに声をかけようと近づいた。

木の影のおかげで直射日光を免れここらへんはなかなか涼しい。

(へぇ。穴場じゃねーか。今度さぼるときはここにくっかな)

なんてさっきまでの焦燥感もなんのその楽しげに計画を考える小五郎。

その時、もう一人コナンのそばに知らない少年がいるのに気が付いた。

(ん?高校生くらいだな?あの西の黒いガキか?・・いや違うな。誰だ?)

まだ背後の小五郎に気づかないコナン。小五郎はコナンの向かい側にいる

少年と目がバッチリあった。

(新一?・・・に似てるな。)

だが違うことは長年工藤新一を見てきた自分だからこそ分かる。

いぶかしげに眉を寄せる小五郎にその少年はシッとまじめな表情で唇に

人差し指を当てた。

(しぃ?あっこら何してやがる)

そのあとニッと笑うとコナンと同じ高さになるように腰をおとし、ギュッと

抱きしめたのだ。俗に言う抱擁と言ったやつだ。

コナンはというと何故か大人しく抱きしめられている。

いや・・なん肩が震えている。

(一体なんなんだ?)

「わりい、また愚痴ったな」

「気にするなおまえに頼られるのは悪い気分じゃないぜ」

「バーローこっちが嫌なんだよ。弱み見せたみてーじゃねーか」

「くく。意地っ張りだからなおまえ。そんならあのマッドサイエンティスト

姉ちゃんに愚痴ればいいじゃねーか。同じ立場なんだしよ。」

「いや・・・それは。あいつに罪悪感あたえそうでできねーよ。

それに。女にこんな姿は見せられたもんじゃねーしな。」

「そうか?」

「てめーならあの隣の刑事の娘にこんな自分見せられるかよ?」

「俺は誰にもみせねーよ。ポーカーフェイスは得意だからな。」

「それもそれで問題だと思うぞ俺は。」

 

かすかに聞き取れる会話。これはどういうことだ?

愚痴るほど現状にふまんがあるということか?いやその前に

言いたいことは俺か蘭に言えばいいのに。それとも言えないことか?

誰かにいじめられているとか?まさかうちが嫌で文句言っているとか?

際限なくグルグルまわる思考・・・

だがしかしそれはコナンの顔がこちらに少し向いた瞬間フリーズした。

涙の跡。それを見てドキッとした。

(泣いて・・・たのか。うちで泣いた所なんか一度もみたことねーのにな。)

泣いている理由も気になるが、どちらかというと泣き顔のほうに胸がさわぐ。

(まあ、まだ6歳なんだよなあいつ。蘭なんかあの歳のころピーピー泣きまくって

たのにな。)

やっぱ信用の問題なのか?あんな泣き顔他の奴に見せるなんて・・・

考えれば考えるほど胸が熱くなる。

本当の親じゃないが

自分の子のように愛しい。

いつでも笑顔でいてほしい。

守ってやりたい。

泣いている時に胸を貸してやりたい・・・・

 

どうやら今現在コナンの泣き場所はあの少年に奪われているようだが、

いつか必ずその地位奪ってやる。コナンが泣けるそんな存在に・・・

なってみせる。

ギッと歯ぎしりをしその少年をにらみつける。少年は気づいた風もなくコナンの

背をぽんぽんと叩き続けていた。

 

「コナン」

いつものように呼びかける。弱気な彼を見たそぶりをみせない

いつもの呼び方で。

「あっおじさん。どうしたの?」

涙の乾いた顔でいつもの笑顔で振り返るコナン

「俺は散歩だ散歩。そういや蘭が探してたぞ。」

少年の視線を感じたが無視し、コナンにぶっきらぼうに対応する。

そう、いつものように。

「蘭ねーちゃんが?なんだろう。わかったすぐ帰るね。」

首をかしげ素直な返事。

少年はよいしょっと立ち上がるとコナンの頭に手を置いた。

「ぼうず。じゃないな・・・コナン。また、な」

くしゃっと髪をまぜられコナンは少年の方を見上げる。

優しい瞳と目があいふわりとほほえんだ。

「うん。快斗兄ちゃん。ありがと。」

さっぱりした笑顔を見せられ快斗と呼ばれた少年はニッと天真爛漫な

笑みをうかべる。

「もう元気だな?また、なんかあったら電話しろよ」

軽くウインクをすると飄々と少年は去っていった。

「泣きたくなったらいつでも来い。」

まるで小五郎を挑発するような文句を最後に残して。

(ちっ。睨んだのばれてたかもな。・・・しっかし、つかみ所の無い奴だな)

あの飄々さは並の高校生には真似できないと思う。

「おじさんも帰る?まだ散歩していく?」

快斗の去っていったほうを据わった目でずっと見ていた小五郎にしびれを

きらしたコナンはズボンを引っ張り尋ねる。

「んぁ?あー帰る・・かな?・・・ついでにタバコも買って帰るか。」

どうせ目的は果たしたんだし。

そう俺はコナンを探しに外へ出たのだから。

認めてやるよ。自分の心を。

散歩もタバコもすべて言い訳だって事も。

まだまだ素直にかわいがる事は出来ないが。

いつか・・必ずお前がつらい時一番そばにいたいと思える人になりたい。

その時まで・・それまではこいつの泣き場所を譲ってやるさ。

 

果たして小五郎の思いは父性本能なのかそれを越えているのか。

そこまでは本人にもわからない。

いつかいつか分かるだろう。

それまではこのままゆっくり過ごしていこう。

end

 

 


一言

すみません・・・駄文です(涙)ああ。記念すべき一作目がこんなんで

いいのか・・。どっちにしても文作るの初めてだしこんなもんか素人・・。

しかも考えてもいなかったこのコンビ・・・何故小五郎?おかしいぞ私。

 

 up20015/25