こんな日もいいね
「暇ーーー暇暇暇ーーー。」
人が必至で宿題をしているとき背後からそんな声が聞こえた。
むしむしむし。
いつもならそんな声が聞こえた瞬間飛んでいっちゃうけど今日は駄目。
だってこれ明日提出だし。
それに―――――
「かーーーいーーとぉぉぉぉ。」
暇ーーーーー。とおんぶお化けのように背中にはりつかれた。
まったく困っちゃうよな。
子供じゃないとかいいつつ子供の特権いかしてねだってくるんだぜ。
「今はだめー。」
「けちーー。」
どすどすと背中を蹴られるがむしむし。
だって宿題中だもん。
可愛くすねてみせても駄目。
服をビヨンビョン引っ張ってもだーめ。
そのうちぷくうと頬を膨らませプイっとどこかへ行ってしまった。
あらら。
ご立腹ね。
でも駄目。
だってさ今日俺んちに来たのだった俺が手に入れた小説読むためなんだぜ。
遊ぼーってどれだけ俺がいっても無視して本読んでたくせに読み終えた瞬間から暇暇騒がれたってねー。
甘やかしたいけど駄目っ。
これは俺の小さな意地なの。
遊びたいけど意地悪したい気分。
本当はこんな宿題あっという間に終わるけどさ、ゆっくりやってやる。
だかだか荒い足音が遠くで聞こえるがとりあえず今は気にしないフリ。
しばらくたって宿題も終わったしやれやれと一息ついていたら
「快斗ー。コナンちゃん怒っちゃってるわよー。そんなつまらないプライドなんか捨てて謝っちゃいなさい。」
・・とつねにコナンびいきの母がまったくもうと腰に手をあてやってきた。
まったくもうはこちらの方だ。
きっとコナンがいかに俺が意地悪だったかプリプリしゃべったのだろう。
しかーーし。自分のことは棚上げだぞ。絶対に。
「やーだねー。」
「あらー。いいのぉ?私がコナンちゃん頂いちゃうわよー。」
少しムッとする。
それは嫌だ。でもまだ意地がとまらない。
「・・・勝手にすれば。」
ふん。
まるで子供だよな。こんな意地張ったのって久しぶりだぜ。
そんな俺をおや?といった風に母さんは見てきた。
「やだーかーわいーー。快斗ったらコナンちゃんに感化されて来たのかしら?」
俺の頭をぐりぐりなでまわしてくる。
可愛いってなんだよ。
「だって快斗ってばちっちゃな頃から聞き分けよくってお母さんつまらなかったんだものー。
こんなプクプク膨れてる顔なんて久しぶりに見たわ。」
俺の頭を抱え込み頬ずりしてくる。
「プクプク膨れてなんかねーよ。」
とプクプク膨れた頬で返しても意味ねーってか。
あっちいけっとしっしと手を振ると
「仕方ないわねー。可愛い快ちゃんのためにお母さん一肌ぬいじゃうわ。」
「大変けっこーです。いりませんっ。」
何するかわかったもんじゃねー。
「うふっ。いらっしゃい。」
含み笑いをすると手招きをする。いいからいいからとうながされる。
なんだ?と眉をよせついていくと階段をトントンと降り居間へと歩いていく。
下でテレビでも見てるのかあいつ?
「ここからは静かにね。」
シィーっと唇に人差し指を押しあてられ訳が分からず頷いた。
怪盗の血か勝手に足音すら消している。
うーん。すげぇよな俺って。
「・・・・・あ。」
母が何を言いたいのかやっとわかった。
テレビを見ながら寝てしまったのか可愛い頬をピンクに染めたままコナンは床でコロンと丸まっていた。
「かわいいでしょー。」
悔しいけどまったくその通りだったから頷く。
ちくしょう。こんな姿見せられたら意地もきえちまうってんだ。
「側にいてやりなさい。」
優しい笑顔で母さんがいう。
丸まったコナンはなにか寂しい感じがするのだ。
もしかすると俺がさっき追い払ったのを拒絶と感じたのかもしれない。
それだったら母さんが怒鳴り込んできたのも頷ける。
「わかった。」
「私はちょっとお買い物行って来るけど・・・寝てるコナンちゃんに変な事しちゃだめよっ。」
ちっちっちっと指を顔の前で振られ俺は
「だーれがするかっ。」
と母さんのほっぺたをびょーんと伸ばした。
「やだー痛いじゃない快斗ー。でも合意ならいいからねー。あっまだ昼間だから駄目だわ。夜よ夜っ。」
何を力説してるんだか。そんな母をはいはいと玄関まで連れていき(コナンが起きちまうじゃねーか)
いってらっしゃいと手を振り追い出した。
居間に戻るとコナンに毛布を掛けてやりその隣に腰をおろす。
「快・・・と・・」
「ここにいるよ。」
ちいさくつぶやかれた声が胸に響く。
さっきはやりすぎたかなぁ?
「大丈夫。側にいるから。安心して寝ろよ。」
髪をそっとなでてやるとコナンは嬉しそうに微笑み俺の方へともぞもぞと近づいてきた。
実は起きてるのかこいつ?
「まったく意識なくても可愛いって困っちゃうよな。」
時折もぞもぞ動くコナンを見ているうちに俺もどんどん眠くなってくる。
たまにはこんなのもいいかもしれない。
まだお昼だけど遊ぶのも大切だけどこんな風にやすらげる時間も。いいかもな。
30分後
「たーだいまーー。」
よっこいせっと醤油のはいった袋を台所まで運んだ後母は居間をのぞく。
「快斗ー。夜ご飯だけど・・・・・。あらあら。」
目を丸くしてその後嬉しそうに微笑んだ。
小さな毛布一枚に2人してくるまる姿はまるで子犬のようだった。
「まだまだ子供ね。」
毛布からはみだした手を直してやり、母は台所へと行く。
今日の夜ご飯のしたくのために。
トントンと静かな空間に包丁の音が響く。
ぐつぐつとお湯がにえたぎる音。
そして夜になったら
「お腹すいたー。」
と子供達は起きてくるのだろう。
そう考えるとなにやら楽しくて仕方ない。
いいよね。こんな時間も。
さあ、ご飯を作りましょう腹ぺこの可愛い子犬たちが起きてくるまえに。
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