高木刑事の長ーい一日(番外編)

今日俺は久々に現地に足を運んで次の獲物のチェックをしていた。いつもなら大体警備の下調べのついでに時間があれば覗いていく程度だったのだが、今回は宝石がメインだ。

警備のチェックの方がついで。俺にしては本当に珍しいことだ。

一般客に紛れ込んでもよかったのだが、もしこの宝石だけじっくり見てるのが怪しまれたりしたら後々めんどくさいから警備員に変装していた。

どこからどう見ても30代後半のちょっぴり腹の出たおじさん警備員だ。うーんいつもながら完璧だぜ俺っ。
ショーケースに映る自分の姿に我ながら自画自賛してしまう。


「うーんそれにしてもここのショーケースは寂れてるなあ。」
独り言をつぶやきつつここの目玉には目もくれず、お目当ての宝石をのぞき込む。

シンプルすぎて若者の目には物足りなく映るのか、目の前のショーケースはがら空きだった。
「へっへーまったく今時の若者は目が悪いねえ。」
何気に年寄りくさい事を言ってるがまあ、今外見おっさんだからまあ、いーだろー。
ケースの外からじっくりと眺める。
(うーん。いい輝き。)
TVでこの展覧会が映された時ここの目玉である『炎の涙』の奥にこれがチラッと見えたのだ。
一瞬だったが分かる。本物の輝き。
久々にいい石と出会えて俺は心から歓喜した。
怪盗としてではなく、綺麗な物が好きな一人の人間として。

「本当ふし穴だねぇ。」
『炎の涙』に群がる人々に目をやりニヤニヤ笑う。本物の価値が分からない奴なんかがこんな所にいること自体笑えてしょうがないのだ。
(お前達は一体何のために来たんだ?)
きれいな物を見に来たんならこいつを見てけっての。
肩をすくめ偽物の光をきれいと騒ぐ人々から目をそむけようとした・・・
その時

視界の隅に困った顔をした男が見えた。
(何だこいつ?)
宝石を見ながらこんな顔する奴もめずらしい。ついジッと眺めているとどうやら連れが一人いるらしい。
時々口が動いている。・・・どこにいるんだ?
『炎の涙』観覧客にまじるその男はよく下を見るから子供でも連れているのかもしれない。
(子連れ・・・ねぇ。)
その頼りない顔で子持ちというバランスの悪さになにやら俺は苦笑してしまった。
あーおもしれぇ客見ちったなぁーとグッと伸びをして、やっと目線を元の石に戻した。

いつまでも衰えない光が俺に力を分けてくれる気がする。
綺麗な物は好きだ。

    でも石は・・・宝石はパンドラの事もあるせいか見るのも嫌なくらい嫌いだ。
        いや―――――「だった」・・かな?

この石だけは特別に好きの部類に入れておこう。
『新月の光』
なんかいいよな・・。月がないのに光るんだぜ。月がないと光れないパンドラとは大違いだぜ。
クッと自嘲気味に笑う。
分かってる単なる自分の感傷だって事は。
でもやっぱり、この石が綺麗で俺の心をなごませてくれるのは事実だ。

「あっ見てみてっ。これすっごくきれー。」
自分の思考に沈みつつ、石を真剣に見つめていた俺は聞き覚えのある子供の声にハッと現実を取り戻した。
そこには俺の光がいた。笑顔で俺の大好きな宝石を見つめている。
そして、さっき困った顔をしていた男と楽しげに会話を交わしていた。そうか。連れはこのガキだったのか。何故か納得してしまった。

キラキラ輝く瞳で『新月の光』を覗く2人に俺はいても立ってもいられなくなってつい話しかけてしまった。

「おや、ぼうず。なかなか目がいいな。」




調べてみたらあの少年と一緒にいたのは刑事だった。
いやあ。ビックリしたね。
きっといつも失敗ばかりでどやされてるんだぜあの顔は。
頼りなげな男の顔に俺は勝手にそんな想像をしていた。
思わずクスクス笑いだしてしまう。
でもさ。笑顔は可愛かったよな。
つい見とれちゃったしさ。でもそんな彼を見て頬を染めていたコナンもまた可愛くて
俺はどちらに目を向けようかまよっちゃったくらいだ。

「えーっと高木渉巡査部長・・ね。なんで捜査一課の奴が俺の事件に関わってんだ?」
あの展覧会にいた理由もだいたい突き止めていた俺は首をかしげる。
だっておかしいじゃねーか。KIDの事件に関わってくるのは俺の担当の奴らだろ?
それが畑違いの捜査一課になんで頼んでるんだ?
あっもしかして人手が足りなくて・・とかか?
そーいや青子の奴が親父さんと久しぶりに遠出するのとかウキウキ話してやがったな。
まーさーかー。日本全国の展覧会場をチェックしてんのかよ日本の警察さんよー。
アホじゃねーの?
そんな事してなんになるんだか。
あまりのお間抜けさ加減に俺は心底巻き込まれた下っ端刑事に同情したね。
バカな上司をもって可哀想に。

「さーってと。チェックは済んだし。後は予告状送って盗みに入るだけってか。」
ま、楽勝楽勝。



【月が太陽に満ちた晩
  闇夜に輝く一条の光を目指し
    天空の風は舞い降りる。
 二つの音が時を奏でたとき、
  空へと光は戻り行く。】

「んーちょっと簡単すぎたか?」
少し考えたが「まぁいっか」と思いなおし最後にサインで締めくくる。
指をパチンと鳴らし白い鳥を一羽呼ぶとそいつはくちばしでカードを受け取った。
「頼んだぜ。無事届けてくれよ。」
すでに姿を消した相棒に俺は語りかけた。
一番賢い奴だ。以前あのガキに助けられたあの鳥。名を
「なあ、・・・コナン」
と付けた。勝手に使って怒るかな?こいつを呼ぶたびあの睨み付けてくる強い瞳を思い出して楽しい気分になる。
一人でクスクス笑うと最高のライバルが今住んでいる方角へと目をやった。
今頃はもう寝てる・・かな。
小学一年生だしな。
大人のような瞳をした少年の小学生的行動になにやらアンバランスな感じをうけ笑いがとまらなくなってしまう。
「良い夢みろよ。」
できれば俺の夢を見てくれるとうれしいけどな。
そんな事を思いつつ三日月を見つめ続けていた。
あれがまん丸になったときに行動開始だ。
今度はあの子供がどんな顔をみせてくれるのか楽しみでしょうがない。
今からこんなにワクワクしてるんだぜ俺。
なあ、名探偵。


「高木ちょっと来てくれ。」
「え?はんへふか?」
口に詰め込んでいたエビフライのしっぽをもごもご動かす高木に声を掛けた目暮警部は苦笑しつつ早く食べてしまいなさいとテーブルの上のトレーを指し示した。
「・・すみません。で?なにか用ですか?」
突然の事件でも起こったのかな?やっと口の中のエビフライがなくなった高木は目暮を不思議そうに見上げた。
「食事中すまないな。ほらっご飯が残っている食べてしまいなさい。」
「あ・・はい。」
慌てて残っていたご飯をかき込む。こうなると味どころではない・・。それどころか喉につまりお約束のように咳きこみ涙を流してしまった。
「・・・さすが高木。」
周りでそんな2人の様子を眺めていた人たちはまるで漫才のような高木に拍手を送りたい気分だった。
彼のこのキャラクターは秘かに警察内で有名で、天然記念物として手厚く保護されているらしい(一体だれに?)
「あー。すまん。そんな慌てて食べなくてもって慌てさせたのは私か。いかんな気がせくとつい・・。」
お茶をついでやり手渡すと背中をさすってあげる。
「い・・いえ。僕がいけないんです。すみません。お手数おかけしまして。」
涙目でまだせき込みながら謝る高木はとても艶をだしていた。
頬を赤くそめ、苦しそうな表情。周りの男はおろか女達まで見とれて
「ああ・・目暮警部になりたい・・」
と思わせるほどに。

だがみどりという最愛の妻がいる目暮には可愛い弟分としか映らないのか優しい目で
「大した事ないさ。」
とよこしまな思いなど全くない手つきで背中をさするのであった。
よかったね側にいたのが目暮警部で。

周りの注目を浴びているのを感じたのか高木は慌てて全て食べ終えた食器とトレーをおばちゃんに返すと目暮と連れだってまだ涙目のまま食堂を飛び出したのだった。

「ねー知ってるー?高木さんってエビフライが一番の好物なんだってー。」
「って事はあいつ好きなものは最後に食うタイプなんだな。」
「そんな感じじゃなーい。かわいーー。」
「そーそーそれで残して置いたのに誰かに食べられちゃって泣いちゃうタイプー。」
「いやーーん。泣き顔みたーーい。弟にほしーい。」
「まじ和むよなーあいつ見てると。」
高木が消えた食堂であちらこちらでそんな会話が広がる。
高木渉。どこまでいっても和みキャラにしかなれない男なのかもしれない。






「それで目暮警部なにかあったんですか?」
「いや。今日の夜悪いが捜査二課の中森警部に付いていってくれ。」
「は?えっと・・中森警部・・というとあの・・」
「多分君が考えているその人物だろう。」
高木の頭には年中熱血に怒鳴りまくっている熱い男が思いうかんでいた。
そうまるで高校のいっつもジャージを着ている体育教師のごとく。竹刀なんかもってたら完璧かもしれない。
そのせいか高木はちょっぴり彼が苦手だった。
だってミスしたら怒鳴られそうだし。
目暮警部の下でよかったなー。とか失敗した後いつも思う情けない彼だった。
KID命でその逮捕のためなら実の娘の誕生日ですら綺麗さっぱり忘れてしまうという執念ぶりの中森警部に何故僕が?。高木はうつむいてウンウン頭をうねらせる。

「僕中森警部に何かしました?」
彼が自分に用があるということはなにかお小言かも。それしか思い浮かばなかった高木。
「いや、そうではない。だが・・多分風辺りはきつい・・かもしれないな。まあ適当に頑張れよ高木。」
「ちょ・・ちょっと待って下さい。一体なんで僕が付き合わなきゃ・・っていうかどこへ行くんですか?」
「言ってなかったか?」
「ええ。まったく聞いてません。」
めずらしい目暮警部のうっかりだ。おやおや、失敗。と口の中でつぶやくと実に嬉しそうににっこりわらった。
「実はこの間次にKIDが盗む宝石はどれだっの件で展覧会へ行ってもらっただろう?」
「ああ。はい。それが?」
実ににぶい高木。
「それで君が選んだ宝石がこのたび見事怪盗KIDに盗まれる事態になったんだ。」
「え・・ええええええええ。」
さすがにもう解っただろう。
「君が選んだ宝石だからなやはり君も参加する資格があるだろうとKID逮捕の協力要請が上役からきていてな。」

遠くまで見に行った捜査一課の奴らじゃなく自分の可愛い部下がチェックして提出した宝石が狙われたのがとても嬉しくて仕方ない。
だってあのレポートを提出したとき理由とかいろいろ高木は書いたのにあそこの目玉である「炎の涙」を選ばなかったと上役は不服を述べたのだ。
「まずこんな宝石選ぶとは思えないけどね。一応君の部下が選んだと言うことでリストの端っこには入れておくよ。」
そんな事を偉そうに言われたのだ。
あの時はとてつもなく憤慨したものだ。
もうもうもうもうもうもーーー鼻をあかしたも同然だ。
その時の事を思い出したのか目暮は抑えきれない笑みをうかべた。
捜査一課への協力要請を目暮へ下した時のあのなんとかもいえない渋面。目暮は一生忘れないかもしれない。
ざまーみろっ。普段は温厚な目暮ですらそんな事を思ってしまった瞬間だった。
「ありがとう高木君っっっ。」
「は?え?」
突然ぽんと両肩に手をおかれ感極まった顔でお礼を言われてしまった高木はとぼけた瞳でキョトンと目暮を見上げていた。
「いや。こちらの事だ。それで・・だ。まあ足でまといにならない程度に中森警部についていって欲しいんだ。」
「はあ。」
今日は早番だったからお昼過ぎには家に帰って寝れたはずなのにとんだ事になったなあ。
高木は目暮の言葉にうなづくと詳しい説明を聞きその場を離れたのだった。



「満月の晩二つの音が同時に鳴った時に闇夜に輝く石を盗むってか。」
はっあいっかわらずキザなヤローだぜ。

吐き捨てるようなおっちゃんの言葉に俺はまったくだと同意した。
だがおっちゃんの言葉は暗号文が『月が太陽に満ちた晩』の部分しか解けてないとばればれだ。
おーいーこんな簡単な文くらい解けよ。
大体今回簡単すぎてつまらないくらいだ。
おかげでちょっとばかり不機嫌なのだ。
もっとこうワクワクするような文を送って欲しかったんだけどなー。
なんか今回は簡単に解って欲しがってるみたいな文だよな。
だれに解って欲しかったんだか・・。

まさかこの間見に行ったあの石が狙われるとは思ってもみなかった俺は今回の件にものすごく興味があった。
自分が選んだ石が狙われると気分が違うよな。
それにあれは俺自身気に入っていたからのんびり盗み出されるのを待つわけにもいかない。
まあいつものごとくおっちゃんの車にちゃっかりのってげんこつ食らったけどよ。

宝石の展覧会場はビルの2階。空から現れるより下からのほうがより近い。
まあ警官に紛れ込んできたり不思議なマジックを使うあいつにはどちらが特とか関係ないのかもしんないけどな。
「さてと・・・おっちゃんに見つかる前にちょっと出るかな。」
逃走経路として目をつけていた近所の公園へと行くつもりだった。
ここから俺の足で約15分ってとこかな。
あいつのハンググライダーなら2分もかからないだろう。
後は風向き。
こっちの公園と反対側の小学校その二つに目をつけていたが今日の風向きならまあ80%の確率で公園だな。
そうもくろんでいた。
「おーコナンどこ行くんだ。ちょろちょろすんじゃねーぞっ。」
「はーーーい。」
とりあえず良い子の返事をするとトイレに行くふりをしてそっとビルを抜け出す。
予定時刻まで後1時間。
のんびり行けば30分前につくだろう。
真っ暗な夜道をのんびり歩く。
なにせ夜だからスケボーが使えない。
「今度博士に充電器でもつけてもらおうかなー。」
頭の後で手を組みながらそんな事をのんびり考えていた。
子供の身体ってのは不便だよな。タクシーも一人じゃのれないんだぜ?
前カード使おうとしたら親呼ばれそうになったしなー。
あー不便不便。
そういや1万円札出した時も店の人に変な顔されたよな。
今時の小学生なら一万円くらい持ってんじゃねーのか?

あーやってらんねーな。
そんな事を考えていたらいつの間にか公園に到着していた。
うっわー不気味だよな。
ここの公園は出ると噂らしく夜のデートに使うカップルもいないらしい。
最近も夜通ったら白い物が見えたとか怪談話を聞いたなー。
「怖い怖い。」
そんな事まったく思ってない口調でつぶやく。
非現実的な物は信じない主義だから。
まあ自分の目で見たら信じざるを得ないだろうけどあいにくとまだ霊体験をしたことねーんだよな。
それに最近の噂の方は・・・下見に来たKIDって可能性もなきにしもあらずってな。
あいつ真っ白けだしな。
夜見たら幽霊に見えるよなー。

暇にまかせてブランコをきこきここいでいた。
あいつが来るまであと30分以上をつぶさなきゃならないからな。
秋の気配を感じさせる空気は肌に心地よい。
思いっきりこぐ、強い風を頬にうけ目を閉じた。
気持ちいいな。
ぶらんこなんて子供だけの特権だよな。
大人になると恥ずかしくて乗れない物。
俺靴投げとかけっこー好きだったんだよなー。
今思い出すと笑える話だがよく両方の靴を投げてしまって泣きながら裸足で取りに行っていたものだ。
片方ならけんけんで行くけど両方だとどうしようもなくて靴下を汚すと母さんに怒られるから靴下をぬいでわざわざ裸足で靴を探しに・・・。
そんで一回ガラス踏んで大騒ぎ・・。蘭は泣くし母さんは頬ほつねるし父さんは・・どうだったかな。
ああ・・笑ってたっけ。私と同じ事をしているとか言って。
やっぱ男なら一度は通る道だよな。

そこで思考を止めフと時計を覗く。
あと10分。
そろそろかな。スピードの弱まってきたブランコから一気に飛び降りた。
予定していた場所へと歩きだす。ブランコのある所からちょっと歩いた場所。
「さーって来るならこいってんだ。」
俺の予想ならこの公園の中で一番高い場所ちょっとした丘に大きな木が一本。
そこに到着するはずだ。
俺は近くの茂みに息をひそませ隠れていた。
カチッ時計の針が8時を指した。
辺りに遠くからの学校の鐘の音が響く。
あそこのチャイムは壊れていて夜の8時に鳴るのだそうだ。
そして展覧会場の閉店の鐘。
それが二つの音を指しているのだろう。


「今頃盗まれてんのかな。」



「もう盗まれちゃったかなー。」
高木はボソリとつぶやく。
大方の予想通り中森警部はやはり高木の同行にいい顔をしなかった。
出来れば断って欲しかったのかもしれない。
一応目暮に言われたとおり邪魔をするつもりのなかった高木は最初にそう言っておいた。
にも関わらずの中森の渋面。
さすがに居心地が悪くてちょっと外の空気を吸おうと展覧会場を後にした。
「確か予告時刻は8時だったよね。それじゃあギリギリまでそこらへんでボーっとしてよっと」
中にいるといやでも邪魔になるらしい。
そこここにいる警官達にあっち行けこっち行けとたらい回しにされてしまった。
外ならだれの邪魔にもならないだろうし・・。
そう思ってたが甘い。
入り口付近にいたら不審者と間違われ、諦めてちょっと周りを散歩に出ることにした高木。
「あーあ。僕だって来たくて来たわけじゃないのに。」
肩を落としトボトボ歩く。
タバコが吸えるならスパスパ吸いたい気分だ。
「ま、仕方ないか。そういえば毛利さんも来てたなー。コナン君に一言伝言頼みたかったけど無理そうな雰囲気だったしな。」
警官達に囲まれ話していた毛利に話しかける勇気もなくましてや私事を仕事中持ち込むわけにはいかない。
「今度会ったときに教えてあげよっと。コナン君が選んだ宝石がKIDに狙われたんだよって。」
きっと驚くだろうなー。
楽しみだとクスクス笑っているとおや?見たことのある人影が。
「・・・あれってもしかしてコナン君?」
どうやら気づかないうちに近くの公園まで来ていたらしい高木はブランコを一心不乱にこぐコナンを発見した。

「なんでこんな所に。」
もしかして毛利さんに付いてきたのだろうか?
高木が毛利を見たときすでにコナンは近くにいなかった。
「コ―――――」
話しかけようとしたら突然ブランコから大きく飛び降りた。
危ないっっ。
かなり離れた所に危なげなく着地するとコナンは颯爽と走り出した。
どこへ行くんだろう。
高木も慌てて追いかける。
こんな時間に一人で公園にいるなんて危なくて仕方ない。
もし変質者でもでたら可愛いコナンは確実に狙われるだろう。
ここが出ると噂の公園だと言うことを知らない高木はとても幸せだったかもしれない。

「あれ?見逃したのかな?」
確か丘の方へ走って行ったと思ったのだがそれらしき人影は見あたらなかった。
どこかで曲がったのかな?そう思い引き返そうとしたとき怪しい物が見えた。
真っ白い何か・・・。
「お・・・お・・・おばけ?」
霊感とか言う物にとてつもなく疎い高木はあまりの事態に腰を抜かしてしまった。
ぼう・・と浮かぶ白いものはどんどんこちらに近づいてきている。
「ひぃぃぃ。」
慌ててはいつくばりながら近くの茂みに逃げ込む。
こっちに来ないでぇぇぇ。
そんな涙ながらの高木の説得(?)が通じたのかそれは木の上でぴたりととまり消え失せた。
「よかった・・。消えた・・・。」
ほっと胸をなで下ろすと同時にやはりあれは幽霊だったのだとまたもや震え上がる。
「初めてみちゃったよー。」
ガサ。
びっくぅぅぅぅ。

ガサガサ。
うはぁぁ。やめてぇぇぇ。
木の近くの茂みが揺れていた。
猫とかだったらいーな。。
そんな高木の希望的楽観を無視してそこから人らしき物が出てきた。
うぎゃあぁ。やっぱりゆうれ・・・い?あれ?コナン君・・・。

木の上を見上げ声をはりあげる。
「出てこいよ。そこにいるのは解ってるんだぜ。」
何がいるっていうんだ。
はっまさか幽霊に語りかけているとか?
もしやコナン君は霊感少年で悪霊退治してたり・・・。
あーーだめだ何考えてるんだ僕は。
あまりに非現実的な事態に訳の分からない三文小説みたいなネタが頭に浮かび上がってくる。
実はコナン君は魔界のプリンスーー。
・・・・。
いやもうやめよう。

「まったくどうしてあなたには解ってしまうのでしょうね。」
ざざざ。
木の上から白い物が落ちてきた。
幽霊だー幽霊だよーーー。
目をつむって現実逃避をかましてみるがどーも違うらしい。
「逃走経路くらい簡単に割り出せるだろうう?あの石返せよ。俺もあの石は気に入ってんだから。」
「おや?嬉しいですね。名探偵の気に入った石・・ですか。実は私にとってもこの石は特別でしてね。」
月に掲げるその姿は一枚の絵のようだった。
「怪盗・・・KID?」
呆然とつぶやいた。
その瞬間その場にいた二人ははっと高木のいる茂みを振り返った。
「だれだ?そこにいるのは」
「まさかもう一人いるとは思いませんでしたよ。」

追いつめられている気分の高木。
冷や汗をダラダラ流し・・今出ていってもいいのだろうか?
なんか・・空気が怖いんだけど。
ジッとしているとそのうちどちらかが投げたのか石が飛んできて慌てて飛びあがった。
「うひぃぃ。えと・あの・・・。」
ホールドアップしながら立ち上がると二人の目は明らかに見開かれた。

「まさか貴方とは・・・ね。高木刑事さん。」
「なんでお前知ってんだ?」
それは高木も驚きだった。まさか自分の名前をこの有名な怪盗が知っているとは・・。

『おや。ぼうずなかなか目がいいな。』
声色を変えたKIDの声。
「まさか・・・っ」
それが何を意味するか即座に解ったコナン。訳の分からない高木はまだ首をかしげていた。
『これはあれよりいい宝石だよ。』
「それって・・・。」
ようやく高木もつぶやく。
「聞き覚えあるだろ?」
楽しげに笑うKIDにコナンは真っ赤な顔でうなった。
「てっめぇぇぇぇぇぇ。あの時の・・・。」
「ご名答。二人の可愛い笑顔を近くで拝見させてもらったラッキーな警備員ですよ。」

ウインク付きで答えられ、二人は言葉も出ない。
「・・・・あの時の・・・じゃああの時からこの石は狙われてて・・・それなのにあんな事僕たちに言って・・・。」
とぎれとぎれの高木の言葉にKIDはシルクハットを少しあげる。
「からかったのか俺達を?」
真剣な瞳のコナンにますます目を細めた。
「からかうなんてとんでもない。私は純粋にこの石のファンなのですよ。」
あなた方が綺麗と言ってくれてどれだけ嬉しかったかそう言うKIDの顔は確かに嬉しそうでコナンもそれ以上文句が言えない。
「新月に輝く石・・・・・綺麗ですよね。あんな石の価値も解らない人達しかこない場所に飾ってあったって仕方ないと思いませんか?」
「それとこれとは別だ。」
きっぱり言い切られたKIDは肩をすくめやれやれと口のなかでつぶやいた。
この真剣な瞳に弱いのだ。
自分しかこの青い瞳に映っていないと思うとそれだけで嬉しくてワクワクする。
「なあ名探偵。この石はお前そっくりだぜ。自分自身で光る事ができる。」
「お前はどうなんだ?」
「私ですか?私は・・・。」
目をつむり数瞬考えた後ゆっくり首を振る。
「どうでしょうね?わかりません。自分で光っているのか光らされているのか私自身にも皆目見当がつきません。」
太陽がないと光れない月なのかもしれない。
それじゃあ自分にとっての太陽ってなんだろう?
考えても答えは出ない。いつか出るかもしれない。
でもきっと今ではない。
もう少し後でのんびり答えが出るのを待つのもいい。
「さて・・とおしゃべりが過ぎましたね。私はそろそろ失礼させて頂きますよ。」
遠くから中森警部の怒鳴り声が聞こえる。
静かな空間にそれはとても響いている。近所迷惑ですね。
クスっと小さく笑うとKIDはハンググライダーをバサッと開いた。
「KIDっっっっ。」
「おっと忘れ物でしたね。はいっお望みの物ですよ。」
ポンっと気軽に宝石を投げるKID。
目の前でみすみす逃すのもどうかと思うが麻酔銃を撃つには側にいる高木がじゃまだった。
まさか目の前でこんなもんが撃てるわけがない。

とりあえず宝石は返してもらったし良しとするか。そうコナンが完結しているその横で高木はいまだに混乱していた。
もしかするとずっと混乱していたのかもしれない。
「警備員さん・・・あれが・・・あれが・・・そして僕は普通に話していて・・それでコナン君がブランコでそれでえっと幽霊が幽霊が―――――」
そんな意味不明な言葉をずっととなえている高木にコナンはハンカチに包んだ宝石を手渡した。
無意識ながらも反射的にうけとる高木。
「はいこれっ。高木さんから返しておいてね。えっと・・高木さん?大丈夫?」
まさかこんなに衝撃をうけるとは思っていなかったが考えてみるとラッキーかもしれない。
高木が混乱しているおかげでここにいる理由とかKIDと対等に話していたコナンの怪しさに気づかれずにすんだのだから。

「それじゃあ僕はいくからね。たーかーぎーさぁぁん。おきてーーー。」
どこかへ吹っ飛んだ意識を呼び戻すべく耳元で大きな声をだす。
「あっえ?コナン君?どうしてこんな所に・・・ってあれ?この石は・・・。」
まるですっかり忘れている高木にコナンは一瞬気が遠くなりそうだった。
すごいすごいよ高木さん。
「なんか知らないけどこの石コナン君が取り返してくれたの?」
「えっと・・・そこに落ちてたよ。」
とりえあず適当にそうごまかしてみる。とても苦しい言い訳だ。
だがさすがです―――――。
「え?そうなんだ凄い偶然だね。KIDが落としちゃったのかな?」
頭がクラクラする。
コナンは額をおさえながら「KIDも案外間抜けなんだねー。」と笑う高木と一緒に笑った。
もうやけだったのかもしれない。

「さーてと戻ろうか。こわーーい人が待ってるから。」


やっぱり戻ると中森警部にがんがんに怒られた。
宝石を見せるとまた怒られた。
どうして怒られるんだろう?高木は不思議でたまらなかった。
それは単なる八つ当たりだろうという事は一緒に怒られていたコナンには簡単にわかるのに高木には解らないのだ。

その後さらに毛利小五郎に強烈な拳固プラスお小言をくらったコナンに高木はこっそりジュースを奢ってくれた。
「怒られちゃったね。」
「うん。やっぱり中森警部は怖いなー。」
「僕はおじさんの方が怖かった。」
「そりゃとっても心配されてたからだよ。きっとずっと探してたんだと思うよ。」
「そうなのかな。」
「うん。さっき毛利さんにお礼言われたんだよ。」
「え?」
「コナン君についててくれてありがとうって。いくら近くの公園って言ってもやっぱり物騒だからね。」
「うん・・・。そっか。心配してくれてたんだ。」

小さく嬉しそうに笑うコナンはとても可愛かった。
その隣で優しく笑う高木も。

目の保養とばかりに遠くから沢山の警官達が二人を眺めているのを知っていたら多分こんな顔はしなかっただろう。

今はただ二人の間にはとても穏やかな風が吹いていた。
3分後憤怒の形相で辺りの警官を追いかけ回すコナンの姿がみられたらしい。



おまけ
「まっさかあんなに怒るとはなー。」
遠くから覗いていた警官の中にさりげに怪盗KIDが紛れ込んでいた事実を知る物はいない。







あとがき

えーっとこれは、一条様に掲示板で「あの警備員さんがKIDだったら・・」と言われてからずっと考えていた話です(笑)
ありがとうございます一条様。
あなたにそう言われてから警備員さんのKIDがクルクル回っていまして、今日やっと完成いたしました。
はあー己の誕生日になんとか間に合ったーー。

こちらのポインツはやはり可愛い高木刑事。
どれだけ可愛いかというと天然記念物なみにっっ。
なんであんなに天然なのでしょうか彼は。
私の近くにいたら絶対「かわいーーーーっ」と叫んでいると思います。