プロローグ〜約束〜


時が変わる。

砂時計のように滑り落ちていくこの時を今この手で押し止めてしまいたい。

出来ることなら変わらぬ日々を。

出来ぬのならすべて忘れてしまいたい。



あの人を失うくらいなら――――――――――
     


















ある巨大な組織の巨大な建物に二人はいた。

ここはその組織の中心と呼べる場所だった。

ここを叩けばとりあえず機能は停止するだろう程度には重大な場所。




「いいか?ここから先は別行動だ。」

「ああ。お前のルートの方が危険なんだから気を付けろよ。」

「でも身体が小さい分お前も不利だ。気を付けろよ。」

青年ととても小さな少年が小さな声で話だす。

先ほどまで修羅場をくぐってきた2人は、今は落ち着けるのか緊張をゆるめていた。

端正な顔立ちをした青年は白い装束をまとい。モノクルを片目にはめ、頭にシルクハットをのってけいる。

まるでかの有名な泥棒のような成り立ちだった。



そして対する小さな少年はまだ小学生・・はたまた幼稚園のような幼さだ。

ふっくらした頬に大きなメガネをかけ、青く鋭い瞳を少しだけ和らげている。

大きな瞳に相手を映し小さいという言葉が不服だったのかマシュマロのように柔らかな頬をプウっと膨らませていた。

「ほらほら。膨れるなよ。小さいのは本当の事だろう?」

「でもむかつく。」

怒りでかピンクに染まったため余計に可愛らしく映るその小さな少年に白い青年は優しく微笑むとつんっと頬をつついた。

それをペシッと払い落とすと、少年がするには鋭すぎるほどの目つきでキッと睨み付ける。

大人ですらひるむような瞳にまるで堪えた様子もなく青年はもう一度少年の頬をつつき始めた。

可愛くてしょうがないといった優しい笑顔で。


そんな様子にもう諦めたのか少年は青年の好きなようにさせていた。

「・・・今更だけどさ・・・。」

ため息とともに吐き出す小さな言葉。

聞き取って欲しくないのかもしれない。

だが、こんな静かな空間ではお互いの息づかいですら解ってしまうのだ。

当然相手は聞き取れる。そして何を言い出すのかな?と言った風に小首を傾げた。

「・・・・・・・・巻き込んでごめんな。」

目を合わせず下を向いてつぶやく少年の言葉に青年は少しくせっ毛の前髪をクシャリと掻き上げ、小さく笑い出した。

「本当に今更だな。もう後戻りは出来ないんだ。ひたすら前に進むだけだぜ。」

Goと白い手袋をはめた右手を前にシュッと突き出す。そのこぶしは少年の前髪を揺らし、鼻の寸前で止まった。

それを瞬き一つせず見つめていたがやがてはりつめた表情をふ・とゆるめた。

「バカだよな。お前。」



今ならまだ逃げられるのに。まあ、ここまで来てしっぽ巻いて逃げ出すような奴なら最初っから俺は誘わなかったけどな。少年は暖まった心に活をいれる。

今なら離れられる。

そして言いたくなかった言葉を口にした。

「そろそろ時間だな。」

「おう。失敗しても逃げ道はバッチリだからな安心して逃げてこい。」

退路の確保は青年の役だったがそう言われるとみもふたもない。



簡単に言うが失敗するとのちのちとてもめんどうな事態に陥るのだ。とりあえず面だけ割れないようにしないとな。

それが2人の間で取り決めた今回の重大ポイントだった。

狙いは組織に痛手を負わせる事。壊滅は無理だろうがそのための準備段階の一つでもあった。

そしてあわよくばアポトキシン4869の情報を少しでも入手する。

だがこちらは手に入ればの話。

危険をおかしてまでは情報入手をする必要はないと約束している。


「バーロ。だれが失敗なんかするか。」
こうやって話しつつも2人共きちんと時間を計算している。そんな2人だから互いに背を預けられるのかもしれない。

「そうか?それじゃっ。」

「ああ。タイムリミットだ。じゃあな。」

おそろいの時計をのぞき込み立ち上がる。瞳を絡ませる。




もう・・・二度と逢えないかもしれない。命がけの戦いだ。

もう一度軽く挨拶をしてちょっとそこまで買い物に行ってくるよといった気楽そうな態度でクルリと背を向けた少年
―――――江戸川コナン。



後ろ髪引かれる思いで歩き出そうとした彼を背後から抱きしめたのは怪盗KIDに扮する黒羽快斗。


「うわっ・・おいっ。」


「絶対死ぬなよ。俺をおいて逝ったら許さないからな。」

「快斗・・・。」


コナンは振り返りかがみ込んだ快斗の首に抱きつく。

「大丈夫。俺は死なない。絶対にお前の元に帰ってくるから。」

泣き出しそうなモノクルからの瞳に優しく笑ってやると背中をぽんぽんとあやすように叩いた。

「コナ・・・ン。。」

「違うだろう?新一だ。俺は工藤新一だ。今は新一として戦っているからな。」

「うん。新一。俺も今は快斗としてお前の為に戦いたい。力になりたい。」

「もう十分力になってるよ。俺一人じゃここまでこれなかった。」

こんな戦いしないでだれもいない世界にコナンをさらっていきたかった。

もしここで彼を失ってしまったら・・・。快斗の心は恐怖で凍りつく。

でも・・・戦いを止めようと言ってもコナンは自分一人で戦うのだろう。

それが解るから快斗も止められない。



「新一・・・なあ。俺が死んだらお前・・・泣く?」

ぶっそうな言葉にコナンは眉をしかめる。

そして瞬間迷うがすぐにまっすぐな瞳で答えた。

「泣かない。」

ガクッとコナンの肩にうなだれる快斗の髪をグシャグシャとかき混ぜる。

「お前は死なないもん。だから泣くこともないだろ?」

「あのね・・・。」

そう言う問題じゃないのに・・・としくしく泣く快斗にコナンは軽く口づけると

「死ぬなよ。」

とても胸に響く言葉をささやいた。

初めてのコナンからのキスに驚きのあまり言葉のでない快斗。

対するコナンは耳まで真っ赤だ。

「えっと・・あの・・・あ・・ありがとう。」

なにやら間抜けな言葉だが本当に感動したのだ。今までどんなに頼んでも恥ずかしがって自分からはしてくれなかったのに。

「いや。その・・な。俺は・・死なない。お前も死なない。だからいいんだ。すぐ会うための約束だからなっ。」

睨み付ける瞳は真剣そのもの。死なない。死ねない。互いを置いては逝くことが出来ないから。

「それじゃ・・俺からも。約束だ。俺をおいて逝かないでくれ。俺も生きるお前と共に」

そっと口づける。

これは誓いのくちづけ。



もう一度会うための。

大切な大切な儀式だから。


「さっ行くぞ。2分のロスだ。」

「へいへい。ムードたりないよー新一ー。」

どうせ照れ隠しで言っているのだろうと思いつつもついつい抗議してしまう快斗。

2人は今互いに背を向け違う道を歩き始めたのだった。








爆発が起きたのはそれから約30分後。

快斗はそのころメインコンピューターへとつながる機械を見つけハックしていた。

虫が知らせたのかもしれない。

とてつもなく胸騒ぎがした。

「新一・・・。」
コナンがいる筈の方を振り返る。

かすかに爆音が聞こえた方だった。唇をギュッとかみしめる。血がにじむのにすら気づかないほどに。

「頼むから。今まで信じてなかった全神様に祈るから。あいつを新一を俺から奪わないで・・・。」

切なる願いを果たして神様は聞き取れたのだろうか。









爆発が起きる寸前先ほどの会話を思い出していた。

『絶対死ぬな。俺をおいて逝ったら許さないからな。』

それと一緒に快斗の泣き顔が頭に浮かぶ。



(ごめんな快斗。約束守れそうにねーや。・・・・ごめん・・な。)





次の瞬間まばゆい光と共にコナンの意識は白く白く消えていった。


あとがき。

さあ予定通り『約束』本編です。
今回は・・・ええ、一応決戦だし命掛けって事で快ちゃんコナンちゃんの甘甘を許しました(笑)
普段なら「かーっっ恥ずかしいーーっっ」とか言って書けないセリフをダラダラ並べてしまいましたー。

いいです笑ってやって下さい。(笑)

とりあえずぷろろーぐです。
まだ終わりのめどついてません(涙)

2001.10.20