快斗という男
「早いもんだなー。もーこんな時期か」
「んあ?」
テレビをだらだら見ていたコナンはテーブルに頬杖をついたままぼそりとつぶやいた。
寒いからと温風ヒーターの前を陣取り座椅子に優雅に座っていた快斗は小さな声をききつけ手元で広げている雑誌から顔を上げた。
「あークリスマスか」
返事のないためテレビを見て快斗はうなづく。
そこではクリスマスグッズやらケーキやらツリーやらの特集をしていた。
こいつがこんなもん見るなんて珍しいな?
なにせ誰かが言わなければイベントなんて知らずに終わってしまう奴。
それが江戸川コナン・・・工藤新一である。
今はあのお子様達が騒ぐからいやでも耳にはいるだろうが。
そーいや今時の子供にしては珍しくハローウィンもやってたなぁ・・・
快斗は思い出す。
大体名前は知っていてもどーゆー事をするかなんて知らない子供が多い。
それをあの少年探偵団が知っていたと言うことは、あの光彦とかいう少年が知っていたのか、コナンか哀がツルリと口を滑らせたかだろう。
まあ哀が言ったとしたなら確信犯だろうが。
そこまで考えてからようやく快斗は納得がいった。
こんな特集をコナンが見ているわけが。
「なに?お前もしかしてクリスマスプレゼント研究してんの?」
意地悪げに尋ねる。
昨日家に来た早々聞かれたのだ。
クリスマスプレゼントって何買えばいいんだ?と。
多分あのお子様達とパーティーをするのだろう。
律儀な彼はまだ2週間も先の交換プレゼントに頭を悩ませているのだ。
なにせ高価なものはだめだ。
値段制限をされると何が買えるのかもうさっぱり解らない金銭感覚のないコナン。
「うるせーなっ。ほっとけよ」
昨日さんざんからかわれた為かコナンはふてくされ気味に快斗から顔をそむけた。
そんなコナンに頬を緩ませつつ快斗はレポーターのお姉さんが紹介している人形を顎で示した。
「ほらっあのサンタの人形とかは?」
「―――――」
テレビに出ているのはポットくらいの大きさの真っ白いお髭のサンタさんだった。
右手にもつ鈴をりんりん鳴らしながらメロディーに合わせて動いていた。
それをチラリと見ると快斗に据わった目をむける。
「あれいくらすると思ってんだ?」
「さあ?そんなに高いもん?」
「少なくとも小学生には買えないはずだ。」
「へー」
五十歩百歩の快斗も所詮金銭感覚の少々ずれた人物のためこーゆー一般常識は持っていなかった。
コナンも正確な値段は解らないものの、少なくとも500円よりは高いことはさすがに解った。
たかが人形なのにねぇ。
あーそういえばあれ動くから高いのか。
フムフム。
なにやら見当はずれに感心しつつ快斗はふ・・と思い出した。
「そういえば昔うちにもあったな。あんな動く奴。」
「ふーん。確か似たようなのうちにもあったぜ。ちっちゃい頃だけどな。多分今は押入か捨てたかどっちかだな。」
「うちのはどうかな?いつの間か無くなってた気がするけど。」
快斗の言葉にコナンも思い出した。
あまりに昔すぎて忘れていたがなんとなく懐かしい思い出だ。
確か優作が新一に買って来てくれたのだ。
「あれってさ・・」
「あれって」
「面白いよねーーーー」
「怖いよな」
同時に言って瞬間顔を見合わせた。
「なんで面白いんだよ?」
訝しげにコナンが快斗に尋ねる。
「えー怖いかなぁ?」
快斗も唇をとがらせコナンに尋ねた。
「だってよー。あれむっちゃくちゃリアルな顔なんだぜ?それが鈴振って歌いながら近づいてきて俺は泣きながら逃げた覚えがあるぞ」
母の有希子と共にサンタから泣きながら逃げ回りそれを父が楽しげに追いかけて来たいやぁぁな記憶がまだ微かに残っていた。
確かあれ以来有希子がサンタを箱に厳重に詰め込んで封印をしたはずだ。
燃やすと人形だからたたりそうで怖いと有希子が言い張り押入にしまい込まれ、新一はそのサンタが閉じこめられている部屋には出来る限り近づかなかったものだ。
「かっわいーー。」
「言っとくが、まだ2、3歳の頃の話だからな。」
念をおす。
「はいはい。」
苦笑しつつおざなりに返事をする快斗にコナンはムッとしつつもとりあえずよしとする。
「うちにあったのは多分1歳くらいかな?あーあれ怖いかー。そーだよねー顔怖いねー。」
テレビに目をやり本当だ怖い怖いと驚いた顔をする快斗。
そんな昔の事を覚えている快斗に内心舌を巻いていたがコナンはそんなそぶりを出すこともなく快斗の大げさな態度に呆れた視線をむけた。
どこまで本気やら。
「うちのはね、腰くねくねさせながら曲に合わせて躍る奴だったんだけどね」
そこまで言って思い出し笑いかくすくすと笑い出した。
「俺あれすっげー好きでさぁ」
「はぁぁ?」
まあ近づいて来ない分怖さは半減だがあれも結構リアルな顔をしている筈だ。
「つい腰に裏手兼入れたり頭突きかましたり蹴り入れたりしてたんだよねー」
「・・・・・」
丁度ハイハイしていた時期でいい感じに頭にヒットしてたわけよーと手を振りながら笑う快斗に額を押さえるコナン。
「あっそっか。なんで無いんだろうと思ったら俺が壊しちゃったんだ。いやーはっはっはー」
なにやらほがらかに笑いだした快斗にコナンは絨毯に手をつきうなだれた。
快斗って・・・・快斗って―――――
のちに快斗母に聞いた話ではそのお人形は快斗にボロボロになるまで弄ばれ、動かなくなってしまったので捨てようとしたが快斗が泣くわ、捨ててもいつのまにか戻ってきていたりして(快斗の仕業だと思われる)完全に壊れるまで家にいたらしい。
人形もここまで使われれば本望というべきか、コナンは実に複雑な気分に陥った。
「今度うちに封印されてる人形やるよ」
引きつった笑みでそういうと快斗は脳天気な笑顔で
「え?本当?」
嬉しげに手を叩いて喜んだ。
犠牲者第二号は一体どんな姿に最後はなるのだろうな。
なにやら実験的気分でコナンは遠いお空を見つめるのだった。
end
|