罠


暗闇にくっきりと浮かぶ丸い月。
このような綺麗な夜は空を飛びたい気分になる。だからかもしれない。
彼がいつも満月の夜に行動を起こすのは。
・・・もちろんそれだけが原因ではないことは百も承知だが。
 
「KIDからの予告状が届いた?で?解読は出来たのか?あ?ああ、あれか。
確か昨日あたりに来日したっていうあのピンクサファイヤ。あれってビッグジュエル
っていえるのか?え?希少価値だから狙うかも?そんなこと言ってるのか警部は。
あのKIDが・・・そんなことありえるのか?中森警部が言い切るから間違いないって
おい・・・。分かったとにかく俺はおっちゃんとそっちへ向かうから服部もとりあえず
そこで待っててくれ。」
カチャリと受話器を置き。ふぅと外見に似合わぬため息をつく。
「なんで・・・警部が言ったら間違いないんだ・・」
あきれた声でコナンはつぶやく。
確かにあれは、ピンクサファイヤの中では一・二を争う大きさだろう。
だがしかし、ビッグというにはいささか大きさが欠ける。
本当に狙うのか?警部の言葉に警察全員がしたがってるあたりなんだかなぁ・・
 

コナンはあごに手をやり深く考え込む。判断するには材料が足りない。
なによりその暗号を見てみないことにはなんとも言えないのだが、
服部ですら見るのを拒否されているのでは仕方がない。
なにせ「今回は完璧に解いた」とかなんとか中森警部が自信満々に言っている
らしいからな。そんな相手に見せろと言ったらそりゃ気分悪いだろうな。
疑ってるように見えるよなぁ。(いや疑ってるんだが。)
 

「てっめー相変わらずちゃっかり付いて来やがってっ。」
いつのまにやら車に乗り込んでいたコナンに小五郎がうめく。
いつもの事でコナンは気にしてはいないが、さすがに毎度毎度拳固を
くらうのは勘弁と思う。
「だっておじさんがKID捕まえるところ見たかったんだもんっ。」
よって。ちょっと可愛く持ち上げてみる。
「お?そうか?わーっはっはっはぁ。この毛利小五郎様にかかれば
あぁぁんなキザっちいへなちょこ泥棒の一人や二人ちょちょいのちょいさ。」
かっかっかと高笑いをする小五郎。気分がよくなったらしく、今日はなんとか
拳固から逃れられた。
(単純な性格で助かったぜ。)
コナンは、はあ、とため息をつくと目を窓の外へと向けた。
目的地まであと10分。
あいつもこの月を見てるのだろうか・・。


 
「KIDの狙ってるというサファイヤはそれですか?」
探偵というやからに現場をうろちょろされ不快らしい中森警部は、そっけない
口調で「そうです」と答え、まだ何か尋ねてこようとする小五郎を近くにいた
刑事に押しつけて去っていった。
どうやら現場監督とばかりにウキウキと走り回っているらしい。
所々で警部の叫び声が聞こえた。
(そんなに嬉しいのかKIDがくるのが。)
はは・・っと引きつった笑いでそんな彼をみやるコナン。
「工藤っ・・・・っとコ・コ・コ・コ・コ・コナ・・ン君。」
(てめーは鶏か。)
慌てて直すのはいいのだが呼びなれないのか呼びたくないのか、登場から
なかなか笑わせてくれる服部平次であった。


「こんばんわ。平次兄ちゃん。」
ニコリと可愛らしい笑顔で挨拶をすると、服部の顔が微妙にゆるむ。
(くぅぅ。むっちゃ可愛ええわ)
「おじさん僕平次兄ちゃんと遊んでくるね。」
「ああ、警察のじゃまだけはするなよ。後で文句言われるのは俺なんだからな。」
遊んでくるという言葉に怒ろうかと思ったが結局は注意だけにとどめる小五郎。
本当は自分のそばに置いておいたほうが安心なのだが、一応仕事はしなければ
ならない。
「はーい。平次兄ちゃんいこっ。」
「おいっ。黒いの。コナンから目ぇ離すなよ。チョロチョロすっからな。」
「わかっとるて。任せとき。そういやおっちゃんはKID何時にくるか聞いとるん?」
「あ?お前聞いてないのか?22時45分だ」
「えんらい中途半端な時間やな?ほんまにそれであっとるんか?」
時計を見てあと一時間半以上もある事を確認した服部は足下で自分たちの
会話をじっと聞いているコナンと目でうなづく。

「さあな?俺は暗号文を見てないからなんともいえんが、中森警部が
あそこまで言い切るんだ自信があるんだろ?」
挑戦状を見せてくれない以上自分たちにはどうしょうもない・・
と言ったところだろう。肩をすくめる小五郎に同じく苦笑を返す服部。
それに・・と小五郎は続けた。
「間違ってても俺の責任にはなんねーからな。かっかっかー」
腰に手をやり胸を反り返す小五郎にコナンと服部は白い目をむけた。
「さよけ」
 
「んじゃ行くか。くど・・じゃなかったえーっと・・・・コ・・・コナ・・ン君・・」
(いいかげん慣れろよ。)
あきれた目でみられつつ服部は曖昧に笑った。
「平次兄ちゃん僕ここの屋上に行ってみたいなぁ。一度も上ったことないんだ。」
仲良くつれだって宝石のある部屋から出ていく二人を見送ると言いようの
ない寂しさが小五郎の中に広がる。
(蘭つれてこればよかったかもな・・・)
 
「服部は何時と聞かされたんだ?」
突然切り出すコナン。
場所は屋上。さっきいた23階からさらにのぼって最上階50階の上だ。
階で言えば51階と言うべきだろう。
ここらへんのビルは低いビルが多いため屋上からの眺めはとてもよかった。
夜景も綺麗に見えるが昼間に見れば水平線も見えるかもしれない。
「22時45分。おっちゃんと同じや。確認までに聞いてみただけやしな。
なんでそないな中途半端な時間を指定してきたんやろうな?」
「さあな?時間はいいが宝石のほうが問題だな。なんであれを狙ってんのか。
解読が間違っている可能性がかなり高いと思うが・・・」
少し遠い目をするコナン

「あそこまで自信満々だと口挟む気にもなれねーな。」
「せやろ?」
中森警部だけでなく警察関係者すべての者が自信をもって22時45分
ここのピンクサファイヤをKIDが奪いにくると言い切っている。
何故あそこまで言い切れるのだろうか?なにか理由が?
「なあ、俺は今夜KIDが狙うならここの向かいのビルのダイヤモンドの方
が妥当だと思うんだけどな。」
「それは俺も同感や。どう考えてもそのほうが自然やろな。けどな。
なんであないに言い切るのか・・がひっかかっとるんや。」
「だよなぁ」
もしかすると。という仮説はある。だがしかし中森警部がそんな回りくどい手を
使うだろうか?それとも警部の後ろに参謀役がいるとか?
「裏をかくつもり・・・かもな」
「裏?」
「敵をだますにはまずは味方から・・・だろ?」
不適に笑うコナンはとても小学1年生には見えない。
「だます・・・って本当は違う文が書いてあるけど俺らには嘘を言うとる
っちゅうことか?せやけどそないなことしてなんの利点が・・・」

そこまで言ってはっと思い当たったようだ。
「あっああああああああ。敵・・・をだますって
まさかKIDはめる気なんか?」
わたわたと同様する服部。
「それしか・・・ねーだろーな。ってことは服部もおっちゃんもいいように
騙されてるわけだよな。なんかやり方が気にくわねー。」
憮然とした顔で向かいのビルをにらみつけるコナン。
「でもそんな簡単に騙される奴やないで?あいつは」
「そうだな」
少し強い風をうけ小さな体が揺らぐコナン。
「っと危ないで工藤。」
フラリとしたところをそっと支えてくれた服部になんだか悔しく思いつつ
「わりい。」
と礼をいう。
「とりあえず中入るか?風強うなってきたし。」
「そう・・・だな。ここにいてもどうしようもないか。本当はここにKIDが
来るかと思ってたんだけどな。」
やれやれ、そううまくはいかないな。とため息をつくコナン。
「可能性としては結構ありえたんだけどなぁ」
残念とばからりに屋上の扉に手をかける服部を振り返った。
その瞬間。
 

ザァァァ
ひときわ強い風が吹き荒れる。コナンは腕で顔をおおった。
はっと気づいた時にはコナンは彼の腕の中に抱えられていた。
「あなたの読みは間違っていませんよ。名探偵。」
背後から抱きしめられ小さな体で精一杯逃げ出そうとするコナンを
軽々とおさえつける。
「あああああっ。おいっこら工藤から手ぇはなせやっ。」
指をつきつけ目を見開き一瞬時が止まっていた服部は一気に
階下まで聞こえそうなほどの大音量を屋上中に響き渡らせると
KIDに向かって突進してきた。
当然フワリと浮き上がりそれをよけるKID。
「なん・・で。こんな事・・」
「ん?正解した名探偵にご褒美ですよ。私からの抱擁。+ご希望でしたら
夜の散歩にもご招待いたしますが?」
「いらねーよっ」
頭腐ってるんじゃねーかとかなんとか悪態をつきながら腰に回った
怪盗の腕をはずそうともがくコナン。

「ああ。ちなみに私のお仕事の時間はあと5分後ですので
あまりお相手出来なくて残念です。」
「5分後?ってことは・・・・21時半か?それが本当の予告時間
だったのか。」
警部の言葉が嘘だとは思っていたがやはり驚いてしまう。
「おっと駄目ですよこんな物騒なもの子供が触っては」
(ちっ)
驚いてるフリして麻酔銃をそっと撃ち込むつもりがバレてしまった。
しかもスッとコナンの腕に触れた瞬間に今まで腕にあった
時計型麻酔銃は忽然と姿を消していた。KIDお得意のマジックだ。
「返せ。」
「打たないと約束して下さいましたら、お返しいたしますが?」
「くっ・・・」
こんな時でも嘘がつけないコナン。クスクスとそんなコナンを楽しげに
見つめるKID。
「いいですよ。お返しします。中の針はお返しできませんが。」
とぱちんと指を鳴らす。ポンッと腕に煙が立ち上がりあっという間に
時計が出現した。
何度見ても魔法のようだ。

「さてと。そろそろ行かねばなりませんね。今宵もあなたとお会いできて
とても光栄です。名探偵。またこのような月の美しい夜に
お会いいたしましょう。」
そっとコナンの右手をとりうやうやしく甲に口づけるKID。
真っ赤になったコナンに優しく笑うとそっと地面におろした。
「く・・・どおぉぉぉぉぉ。」
ヒョイヒョイと飛び回られ走り続けていた服部は息もきれぎれコナンの
本名を叫び続けていた。
「無事やったか?変なことされへんかったか?」
「ばーろー。変なことって何を・・・ってあああっKIDっっ。」
ギュゥゥと抱きしめてくる服部にとまどいつつも真っ赤な顔を背けて
つぶやく。
そしてその背けた顔の先には隣のビルへと向かうKIDの姿が・・・

「くっそぉぉぉ。また逃げられた。」
「俺は工藤が帰ってきただけでええわ。」
となにやら見当違いな事をいっている服部はおいておいて。
コナンは綺麗な月に向かって叫ぶのであった。
「中森警部のバカヤロオォォォォォォォ」
 


後日談
ちなみに参謀役は白馬探。探偵である。もちろん隣のビルに
控えていたのも彼。
だがいつもよりとてもご機嫌なKIDが普段以上のマジックを披露して
くれたせいか冷静さを欠いてあっさりとダイヤを奪われてしまった
白馬。こうなってしまえば作戦もなにもあったものではない。
決して「コナン君の抱き心地は最高でしたよ。」
とKIDに耳元で囁かれたせいではないと彼は必死で否定している
らしい。
真実はいかに。。


end
 
 

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ひとこと
・・・すみません。またもやこんな話・・・
ギャグ・・を目指したのでしょうか私は?(聞いてどうする(笑))
気づいたらこんな話に走っていた・・何故?・・KID対コナンの
かっちょええ対決を書きたかったのに。おかしいなぁ。
 
      up2001/5/30