(勇気的前回のあらすじ) 前回の闘いで勝利を治めた俺は次なるステージへ。
      次の闘いは敵のアジトだ。おそいくる罠をかいくぐり、
      果たして俺は無事生還することが出来るのかっっっっっっ(嘘)


    江戸川コナンという男。(後編)

「蘭ねーちゃーんただいまー。お友達連れてきたぁぁ」
「あら?珍しいわね。こんにちは。毛利蘭です。」
ドアを開くと奥からやってきた綺麗なお姉さんが腰をかがめて目線を合わせて俺に微笑んだ。
可憐だ・・・。

「あ・・えっと・・高宮勇気です・・・その・・あの・・突然お邪魔してすみません。」
礼儀正しい俺の言葉にお姉さんはふわりと微笑むと
「いいのよ。勇気君お茶とコーラとオレンジジュースどれがいいかな?」
優しく尋ねてくれた。
うらやましいぞ江戸川。こんな姉がいるなんて。


「コナンそーいやさっき西のくそがきから電話があったぞ。なんでも帰ってきたらすぐに電話しろっとよ。」
「え?平次にいちゃんから?」
「あーそうだ。・・と誰かいるのか?」
事務所からひょいっと顔だけだした毛利小五郎氏に俺は緊張のあまり背筋をピシッと伸ばした。
うわーーすっげーーこれがあの有名な『眠りの小五郎』っっ。
初めてナマみちまったぜ。

「はっはじめましてっ高宮勇気と申しますっっ。あのっあのっっファンですっっ。」
「んあ?そりゃどーも」
あっさりと返され俺は「へ?」と彼を見上げた。

「もうっお父さんったらまたビール飲んでたでしょっ。」
どうやら少々酔っぱらっているらしい。確かによく見てみると顔が赤いような気がする。
昼間から・・・のんだくれ親父のように飲む探偵・・。俺の探偵像がガラガラと崩れ落ちたのは言うまでもない。

「ごめんね勇気君。」
「あ・・いえ・」
それに気付いたのだろうお姉さんに申し訳なさげにあやまられそんなに顔に出ていたかと自分を戒める。


「高宮っ悪いけどとりあえず居間に・・・」



そこまで言って江戸川は何故か疲れたように壁に手をついた。
「どうしたんだ?」
「いや・・・ちょっと待っててくれ。」
首をかしげとりあえず待つ。





「かぁぁぁいぃぃぃとぉぉぉぉぉぉ。また性懲りもなく現れやがったなぁぁぁあ」




江戸川のひっくぅぅい声が聞こえた。
ひょいっと覗いてみるとこたつでくつろいでいる詰め襟姿の高校生男子になにか言っていた。
怒っているらしい。


「やだんコナンちゃんったら。俺とお前の仲じゃなぁい。」
おちゃらけた奴なのかつんっと江戸川の額を人差し指でつつくその男。

「うっせー犯罪者っっ。ここから出て行けっ。」
「うわー誉められちゃった。」
「誉めてねーー。かっえっれっ」
「だってぇ今日はここで夜ご飯食べてくって母さんに言っちまったもーん。」
「・・・・俺が今すぐに連絡してやるよ。」
「いいです。自分でします。」
「とか言ってしねーだろお前。」

ゲシゲシ足蹴にする江戸川。
おーい、いつもの君じゃないよー。

「高宮わりいけどとりあえずそこら辺にでも座ってろ。こいつ外に捨ててくるから」
「別にいてもいいけど?」
「俺が嫌だ」
なんだもしかして江戸川が嫌いな人物?
どこからどうみても毛嫌いしているように見える。

そこへお姉さんがジュースを持って来てくれて俺にはい・・と渡してくれる。
目の前で喧嘩している二人が見えていないのか?
それとも慣れている?
お姉さんはクスクス笑うと「本当に仲いいんだから」といいながらポテチの入ったお皿を置き、ごゆっくりと笑顔で去っていった。

残されたのは嫌そうな顔の江戸川と特に変化なく笑顔の男。
そしてジュース片手にポテチを食う俺。
うまい。ちゃんと100%オレンジだな。うんうん。甘いのは邪道だよな。
俺が舌鼓を打っているあいだも二人の楽しい会話は続いていた。


「コナンちゃんったら素直じゃないんだから。ま、とりあえず今日はこれ届けに来たんだけどな。今度は大阪だ。」
「は?」
はいっとカードを手渡され江戸川は目を丸くしていた。
特に詮索するつもりのない俺はちらりと一別しただけでこたつにぬくぬくしながらポテチを平らげていく。このままではこの皿分全部俺が食っちまうな。


「大阪・・・まさか服部の電話って・・」
「うんきっとそうじゃないのかな?俺のお仕事関連っしょ。もうあっちには暗号文送ったしね。」
「―――――いつだ?」
「これ解読してよー。手抜きはダメでしょ名探偵っ。」
「うっせーとりあえず土日だな?」
「さあ?」
「じゃなかったら俺は不参加だ。」
「あっやべ。」
「・・・・・土日じゃねーのか?」
「さあ?」
「まあいーけどなー。俺は泥棒には興味ねーからどっちでもいいし。今回は服部にでも任せておくさ。」
「えーーコナンちゃんも行こうよー大阪ーそんで一緒にたこ焼き食べよー」
「何しに行くんだお前。」
「たこ焼き食べに―――――んでついでにお仕事すんの」
「ついで・・・ね。」
ふっと呆れたように遠くを見つめる江戸川。

二人の会話の内容はさっぱり解らなかったが、二人とも頭の回転が恐ろしく早いのだけは解った。
タヌキとキツネの化かし合いってこういう感じかな。
水面下でなにやら激しいバトルが繰り広げられているのが俺には見える気がした。






男は出されたジュースを一気に飲み干すとよっこらしょっと立ち上がった。
放り出されていた黒いコートを片手にもう片方の手で江戸川の髪をくしゃくしゃっとまぜるとニッと笑いこちらに向かって言い放った。
「じゃあね。高宮勇気君っ。こいつのことつけ回すのはいいけど惚れちゃだめよん。」
「え?」
なんでこいつ俺の名前を知ってやがるんだ。
いやそれよりつけ回すって・・見てたのか?
だって江戸川はついさっきまで視線の持ち主が誰か知らなかったというのに。
目を丸くする俺に江戸川は頭にある男の手をぺしりとはたき落とし、やってられんとばかりに首をふった。



「じゃあまたねー」
その男は陽気に手をふるとお姉さんの元へ行き軽く挨拶をし、颯爽と帰っていった。
江戸川ははあ・・と特大のため息を一つつくと小さくつぶやいた。
「疲れる奴。」
「っていうか何者だよあいつっっ」
ただ者じゃないって。



手をブンブン振り回し尋ねる俺に、
「あーバカと紙一重の天才か・・・な?それか天才と紙一重のバカか。」
ぐでっとテーブルに突っ伏すと訳の分からない事を言う。
「は?」
「いや。まあ普通じゃないって事は確かだな。それよりお前わざわざ作り話までしてなんで俺んち来たかったんだ?」


あうっっっバレていたのねぇぇ。
さらりと話題をすり替えられたことにも気付かず俺はムンクの叫びのごとく両手で頬を押さえた。
「まあ別にいいけどよ。夜ご飯食ってくか?」
「いや。そこまでは・・」



肩をすくめあっさりと江戸川は流すと次いで親切にも夕食のご招待を申し出てくれた。
だが俺には塾が待っているのだ。
実に残念。

「そういえば江戸川のご両親って?」
「ん?外国行ってるけど?」
「じゃあさっきのお姉さんは」
「おじさんの娘だね。」
「・・・って事は他人?」
「そうだろうね。」

それがどうかしたのか?そんな顔でうなづかれた。
なにやら複雑な事情が江戸川家にあるのだろうか?
親戚じゃなくまったくの赤の他人の家に一人息子を預けていくなんて親は一体何を考えているんだ?
俺は何故か激しい憤りを覚えた。
そのことについて江戸川がなんの気負いもなくあっさり答えるのはそれだけこいつが大人だからだろう・・・と悔しいが俺は認めざるをえなかった。



よもや中身までまで負けていようとは。
そしたら何で勝てばいいんだ俺は?





「江戸川・・・」
「なんだ?」
「俺はお前に一生勝てない気がしてきた。」
「勝負してたのか?」
あまりに鈍感な答えに俺は脱力する。
テストのたんび点数覗きに行ったり50mのタイム計る時も一緒に走ろうと誘ってみたりしたあれやこれやにこいつは全く気付いていなかったのか。



「まあな」
ため息と共に答える。
こんな奴をライバル視している自分が悲しくなってきた。



その後他愛もいな会話をおざなりに交わしていたが、あっという間に塾の時間がせまり俺は江戸川の家を出た。


そして結論。




江戸川コナンという男―――――頭脳明晰。顔もなかなか。性格よろしくとても親切。人間としての中身も出来た奴で、おおよそ欠点という欠点が見受けられないところが欠点ではないか・・と思われる。
嫌みったらしくないところが嫌みないい男だ。



そんな報告書を書いて母に提出したら、「今度つれてらっしゃい」にこやかに言われた。
母は頭のいい男は大好きよと公言してはばからない。
でもうちの父さんはバカだ。なのに近所でも評判のおしどり夫婦。
なんで?
聞いたら「私が頭いいから丁度釣り合いがとれるのよ」
よく分からない返答だった。
頭がいいとそれなりに大変らしい。
それじゃあ江戸川もなにか苦労しているのか?
何やっても完璧に出来て、なにやっても失敗しなくて。
人生楽しそうなのにな。


適当に交わした会話の中で、いかに江戸川の知識が豊富で、ただ勉強が出来るだけの頭がいい奴らとは違い、知恵と言う名の考える力が溢れて居る奴だということに俺は気が付いた。
とにかく敵にするより味方にしたほうが良いだろう事は確かだ。

だが、未だに灰原さんのいった脳天気と言う言葉がひっかかる。
俺の考えが正しければ、脳天気というのは、もしかすると俺が後をつけたり、見張っていた行為に関して、特に文句をつけたり理由を聞かなかったあーゆーことをいうのだろう。
そしていつか俺が弱みを握って江戸川にとって不利益な事をしでかすかもしれないというそんな事をあの頭のいい江戸川は考えもしない。
そこらへんをふまえて脳天気と称したのかもしれない。
もちろん俺だけに限らず、江戸川はとりあえず「ま、いっか」で終わらしている事が沢山あるのかもしれないな。だからこそ灰原さんは眉をひそめ「脳天気」と言ったのだろう。

そう結論づけてはいるものの、やはりまだ江戸川と言う奴をよく理解できていないと俺自身思う。
なんでこんなに気になるのか。
それはやはりライバルと思っているからだろうか?

「勇気ってば本当にこの子の事好きなのねー。」
「はいぃぃ?」
「だってずぅぅっと見張ってたんでしょ?あの飽きっぽい勇気が。」
「飽きっぽい・・・」
よもやこの根気の塊のような自分に母がそんな事を言うとは・・。
「そうよー。自分がやろうと思った事しか続かないじゃないー。この間習わせたピアノ教室だって。将来の役には立たないっっとかなんとか言って勝手にやめちゃったでしょ。」
「だって・・」
あの教室には頭の悪いくそガキ(注・・勇気より年上)がいてうざかったし。
「それに知ってる?勇気が特定のだれかについて私に報告したのはこれが初めてなのよ?」
「あ・・」
そういえばそうかも。友達・・は、いる。
だが、母に友達について語った記憶はないかもしれない。
「この子が女の子ならもしかして勇気にも春がやってきたのかしら〜とか思うんだけどね。・・それとももしかして男の子だけどオッケーとか?」
「バカな事言わないでくれないかなー母さんっ」
引きつった笑みでワクワクとした瞳の母にデコピンをくれる。
何を期待してるんだお前はっ。





確かに江戸川は整った顔をしている。綺麗な奴は好きだ。なにせ俺は自他ともに認めるメンクイだからな。だがしかし。





よもや俺が江戸川が好きだとぉぉ?はっちゃんちゃらおかしいぜ。


天地がひっくり返ってもそぉぉんなことあるわけないじゃぁぁん。
ポンポン返ってくる会話が楽しいとか、もうちょっと一緒に居たかったとか、常に見張っていたいとか、
意識しまくりのこれが恋なんてお笑いも良いところだ。
俺はスマートな恋が希望なんだからな。

そうっあいつはライバルっ。天敵なんだ。
弱みを見つけて高笑いをしてやるんだいつかっっっ。
それまでは友達のフリして接近しているだけさ。
油断大敵火がボーボーだっっ。
いつか見てろよ江戸川コナンーーーーーーーーーー。

ここに小さな恋の種が植え付けられた事はそのライバルである彼しか気付いていないでしょう。
きっと本人が自覚する前にそっとその芽をつみ取りに来るだろう事は必至です。
頑張れっ勇気君。
2002.5.25
By縁真