不思議な感じだった。
まだたった六歳という少年にこの俺が追いつめられるなんて。 眼鏡をかけていたがあの鋭いまなざしはクッキリと覚えている。 射るような瞳。青い深くを見透かされてしまうようなあの目に 俺は心底怯えたような気がする。いや・・・期待もしていたかもしれない。 期待と怯え。相反するこの思いに俺はなんとも言えない気分を 味わった。 俺に気づいて欲しい・・でも気づかれてはならない。 KIDとしての自分。黒羽快斗としての自分。 どちらも自分と分かってはいる。でも時々どっちが本当の自分だろうと 考えてしまう。先代の父さんもこんな事考えたことあるだろうか? 誰にも相談できない。誰にも言えない。 自分一人で抱え込む秘密。 それは時として胸がぐっと重くなる。 幼なじみの少女と会話をする時。同じクラスの探偵と会話をする時 ふとした瞬間に心が暗くなる。何故俺は・・・・ あの少年になら分かるかも知れない。何故だろう?そんな気がした。 怪盗の感かもしれない。そんなのあるのかねぇ? 大体あの少年ははっきりいって正体がさっぱりつかめない。 この俺の情報網をもってしてもつかめないのだからどう考えても普通じゃないだろうな。 まあ、俺も手を抜いて調べたっていうのもあるけどな。 知りたい。でもあいつも知られたくないのかもしれない。 分かり合えるかもしれない。でも分かり合えなかったら? 少しでも期待を抱いた分ショックを受けそうな自分が怖い。 なんでたかだかあんなガキ一人に俺は悩まされてるんだ? 真夜中。勉強机、ベッド、マンガ雑誌、ゲーム、黒い詰め襟の制服。 どこからどう見ても高校生男子の部屋。 そこに白い影がふわりと浮かぶ。 「なんであいつはいつもいつも出没するんだ・・・」 唇をかみしめ、苦しそうに絞り出す声。 階下の母に気づかれないような強さで拳を壁に打ち付ける。 「なんで俺の前をチョロチョロすんだよあいつ・・。」 ドンッドンッ少しずつ拳が強くなる。それに気づく余裕のない彼は目を つむり最後にどんっと強く強く打ち付け、その場に座り込んだ。 壁に背を預け、手のひらで顔を隠す。 そうしてやっと気づく。自分がまだ影の自分の姿をしていることに。 「そこまで冷静さを失っていたのか俺は・・」 自嘲気味に笑う。あんなガキ一人に・・・ 何度つぶやいただろうこの言葉。 ふぅ・・と歳に似合わぬ疲れたため息をつきつつ、世間を騒がせる白き怪盗 怪盗KIDは一瞬にして本当の姿を取り戻した。まだ高校生というただの少年の姿に。 あいつの正体はまだ知らない。本気で調べたら見つかるだろう。 だが、自分の中でそれをとどめる自分がいる。 もしかするとただの小学生かもしれない(99%の確率でありえないが) 有名人な親が隠し子としてなにやら世間一般から隠しているのかもしれない。 考えつく限り挙げて見たがなんか違う気がした。 でもただの小学生の可能性は低い。あの行動力、あの鋭い洞察力、そして推理力。 預けられてる毛利家の主人、毛利小五郎にかわっていつも事件を解決しているのは あの小さな子供だ。 それを知ったときやっぱりと思った。毛利小五郎と言う人物にあんな彼のように容赦なく、 甘えを許さず鋭く迷いのないまっすぐな推理が出来るようには思えない。 あの説明の組立かたといいただの小学生と呼ぶには惜しい人材だ。 IQ300と呼ばれた俺ですら小学1年のあの時点であそこまでの頭の回転はしてなかったように思う。それにあれはIQの問題というより天性の才能もあるのかもしれない。 親の血?俺のようにか? 名探偵なんて日本にそうごろごろしているものなのだろうか?最近はなんかざくざくと 名がつく探偵が現れているが。彼ほどの才能を持つ探偵の親・・・親父の代にいたのだろうかそんな奴が? こんなうじうじと悩んでいる自分が信じられない。 明快な黒羽快斗はどこへいったんだ? いつでも余裕の怪盗KIDはどこへいったんだ? よしっ俺は決めた。 「明日のぞきに行こうっ」 なにやらちょっと情けない結論だった。 |