72時間の奇跡〜幽霊の事情〜 其の10 「黒羽っ黒羽ぁぁぁぁーーーー」 「工藤君っゆすらないでっ彼は非常に危険な状態だからっっ」 高木の声も聞こえない様子で新一は快斗を揺さぶり続ける 普段ならありえない 常に冷静で 親が目の前に倒れていたとしてもこんなに錯乱しないだろう。 驚いて、でも最善の治療をほどこす。それが工藤新一だ。 こんなただの無力な子供のようにわめいたりしない 「って思ってました僕は・・・・」 高木が情けない顔を見せた 「私もだ」 目暮も沈うつそうに救急車に乗せられる快斗とそれにしがみつく新一を見た そんなことあるわけがない だって彼はまだたった17才 子供なんだから 彼があまりにも大人びているから忘れてしまうその事実。 そして 「あの子は・・・」 助かるんでしょうか 続けようとした言葉は胸の中で木霊した。 たくさんの事件に関わってきたからこそ分かってしまう 彼はきっと・・・ 助からない 重い重いため息が警察陣全員から吐き出された なんで・・なんで黒羽が 開いた目に入ったのは遠くで警官に取り押さえられている戸倉 それにぼやけた視界にはいった 自分そっくりの少年の顔 その顔は青ざめていて その体はズシリと重くて 命が垂れ流されていくのを身をもって感じてしまった 荒い吐息 弱まる鼓動 薄らと開いた瞳は焦点を定めることなく小さな笑みを最後にそのまま閉じてしまった 思わず脈を確かめる 弱いながらも脈打つ鼓動 「なんで・・・・」 小さくつぶやいた言葉に反応したかのごとく幽霊が近づいた 『ん?何か言った?』 「お前、分かってたんだろ」 『なにがー?』 「とぼけんなっ何で黙ってたっっっっ!!」 手術中の点灯 暗い廊下 ガンッと壁にこぶしを打ちつければ幽霊は心配そうに手の平を覗き込んだ 『俺はね。新一と会うために来たんだ』 バッと手を隠され悲しそうに幽霊快斗はつぶやいた 「会う?死ににきたの間違いじゃねーのか」 はき捨てるような新一の言葉にフルフルと首をふる 『三日でもよかったんだ。新一と会えるなら』 今、この瞬間に自分がいなければ新一は命を落としていた そしたら自分たちは永遠に会えないということだ 三日の出会い(幽霊の時間も入れれば6日だね)と 自分の命をはかりにかけたら 『ほんのちょっとだけ新一のほうが勝ったんだよね〜』 誇らしそうな照れくさそうな笑み アホかお前はっ 命のが大事に決まってんじゃねーか 言いたかったけど実戦されてしまった今言えるわけがない 『結果的に騙す形になっちゃったのはごめんね。謝るけど。でももう一度選択できたとしても同じことをするよ』 だから気にしないで にっこりと その名のごとく透明な笑顔 「気にするに決まってんだろ。このままお前死んだら・・・俺どうすればいい?」 情けない顔 その眦からきれいな涙が一筋流れ出した それに触れようとしてすり抜けてしまう自分にほんの少し顔をしかめて 『どうもしなくていいよ』 たった三日しか一緒にいなかった自分のことをそんなに思いつめる必要はない。 自分はさ三日前新一守るために今の快斗と同じ選択をした。 その後で幽霊になって分かったんだ。 ああ、俺ってばすごいじゃん あの天下の名探偵のために幽霊になっても頑張れちゃうんだって 新一がここでずっと叫んでたの知ってるよ。 三日前に見ちゃったしね。 それでも新一を守るために俺は動いたんだ。 生身の自分を新一と出会わせて、新一を守らせるために。 死因がわかんないなんて嘘ついて。 一緒に行動させるために哀れっぽく頼み込んだりして。 ごめんね。 嘘ついて。 ごめんね。 守ったりして。 だってね。これはただの自己満足。 だから新一。 忘れちゃっていいよ。 俺がその記憶もっていくから。 だから新一。 泣いたりしないで。 忘れちゃおう? 「快斗・・・馬鹿たれっ。忘れるわけにはいかないだろ。俺はお前の分の命を背負わなきゃいけない。」 『あーもう。律儀なんだからなぁ』 あきれたように首をふる 『実際さーあの程度で命落とす俺が悪いんだしー』 いつもならしない失態だ。 本当ならこの失態を生身の自分に伝えておきたかったが、新一に伝言を頼むわけにもいかないしこれも運命かと思ってた。 あの時は新一守るので精一杯で、効率のよい守り方とか急所避けてナイフうけるとかそういう諸々が頭から抜け落ちていた。 あーーホント馬鹿。 「あっ」 治療室の扉を見て声をあげた新一に幽霊快斗はハッと顔をあげた。 『あら。俺じゃん』 「バカイトっっなんで出てきやがった!!おとなしく体ん中にいやがれっ」 新一と快斗にそっくりな幽霊 それが治療室からひょっこり顔を現したのだ。 正体なんていわれなくても分かるというもの。 二人(新一と幽霊)ににっこり微笑むと その出来立てほやほや幽霊は 『いっ・て・き・ま・す』 ゆっくり口を開き光に包まれた 「まて快斗っっっっっっっっ」 その手につかめたのは光の残像だけ。 『だから言ったじゃん?俺は同じ選択をするって。今の俺がまた三日前の新一に出会うんだよ。そんで新一とくだらないことで言い合って新一とくだらないことで笑いあう。』 「死ぬためにわざわざ・・・」 『だーかーらーー。死ぬためじゃないって。新一と会うためっ。それ以外の何でもないのこれはっ・・・・と。新一今何時?』 突然の質問に首をかしげながら腕時計を覗き込む。 ああ、そういえばこの時計を見てお前が三日後から来た幽霊だとか言い出したんだよな。 「?・・・12時18分だけど?」 『俺たちがさ、出会ったの何時か知ってる?あ、幽霊の俺とだよ?』 「確か昼ごろだった筈・・・なにが言いたいんだ?」 『そ、お昼真っ盛り。12時20分のことでしたー!!♪』 「それがどうしたってんだ」 『うーんまぁようするに』 いいかけ手のひらを透かしてみせる。 透明なそれ それが 「なんか・・・さっきより透けてねーか?」 『そゆこと』 よく出来ましたと拍手 「まさかぴったり同じ時間にーーーーー」 『うん。だと思って。三日間だけの奇跡っ。たった72時間しか奇跡を起こしてくれなかったみたいだねぇ神様ってやつは』 もうちょっと欲しかったなぁ 唇をとがらせる快斗 それどころじゃないのは新一だ。 少しずつ消えてゆく快斗に目の前が真っ暗になってくる 「ま・・お前なんでそんな悠長なこと言って・・なんとか助かる方法を考えーーーー」 『無理無理。もう決まってんでしょ?新一生きてる、俺満足。これ以上贅沢言っちゃダメってね』 悔いのない瞳 さっき倒れた自分に見せたのと同じ満足そうな瞳で新一を黙らせるとそっと新一を抱きしめるしぐさをした 『あーあ。生身のうちに一回くらい抱きついときゃよかったなぁ』 触れないのって寂しい 「そんなの生きてればいくらだって」 未だグチグチ言う新一の言葉をさえぎって 『あ、時間みたい。ほらっ奇跡の終わりだよ。ねぇ新一。ホントの話で忘れちゃっていいからね。新一の記憶俺があの世に持っていってあげるからさ。ぜーーんぶ。幽霊の俺が出てきたなんて非現実的なところから全部夢だったと思っちゃってよ。』 新一の瞳に手のひらを当てる。 生身ならばきっとかかった催眠術 残念この手じゃ無理っぽいなぁ 『俺が2人分覚えておくから。忘れちゃえ。忘れちゃえ忘れちゃえ忘れちゃえ忘れちゃえ』 言ってるうちに涙があふれてきた。 忘れられたくない 心の奥底で叫んでる。 でも新一が悲しむのを見たくないのも本当 でも忘れられたくない 矛盾を胸に それでも 『こんな自分勝手な俺のことなんて忘れちゃえ忘れちゃえ忘れ・・・』 「バーロー」 幽霊なのにポロポロとあふれる涙を見てそれを拭うように透き通る両頬に触れるように両手を添えた。 同じように真っ赤にした目で苦笑しながら強い響きで言葉をつむぐ。 「忘れない。絶対に。だからもう一度−−−−−」 消え行く快斗の耳には聞き取れなかった新一の最後の言葉 でも忘れないって言ってくれたから十分。 ごめん。 苦しい思いさせるよね。 ごめん。 神様 もう一度だけ もう一度だけ 奇跡を・・・・・・ って 贅沢かな俺? 「かい・・・と?」 ないはずの温もりが消えた気がした。 手のひらの中に収めた透き通った顔が風に溶け込むように消えてなくなる。 「快斗」 信じたくない でも 目の前の現実はそれをつきつけていて 「快斗ーーーーーーーーーーーーー!!」 新一の悲痛な叫びに 離れたところで控えていた目暮警部たちが驚いた形相で駆けつけてきた。 魂が三日前に跳んじゃったから 手近にいた魂を引き寄せた? なんだそれは 快斗の奇跡は72時間で打ち止めだったけど 今度は俺が奇跡を起こした? なんだそれは 確かにな、あの時最後に祈ったぜ? 「もう一度奇跡をーーー」って だけどなー なんだそれはって感じじゃねー? 「納得いかないっ。ぜーーーーーーったいに納得いかないっ」 新一は憮然とした顔で何度も口にする。 「まぁまぁ新一君。良かったじゃないか」 目暮警部の取り成しの言葉も 「そうだよ工藤君。何がそんなに気に入らないの?」 高木刑事の不思議そうな顔も すべてが火に油 「ムーーーかーーーーツーーーーーくーーーーーーーーーー!!」 「なんでよぅ。もっと喜ぼうよーー」 原因はヘラヘラ笑う 「死ぬ死ぬ言ったくせに。あの世がどーの言ったくせに。ああっそうだ忘れていいとか言ってたよな。あー誰お前?俺しらねーやっ」 「ちょっと待って新一くーーーーん。」 「誰ですかーー?俺の知らない人ですねぇぇ。人のこと勝手に守りくさった上に幽霊になって付きまとって。さらには奇跡がどーの言って消えてった誰かさんなんて俺の知り合いにはいませんねぇぇぇぇ」 「新一ぃぃぃぃぃ」 ベッドの上から情けない声 こんな展開予想してなかった。 幽霊になった時点で自分はもう死んでるって思ってたし。 怪我の具合から見て自分で「もうダメだ」と分かってたし。 「このバカイト!!!!!!今度死んだら絶交だからなっっっっっっ」 「あっ新一どこにーーーー」 慌てて体を起こそうとする快斗の肩を押さえて 「ダメですよまだ動いちゃ。彼なら私たちが追いかけますから」 「そうですよ。起きぬけのようなムチャなマネだけはしないでくださいね」 目暮が追いかけ始めたのを横目にのんきに高木は言う。 「目が開いたかと思ったら突然ゾンビみたいにムクリと起き上がって目の前にいた工藤君に抱きつくなんてビックリしましたよ〜」 それだけ言って「また来ますね。」と快斗の病室を後にして新一を追いかけ始めた。 「あははは」 それもきっと新一のお怒りの原因なのだろうと思う でもあの時は生きてる実感を確かめるために 悔いとなっていた新一抱きつきを実行してしまった。 「あーあ。あれはしばらく怒ってるだろうなぁ」 泣いたのが物凄く恥ずかしかったのだろう。 真剣に心配したのが今更恥ずかしく感じてきたのだろう。 そんな照れて怒った新一の背中を思い出して苦笑する。 新一のお怒りですら嬉しい。 こりゃー奇跡起こしてくれた神様にお礼の意味も込めてしっかり新一を幸せにしてあげなきゃね!! 勝手に一人でそう決めると快斗はまだ痛むからだでベッドの上を左右に転がった 嬉しくって仕方ないといった風に。 神様って結構粋だねぇ!! その後 互いの正体(コナンとKID)を知って 盛大な喧嘩をするのは まあ別の話。←それはもう滅茶苦茶盛大な喧嘩であることは予想できよう 今はそう。 72時間の奇跡の出会いを笑い話にするべく楽しく生きようじゃないか おしまい きり番部屋 |
突っ込みどころ満載ですが、
広い心で許して下さると嬉しいです。
ああっ終わりましたよっ
当初の予想を見事に裏切り10話もかけてっ
長い割りに身の少ない話ですが、どうぞお納めくださいshiho様