嵐の転校生がやってきて約一週間。
月日は和やかに流れて行った。
もちろん彼らの生活もいたって平和

「うあーーーねみっ」

都会の喧噪から少しはなれた東京の片隅。
そこで一人の少年がいつものごとく大きなあくびをかました。
平凡とはとても言い難い容姿の持ち主である。

がさつな仕草と乱暴な口調、それに放つ空気で存在を変えてはいるが(更には一般人の女性の投げる筆箱で死にかけた情けない経歴を持ってはいるが)紛れもなく彼があのKIDである。

しかしてその実体はとあるクラスのすちゃらか少年黒羽快斗その人であった。
その事実を知る者はとても少ないけれど。


猫の
を探せ2



「どうせまたゲームしてたんでしょ?」

彼の正体を知らない者筆頭の幼なじみ、筆箱で殺人未遂を犯した中森青子が呆れた顔でそう言った。

「昨日は違うって夜中まで中森警部の奮闘劇を見てたからなー。」

KIDと言えばメディアは他のスクープを放り投げてでも駆けつけてくるほどの人気者だ。
それを大々的にとりあげたものが昨夜一挙放映されていた。

自分の正体がばれるような小さな手かがりでもうっかり落としていないかチェックする・・・という名目のもと、己の活躍劇をしっかり目に焼き付けていたのだ。

「うーんかっちょいーー」

この角度だと写りがいいなー今度から気をつけておこっと

とか、

あっカメラからはずれちゃったダメじゃんカメラさんっ

とか、

中森警部の声大きすぎるなー後で編集しとこ

とか、

とかとかとか・・・警察の人たちが聞いたら殺戮パンチを繰り出したくなるような事を楽しげに呟きながら見ていたのだ。

「あんなテレビ見る価値もないわよっっでもお父さんったらバカにされてるのに気付いてないみたいでねー嬉しそうにビデオに撮ってるの。なんか哀れになってきちゃって。」

「哀れすぎる中森警部。」

一緒になってヨヨヨと涙する快斗。

「あっでも今日の新聞みてまた張り切ってたし丁度いい活力剤になったかも」
「新聞?」
「え?まだ見てないの快斗っっ」
「・・・・深い理由があってな」

ちょっぴり遠い目をする快斗。

今日の新聞は今朝方すでに処分された。
大量のおみそ汁を吸い込んで。

(何で雑巾持ってきてって言ったのに母さんは新聞を持ってきたんだっっしかも今日のをっ)

まあいっかと、渡されたそれで鍋ごと落とした大量のみそ汁の残骸を吸い取ったのだがふと日付を見て仰天した。

「なんか朝から騒がしいと思ったらやっぱりなんかあったんだね」
「聞こえたのか?」
「うんもの凄かった。ここら一帯に聞こえるくらい大声だったよ。快斗もおばさんも」

たかが新聞で大喧嘩をした二人。
それはもう家の中は大惨事になっている。
原因である盛大にぶちまけたみそ汁なんて可愛いものだ。

タンスは倒れ皿は割れ、机はひっくりかえり畳すら裏返りそうな勢いで闘った二人。
それは死闘と呼ぶにふさわしい闘いっぷりだった。
とりあえず快斗の学校の時間になったので休戦となった。

「で?どんな事件が起こったんだ?」

ちゃんと覚えていた快斗は中森警部が元気になる事件を尋ねた。
まあ一つしかないと思うが
ちょっと待っててねっと家まで走って行った青子は片手に新聞をひっつかみ戻ってきた。
きっとしっかりとは記憶していないのだろう。
確かに読んだほうが早い。

サンキュと受け取ると読みながら歩き出した。
ここで立ち止まっていたら完璧遅刻だから仕方ない。


『怪盗ベリーキャット、KIDに挑戦っっ果たして勝利はどちらの手に!!!』

・・・・・

「は?」

あまりに驚きすぎてもう一度見間違いを望みながら新聞に顔を近づけた。
さらに『事の起こりは〜』のくだりを読み始めた

「なになに、事の起こりは怪盗KIDの予告状が届いた3日前・・・・・」

ないないっ送ってないって。

新聞に向かって首を振ってみる。実に無駄な動きである。

「狙われた獲物はキャッツアイ」

何で俺がそんなもん狙わなきゃなんねーんだよ

「んで・・・それにキャッツアイを専門にするベリーちゃんが怒っちゃったってわけ?」

だから敵対するようにいつもは出さない予告状を怪盗ベリーキャットも送りつけたってわけらしい。
人の獲物取るんじゃねーーーってか。
だはーー誰だよーー人の名語って予告状出したやつーーーー
ベリーちゃんと誰が対決するのよっっ

俺?俺なのっ?

行かなかったら中森警部ががっかり・・いやいや怒りだすよねー?それでも別にいいけどさ。

だが哀れな中森警部に愛の手を送りたい気分の快斗はちょっと思案する。こいつとっつかまえて中森警部に差し出してあげよーかなー。

そしたら少しは株あがるよね?

犯罪者すらも敵に回す発言を心の中ですると快斗は新聞片手にほくそ笑んだ

「あーなんかニヤニヤしてるー」

そんな青子の発言は丁重に無視させて頂いた。
犯行日は次の満月の晩。
明後日だ。
速急に手を打たねばならない。快斗は隣りから新聞をのぞき込んでくる青子にチラリと視線を送りため息をついた。

こいついなかったらジイちゃんに連絡とれたんだけどなーま、いっか。後でしとこっと。






学校へ着いた都はあさからお茶の間の話題独占のKID対ベリーキャットの話をまたもや耳にした。
とりあえず、自分の席で静かに本を開く。
だが耳はついつい周りの話に集中してしまう。

「そりゃーKIDが勝つに決まってんだろっ」

一人の少年が自分の事のように自信満々に言ってのけた。
至るところから聞こえてくる声にもまけずその声は際だって都の耳へと届いた。
声の質がいいのだろうか。
とても透る声だ。

チラリと視線をやってみれば予想通り隣りの席の居眠り少年の声だった。

「黒羽はKIDファンだからなー。」
「そうそう。KID貶したら怒りだすしねー」
「でもなー俺はベリーちゃんを応援するぞっ」

「なんだとーーー」
「ほら怒った」

周りから笑いが起こる。
それに快斗も一緒に笑いだした。

「俺は女性の味方だ。更に美人なら言うことなしっっ」

さっきベリーキャットを応援するといった少年が偉そうに自慢出来ない事を口にした。

「待てっそれは思っていても口にしてはいけない禁句だろーー」

快斗が突っ込む

「ふっ俺は世の男どもの代返を努めてやっただけさ。男と女が闘っていると言うのなら迷い無く綺麗なお姉さんを応援するのが正しい男の生き方なのさ」

「そこまで語るかお前っ」

何が正しい男の生き方だっっ
快斗の突っ込みは非常に正しいが、周りの男共の賛成の意思表示にやや劣性だ。

「俺は女性陣に人気のKIDは好かんっっ」
「うわっひっがみぃぃ」

どうやら本音が出たらしい少年に快斗はひきつった笑みを見せた。

「男のひがみは醜いわよーー」
「ねー。そんな奴に応援されてもKID様は嬉しくもなんともないって。勝手におねえさんの応援でもしてなさーーい」
「そーよそーよ」

女性陣の怒りを買ったらしい(笑)
いきなり女性プラス快斗(腰引け気味)VS男子クラスメートの対決の図が始まった。
もちろん女性陣優勢。

そこへ

「まーーちーーーなーーーさーーーーーーーーーいーーーーーー!!!」

しきりや青子の登場だった。
エキサイトしだした周囲にいい加減うんざりしてきた都は彼女の登場にほっとした。
この場を諫めてくれるだろう。

そう思ったのだ。
だがしかし、彼女はひと味違った。

「お父さんが二人とも捕まえるに決まってるじゃないのっっっ!!!」

ムムンっと胸をはり青子は一番あり得ないことを恥ずかしげもなく堂々と口にした。
誰もが一瞬ビミョウな顔をみせた。

「・・・それだけは無いと思うよ青子ぉ」

友人がポツリと呟いた。


都は脱力のあまりに額を押さえた。
(子供ね)

まるで小学校低学年の会話だ。
しかも誰もが真剣に話しているあたり救いようがない。
自分はうっかり小学校に迷い込んだのではと思ってきた。

(このクラスに高校生はいないのかしら)

疑わしくなってきた。

「あーーなあに、都ちゃんも参戦する?」

うんざり顔でそちらを見た都に気付いた青子がニィと笑って話しかけてきた。
しまったなぁ
と思う

「KIDが勝つに決まってるよなっ」
「いーーやベリーちゃんだっ」
「お父さんよっっ」

また騒ぎ出す彼ら。
仕方なく読んでいた本を机に置くと期待に高まった視線がそこかしこから突き刺さってきた。

「・・・」

盛大なため息を一つつく。

そして

「悪いけど読書中なの。静かにしてもらえる?」

片眉を上げつっけんどんに言い放った。
彼らとなれ合う気はさらさらない。

これだけ冷たい対応をしておけば今後話しかけてくるような図太い真剣の持ち主はいないだろう。

そう思いフイと顔を正面に戻すと一度降ろした小説を持ち上げ読書体勢をとった。
だがしかし、一瞬静まった教室に次の瞬間何故かけたたましい笑い声が響いた時にはさすがに驚いて都はもう一度顔をあげた。

青子である。

場の雰囲気など全く読めない青子である。

「あーごめんねーよく考えたら都ちゃんKIDの事知らないよね。長野までは噂になってないよねーきっと。そっかそっか仲間はずれにしちゃってごめんねー」

暗に長野を田舎と言っているのだろうかその脳天気な笑顔から真意は読みとれなかった。

「そっかー」

なるほどー

何故か納得する人々。

(な・・・なんて平和な人たちなの)


「よぉーーーしっそれでは快斗様がとくと語ってさしあげましょう。KIDとは何かっっそれはだなぁぁ―――――」

聞いてもいないのに延々といかに彼が格好いい存在なのか力説し出す快斗。
それに横から青子が合いの手を入れる。

口を挟む暇もない二人のやりとりに呆気にとられたまま聞いていた都。
紅子はそんな彼女を少し離れた場所から目にし小さな笑みの形を作った。

(あの二人に掴まったら私ですら逃げることは敵わないもの。)
お気の毒様と心の中で呟くと紅子は楽しそうに快斗の演説に耳を傾けた。

「んで中森警部ってのがいて、それが青子の親父さんなわけ。」
「KIDの専任なんですよ。現場でよくお会いします」

さっきまでいなかった白馬が会話にひょっこり参加した。

「で都ちゃんは誰が勝つと思う?」
にこやかに最後に尋ねられ都はため息をついた。
答えない限り解放してくれないようだ。

都はそりゃもちろん、と心の中で付け加えおごそかに答えた。
「ベリーキャットに一票」
男子生徒から歓声があがった。





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はーーい予告状送った人知ってまーーーす。
更に書いた人もしってまーーす(笑)
ってつっこみ入れたかったでっす。
By縁真