「なるほど、あなたが怪盗ベリーキャットだったのですね」

猫の
を探せ

「え?」

一瞬空耳かと思った。
どこから聞こえてきたのかさっぱり解らなかったのだ。

「偽物を持ってどこへ向かうのですか?」
含み笑いが上から聞こえてきて、都はようやく存在を認めた。


「・・・・KID・・」

今にもパッキリ折れてしまいそうなボロボロのプランコの支柱の上に危なげなくしゃがみ込むその姿。
見下ろされるような形の都は驚愕の瞳でそれを見上げる。
計算されたものなのか、背には月。
陰影で表情は読みとれなかった。

「これは本物よ。そっちこそ偽者を盗んだんじゃないの」
それに彼はふと笑うと予想外の事を言った

「貴方のおっしゃる通りこれは偽物・・・ですが貴方の持つその石を本物と誰が言い切れますか?」

そりゃ刑事さんとか白馬とかこの石を守ってたもろもろの人たちが自信満々に言い切ってくれるんじゃないのだろうか。
いぶかしげな目を向けた。
そこには相も変わらず飄々とした空気を放つKIDがいる。


「じゃあなに。最初っから偽物があそこに置いてあって、まんまと私は騙されたって、貴方はそう言いたいわけ?」
それにKIDは軽い仕草で肩をすくめた。
肯定・・ということだろうか?


「だったら本物はどこにあるっていうのよ?言ってみなさいよ。何でもお見通しなんでしょ怪盗KIDはっ」

皮肉気に言ってみる。
だが憎らしい事に彼はあっさり頷いた

「ええ。まあ知ってるといえば知ってますけど」

とフイに遠くをみるように視線をやった。

「もうすぐ近くまで来てますよ」
「は?」
「貴方に向かって行進してますよ。かの宝石は」
「・・・まるでキャッツアイに足が生えてでもいるような言い方ね」
「似たような物でしょう」

「!!!」
バカにされている。
そう思った。

「ああ。バカになどしてませんよ。」

怒鳴ろうとした気配を察したのだろうそれより早くKIDは夜の静謐な空気を守るべく言葉を発した。

「ほら貴方の求める最後の石はすぐそこに」

と都の後辺りを指さした。
思わずつられるように指の先を視線で追う。
そこには一面にひろがる茂みが・・・・・・

「じょ―――――」
冗談は時と場合を考えなさいっと怒鳴りつけようとした瞬間その茂みの一部がカサリと揺れた。

ビクッと都の体が震える。
警察かもしれない。
もしかすると白馬かも。
KIDがバラしてしまったら逃げれない。
身を固くした。






「なんだ驚かせてやろうと思ったのにつまらねー奴だな」

その声と共に視界に入ったのは驚いた事に小さな小さな少年だった。





コナンははっきり行って今夜の騒動に参加する気はなかった。
だが

「お願いベリーキャットから石を守ってっっ」

予想外の存在の出現のおかげで美園が頼み込んで来たのだ。
彼女の予定では、予告状を出し、自分でそっと盗み、後で家へと送りつける。
それで完了だったのだ。

「だってKIDこないもんっ。偽物だもんあの予告状。だからお願いっっ」
いや、来るだろあいつなら
そう思ったがコナンはとりあえずため息と共に頷いた。

大体あの変態男の正体はつい最近知ったばかりで、未だに信じられないのが事実。
正直な所あんまり関わりたくない
だが彼女の事情とベリーキャットの事情を知ってしまった以上見捨てるわけに行かず、
アレと会う覚悟で出動した。

「怪盗ベリーキャットはなぁこっちでも活躍しとったで?今回とはちごうて予告無しやから簡単に盗んでいきよったけどな。価値ある言うたかてKIDの狙うもんに比べたら可愛いもんやで
あんな危険おかしてまで盗む必要ないと思うんやけど」

とある大阪人はそう言った。

それを聞き、すでに盗まれた石の出所を探ってみれば意外と複雑で、流れ流れ辿り着いたのかかなりの人の手を渡ってきていた。
かなり苦労したがそれを全部調べ、行く点く先を知った時

「ああ」
と納得した。

怪盗ベリーキャットの正体と、その目的。
だからこそ美園に全てを説明してた。
どうするかの判断は美園に任せるとそう言って。


「だから『お借りします』だったんだな」
ベリーキャットは全てが終わったら盗んだ石をちゃんと返す気だったんだ




「すっごぉぉい江戸川君っっ吉田さんが言ってた通り頭いーのねっ本当にKIDとベリーキャットがいるーーー!!!」

美園恵がはしゃいだように手を叩く。
それにコナンは軽く肩をすくめ蒼い瞳を二人へと向けた。

「まさか貴方が関わっているとは思いませんでしたよ名探偵」
(ほんのついさっき空から見かけるまでは・・・)

弾む声
明らかにさっきとは違うKIDの雰囲気に都は振り返った
だが視界は白いマントで埋め尽くされ一瞬にしてその鳥は地面へと舞い降りた
都と少年の間に

「こんばんは。名探偵。今宵の貴方も月に負けぬ美しい輝きを放っていますよ」

「・・・・・・・・・・そりゃどうも」

美しき女性陣二人を無視してコナンを褒め称える変態男にコナンはどういう反応をすれば良いのか一瞬悩んだ。
なんとか気を取り直し口を開く

「とりあえずご苦労」
「え?」
「警察の目をごまかしてくれた事だ」
「ああ。貴方にねぎらわれるとは思いもよりませんでした」
「助かったのは事実だしな」


「ちょっどういうことよっ」

都の叫びに二人で振りかえる。
それは見事に同じタイミングで同じ表情
そして

「「何が?」」
全く同じ調子で尋ねた

「だから・・・・」
何がと尋ねられると答えられないが全てにおいて訳が解らない

「大体貴方誰よっっ」
「ぼく?江戸川コナンだよ。東都さん」
「は・・?」
「そこの美園さんに頼まれた少年探偵団の一人・・かな?」
ニッコリ微笑む
それは小さな少年の姿であり、さっきまでの圧倒的な空気は気のせいだったのかと思わせた。

「あのね。あのね。コナン君にお願いしてね、石を守ってもらおうと思ったの」
「でも・・石は私が―――――」
「それ偽物」

あっさりコナンに言われ都はとうとう石を取りだした
「偽物ってどういうこと?」
「僕が用意したんだよ。わかんなかったでしょ?」
得意そうに笑うコナン

「・・・解るわけが無いと思いますよ。それ本物じゃないですか・・よくこんな短期間で用意できましたね名探偵」
「ああ。家にあったし」
「・・・・さすがと言うかなんと言うか。でも例え本物でも貴方にとっては偽物ってことですよお嬢さん。」
「本物だけど偽物?じゃあこれは私が欲している石でないというわけなの?」
「そ。貴方が欲しいのはお祖父様の形見の石」
「猫目石の収集家だったんだよね東洋一郎さんは」

「―――――!調べたの!?」
突然の祖父の名前に都はぎょっとした。

「ちょっとだけ」
「少々」

似たような言葉が二人から返ってきた。
少々とかちょっとだけで解るものなのだろうか?都には想像がつかない。
まるで例のだんご虫のようなマネをする。
でも調べたからこそ二人はこんなにも都の探すものについて詳しいのだろう
そう形見の石。
約束を果たす為に必要な石。


「その石は今美園が持ってるよ」


「これ」
恵がポケットからハンカチごと取り出す
都の持っているのと寸分違わぬ大きさのキャッツアイ

「これね。お母さんの形見なの。でもコナン君が絶対に返ってくるからしばらく貸してあげてくれないかって言うから・・・・」
とことこと都に近づく
持っていた石と都の手のひらの石を取り替えた

「少しだけ貸してあげるね」

都は目を見開いた

なんで?
だって形見だって・・・

「これ見てね。お母さんの事思い出して泣いてたの。だからお父さんがこんなものがあるからいけないって・・」
売っぱらうつもりだったらしい。
だから歩美に頼んだ
『お母さんの(形見が)危機なの』と

「それでね、KIDに盗んでもらおうと思ったの。」
「なんで・・」
「だってKIDなら後で返してくれるでしょ?」
なるほどちゃっかりしている
「そしたらお父さんKIDの大ファンだから絶対に売ったりしないって思ったの」


「私の偽の予告状まで用意して見事に巻き込んでくれましたよ」
クスクスKIDが微笑む
「じゃあ」
彼が予告状を出したから自分は慌てて盗みに入ったと言うのに。それは違った?
「私は最初からそれに用はありません。ただ心痛める小鳥達の為に少々羽ばたいてみせただけ」
猫の目と共に。

「勝手に名前借りちゃって本当に本当にごめんなさいっ」

恵がKIDに向かって頭を下げた
90度以上さげられた頭にポンと白い手袋をはめた右手が乗せられる
見上げれば優しい微笑みのKID。
恵が顔を赤らめたのは仕方ないと言えよう

「・・俺も謝るべきなのか?」
そんな恵の隣りで偉そうな態度でコナンは尋ねた。
「江戸川君は私に頼まれて予告状作成しただけだもんっ悪いのは私だけなのっ」
その言葉にKIDの頬がちょっとひきつる
「へー・・そうだったんだ?」
「・・・まあな」
悪びれないコナン

「簡単にして置いたから中森警部でもとけただろ?」
「いや結構悩んでいたみたいですよ」
「だめじゃん中森警部」
「・・ふう。予告状の内容を見たときまさかと思いましたけどね。」
やれやれと首をふる
「誰も疑ってなかったよな。さっすが俺」
「っていうか私ですらまさか無意識に作成して自分で送った?とか心配してしまったくらいの出来映えでしたよ」
「そりゃ最大級の誉め言葉だな」
はっはっはー和やかに二人で笑いだすと


「謝ってほしいなー」
「やなこった」

二人の会話は少しずつ険悪になっていった。

「もとはと言えば貴方が手助けするからいけないんですよ」
「あーあー。そりゃあ悪かったな。だけどてめーに来いなんてひとっっっ言も言ってねーだろ。来たくなきゃ来んなっ」
「それでは中森警部が泣いてしまうじゃないですか」
「はっケーブの事まで心配して差し上げるとはお優しいこった」
「そうそう。何て言ったって万民のアイドルは心が広くなくてはやっていけないのですよ。・・・・・・ああ。失礼。少々エキサイトしてしまったようですね」

ふと真剣な顔に戻ったが今更かもしれない。
唖然と見守っていた二人はまるで夢から覚めたようにハッと目をしばたいた。

「江戸川君ってKIDと仲良しさん?」
「勘違いだっっ」
恵の深い誤解に即答する

「とりあえずっ後は任せたぞ」
「かしこまりました名探偵」

片膝をついてまるで主上にでも対面しているかのごとく頭をさげるKIDに眉を寄せながらコナンは背を向けた。
そして一歩進んだ所で顔だけで振り返った

「そうそう。それ最初から傷がついてたらしい。後、多分月光が関係あるぜ。じゃあな」

今度こそ振り返らない
小さな名探偵は依頼人の少女と共に闇夜に消え去った






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えーっと、今回はいつもと逆でKIDの話にコナンがちょい役で格好良く出てくる予定だったのです
いつもはコナンの話に良いところ取りで出てくるKIDですからねー
たまにはこんなのもいいかなーと思います。
ってどうでしょう?
By縁真