「つ・・・・疲れた・・・」
いかな体力無尽蔵といわれる彼でも女の買い物に付き合うのは大変らしい。
ぐったり手近なベンチに腰掛けた。

その拍子に元からそのベンチに座っていた子供がピクリと体を震わせた。
ソフトクリームをちびちび舐めているのは知っていた。
きっと母親に連れてこられたのだろう。
自分同様疲れた様子だったので少し距離を置いて端っこに座ったつもりだったが、勢いがついたせいか
振動が伝わってしまったらしい。

「わりぃ」

それに軽く謝り。
幼なじみに無理やり『今日のお礼』と称して渡された缶コーヒーをプシュッと開けた。

そして一口。

次の瞬間

「・・・・・・・・・あぁぁぁおぉぉぉぉぉこぉぉぉぉぉぉぉぉ」

射殺しそうな視線で手持ちの缶コーヒーをにらみつけた。


そのオドロオドロシイ声音に隣の子供は思い切りこちらを振り返った。
そして目を見開いて


「おまえ・・・・・」
驚いた声でつぶやくと
ちょっと疲れた顔で笑った。

「よう。快斗」





他愛ない日





「あれコナンちゃん?全然まったく気づかなかったよー」
「ああ。俺も全然気づかなかったぜ。めっずらしーとこで会うな」

二人はデパート階段に設置されたベンチにぐったり腰掛けていた。
お互い隣に座っているにも関わらず気づかないほどのぐったりっぷり。

「蘭ちゃん?」
「ああ。そっちは例のお隣さんか」
「そ。今あっちで買い物してる。俺は一服中」
「同じく。じゃあ今頃顔合わせてるかもな」
「あー。でもバーゲン中だからねぇ。あの人ごみの中で会うのは難しいんじゃない?」
「いや。あの二人は同じ趣味だからな。同じようなところで同じようなものを買うと俺は踏んだ」
「なるほどー。そしたら一緒に戻ってくるかもねぇ」

二人して疲れた顔で笑う。

「それにしても珍しいもん食べてるね」
「蘭に無理やり買われた・・・」
「ああ、しかもイチゴソフト。ぷぷっっ。ものすっっごく似合ってるんだけどその眉間の皺が似合ってないっっ」
甘くて甘くて仕方ないのだろう。
皺を寄せながら無理やり食べるコナンの姿に腹を抱えてしまった。
捨てるなんて事この少年はきっとできまい。
なにせ買ったのは最愛の幼なじみの彼女だ。
律儀な彼は根性をみせるにきまっている。

「俺もね。今日のお礼にってこれさっき無理やり押し付けられた。どーせならジュースかココアにして欲しかったんだけどな」




青子にむりやり奢られた缶コーヒーを見せて肩をすくめた快斗にコナンは半眼になった。

「いやがらせか?」
「それ以外の何物でもないと思いますぅ」

情け無い顔で缶を振ってみせる快斗。


それはブラック。無糖だった。


二人は微笑み会うと無言で手持ちのものを交換した。

小学生がコーヒーを
高校生がソフトクリームを。

ちょっと異様だったが本人たちは満足そう。


そうして二人が心行くまで互いにとって美味しいものを腹に収めた数分後。
持ってた缶をポイッとゴミ箱に投げ。
コーンに巻かれていた紙を同じく隣のゴミ箱にすて
他愛も無い話をしていたとき

唐突に。
快斗がポンと手を打った。



「そういやさっきコナンちゃんにすっっっごく似合いそうな服みっけちゃったんだよねぇ」

そう言って抵抗するコナンを無理やり引きずっていく。
「まてっどこへ行くっっっ」
「この上の階だから大丈夫〜」
「そういう問題じゃねーっっ蘭が心配するだろーがっ」


「ちょっとだけ。ちょっとだけ♪蘭ちゃんにはメールしておくからさっ」


己の思うがままに行動しているのだろうこの男は
暴れるコナンをたやすく俵抱えにすると
ふんふん鼻歌交じりにとあるフロアへと連れ込んだ。




こっっっっここはっっっっっ


「うっきゃーーーーこれっっこれむちゃくちゃ似合うと思うのっっっねっ店員さんっっっ」
いい男と可愛い子供がやってきたわとばかりに颯爽と近づいてきた若い女性店員は頬を上気させバカな男に頷いた。

「ええっホントですわお客様。これなんか合わせてみてはいかがでしょう」
「わっいいっっっそれナイスチョーイスっ。さすがだねっ」
「ふふ。任せてください」

なんだか二人の世界である。

当の本人のコナンをそっちのけで服を選び出す。



っていうか
その本人は
この服の山をみて固まっていた。


これは・・・これは・・・・・・




フリフリ。
レース。
ビラビラ。
フワフワ。



乙女のお店だろぅぅぅぅぅぅぅぅぅ



「だーいじょうぶっ」

快斗は自信満々に胸をたたいた。
何を言うかと思えば。


「ちゃんとコナンちゃんに合うウィッグも買っておいたからね♪」

まて。
待ってくれ。
どこが大丈夫なんだ?

さっぱりわからないぞーーーーーー

しかも買って何に使うというんだ?
いや、むしろ使いたくないっっっっ


「だってー。もしかすると使う日がくるかもしれないじゃない?備えあれば憂いなしってね」




備えているだけで憂いありまくりなんですけどぉぉぉぉぉおおおお



コナンの涙の叫びも実ることなく、
その後やってきた蘭と青子が加入し、

さらにヒートアップすることとなる。

すまん。果てしなく意味のないバカ話だ。