「寒いっ寒い寒い寒いっっさーむーいー」
なんで俺がこんな寒い日の夜に外をほっつき歩かなきゃなんねぇんだ?
それは山より低く海より浅い物凄いどーでもいい事情があるのだ。
まぁようするに、例によって例のごとくあの白い服と白いマントの変人のせいなわけだが、今回はちょっと・・・いやかなり小五郎のせいでもある。
「怪盗キッドの現場に呼ばれた」
突然かかってきた電話を終えた小五郎の言葉。
「え?今から?」
「ああ。よくわからんがすぐに来てくれってあの中森警部が頼みこんできたからな」
帰れ・・・と口では言わないが毎度態度で示す探偵嫌いの中森警部が頼み込む?
この迷探偵にかよ
天変地異の前触れか
などと食後のデザートの蜜柑を食べながら失礼なことを考えていたコナン。
「って事でさっさと用意しろよ」
「「は?」」
思わず蘭と二人でハモってしまった。
「行くんだろ?いつも勝手についてくるじゃねーか」
ああ。確かにその通り。
そしてそんなコナンの面倒を見る為に着いていく蘭。
それがすでに恒例になってるから恐ろしい。
いい加減注意をするのを諦めたらしい小五郎はなかなか動き出さないコナンの襟首を引っつかみ自分の顔の高さまで持ち上げた。
「えーっと、今日は(寒いから)僕はお留守番してるね」
ニッコリ、良い子の言葉を口にしてみれば問答無用とばかりにそのまま小五郎に肩に担がれ運びだされた。
「このクソ寒い中わざわざクソ寒い思いを俺一人に押し付けよう、なんざそーは問屋がおろさないってんだ」
ハハ バレてら
で、こうなったわけだ。
「ねぇお父さん。このままじゃコナン君が風邪引いちゃうから。」
「ああ?俺なんかすでに引いてるっちゅーの」
ぶへっくしょいっと激しいクシャミ付きで返事をした小五郎。
同じ苦痛を味わうものを逃がす気はなさそうだ。
「でも・・・」
コナン君はまだ小さいんだし、頼まれたのはお父さんなんだから・・・
続けようとした言葉は高い愛らしい声に掻き消された。
「大丈夫だよ蘭姉ちゃん。おじさん1人じゃ可哀相だし僕我慢できるから」
にこりと本心から180度掛け離れた意見を述べる。
そのいじらしさに蘭のみならずこの場にいた警察陣までが胸をキュンと鳴らせた。
見事なネコである。もしかすると大きすぎて視界に入りきらないせいで見えないのか?それくらいに立派に大きなネコである。
「コナン君毛布があったからこれ使って」
「ありがとう」
心配そうに毛布でくるんでくれた刑事にコナンはニッコリ微笑む。
それをかわぎりに
「はいホッカイロ」
「缶のコーンスープだよ。あったまってね」
「お腹空いてたらクッキー持ってるよ。いる?」
警察陣がワラワラ構い始めた。
それらに面倒がらず一々笑顔で対応してしまうのはさすが我らが江戸川コナンといった所だろうか。
「はい、宝石♪」
「あ、ありがとう」
「「「「・・・・・・」」」」
同じリズムで手渡された物体を同じリズムで笑顔で返事。
思わず誰もが呼吸を止めた。
食い入るようにコナンがうけとった布につつまれた宝石に見入る。
今日狙われている宝石・・・っていうか。
「もう盗んでたんだね」
「ええ、用はすみましたのでこれはお返しいたします。この寒い中お越しいただきすみません」
気がつけば確かに予告時間を過ぎている。
外で張っていた彼らは特に異変がなかったから気がつかなかったが中ではほんの5分ほど前に大騒動が巻き起こっていたのである。
ちなみに毛利小五郎が何故呼び出されたかというと暗号解析のためである。
「今日」であることまでは掴んだが時間まではわからない。
今日の夜。なのは確かだが、この寒さの中何時間も警備させるのは忍びない・・・・というか外担当の刑事達に懇願されたのだ。
「お願いです毛利探偵を呼んでください。いえ、毛利探偵でなくてもいいですけどこの暗号を解ける人を呼んでくださいぃぃぃぃ」
そりゃあそうだ。
夜といえばおおざっはに19時から24時。5時間もこの寒空の下にいたら凍死できる自信があった。
いや、たとえ2時間でも凍りついた頭はまったく使えず目の前に怪盗KIDがいても喜んで中に通してしまうかもしれない。
いいから早くもってって。
そんで家に帰らせて・・・・。
というわけで呼び出された小五郎は珍しくコナンの力を借りず暗号を解いた瞬間に現場を追い出された。
でてけー。
という訳ではなく、「外の見張りをお願いします」
ていのいい窓際族である。
っつーか呼びだしといてその態度かああん?って感じだが暗号を解いた以上みとどけなければ気がすまなかった小五郎。
いや、解読が正解して「中森警部でも解けない暗号が解けてしまうなんてさすが毛利探偵っっ」と誉めそやして欲しいのかもしれない。
こんな小五郎に付き合わされたコナンと蘭は実にいい迷惑だが。
そうして外に陣取って約30分。
中の騒動を知らない彼らは中森警部待ちであった。
そして今・・・・・結果は出たのであった。
「ふははは。この毛利小五郎に解けぬ謎などないわーーー」
といきなり現れたKIDを指差し高笑いを始めた小五郎はもしかするとこの場でコナンの次に冷静だったのかもしれない。
だれもが唖然と警官に化けているKIDを見つめている。
寒いせいか頭の回転が鈍っているのかもしれない。
「まんまと誘い出されたようで少々口惜しいですが、名探偵の笑顔で帳消しにいたしましょう」
「そりゃどうも」
そう、KIDの言うとおりコナンは気がついていた。
怪盗KIDがすでに傍にいて。
この状況にじれていることを。
笑顔を振りまいていれば同じく自分にもその笑顔を向けて欲しくてのこのこ出てくることを。
「・・・(なんて馬鹿正直なやつなんだ)」
「・・・・(今心の中で貶されてるんだろうなぁ・・・)」
それぞれの思いを胸に一応ニッコリ微笑みあい。
「では本日はコレにて。風邪を引かないことをお祈りいたしますよ名探偵」
小声で付け加えられた言葉に同じく小声でささやき返す。
「はっ。俺の病弱さを舐めんなっつーの」←自慢?
「ええ、ですから今夜は暖かくして眠ってくださいね。」
「・・・なんで泥棒にんな事いわれなきゃなんねーんだ」
体を労わられているというのに非常にムカつく。
泥棒ごときに常識的なことを言われるのは気に喰わない。
むしろお前がそういうなら何がなんでも言った通りにはしたくないっっ。
天邪鬼な気分になってしまう。
「心配しているのですよこれでも」
「あーそっか。俺が風邪ひいたらお前のせーだもんな。よしっ引いてやるっ。意地でもひいて寝込んでやる」
「・・・大人気ない」
ふんっ悪かったな。
だからこそ、わざとらしく大きな声で言ってやった。
「だって僕子供だもーん。」
「・・・・・・・・はぁ・・・」
そんなネコ被りすらも可愛いと思ってしまう末期な自分に溜息を禁じえない。
「とにかく暖かくしてっ毛利蘭さん。彼をお願いしますね」
「え!?あ・・はいっ」
いきなりの名指しに慌てて返事をして渡されたコナンを受け取る。
毛布とカイロ、それに暖かいコーンスープで蘭よりヌクヌクしているが・・・。
「それでは今宵はこれにて。宝石の返却よろしくお願いしますね。ではまたっ」
フワリと柔らかな空気を残し白い煙とともに姿を消す。
「・・・・・・・・・(風邪引いたら蘭に迷惑かけるからひかねえっつーの)」
ばーか。
内心呟きながらも。
「っくしゅんっ」
可愛らしいくしゃみが出てしまった。
「大変っ早く帰ろうねコナン君。お父さんっコナン君が風邪引いたらKIDに怒られちゃうから先帰るね」
「は?KIDに?あー解った。俺は中森警部の所にいって宝石返してくるから先寝てていいぞ」
「うん、解った」
ああ、周りの刑事に渡して帰ればいいのにわざわざ自慢の為に残るとは。
あきれつつ蘭と二人手を繋いで岐路へついた。
「あーーっ」
「どうしたの蘭ねぇちゃん?」
「KIDよ」
「え?」
家に入った瞬間の呆然とした言葉にコナンが首を傾げる。
特に盗られたものはないと思うのだが・・・。
「だって出かける前に暖房ちゃんと消していったもん。わ、すごい風呂まで沸かしてあるっ」
ラッキーなどと呟き蘭は暖かい部屋へと入り込む。
傍で呟きを聞いていたコナンは首をかしげた。
「・・・・・ラッキー?」
そうか?それでいいのか?
はげしい疑問を胸にKIDが暖めた部屋でヌクヌクして、KIDの沸かした風呂にはいった。
なんか・・・・これでいいのか?
やっぱり激しく疑問だったが。
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