約束シリーズの番外みたいな感じでちょっとした短編です。
英語間違ってても突っ込みはナシで頼みます。マジで弱いんですっっ。


    時計


その日黒羽快斗は暢気にお買い物をしていた。
ただのお買い物じゃあない。
狙って狙って狙いまくってようやく今日手に入れようと心に決めた欲しい腕時計。
それを買いに行くのだ。

「いやぁ長かった。」

裏家業のお金で買うなんてそんな邪道な事はしません。
正当に、お小遣いのみです。
後はバイト。
あんまり時間なくて出来なかったけど結構楽しめたぜピザ屋の宅配!

って事でうっでどっけいー♪



大きなデパートに入っている大き目の時計屋さん。
そこに飾られている腕時計。
先ほど店に入ってきた青年はその腕時計に真っ直ぐ突き進み、随分と長いこと眺めていた。

「これこれ〜」

にへらーと笑みを崩す。
整った青年の顔が少しだらしなくなるが、それもご愛嬌。
時計を見ての喜びの表現と思えば時計屋冥利に尽きるというもの。

この店に務めてまだ5年。だが時計屋に就職歴は20年という生粋の時計好きの私としては、嬉しい限り。

「お客様よろしければケースからおだししますが?」

「あ、じゃあこれお願いします」


青年がニッコニコと嬉しそうに指差した先にはシルバーを基調としたスポーティーな腕時計。
少々値は張るものの、人気の商品だ。

「こちらで宜しいでしょうか?」
「うん、ありがとー。・・やっぱ良い色だなぁ」

手に取り光の角度を変えて見てみせる。
まるで宝石でも見ているかのようなしぐさだ。

「そちらはペアの商品となっておりますが。」
そう。それが売りであるために、単品で欲しいと頼まれても許可できないのである。
ここまで気に入ってくれていても、ペアでないと買えないというのは本当に申し訳ない。

「あ、知ってますよ。うん、オッケー。じゃこれ1ペア下さいな」

ニコニコと。そう、1本でも充分な値がするそれだが、ペアであれば2倍の額。
この若そうな青年にとっては大変いたい出費だろう。

「彼女さんへのプレゼントで?」
「んーん。相方への貢物♪」
「・・・・はぁ」
嬉しそうに謂うに事欠いて貢物ですかい。
なんと返せばいいのやら。

「えー裏にメッセージを彫刻できますがいかが致します?」
「あ、いいですか?お願いします。えー何にしようかなぁ」

紙と鉛筆を渡し考えること数秒。
サラサラと青年は顔に似あった綺麗な字を書き出した。

「この長さって入る?」
「ええ、問題ありません。・・が。」

『Dear Conan Edogawa seek one's fortune』

どういう意味だ?
英語は得意じゃないんだ私は。40代の親父には解読不可能だぞ。

「フォーチュン?未来・・はフューチャーか・・・幸運?」
「うんそう。そのfortune。seek one's fortune.これはね『運命を切り開け』って俺からのメッセージ♪」
流暢な英語がいまどきの若者の口から流れてくるのに少々驚いた。最近の子供の英会話って凄いんだなぁ。と感心してしまう。
だがしかし、意味を聞いても良くわからないのは私の頭が悪いからか?
わざわざそんな意味不明な言葉を送るのかこの男は。
相手はそれを組みとめる意味不明な頭脳の持ち主ということか?
首をかしげていると

「ね?コナンちゃん。」

今までで一番崩れきった笑顔。いや、これはもう溶けたと言っても過言ではないだろう。
そんな笑みを浮かべ青年は後ろを振り向いた。
後ろには・・・いや、正確には彼の足下にはいつの間にやら一人の小さな子供がいた。

「Mind your own business.」(余計なお世話だっつーの)

その子供からこれまた聞き取れない英語らしき言葉が零れて来たときにはどうしようかと思った。
どうみても日本の子供。
黒髪黒目。まるで兄弟のように似通った顔立ちの青年と子供。

しかし彼は『コナン』と呼んだ。
すなわち先ほどの貢ぎ先の相手・・・・この子供がか?


「まったく。時計買うなら言えって言っておいただろーが」
「だって内緒にして驚かせよーと思ったんだもーん。ね、いいデショこれ」
「ああ、デザインも重さも良いし実用性も兼ねている。お前にしては良い趣味じゃねえか」
「それ褒めてないー。んで?いや?」

「問題ないな。後はきっちり割り勘することと、俺にもそれ書かせろ」

青年から紙と鉛筆を奪いDear Kaito の後にサラリと書かれた英単語。

『Might makes right.』(勝てば官軍)

マイトとライトがなんですと?
ってなもんだが青年には解ったらしい。

「・・・ぶっっあははははっ。いいねそれ。うんいい。世の中勝ったもん勝ちだよねー」
笑いを止めると青年はゆっくり口許を綻ばせ、何度も頷いて、その紙を渡してきた。

「これでお願いします」

「はい承りました。」

出来上がりは2週間ほどかかります。
と告げれば青年はコックリ頷き、小さな子供の手をムリヤリ引いて「楽しみだねー」と振り回していた。



その腕時計はかなり長い間2人の波乱の人生を見守ることになる。


ブログから拾ってきました。