罠番外編
「ふむ。これが例の怪盗の暗号文ですな?」
「ええ。」
「それでご相談というのは?」
「実は・・・」
罠をしかけようとしたのは突発の考えではなかった。
ずっと前からいつか実現しようとコツコツと固めていたアイデアでもあった。
あのにっくき怪盗にはいつも煮え湯を飲まされているから少しでも焦らせたかった。
同じく僕と同様いや・・僕以上に悔しい思いを毎度させられている彼、中森警部にも以前からいつかこういう手を使いませんかと遠回しに聞いていた。
中森警部はよくも悪くもまっすぐな人だ。それは彼の長所でありまた、短所でもある。
罠を張る・・・そのことになにやら後ろめたい気分を感じるらしい。
いい人だなと単純に思う。そういう彼だからこそ青子くんのような素直な娘さんが育つのだろう。悪意なくそう思う。
「だが・・その・・な?そんな手を使って捕まえたらなんか後味悪くないか?」
真剣な顔で聞かれたとき僕は正直どういう顔をしていいか分からなかった。
彼は犯罪者だ。どんな手で捕まえようがどのみち最後は刑務所いりだ。
後味もなにもないのではないのか?
「そうですか?でもこのまま捕まえられなければ中森警部。あなたも困るはずです。」
もっとも痛い部分をついた自覚はある。いつもKID逮捕に命をかける中森警部だが最近その(彼曰く名誉ある)役をおろされそうなのだ。
捕まえなければならない。しかしKIDにずっと捕まらないで欲しい。
それが中森警部の願いなのかもしれない。しかし警察という機関に属する以上犯人検挙は役職の必須項目だ。
ただひたすら犯人を追い続けてればいいわけではない。それでは税金泥棒と呼ばれてもなにも言い返せない。
「それはそうだが。だが私は彼・・KIDとは真っ向から対決して勝ちたい。それではいけませんか?」
警察官らしい正義にあふれた言葉だ。でも中森警部それだけでは世の中渡っていけないんですよ。
「真っ向から立ち向かって今まで一度でも彼に追いついたことがありますか?」
「ぐ・・いや・・一度か二度は惜しいところまで・・」
惜しいところまで行った。確かに。でもいつも寸でのところで逃げられるのだ。
ひらりと。まるで手品のように魔法のように。
「そう。彼は手品を使います。こちらも種も仕掛けも用意した舞台に彼を招待してもいいではありませんか?むしろそれで対等といったところです。」
「確かに・・」
そうかもしれない・・と心が揺れ始めているようだ。よしっもう一押し。
「今回だけです。今回だけ僕に現場を譲っていただけませんか?中森警部は偽の現場で狙われてない宝石を守っていて下さい。」
そんな手でKIDが逮捕できるなんと毛ほども思っていない。
でも試してみたい。自分が考えた方法が彼に通用するのか。
「責任は僕がすべて負います。だから。」
「そこまで言うなら・・。但し責任は半分半分です。
認めた以上私も責任の半分はおいます。それだけはご了承いただきたい。」
潔いまっすぐな瞳。僕は彼のこんな瞳に憧れる。こんなにまっすぐに一つの事に熱中できる彼を羨ましいと思う。そしてそのことに誇りをもっている。
自分のプライドの領分がきちんときめられていて、自分の心に忠実に迷うことなくKIDに向かって突き進む。
自分にはそんな情熱がたりない。必死にKIDを追いかけていてもなぜだろうどこか第三者のような自分がいる。遠くから自分を見つめているような冷静な自分。
心の奥底まで熱くなっていない証拠だろう。
電気を消してまつ。静かな空間。
借りてきた警察官はほんの数人。
一人一人が卓抜した能力の持ち主だ。
宝石はすでに偽物と変えてある。本物は僕が持っている。
後は影に身を潜め、誰もいない空間に見せかけるだけだ。
そうまるで警察が解読を失敗をしたと思わせるように。
「おや?なぜあちらに警官が集合してるのでしょうね?」
含み笑いをしつつフワリと時間通りに現れた怪盗KIDに心が躍る。
ひっかかった。彼は今無防備だ。
「それではこれは頂いていきましょうか。・・・っとおやおや?イミテーション・・
偽物ですか。面白い手を使いましたね。白馬探偵?」
とても楽しそうに笑うKIDに僕はドクッと心臓が鳴るのを聞いた。
ば・・・ばれてる。何故?
「あんなに簡単な文を解けないようでは私の担当失格ですよ。」
偽のダイヤを口元にあてニッと笑う。
中森警部はきちんと暗号を解いた。
それを彼は信じているようだ。彼は警部の事を認めているのか?
自分の好敵手として。
「さてと本物はどこにあるんでしょうね?」
ソファの後ろに息を潜め隠れていた警官の一人がダッとKIDの背後をとる。
よしっうまいぞっ。
もう一人机の下から這い出るとKIDの足をつかんだ。
「っと。やりますねなかなか。」
背後から押さえつけられ足も捕まれどう考えても観念しどころなのだがKIDはなおも不敵に笑う。
作戦か?
「マジシャンは常にポーカーフェイスが要求されます。どんな時でも。
そしてどんな失敗をしてもそれを成功に変えるそれが一流のマジシャンです。」
自由の利く右手でパチンと指をならす。
・・・・・・と、どこからかシャボン玉がふわふわと飛んできた。
一個や二個の騒ぎでわない。10個20個・・・・見る見る部屋がシャボン玉で埋め尽くされる。
べたべたした液に警官がつるつる足をすべらせる。
「うわっ。」
「っっとぉぉ。」
「大丈夫ですか?」
なんとか立っている僕は部屋にいる5人の警官に声をかける。
「なんとか・・」
「あっKIDがっっ」
シャボン玉に気をとられKIDを手放してしまったらしい。
だが彼は逃げるどころかこちらに向かってつっこんでくる。まさか僕が宝石を持っていることにも気づいているのか?
「白馬探偵。実は先ほど小さな探偵さんにお会い致しまして。」
耳元でささやかれ僕はギョッとして数歩下がった。
「小さな探偵?」
とっさに誰か思いつかない。でも小さいといって思いつく人物が一人だけいる。
「まさか・・コナン君?」
彼が探偵かどうかはさておき、今一番気にかかる人物。
小さな体に思いもよらない大きなエネルギーを秘めた少年。
強い瞳。力強い笑み。
どれも彼を際だたせる。
「そうその彼です。可愛らしいですね相変わらず。」
「なっっっ。」
確かにコナンは可愛い。面食いのこの自分がそう思うくらいなのだから世間からみたらかなりの高ランクだろう。
「彼の抱き心地は最高でしたよ。」
今度は小さな声で自分にしか聞こえない大きさでささやいた。
「だっ・・・なっ・・なんだとぉぉぉぉぉぉぉっっっ。」
抱き心地と聞いてどうも思考が切れたらしい。なんてことをしやがったんだこいつっっ。
僕でさえまだ頭をなでる程度で我慢をしているというのに抱きしめただと。
羨ましい。。。
そこまで思った時自分の思考に愕然とする。
なんだ?このムカムカは。
勝ち誇ったようなKIDが許せない。しかもとても楽しそうだ。
「KID・・・紳士にあるまじき行為ですね。」
「なにを怒ってるのかな?白馬探偵?」
「なに・・ってい・・いたいけな子供に無理矢理不埒な真似をしようなんて・・・」
とってつけたような理由を並びたてる僕にKIDは余裕の笑みで対応する。
「無理矢理ではありませんでしたよ。さて、欲しいものは頂いたし。今日はこれで失礼させて頂きますよ。」
いつの間にやら手に二つのダイヤを握っているKID。偽物にそっと口づけるとこれも頂いていきます。と一礼した。
「ま・・まて・・いつの間に。」
最初に耳元に話しかけられた時が一番怪しい。だが今そんな事を言ってもはじまらない。
どちらにしても盗られてしまったものは盗られてしまったのだから。
「あなたが他事を考えられないくらいに熱くなっていた時ですよ。」
他事を考えられないくらい?僕が?
それって・・・コナン君の事を考えていた時か?そうか僕は彼の事を考える時は他の事を考えられないんだ。中森警部の怪盗KID病のように。
これが心から熱くなるということか。熱くなっていた時間は自分でも忘れ去っている。
人に言われて始めて気づく。冷静な自分はどこにもいなかった。
派手にKIDが退場した後僕は携帯をおもむろにとりだした。
「中森警部ですか?ええ。作成は終了です。KIDは去りました。ええ、ダイヤはもって行かれてしまいましたよ。そちらはどうですか?」
今回の作戦は裏の裏の裏をかいたつもりだ。実は本物のダイヤはピンクダイヤのケースにともに入れてあったのだ。
どうやらKIDはそこまでは読めなかったらしい。どうだ?今回は僕の勝ち。
彼はいつ気づくだろか?すぐに戻ってきたら大変だ。
まだあちらにはKIDを待ちかまえている毛利探偵にくっついてきたコナン君がいる。
あの子を保護しに行かねば。
そう思いつつ僕はほほえんでいた。
何に対してだろう?
熱くなれたこと?
KIDに一泡ふかせたこと?
今からコナン君に会えるから?
どれも全てが正解のような気がする。
さて今日はまだまだ長い。もうすぐ22時だ。あと二時間ダイヤを守りきればKIDの予告ははずれたことになる。もう少しだ。
その後24時の約5分前に本物のダイヤが忽然と姿を消した。
どうやら今回の勝負もKIDの勝ちのようだった。
でも僕はコナン君をどさくさにまぎれて抱きしめる事が出来たので十分満足だった。
負けたけど負けてないぞKID。
次は勝つっっ。
ひとこと。
はい・・何もいいません。本当はコナン君ピクニック編を書く予定だったのです。
本格推理物書くつもりだったのです。難しいです(涙)
なんかなかなか更新してないなと思い急遽これ書いてみました。
所要時間やく30分。ふっ。適当だぜ。
つじつまあってるか?これで。
しかもやはりギャグ?
いえ、いいのです。シリアス目指してないから。
でも白馬君って意外に私の中で性格出来上がってたみたいですね。私の白馬君こんな奴。
ええ。ファンは泣いちゃうかも。
しかもコナン君登場してません。だって裏バージョンだから(笑)
2001/6/26
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