高木刑事の長ーい一日
『ごめーん高木君。仕事が急に入っちゃって、行けそうにないの展覧会。』
ガァァンと特大級のショックを受けた高木はよろよろとイスの背に手をついた。
・・とそのイスが重みで倒れる。
「うわっっ。」
ドガァァと大きな音と携帯が吹っ飛ぶ音に電話の相手佐藤刑事は目をつむった。
『なに?なにごとなの高木君。』
「い・・いえすみません。なんでもありません。」
こんなアホな状況を正直に説明出来るはずもなく高木はハハハと笑ってごまかす。
『本当にごめんねー。埋め合わせは必ずするからっ。』
「あ。いいですよ気にしないで下さい。お仕事頑張ってくださいね。」
『ありがとー。』
高木は頑張った。内心の鬱々ムードを押し隠し不平不満を言うこともなく、
明るく応答出来た。
いくら悲しい顔をしていても相手に見えなければオッケーである。
プチっと携帯を切り、
「そんなー佐藤刑事ーーー。」
とガクリと床にヘタリこみ泣き言をぶつぶつつぶやいたとしてもオッケーだろう。
「先週から楽しみにしてたのにぃぃ。目暮警部のいけずーー。」
でもそのチャンスを作ってくれたのも目暮警部であったのだから
プラスマイナスゼロなのではないのだろうか?
先週のことだ。
「怪盗KIDが次にねらうかもしれない宝石?」
「そうだ。」
突然の収集に何事?と眉を寄せた人々に目暮はとてつもなく暗い顔で話しだした。
「そんな物調べてなんになるんですか?」
「しらん。上の者は何考えてるかさっぱり解らん。」
質問する方も返答する方もやってられない・・といった空気である。
調べたからといって何か出来るわけではない。
ただいつも逃げられてるからなんとか対策みたいのを上で考えてみたのかも
しれない。だが結局それを実践するのは現場の自分達なのだ。
くだらないことを考えないで欲しい。
高木だけでなくここにそいる刑事そしてその命令を預かって来た
目暮警部も思っていることだろう。
警察は暇ではないのだ。この忙しい時間を削っていつ行けと?
だがここで目暮はさらにつらい事実をつきつけた。
曰く
「出来れば休日に行って欲しいとのことだ・・・。」
言いづらそうである。そりゃそうだ。
「「「休日ぅぅぅぅぅぅぅ?」」」
皆の声がハモる。はあぁぁ?と言った感じだ。何故休日?
「はいっ質問です。それって休日手当は出るのでしょうか?」
手をあげしつもんした刑事に皆の目が注目する。
そりゃ当然でるだろ?だって命令じゃん?
「・・・・・」
目線をそらす目暮警部。
一瞬あたりがシン・・・・とする。
まさか・・・。
「ちょっとどういうことですか?目暮警部っ」
嫌ぁぁな予感に高木が尋ねた。
「え・・っとな。出ないらしいんだ。・・・手当・・・。すまんっ」
自分が悪い訳ではないのに手を合わせて謝る目暮。
謝られても・・ねぇ・・。
そんなのに誰が行くというのだ。上のものは本当に自分の事しか考えていないらしい。
「すみませんが俺は1抜けです。休日は家族のためにあるので。」
「すみません俺も彼女に振られちゃいますから。」
「俺も俺もーー。」
口々に騒ぐ彼らに目暮警部は困ったように手で制す。
「君たちの気持ちはもっともだ私だって家族がいる。そこでだ。できれば彼女が居る奴
宝石の展覧会なら彼女といけないか?チケットはタダだ。」
確かにそれはグッドアイデアである。
苦肉の策でもあるのだろうが。展覧会の場所はいくつもある。
一人に一つ行ってもらい適当にチェックしてもらえばいいのだ。
どうせ仕事したという証拠があればいいのだから。
「・・・それだったらなんとか。」
「仕方ないですよね。」
しぶしぶ了承を得目暮はホッとした。かく言う自分も妻を連れて行く予定なのだ。
こうして、なんとかチケットもはけ、肩の荷もおりたと思ったのもつかのま。
なんて事だ。大きな仕事が入ってきたのだ。
刑事はほとんど休日返上でお仕事。当然デートどころではない。
そして結果なんとか休みがとれそうな人に無理矢理押しつけると言う事態に陥った
のだった。なんとか土曜に休みをゲット出来た高木は当然白羽の矢にたったのだ。
最初高木も一人で寂しく行く予定だったが同僚であり、そして佐藤刑事ととても仲のよい
由美が手引きをしてくれて、なんとか佐藤刑事を
誘うことに成功したのだ。まさしく棚ぼた。
『高木君ってなーんか世話やきたくなるのよねぇ。』
とはその時の由美の言葉である。高木とはまさしくそんな人だった。
だが、しかし。今それは破れた。
一度期待したぶん高木の心は果てしなく落ち込んでいた。だが宝石は見に行かねば
ならない。お仕事だもん。休日なのにだ。なんかとても損している。
昨日までのウキウキはどこへやら。高木は果てしなく深いため息をついた。
「はーーあ・・。僕って運ないかも・・。」
がっくり地面とお友達するのも飽きたし丁度回想も終わったためゆっくり高木は
立ち上がった。
「仕方ないよね。仕事だし・・。はぁぁあ・・。」
肩も落ち、やる気なさげに出掛ける準備を始めた。
知り合いをさそってもいいが、女性のお友達などそうそういるはずもなく、
しかも男性と二人で行くのもなんだかなあ・・である。だって宝石の展覧会だし・・。
「一人・・・か。寂しいなあ。」
「あっ高木さーーん」
はあ、とため息をつきつつ、トボトボ歩いていた高木は知った声が聞こえやっと
顔をあげた。
「あれ?コナン君。」
少し離れた所から楽しげに駆け寄ってくる少年に首をかしげる。
「こんにちは高木さん。」
「こんにちは。どうしたのこんな所で?」
ここらへんは毛利探偵事務所の近くではない。子供の足でくるにはちょっと離れた
所だ。
「探検してたんだ。歩美ちゃん達は宿題があるからってさっき帰ったんだ。」
それを聞いて高木はなるほどとうなづいた。
コナン達少年探偵団は好奇心旺盛な子供達が集まっている。
ここらへんまで探検に来ていても全然おかしくないだろう。
「そっか探検か。何かおもしろい事でも見つかったかな?」
佐藤刑事も一目おくコナンの着眼点に高木はちょっと興味を覚えた。
「うーん面白いことーー。」
面白い事といわれうーんと首を曲げ考えこむコナンはとても元高校生には
思えないかわいらしさだ。
高木はこんな弟がいたら可愛がっちゃうのになぁと優しい目で見つめていた。
「ああそういえばね、さっき元太がここのおじさんに怒鳴られたんだ」
面白い事なのかそれが?と高木は思い出し笑いをするコナンをみつめる。
「なにかやったのかい?」
「ううん。壁に落書きがあるでしょ?その犯人だって思ったらしいんだ。」
たしかに塀一面に沢山の落書きがある。子供のいたずらだろう。
「なんかね常習犯らしくってね、消しても消しても書いていっちゃうんだって。」
まあこれだけ一面真っ白だと子供ならつい書きたくなってしまうものかも
しれない。しかし何が楽しかったのだ?と高木はコナンの話しにひきこまれていく。
「うん、それで?」
「待ち伏せしてたら元太のやつが落書きをじーっと見つめてたらしいんだ。
それで落書きしにきた犯人だと思ってとっつかまえたって言ってた。」
(そりゃ間違えてもしょうがないかもしれない。)
「あはは。柿泥棒ののりだね。」
「うん。そんな感じ。コラァってほうきもって追いかけられてたから。」
二人で一緒に笑いだす。頑固親父と柿泥棒の図は今はなかなか見られない光景だ。
柿の木がある家も、柿を盗むガキも、それを追いかけるおじいちゃんも
結構いないものだ。
「それで元太が犯人は俺達が探してやるって言い張っちゃってさ。」
クスクスまだ笑っているコナンに高木は優しい目を向ける。
「それじゃあまた明日も来るのかい?」
「うん。明日から本格的に捜査だって張り切ってたから。」
楽しげにコナンも言う。だがコナンは気づいていた。犯人の目星に。
「コナン君はどう思うの犯人について?」
すばり聞かれてコナンは困った顔をする。
言っちゃってもいいものか・・。
「うーん。まだ確証はないんだけど。おじいさんの息子さんが怪しいかな。って
思ってるんだ。」
「息子?もう大きいんだろう?」
「うん。」
おじいさんというくらいだからもう50代か60代くらいだろう。その息子と言えば30代か
40代。何故落書きなんか?と高木は不思議でたまらない。
「だってね。子供じゃないと思うんだ。塀の上の方まで落書きがあったから。」
背が届かない。とコナンは言う。
高木は塀をみやると「ああ本当だ」と納得した。塀は結構高く、大人の頭くらいまで
あった。背伸びしてもあそこまでは届かないだろう。
やっぱりコナン君は凄いなあ。
佐藤刑事の関心を得るだけあると目の前の子供を尊敬のまなざしで見る素直な
高木。
「あとは落書きの内容を聞いたり見て、そうかなってね。」
なんでも無いことのように言うがそれは大人顔負けの推理力を見せていた。
「凄いねコナン君。やっぱり毛利さんの影響をうけるのかなあ。」
ただの小学一年生が持つ考え方ではない。可愛くてかっこいい少年。
まだ守ってあげるべき子供なのだが、反対に助けられた事も数度ある。
将来が楽しみな少年だ。
でもまだ今は自分が守ってあげられるほど小さな身体。成長が楽しみなような
寂しいような。
「コナン君これから暇なら一緒に宝石の展覧会見ないかい?」
「え?」
まるでナンパのようだと思いつつも高木はコナンの頭をなでつつ誘う。
「それとも予定あるかな?」
「ううん。無いけど・・・。高木さん一人で行くつもりだったの?」
その質問に高木は苦笑する。やっぱり鋭い子だなあ。
「ちょっとね。一緒に行く筈だった人が仕事入っちゃったんだ。」
「佐藤刑事?」
言い当てられドキっっとする高木。胸を押さえアハハと笑う。
なんで解ったんだーー。
「いいよ。一人じゃ寂しいもんね。一緒にいこっ」
ニコリとほほえむコナンにそれ以上追求されずにすんだ高木はホッと胸をなでおろす。
解りやすい人だなあと考えていたコナンはそんな考えをおくびも出さず高木の袖を
つかんで歩きだす。
「えっえ?コナン君どこで展覧会あるのか知ってるのかい?」
「うん。だってこの間新聞のチラシに入ってたよ。」
とっても大きな宝石があるんだよね。と当然のように言われ全然知らなかった高木はちょっと
打ちのめされる。子供が知ってる事を知らなかったのか僕は・・。
「うっわあ・・沢山いるねー。」
「本当だ。思ったより混んでるなあ。」
道を歩きがてら今回のいきさつをコナンに話していた高木はチケットもただ
だから気にしないでいーよーとコナンの手を引き中へとつれていく。
思ったより盛況らしく、カップルや、女の子の二人連れなどがわらわらといた。
「意外に若い子に人気なんだなあ。」
美術館見たいな気分で来た高木は意外な年齢層にビックリした。
てっきりお金持ちのおばちゃんとかが沢山いるんだろうなーと適当に想像していた
らしい。
「そうだね。入場料っていってもそんなに高くないし、それに今怪盗KIDで
宝石って注目を浴びてるみたいだからね。」
次に彼が盗むのはどれだ・・みたいな噂とか、彼が盗んだ宝石を見たっとか自慢げに
話すやからが増えているらしい。
確かに若い女の子達にとって怪盗KIDはスーパースターのような存在だろう。
彼が手にいれた宝石を見たことがあれば十分自慢できる。
「へえ・・。そうかKID人気のおかげかぁ・・。」
子供に諭されたという自覚がないのかあっさりうなづく高木。
「うん。悔しいけど、今一番話題の人物だからね。でも高木さんも大変だよね。
仕事で休日なのにこんな所に来なきゃいけないなんて。」
それもこれもKIDのせいだ。そりゃもちろんなかなか捕まえられない警察のせいでも
あるがそれは棚上げしておく。
「まあね。この場合KIDのせいと言うより、バカな上司のせいっていうか・・。」
ふう・・といつもなら口にはしない愚痴をこぼす。
「・・っとごめんねつい・・。」
それに気づきすぐ謝るところが彼の良いところだろう。
「気にしないよ。いいよ愚痴くらい聞くから。刑事さんって大変そうだもんね。」
「ごめんねー。そうなんだよー。現場の僕達が特にねー。上の方なんて
たんに命令するだけでさーー。本当に今回なんてねー・・」
言い出すと止まらないらしい愚痴に高校時代現場でよく聞いていた刑事の愚痴を
思い出しおもしろ気に聞くコナン。
高校生探偵を生意気という刑事も多々いたが、普通に接してくれる人もいた。
そんな人達と会話をすると上司に対する愚痴などがよく口にあがったりするものだ。
同じ刑事には言えないが・・・見たいな感じでついこぼしてしまうらしい。
「コナン君ってなんかつい話しちゃうんだよね。」
照れくさそうに言う高木にそれは昔からよく言われるなあとコナンは思う。
『なんかお前って愚痴こぼしやすいんだよなぁ。』
結構クールで美人な工藤新一は近寄りがたい雰囲気を持っている。
だがいっぺんうち解けると話しやすい印象をあたえるらしい。
「そうかな?でも僕が出来るのはうなづく事だけだから、力にはなれないけどね。」
これは新一の時いつも言ってた言葉。昔は謙遜として受け止められたが今は本当に
聞くしか能力のない子供だ。
「うーん。でも愚痴ってさ。ただ聞いてもらうのがいいんだよね。ほら
同期とかに言うとさ、反論とか返ってきたりしてなんか消化不良みたいな
気分になったりするんだよね。」
けんかしちゃったりとかね。と高木が言うのにコナンはなるほどと思う。
『聞いてくれるだけでいいから』とよく愚痴をこぼされたのはそう言う意味か。
と納得できた気がするコナン。
「そっかあ。大人って大変だね。」
子供のうちはそんな考えはない。文句言いたいときは本人の前でさえ言ってしまう。
まあ、高学年くらいになると相手の気持ちとか考えられるようになってくるのかも
しれないが。
「たまった愚痴を吐くのは良いことだと思うよ。
でも愚痴ばっかり言う大人にはなっちゃだめだよ。」
弱気な高木も愚痴るのはめったにない。愚痴というより弱音はしょっちゅう吐くが。
「文句ばっかり言っててもしょうがないしね。」
ニコといつもの少し頼りない笑顔をみせられコナンは嬉しくなった。
高木はいい人だと思う。頼りないように見えるけど、ちゃんと考えてる人だと
思う。人の気持ちも考えられるし、自分を甘やかさない術も知っている。
「あっ見てみてっっ。これすっごくきれー。」
こんなにいい人なのになんで運がこんなに悪いんだろうねこの人。
とか思いつつ、子供らしくはしゃぐコナン。
「どれどれ?あ本当だ。さっきのよりずっとシンプルで綺麗だね。」
先ほど二人が見た宝石はここの目玉らしく大きなダイヤにゴテゴテと周りに
宝石が散りばめられていた。もちろん綺麗なのだが、ちょっと飾りすぎな
気がした二人。
「おや。ぼうずなかなか目がいいな。」
「え?」
「これはあれよりいい宝石だよ。」
近くにいた警備員が近寄ってきてそっと二人に教えてくれた。
「そうなの?でもあっちの方がチラシにおっきく載ってたよ?」
「あーまあな。ほら周りにごってごてにコーティングしてあっただろ?
あれのおかげで豪華に見えるみたいだな。」
「へぇ」
豪華っていうよりくどい感じがした二人は皆の気持ちが分からないらしく
適当に相づちをうつ。
「その点これはなー。ほんっとうにこの石一つで十分な光を放ってるだろ?」
「うんっ」
「本当に。」
今度は二人で同意する。光の反射具合がいいのか、宝石自体が光を発光しているかの
ような輝きだ。瞬間的に目を奪われるくらいに。
「高木さんっ。報告書これだよこれっ。ここの展覧会ならこれしかないって」
興奮したような頬を紅潮させ宝石を指さすコナン。そんなコナンを見て愛おしい気分が
わき上がる高木。
「そうだね。僕もそう思うよ。」
コナンを見ていると優しい気分になってくる。世界中すべての人に優しくしたくなる気分に。
とろけそうな高木の笑みを見てコナンはちょっと顔をそむけると
(うわー。この笑顔は反則だと思うぞ・・。)
と真っ赤になった顔をおさえた。
なんて言うかかわいい・・。守ってあげたくなる笑顔っていうか・・。年上に言う言葉じゃ
ないがそんな言葉がコナンの頭の中をグルグルとまわる。
隣にいた警備員も少し顔を赤らめている所をみるとコナンと同感なのだろう。
高木のそんな顔を見せるのがなんかもったいなくなったコナンは警備員に
「ありがとう」と
礼を言うと早々にその場を離れた。急に手を引かれた高木は不思議そうにコナンを見る。
「どうしたの?そんなに急いで。」
「えーっと。ほらこっちの宝石も綺麗だから」
アハハとごまかし笑いをしつつ手近な宝石ケースをのぞき込んだ。
(何やってんだか俺・・。)
「あーっ楽しかった。結構宝石見るのも楽しいものだね。」
んっと背伸びをしつつ会場を出た高木はコナンに話しかけた。
コナンは見上げると満面の笑みでうんとうなづく。
「高木さん誘ってくれてありがとう。とっても楽しかったよ」
それはよかったと高木は思う。多分一人で来ていたらつまらなかっただろうな。
とも思う。話し相手がいたからよかったのか、コナンが相手だったからよかったのか。
少なくとも佐藤が相手では高木はまともに会話すら出来なかったかもしれない。
「僕もコナン君と見れて楽しかったよ。ありがとね。よかったらお礼に夜ご飯おごるよ?」
時刻はもう6時半。もうすぐ夕食の時間だ。
今から帰ったら7時は確実にすぎるだろう。
「えっと・・いいの?」
遠慮ぎみに聞くところがまた可愛らしい。今時の子供だとラッキイとばかりに喜ぶだろう。
「いいよ。誘ったのは僕なんだから。何か食べたいものある?」
「うーん。」
会場の前に立ち止まり、考え込むコナン。
そこへ、
「高木君っ」
「え?さ・・・佐藤刑事っ」
あまりに慌てた高木は意味不明に手をアワアワとさせる。何故ここにぃぃ・・。
「ど・・・どうかしたんですか?」
走ってきたらしく肩で息をする佐藤に高木は慌てて尋ねる。まさか事件で人手が足りない
とか・・。だがそう言うときは普通携帯に掛けるだろう。驚きのあまりそこまで考えが
及ばないらしい高木。
「どうもこうも・・。宝石もう見終わっちゃったみたいね。」
「あっはい。すみません。」
佐藤は何故か謝る高木の背をバンバンと叩くと、
「あー違うわよっ。謝るのは私の方なんだから。仕事早く切り上がったから急いで来てみたけど
やっぱり間に合わなかったみたいね。あーあ。走ってきたのに残念。
お詫びにおごるわよっ何がいい?」
と尋ねる。コナンはそんな二人をジッと見つめると少し考え、うん。とうなづく。
「高木さん。僕帰るね。」
「え?コナン君?」
おじゃまみたいだし。と言外に述べるコナンに高木は気づいているのかいないのか。
「ご飯二人で食べてきなよ。」
高木をかがませコソッと耳打ちする。
「え?・・・二人でってコナン君っ」
これはチャンスである。二人っきりのディナー(大抵飲み屋だが)。なかなかないだろう。
だが・・・・・・。
帰ろうときびすを返すコナンとキョトンとしている佐藤を交互に見比べて高木は一生懸命
考える。
「さ・・・佐藤刑事っ。夜ご飯コナン君も一緒でいいですか?」
握り拳をギュッとにぎりつつ力説する高木に驚いて振り返るコナン。
「え?」
「もちろんよ。こんな時間に一人で帰すなんて危ないじゃないっ。」
佐藤はさも当然とばかりにうなづく。
「あ・・あの。僕なら大丈夫だから・・。」
じゃ行きましょとコナンの手を引く佐藤に消極的にコナンは言ってみる。
「いーのいーの。この太っ腹なお姉さんが奢ってあげちゃうわよっ。何がいい?」
コナンの反対の手を取り高木が慌ててもう片方の手を振る。
「あっそんな佐藤刑事。全部僕が払いますからっ。」
「い・い・のっ。奢らせてっ。」
楽しげに人差し指をチッチッと降られ高木はうなだれる。
男の威厳が〜とか思っているのだろう。
「高木さん。奢られるのも時には優しさだと思うよ。」
小学生にまたもや諭される高木。隣で佐藤はプッと吹き出す。
「コナンく〜ん。君は一体いくつなんだぁぁ。」
まるで小学生らしくない言葉に高木はつい言ってしまう。
だがそれはまさしく正論。見た目は子供だけど中身は高校生なのだから。
コナンは笑ってごまかす。慣れたものだ。
右に佐藤刑事、左に高木刑事。なんか贅沢だなあ・・とコナンは思う。
明日は日曜。俺は朝から元太につきあって探偵ごっこだ。
小さくなってから毎日がつまらかったりする事も多々ある。でも
こんなささやかな楽しみを見いだす事が出来たりもするんだな・・。
今この瞬間にしか出来ない事をしておきたい。せっかくの体験なのだから。
この身体を嘆くのではなく活用したい。
二人の刑事に手をつないでもらうなんて機会この先もうないだろうから。
だから今は楽しみたい。
この貴重なひとときを。
なんでだろうね。佐藤刑事と二人っきり・・。と思ったのにコナン君が背を向けた
瞬間とても寂しくなった。今、彼を帰したら後で後悔すると思った。
コナン君の背中が寂しそうな気がしたのもある。でもそれよりももっと
自分が彼ともっと一緒にいたいと思ったのも事実。
佐藤刑事とコナン君。今はどちらが自分の中で大きい存在になっているのだろう?
僕は鈍いから解るまでまだまだかかりそうだけど。
それまで3人のこんな関係もいいかもしれない。
3人でいると楽しいから。
また一緒に遊びに行こうね。
end