石になれ
石になれ
痛みを感じる体なんかいらない。
苦しさを感じる心なんかいらない。
何も感じないように石になれ
幸せの在処(ありか)
「・・く・・・はぁ・・・」
んああああ・・・
ひときわ大きな嬌声をあげ果てる。
次いで体の中で相手もはてた。
はあはあと荒い息を繰り返す。
汗で体が気持ち悪い。
終わった後はいつもそうだ。体の奥が鈍い痛みを感じ、体中には倦怠感を感じる。
気持ちいいのはほんの少しの時間だけ。後に残るこれだけは未だになれないと快斗はベッドに顔をうずめながら思った。
「は・・あ」
シワになったシーツに体を沈めこむ。
となりで今まで自分を組み敷いていた男がスーツを着込むのが見えた。
(うーん。やるだけやったらさっさと帰る。客の鏡だねぇ)
皮肉下に思う。
快斗としてももちろんダラダラいられたら非常に迷惑だからありがたい。
だがこの男は家に優しい奥さんが待っているのだ(たぶん)。もしかすると可愛い子供も。そんな受け入れてくれる場所があるにも関わらずこんな事をする気がしれない。
いくら上からの接待とはいえ・・
「じゃあ私はこれで。組織のほうには今後ともよろしくと伝えておいてくれたまえ。」
たぶん40代だと思われるおやじ。
まあ年の割にスマートで、結構ナイスガイなのがラッキーと言うべきか(全然救いになんねーけど)。
だが下の方は表面の爽やかさに対してくどくてしつこかった。
出来ればもうごめんだ。
「了解でーす」
マクラに顔をうずめたまま手のひらをヒラヒラと降る。どうせ俺は単なる伝言人さぁ。
消えゆく男に今日のお仕事が終わった事にホッと快斗は一息ついた。
快斗が所属する組織はスネークという闇の集団である。
裏の世界で黒の組織と呼ばれる最大の組織と唯一対等に戦える大きさの組織である。
そして、以前快斗の父黒羽盗一が敵に回した組織でもある。
今、快斗の状況は極めて不幸のどん底だ。
父を殺した組織でこうして働くことになっているのだから。
8年前、父を殺された。
その日のうちに怪盗KIDの息子と妻は組織に捕まった。
スネークはたぶん快斗が父同様の能力を身につけていると思っていたのだろう。
だが反して一般的な能力しか持たなかった。いや・・もしかするとそれより劣る能力値であったかもしれない。
一同期待していただけに快斗に対する当たりは厳しい。
野放しにしてもいいが、いっそ殺してしまってもいい。
だが、この少年の父には何度も煮え湯を飲まされたのだ、いっそ息子でうさをはらさせてもらおうか・・・と言った具合だろうか。
もしかするとこれが父への復讐なのかもしれない。
結局快斗は母を人質にされ、組織のいうとおり、スネークが御世話になっている機関のお偉いさんの相手をする仕事を授かったのだった(見目が良かったのが災いしたのかもしれない)
とは言っても子供のうちはタダの小間使いでそんな仕事を初めて請け負ったのは去年の事。
この仕事をやらされてからもうすぐ1年たとうとしている。
殺されなかっただけマシなんてたやすい言葉、誰が言えるだろうか?
「母さんの見舞いいこうかな・・」
マクラに顔を埋めポツリと呟く。
そんな生活もずっと続けていれは嫌でも慣れるってなもんだ。
涙もかれ果てて出てくる気配は見せない。
投げやりになるには母という最後の存在が大きすぎて快斗は自我を保ったままこんな生活を享受するはめに陥っていた。
母への見舞いは許されている。もちろん快斗を組織から逃げ出させない手の内の一つだと言うことは解っている。
そして、当然の事ながら面会には組織の監視役が一人つく。
大人相手に一般能力しか持たない子供の快斗が母を連れて逃げ出すなんて器用な真似を出来る筈もなく、いつもただ当たり障りの無い会話を交わし、作ったとは思えない陽気な笑顔を見せる。
それがどれだけ苦痛だとしても母の笑顔を見るためならば苦とは思わない。
父に教わったポーカーフェイスがこんな所で役立つなんてな・・と何度苦笑を漏らしたことか。
病室の前でパンっと頬を一打ちして一気にテンションをあげる。
そしてエイっとばかりに元気よく扉を開いた。
「こーんにーちーわぁぁぁ母さん元気い?」
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