幸せの在処(ありか) 

コナン 


「でね。どうしてもコナンの力が必要なんだ」

「えー?でも元太達と約束しちゃったよー」

「頼むっコナンっ。手を貸してくれっ」

「うーん・・・解った。後で元太達に謝っておく」

この世界では電話がある家はそうとう裕福な家庭か企業のみとされていた。

工藤家はこの街でも指折りに入るほど裕福で、コナンの友人達の家は当然電話を持っていない。
連絡は直に会うしか方法はなかった。

電話から戻って早々新一のお願い攻撃が始まりコナンは首を傾げた。

新一の話では、有希子の電話の後もう一つ警察から依頼の電話が入ったらしく、今日新一が手がける筈だった事件に是非コナンを連れてきて欲しいというものだった。

まだ6歳という若さでありながらコナンはすでに新一の助手として立派に探偵活動をしていた。
それは当然の事ながら世間様には秘密である。

新一としては自慢したいがあの人に居場所がばれるので出来ない。

もちろん警察としてもこんな小さな子供に手助けしてもらっているなんて外聞の悪いことを口外出来るはずもなく未だ小さな探偵の噂は広まっていない。

新一が手がける事件は殺人事件を主にしているが、中でも迷宮入りと言われる難事件ばかりを相手に闘っている。

コナンはそんな新一が時間の都合で請け負えなかった事件を藁にでもすがる警察の要請で解決してきた。

まだ数ヶ月しかここにいないというのに名指しでお願いされるほどに警察関係者には有名になったのだ。新一と違って解決した時手柄がすべて警察のものとなるのがありがたいのかもしれない。

例え解決出来なかったとしても新一が尻拭いとばかりに出刃ってくれるから安心して頼める。

・・ってそれでいいのか警察よ。


そんなコナンの知名度を利用して新一は今日の遊びの約束をなんとか取りやめさせ、更には今日一日自分と一緒にいる約束をこぎつけた。

ナイスアイデアである。

「ごめんなコナン。お詫びにデザートのフワフワクレープを譲ろう」

「えっ♪いいの?」

「もちろんだ。お詫びの印だから受け取ってくれると嬉しいな」

「うわーい」

子供らしく喜ぶ姿に新一はよりいっそう愛しさを深め、あの人への憎悪を高めた。






かいと 



アホだ・・マジで阿呆だ・・・

俺は八年間何やってたんだ?

さあいざ出陣と窓から飛び出しかけてハタと気付いた。

情報がまるきり無いことに。

普通八年もいれば抜け道やら隠し通路くらい発見しとくもんだろ?←いや無理なのでは・・
それをなんだ。

よもや病院の見取り図すら頭に入ってないってどーゆーこっちゃ?

母の病室への通り道は確かに見張りの男に目隠しさせられて連れて行かれていた。

だが8年も通い続ければいやでも体が覚えるものではないだろうか?

なのに全く覚えてやがらねー。

役立たねーぞー俺ぇぇ

白い衣装が汚れるのも構わず快斗はうぉぉぉぉとしゃがみ込んで床に泣きついた。

こうなったらまだこの組織でジッと情報収集するしかないじゃないか。

このクリアな頭であんな親父共の相手しろってか?

憤死するぞ。

頼みの綱はあーゆー仕事以外の馬鹿げた仕事が入って来ることを祈るばかりって事だ。

頼むーーいっそ迷子の子猫ちゃん探しでも昨日無くした消しゴム探しでもなんでもいいからくだんない用事を俺に言いつけてくれぇぇぇ

消しゴムを見つけきれずさんざんののしられた虚しい過去の記憶を思い出しつつ快斗は心の中で叫んだ。



「は?俺に依頼?名指しで?」

「そうだ。君にしか出来ない」

「へー珍しいねー。ってか俺何にも出来ないオチこぼれって言われてんじゃん?いいの?」

「役立つのはその顔だ」

お前の能力に期待はしていない。はっきりきっぱり顔に書いてあった。

「・・・・そうですか」

じゃあ問題ないっすねー

快斗が本当の自分に目覚めてから2日

運良く仕事は回ってこなかった。

そして今日、とうとう呼び出された。

正直な話バクバク心臓が鳴った。

やばいっっやばいよっっ俺ぜってーー嫌だっっ。

だが嫌々連れて行かれたその先は接待用の部屋ではなく、上司の事務室だった。

あれ?ってー事は別の仕事回してくれんのか?

そんな快斗の期待に添ったのか呼び出しの理由は珍しい事に仕事の依頼だった。

スネークという組織は主に暗殺を請け負っている。

もちろん情報収集やら、人様のパソコンに入り込んでウイルスばらまいちゃったり、薬売ったり・・なんて言うサイドビジネスもこなしている。

だがメインはやはり人殺しだ。

おちこぼれ快斗には絶対まわって来ないたぐいの仕事だった。

だからこそ未だ綺麗な手でいられるのだ。

これはこれでピンチかもしれない。例え体が汚れていても父が誓った「人を殺めない」というそれだけは守って見せたかった。

この手だけは綺麗でいたかった。

せめて・・せめて。

小さく唇をかみしめると何でもない風を装い上司に偉そうに尋ねた。

「んで?どんな仕事よ?」

「それは―――――」