幸せの在処(ありか)7
ハクバ
ビックリした。
なんでこんな生き物がいるんだろうと心から驚いた。
この世の無垢をかき集めて服を着せたらきっと彼になるのだろうとそう思った。
そう。最初はただの好奇心。
何故こんな場所に子供が?
遠くから見て不思議に思った。
一人の刑事と親しげに言葉を交わし合うその大きな眼鏡を掛けた子供は一生懸命小さな体で上を見上げていた。
その仕草が遠目にもとても愛らしく、また好感を抱いた。
すぐに手近な刑事をひっつかまえて問うて見ると、即座に彼の正体は分かった。
あの有名な探偵工藤新一の弟だという。
だがそれだけの理由でこんな場所にいても良いのだろうか?
そう尋ねた言葉には残念ながら誰一人返事を返してくれなかった。
では本人に尋ねますか。
そして近づいた
声が聞こえた。
予想以上に愛らしい声が。
高いけど少し大人びた子供の声。
そして次に見えた物に白馬は兎に角息をのんだ。
ずっと背を向けていた少年がこちらを振り返ったのだ。
「高木刑事・・でしたよね?」
以前捜査に協力したこともあり一応顔見知りだがそれでも自信を持って名前を言える程ではなく、おそるおそると尋ねてみた。
すると
「はいそうですが?」
不思議そうに顔を向けられた。
以前合った時は尊敬するシャーロックホームズの格好でビシリと決めていたが今日は普通のスーツ姿だ。
そのせいで解らなかったのかもしれない。
「白馬です。以前御世話になった。」
「ああ。白馬警視総監の。こんばんわ。今日いらしてたんですね」
人好きする顔で微笑まれ白馬もつられたように予想以上に優しい笑みを浮かべた。
「ええ。KIDが出ると聞いていてもたってもいられなくなりまして、どうです首尾は?」
「中森警部が頑張ってますよ。あっそうだこの子は工藤コナン君です。あそこに立っている工藤新一君の弟ですよ」
「ええ。伺いました。とても似通った顔立ちですよね」
「でしょう。顔だけでなくってコナン君は新一君に似てとっても頭もいいんですよ」
ニコニコとまるで自分の事のように自慢する高木に白馬は苦笑した。
善良な刑事というか、まるで自分の最愛の弟でも紹介しているかのようだ。
「そうなんですか。こんにちはコナン君。僕は白馬探です。君のお兄さんと同じ探偵なんですよ」
「え?」
腰をかがめ目線を会わせる白馬。
まさか新一と同じほどの若さで探偵業をやっている者が他にいるとは思わず、コナンは白馬の目を大きな瞳で見つめた。
「凄いねーお兄さんも探偵なんだ。お兄さんもKID捕まえに来たの?」
「ええ。8年前突然姿を消してしまったあの伝説の怪盗を・・・一目でも見たいといったファン心理かもしれませんけどね」
ふふ。と忍び笑いをすると隣りの高木がうんうんと力強く同意を示した。
「僕も本当なら今回2課が主だから来なくても良かったんだけど目暮警部に誘われてついつい着いてきちゃったんだよね」
「目暮警部もみえるんですか?それは一言挨拶しなければいけませんね。」
律儀な白馬がそう述べると高木はキョロりと辺りを見回してから指を指した。
「向こうに待機してますよ。予告状が1課あてに届いたもので、一応うちの課の者もいた方がいいだろうと申し出たらしいんですよ。でもきっと本心はただのミーハーですよっっ」
「警察宛じゃなくって1課に届いたの?」
「うん。なんでだろうね?だから今回の件1課もかなり詳しいんだよ」
コナンの問いに答えつつ高木もちょっと不思議そうな顔をみせた。
実際今回は謎だらけだ。
突然8年の沈黙を破って現れた怪盗KID。
予告状は堂々と警察。しかもお門違いの捜査1課へ。
楽しみにしている中森警部には悪いが偽物なんじゃ・・と高木は秘かに思っていた。
そのまま現れなかったらどうなるんだろう?
偽物だった・・で終わればいいけど暗号解読が間違えていたんだと工藤君が責められでもしたら・・・。
ありうるっっ。あの人なら言い出しかねないっっっ。
そうなったら目暮警部と二人で頑張って守り抜こうっっと悲壮な思いを心に決めつむじの見える小さな少年を見下ろした。
もちろん君も守ってみせるからねコナン君っっっっっ。
「へーそれじゃあ皆来たがっただろうねー」
そんな高木の決意をつゆ知らずコナンは暢気に暢気な感想を述べていた。
「そうでしょうね。僕も中に入れて貰うのにちょっっと卑怯ですが、多大なコネを使わせてもらいましたから。」
「だよねー。その泥棒さんの事しらない僕でもワクワクするもん」
白馬と意気投合するとコナンは言葉通りキラキラと輝く瞳を見せた。
「僕も今から胸が高鳴ってますよ。楽しみですね」
「うんっ」
不謹慎ながらその言葉はここを警備するどの刑事もが胸に秘めていただろう。
それ程にあの怪盗は光輝き、人々に夢を見させてくれるのだから。
キッドだーーーーーーーーーー
キッドが現れたぞおおおおおおおおおおおお
遠くから叫びが聞こえた。
一目見たくとも、持ち場を離れる訳にいかずじれったそうな刑事さん達を横目に、身軽なコナン白馬高木はその声の方へと一斉に駆けだした。
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