タケルが格好いい事を最近改めて知った。元々何でも出来る奴だったけど。
それでもシミジミと自分との格の違いを見せつけられたような気がする。
俺もあんな風になりたい。そう思った。
例え弱くても。負けない勇気を持ちたい。
それがきっと本当の勇気だと思うから。



本当の勇気



その時クラスは黒板消し落としにはまりこんでいた。
いたずら大好きの大輔も同じ事。
当然ながら騒ぎの中心部分にいた。

教室のドアに黒板消しを仕掛け、誰かが引っかかるのをみて大笑いする。
最近では誰もが一度ドアを開いてから教室に入るようにしているくらいに毎日のイベントだった。
それでもたまに体育の授業から帰ってきた時とか忘れてうっかり黒板消しを頭に見舞ってしまう事もある。
それが楽しくて大輔達は日々戦略にいそしんでいた。
もちろん例外なく先生も被害にあってたりする。

そんな彼らを遠くで見つめるグループの一人のタケルは最初は大輔の笑顔が可愛くてつい微笑まし気に笑っていたが最近ではちょっと眉をひそめるようになっていた。
「ねぇ大輔君。黒板消しを落とされた人の気持ち・・・考えないとダメだよ?」
「いいんだよ向こうだって楽しんでんだからっ」
「・・・・」

タケルは口ごもる。
大輔は純粋にそう思っているのだろう。それが解るからタケルは困ってしまうのだ。
もしこれが悪意あるイタズラならばもっときつく注意する。
でも本当に楽しそうな笑顔をみせるから、もう少しくらいいいかな・・と思って見逃してしまう。

「でもね・・・笑ってても・・傷ついてると思うんだよ・・・」
背を向けて行ってしまった大輔の背中にそっと呟いてみる。
きっと聞く耳を持たないだろう。
言っても解らないかもしれない。
今は絶頂期で一番楽しんでいる時だから他のことが目に入らない。
もう少し・・もう少し冷めてきたらきっと解る筈。

チョークまみれになった子達が本当に心から笑ってるなんて事あるわけが無いことを。


黒板消し落としに夢中の子供達を困った顔で見守る日が続いたタケル。
最近ではそれを気にして大輔もあまりその遊びに参加をしなくなってきた。
なんとなく気がとがめるのだ。タケルの視線を感じると。
その日も大輔は誰かが仕掛けた黒板消しで誰かが被害に遭ったのを見て笑っているクラスメートを少し離れた所で眺めていた。
被害にあったのは大人しいグループに属する少年だった。
そいつは一緒になって笑ってた。
でも・・・・
席に着いたとき凄くなんか・・凄く泣き出しそうな顔をした。
(・・・・・落とされた方の気持ち・・・・・)
ふ、と数日前に言われたタケルの言葉を思い出した。
本当は楽しくなんか無いのか?
もしかして苛めと一緒なのかこれって?
大輔は口元を押さえ真剣な顔で考え込んだ。


昼休みの事だった。
「高石。ちょっといいか」
「・・うん」
大輔の属するお銚子者グループでもなく、タケルの属する大人グループでもない、はぐれ、はたまた少し不良の入ったそのグループの少年が5人ばかしでタケルを連れていくのを大輔は見た。
(なんだ?)
あんまりいい雰囲気ではない。
むしろ悪すぎる。
余計な御世話かもしれないと思いつつ大輔は後をつけた。

場所は校舎裏。間違いなくやばそうだった。
大輔が追いついた時にはすでにタケルは殴られた後のようだった。
「やられた子の気持ちを考えろ・・だ?」
「そんなん俺らには関係ないね」
クスクス笑いながらタケルを掴みあげる。
「お前さ。あんまり偽善っぽいことばっか言ってるの目障りなんだよ」
「本宮にもなんか言ったんだろ?あいつ最近のり悪いんだよな。」
「大輔君は君達なんかとは全然違うからね」
タケルは毅然と掴みあげられたまま言った。
「そーそー単純バカだからお前なんかに言いくるめられちまうんだよな。」
ケラケラ笑うそいつをタケルはキッと睨み付けた。
「悪いことを悪いと知っていながらやっている人間はサイテーだよ」

この状況でなんでこれだけ反抗的な態度をとれるのだろうか。影から見ていた大輔はハラハラしてしまう。苦しそうにお腹を押さえているし、頬は張れている、どう考えても不利な立場なのに。
それなのにタケルの瞳は輝きを失わない。
自分の意志をまげない光。

「・・・・」
図星をさされたからか、単に生意気と感じたのか少年達はタケルをさらに殴った。
「くっっ」
地面に転がって蹴られてもそれでもタケルは決して卑屈な言葉は口にしなかった。
「謝れば許してやるぜ?」
「僕は・・なに・・も・・・・謝るような事は・・いってないっっ」

大輔は飛び出せなかった。
怖かったのだ。ただひたすらに。
5人も相手にして勝つ自信はサラサラないし、自分があんな暴行をうける勇気はもっとない。
早く助けにいかなきゃ・・そう思っても震える足は動かない。
声も息が出来ないくらいに苦しくて出ない。
(どうしよう・・どうしよう・・・どうしようっっっっっ)
タケルが死んじまうよっっっ

焦る心でそればかり考えているとどこからか声が聞こえた。

「せんせーーーーーーーーいっっっここですっっここでリンチがっっっ」
遠くから聞こえるその声に少年達は慌ててきびすを返した。
地面でうずくまるタケルを残して。
それだけ見て取ると大輔はホッと息をついて座りこんだ。
(誰か知らないけど助かった・・・・・・)
未だに手が震えている。
見てるだけで怖かった。
そんな自分が情けなくて・・・助けるどころか援護の一つできなかった自分があまりに・・・・・・・・・凄く凄く情けない・・・・・・・・・。

「大丈夫?大輔君?」
上から見下ろされた。涙のにじんだ瞳でみあげる。
「ひかり・・ちゃん?」
「ええ。」
「じゃあさっきのは・・」
「私よ。とっさに、ね。だから先生は来てないわよ」
安心してね。
ニッコリ笑うと光は大輔の腕をとって引き上げた。
「あ、サンキュ」
「どういたしまして。それよりタケル君のほうが問題ね」
「そうだっタケルの奴無事か?」
「さあ?まだ見てないし」
どことなく冷めた口調の光に構わず大輔は慌ててタケルに駆け寄った。

「タケルっっっ」
返事のない相手にもしや本当に死んでしまったのではっっと焦った大輔はブンブンタケルの肩を揺すった。
「い・・痛っっ」
呻くような声がタケルからもれようやく大輔は手を止めた。
「タケル?」
「あれ?大輔君?」
口の中を切ったのだろうしゃべりにくそうに唇を動かす。
そんなタケルを見て大輔は泣き出しそうになった。

「やだなーかっこ悪い所みられちゃったな」
大輔君にだけは見られたくなかったのに。
タケルは眉を垂れた。
「かっこ・・・悪くなんか・・・・ねーよ・・・」
唇をかみしめうつむいてしまった大輔にタケルは首を傾げた。
「どうしたの?どっか痛いの?」
(それはお前のほうだろうがっ)
大輔は今にも涙がこぼれそうな瞳をシパシパするとタケルの肩に額を埋め込んだ。

「ごめ・・な・・。俺助けられなかった・・・すっげーなさけねー・・・」
「え?」
「タケル絶対に弱音吐かなかった・・・全然かっこわるくねーよ・・」
むしろ、凄く格好良かった。
ボコボコにされても自分の意志を通すなんて自分にはまだ出来ない。
「俺・・・けんかが強くなれば格好いい男になれると思ってた」
「うん」
「でも違う。強いって・・ただ力の事だけじゃないんだよな。強い奴が自分の意見言ったって全然格好良くない」
「・・・」

「それってアレかしら。社長が部下に意見するのは簡単でも部下が社長に口だしするのはすっごく勇気がいるしそっちのが格好いいっってこと?」
少し離れた場所で二人の(ラブラブにしか見えない)姿を見ていた光は大輔にハンカチを差し出しながら口にした。
「何か変な例えだけどそんなんかな・・」

借りたハンカチを何に使おうか迷っていると光が自分の額を指さした。
それにようやくタケルの額から血が出ているのに気づき、借りた綺麗なハンカチで拭き取った。
「光ちゃん。いいのか?こんな綺麗なハンカチ汚しちゃって」
「いいのよ。それより大輔君。別に大輔君は情けなくなんて無いわよ」
「・・・・」
目線をさっとそらす。
自分がいかに無力だったかを思い知っているだけに光の言葉はたんなる慰めにしか感じない。

「あそこにね、大輔君がいなかったら私だってあんな大声だしたり出来なかった」
「へ?」
「だってほら。もしあの人達が私に気付いて攻撃してきたり、後々苛められたりしたら怖いじゃない?でも大輔君なら助けてくれるでしょ?」
身を張って。
「た・・確かに」
確かにその通りだろう。
「だからいいのっ大輔君は充分にタケル君を助ける役に立ったんだから」
「・・・なんか違う気が・・」

明朗快活に述べられた言葉のどこをつっこめばいいのか解らず大輔はやはりうまく丸め込まれてしまったようだった。
(あいつらが言ったとおり俺って単純バカなのかも・・)
それを人は欠点としてとるかもしれない。バカにするかもしれない。
だけどタケルや光それに大輔を好きな人たちにとっては大輔のそんなところが愛すべき点だと感じているからそのままで居て欲しいと思う。
頭を抱えこむ大輔を見てヒカリとタケルはそっと笑みを交わしあった。

「まあ私としてはむしろタケル君のほうが情けないけどね」
「手厳しいなぁヒカリちゃんは」
「だっていつもならあのくらい軽く受け流すじゃない?」
「まあね」

それくらいの余裕はいつもならある。
だいたい、さっきから怒っていたのだヒカリは。
今回に限ってあんなに反抗的な態度を見せたのは単に「本宮大輔」の名をあいつらが口にしたから。
大輔をバカにするような言葉を言ったから。
ただそれだけ。
格好良くも何ともない。自分をセーブ出来なかったタケルが悪いのだ。
「気持ちは分からないでもないけどね、こうやってその後大輔君が泣くはめになるんだからそこまで考えて行動してね」
「うん。ごめんね。心配かけて。」
「え?俺?」
大輔の方を向いて謝ってきたタケルにパチクリと目を見開き問い返した。

「そう。ごめんね怖い思いさせちゃって。」
そっと赤くなった目尻を指で触る。
「いや。俺は別に・・・」
慌てて真っ赤になった顔を後に引くと首をぶんぶん振った。
「そ・・そんな事よりタケル保健室行ったほうがっっ」

「今日は早退したほうがいいと思うわよ」
「さすがにこの顔じゃあ仕方ないよね。先生腰ぬかしちゃうしね」
「そっか。あっじゃあ俺付き合うぜ」
「ホント?嬉しいなー」
「・・・私お邪魔かしら?」
「そんな事ないよ。」
タケルは心からの笑みを光に見せた。
「ああ、でも私が早退したらお兄ちゃんに知られちゃうからダメね。どうせヤマトさんに知らせないつもりでしょ?」
そんな光の言葉に唇を持ち上げる。
さすが光ちゃん。言わなくても僕の事はお見通しだね。
そんな顔だった。
「具合悪くて早退したって言っておいてあげるわよ。一人じゃ帰れそうにないから大輔君が付き添って帰ったってことにしとくから大輔君も口裏会わせてね」
「う・うん。まあ嘘じゃないしな」
タケルの痛々しい姿を横目で見て大輔は頷いた。

「でも大丈夫か?光ちゃんさっきの事がばれたら・・」
「あら?こうみえても世渡りは上手いのよ私」
心配そうな大輔に光はノープロブレムと片目をつむってみせた。


次の日大輔は宣誓をした。
「俺はもう黒板消し落としなんて幼稚ぃことはやんねーーーー!!!」
教室に入るそうそうの事だった。
とは言う物の遅刻寸前の彼だからそのころに教室にはクラスメートが勢揃いしていた。
そこへこの爆弾発言。
実は昨日ずっと考えていたのだ。
自分は何が出来るだろうと。
結局思い浮かばなかった。
だからとりあえず自分は絶対にやらないという意志だけは伝えて置こうと思ったのだ。

(大輔君らしいわね)
光は笑った表情を隠すように口元に手をあてた。

「なんだよ本宮突然に」
「いんだよっ大体何が楽しくてこんな事してんのか俺にはさっぱりわかんねーよ」
つい最近まで一番はまっていた人物が何を言っているのやら。
「あーあー子供だなーおまえらってさー」
「もとみやーーお前なー一体何が言いたいんだ」
「俺様は昨日までの俺様とは違うってことなのさっっ」
偉そうに胸をはり親指を己に突きつけてみるが一体何が変わったのかさっぱりだ。

「昨日と全く同じだぞ」
「ふふん。まあ表面上はしかたねー。俺さまはなんとFA(ファイナルアドベンチャー※ゲームです)の氷のダンジョンをクリアーした男だぜっ」
その言葉にそのゲームをやっている少年達は一斉に騒ぎ出した
「うそっマジかよっっ」
「まだ誰もクリアしてねーってのにっ」
「俺なんかダンジョンにすらたどりつけてねーぞ」
「いつのまに本宮に抜かれたんだぁぁぁ」
「大輔ーーーぬけがけだぞーーー」

不良グループの少年も例外なく驚いた。
「マジかよーー」
「おうよっっ。」
ガッツポーズの大輔。
「道順教えろよーー」
「覚えてねー」
ケロリと答える。それも無理ない。
一体自分に何が出来るだろう?そればかり考えていたら眠れなくなり仕方なくゲームをピコピコやりながらまた考えていたらいつのまにかダンジョンを突破していたのだ。
不幸中の幸いというか怪我の功名というか大輔としても棚ぼたもいいところである。

「役にたたねーーーーー」

「黒板消しなんかで遊んでるからだな。もっと俺様のように大人にならなきゃクリアできねーんだよ」
うんうん。腕を組んで頷く。
「わけわかんねーよお前。」
そういいつつも彼らはゲームの話題で持ちきりになった。
そう黒板消し落としなんてやってる場合ではなくなったのだ。
誰もが躓いていた氷のダンジョンを突破した奴が一人いる。
それはひどく対抗心が燃やされるものだ。

「ちくしょーくだんねー事で頭つかってる場合じゃなかったぜ」
「思わぬ伏兵に追い抜かれたな」
「俺ぜってー本宮だけには抜かれねーと思ってた」
「俺も。」
「あっ俺も思ってた」

「うっわ。ひっでーなー」
ケラケラ笑う大輔。

そんな大輔を見て
誰もが笑う。
盛大に、はたまた小さく。
それはきっと本当の笑顔。

きっともうチョークまみれになる子は出ないだろう。

光は思う。
大輔だから出来る事。
それはこんな風にクラスを巻き込む彼のパワー。
自分自身知らぬままに周りを自分のペースにのせてしまう。
自分にもタケルにも出来ないそんな不思議な力を彼は持っている。
今日はお休みのタケルがここにいたらきっと自慢気な顔をしたことだろう。
さすが"僕の大輔君"っと。
そう思うと光は暖かな気持ちになってきた。
二人とも格好いいわよね。
こんな二人が仲間で有ることが誇らしくてたまらない。


本当の勇気。
それは弱くても負けない心を持つこと。
強くても弱い心を忘れないこと。
頑張る人はきっと皆"本当の勇気"を持っているはず。
そう。だから立ち向かおう。
誰かの笑顔を思い出して。
本当の勇気を知るために。

えー。駄文におつき合い下さいましてありがとうございます。
此処で一つ言っておきますが「FA」なんてゲームはありませんよー
たんなるお話の関連で作った空想の物体なので探さないように。
今回に限って世渡りが下手だった彼に憤っていたヒカリちゃん。
まあ大輔を泣かせたのは一大事ですからね。
ヒカリちゃんが怒ってもしかたありません(笑)