――――――――――――――――――――
   10巻 東西対決(前編)
――――――――――――――――――――
「奇遇だな」
「…まさしく奇遇だね」

目を丸くしたまま憮然と二人はつぶやいた。二人は公園でバッタリ顔を合わせた
。
何が奇遇って。

快斗の家から電車で40分くらい離れていて毛利家からはこれまた電車で20分
ばかし離
れ、更には駅から歩いて30分以上はかかる。
そんな公園に



((何故こいつがいるんだーー))

である。
奇遇以外の何物でもなかろう。


その最もな疑問をぶつけようとしたその時


「おー珍しく時間どおりやな」
暢気な関西弁が割って入ったのだ。


「よお服部」


まだ出会ってそんなにたっていない快斗ですら解る低音。明らかに怒ってる声音
に
「なんやいちおー可愛いらし顔がぶっさいくになってるでぇ」
更に煽る関西人。

快斗の耳にはピキっと何かの音が聞こえた気がした。それがコナンの果てしなく
小さな勘
忍袋の緒がブチ切れた音だなんて考えたくもなかったので気のせいにしておくこ
とにする。

「わざわざ来てやった俺様に対して…いい度胸だな」

子供の対応は見事なものだった。流れ続ける滝のごとき止まらない罵声が開始さ
れたのだ。


――――――――――――――――――――
   10巻 東西対決(中編)
――――――――――――――――――――

「珍しくは余計だ」
から始まり

「だいたいなんでこんな所まで迎えにこなきゃいけねぇんだ」
1時間かけてわざわざ来てやったんだぞ。
とか
「来るなら一年前から予約しやがれ」
など傲慢きわまりない。
甲高い声音ながらも堂の入った啖呵に快斗は感心すらしてしまう。
それに

「まあまぁそない興奮したら頭の血管ブチ切れてまうで」
はっはっはー。なんて朗らかに返す関西人にも感嘆が漏れ出てしまう。
慣れてますねお兄さん。

「はあはあはあ。無駄骨折った気分だぜ」
「うん。暖簾に腕おしって諺を肌で感じちゃいました」
しみじみと2人で呟いて脱力してしまった。関西弁を操る男はそれを見て首を傾
げていたりする。

「とにかく。ほらよ」
「お、さんきゅー♪」

脱力から立ち直ったコナンは黒い男・・・西の高校生探偵に鍵を渡した。
確か以前蘭から聞いた話ではコナンは毛利家の居候であるらしい。
そして一応毛利家の鍵は持っているはずだが、だからと言って他人に毛利家の鍵
を渡すはずが無い。

そんな訳で
「どこの鍵?」
素朴な疑問を問いかけたらコナンはとてつもなく嫌そうな顔をした。
「どこだっていいだろ」
わー素敵なお返事ね。
「そういやこいつ誰や工藤?」
「・・・服部。おめー1度学習能力っつー言葉の意味を辞書で引いてこい。それ
からこいつはただの赤の他人だ気にするな」

うわ、きっつー。
と快斗ですら思ったのだが。それにたいする黒い男の反応は

――――――――――――――――――――
   10巻 東西対決(後編)
――――――――――――――――――――

「はっはっは。すまんかったな坊主。せやからそない怒らんと。えーと赤の他人の兄ちゃ
ん。俺は服部平次や。そっちは?」

すっげーよ。全く堪えてないどころか平気でそのまま会話続行デスカ。すごいよあんた。
そうでなきゃこの傍若無人なお子様のお相手は出来ないってことなのね。

かなり感動と尊敬を胸に抱きながらとりあえず差し出された手の平を握り返す。

「あ、黒羽快斗です。えーっとあれだよな。西の探偵?」
「まぁそー呼ばれることも稀にあるけどな。あんま知られとらんっちゅーか。関西オン
リー人気っちゅーか。自分よー俺の顔しっとったなぁ」
「前に新聞でね」

嘘である。昔一回だけ夜のお仕事中邪魔してくれた東の高校生探偵について調べるときに
付随して偶然目に留めただけ。
黒いという感想しかなかったのだが、名前はしっかり覚えている。だって快斗君は天才だ
から1度見たら忘れられないのさっ。


「同じ年くらいか?えーと高1?」
「そ、そんでもってマジシャンの卵でっす」
「・・・ほほーそりゃすっごいのと友達になったなー坊主」
「っせー。そいつは赤の他人だって言ったろ」
「ぶわはははっ。その猫かぶっとらん態度の時点で親しいっつーことは解るっちゅーの爪
が甘いなぁコ・ナ・ンは。」

わざとらしく名前を呼ばれコナンはプチッと血管が切れそうになった。

(このヤロォ・・・。やっぱいっぺんマジで絞めてやんねーとこのバカには分らねぇか)

そんな暗雲立ち込める様子のコナンから思わず一歩引いてしまった快斗のその無意識の行
動も更なる怒りを呼び起こす。

どいつもこいつもムカつくっっっ。←ただのご機嫌斜めなだけな気がする

「服部。鍵返せ。そんでとっとと故郷に帰れ」
「むむっ。脅すのかっそれは反則やでっ蘭ちゃんに言いつけたるっっ」
「この能天気男めっっっ。ったく、とっとと調べ物でも何でもして帰りやがれっっっ」

コナンはあまりの手ごたえのなさにこれ以上は無駄骨だと悟り、捨て台詞を威勢良く怒鳴
りつけるとクルリと背を向けまたもや長い長い駅までの道のりを歩くのだった。

「で?その鍵はなんの鍵なのよ?」

そんな快斗の呟きに服部は苦笑をもらすだけ。
視界には小さくなってくコナンの背中。
あれは逃げたといわないだろうか?


東の探偵vs西の探偵

勝者、西の探偵!
まぁ神経がザルとしか思えないあいつに繊細な俺が勝てるわけねーよな。とは後ほど快斗
に語ったコナンの言葉だったりする。



おしまい