どうすりゃいいんだ?
そう考えた時まっさきに浮かんだ人物。

黒羽快斗

あいつを頼っている自分に苛立ちを覚えつつも

「使えるもんは使う主義だしな」
そう納得することにした。
正直、秘密だらけの俺にとって自分レベルの重い鎖をまとう奴の存在は心強い。
偽る事もない。
ズッシリとくる罪悪感も解り会える。
何より俺が頼りにする程もろもろの能力が高い。


実はだれよりも奴の隣が安心するなんて・・・

ムカつくからあいつにそんな事言う気はまったくもって無いけどな。



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     20巻 蘭ァーん!! 『1』
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「よぉ」
「ああ。」
「なんか久しぶりな感じがするねー」
「そうだな。」

最近は結構頻繁に会っていたのだが、それは夜の姿のときだったり、快斗の家でだった
り、寝不足でぶっ倒れた時だったり。

こんな風に喫茶店でのんびり、というのは本当に久しぶりな気がした。

帰り道ばったり→喫茶店でまったり

が2人の習慣化した生活だったので、ようやく平和が戻ってきたなぁと何となくしみじ
みしてしまう。

「どう?」
「あー・・・今は平和」
「そらぁ何よりだ。」

何故にそれで会話が成り立つのか解らないが本人たちには十分な会話だった。
2人の間で「どう?」と言えばうわさの「毛利蘭」か最近では「灰原哀」の近況だった
りするのが常。

ちなみにコナンの体調を聞く場合は
「体どう?」
と主語のような気配がするものが付属したりするのは余談である。


今回は快斗のちょっと苦笑気味の顔からして蘭について尋ねられているのだろうと判断
したコナンはこう返した。






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     20巻 蘭ァーん!! 『2』
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「あいつ昨日から園子のやつと旅行中」
「おおー平和だがコナンちゃんの食生活が危険に陥っている!」
「大丈夫だ。きっちり飯を作って冷凍していってくれたからな。おっちゃんでもレンジ
でチンくれぇ出来る」

「ほほーぅ。察するにコナンさんはチンすらしないといった怠惰っぷり?」
「よく解らんがおっちゃんが進んでやってくれているんだから任せるのが子供の務めだ
ろうと思うんだ。」

真剣な表情で何を言っているのやら。
おそらく毛利小五郎は自分だけならともかく成長期であるお子様がいるのでしっかりご
飯を食べさせねばとささやかながらに使命感を感じているのであろう。

ほっといたら全く食わねぇもんなこいつ。

呆れ全快でコナンを眺めているとコテンと首を倒してなんだ?と問われた。

「お前・・・かわいいなぁ」
「・・・しみじみ言うな怖すぎるから」

「えー酷いーー。んで、蘭ちゃんはいつまで旅行なの?」
「あー明後日の夕方帰ってくる予定だけど。なんか用事あるのか?」
「んにゃーただ蘭ちゃん居ないならコナンちゃんと堂々と遊べるなぁとか思っただけで
」
「なんだ堂々とって」
「だってぇぇ蘭ちゃん怖い妄想爆裂じゃん?俺とコナンちゃんが遊ぶとデートとか言う
しーー」
「・・・・」

なんだか疲れてきて二人は大きな大きなため息をついた。





その電話がかかって来たのはそんな深いため息をついたその日の夜だった。

「は?嵐ぃぃ?んで?ん・・・・・・・・待てっっおい今何っつった?」

毛利小五郎は半分酔っ払った頭で電話に出た。
しかし電話の内容は酔いも吹っ飛ぶとんでもない話で。

「蘭が乗った船が嵐で行方不明らしい。」
「えっ?」
小五郎は散々電話の向こうに怒鳴り散らしたあとコナンにそう語った。

「そういうわけで俺は捜索隊に加わってくるから、お前は大人しく家で待ってろよ。」
「何でっっ僕も行くっっ」
「バカ言うなっっ現場は嵐なんだぞっっっお前まで行方不明になりかねないんだ!大人
しく待機してろ!」

決して駄々をこねたわけでは無く、蘭を心配しての言葉だと解っている。
だが今から行くのは危険な嵐の中。
コナンのような小さな体では風で吹き飛ばされたり海に落ちたりする可能性が高い。

「・・・解った。おっちゃんが蘭ねぇちゃんと帰ってくるの待ってる。」

この体では足手まといにしかならないと自覚しているからコナンは悔しさを噛み締めな
がらもしぶしぶ頷かざるをえなかった。



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     20巻 蘭ァーん!! 『3』
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何故?と後でものすごく疑問に思った。
なんで俺はおっちゃんを見送ってすぐにあいつに電話した?
真っ先にあいつを頼りにしたんだろうか?

夜の嵐の海なんて危険極まりない場所だと言うのに。
助けに行くのに躊躇は無い。

でもあいつに助けを求めるなんて・・・俺はそれだけ動揺してたってことか?
それとも・・・・無意識に頼ってる・・・なんて考えたくもねぇけどな。
「快斗。今暇か?」
その問いかけに何を感じとったのか奴は即座に
『大丈夫。いつでも出れるよ。』
穏やかに心強い言葉を返してくれた。


嵐はだいぶおさまっていたが、波は大荒れだった。
さすがに鈴木財閥のお嬢様が乗っているだけあって騒動は大きくなっていた。
雨はやんでいても風はまだ強い。
船はもちろんのこと、ヘリも飛ばすのが危険だということで探索隊の一行は何も出来ず
歯がゆい思いをしていた。

そんな中。
強い風に逆らうことなく、風の間をすり抜けるようにフワリフワリと飛ぶ白い鳥・・・
2人の人間を乗せたハンググライダーが空を漂っていた。

真っ暗な海。
波は激しく暴れ、とうてい一隻の船を見つけ出すなんて不可能としか思えなかった。

少し風を読むのを誤れば墜落確実の暴風の中を確実に安定した場所を見つけ飛び続ける
のは間違いなく快斗の能力だから出来る技である。


操縦は快斗に任せ、コナンは望遠眼鏡を起動して海をくまなく見渡した。



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     20巻 蘭ァーん!! 『4』
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どれほどたっただろうか。
感覚にして数時間。しかし実際は数十分くらいだったのかもしれない。

コナンはドクリと心臓が動くのを感じた。
(まさか・・・まさか・・・)
「見つけたのか?名探偵?」
ハンググライダーを操る時は怪盗KIDと決めているのだろう。彼は白い姿である。←シル
クハットが飛んでいかないのは何故?って突っ込んじゃダメよ♪

「あ・・ああ。」
かすれた声で返事する。
そうでなければいい。コナンは思った。
様子のおかしなコナンに快斗は眉を寄せつつもコナンの視線のほうへとゆっくり暴風に
巻き込まれないように降下していった。

「あれか?って・・・沈んでるじゃねぇか!」
「まだ・・全部は沈んでない。」
「舳先が出てはいるが客室は全滅してるぜっっ」

その言葉にコナンは一瞬強く瞳を閉じ、それから舳先に向かって叫んだ。

「っっらぁぁぁん!!」

力の限りに叫ぶ。
聞こえないと解っててもそれでも喉が切れそうなくらい…叫ぶしか出来ない自分が情け
ない。

「名探偵。もしあれに彼女が乗っていたとしたら、絶望的な状況だぜ」
解ってるか?
静かに示された最悪の予想。
知らないフリは許されない。それを許してくれるような優しいだけのヤツじゃないから。

「解ってる。わかりたくねぇけどな」

「ならいい。どうする?」
「…あそこに降ろしてくれるか?」
指差したのはまだ無事な一帯。それでもいつ沈んでもおかしくない危険地帯。
KIDが難色を示したのは無理もないだろう。
だけど

「諦めたくねぇんだ。限界までやれるだけやらしてくれ」

薄情な話。蘭が行方不明のメンバーに入っていなければとっくに諦めていただろう。こ
んな危険侵さなかっただろう。確実にあの中にいる保障なんてない。
それでも、少しでも可能性があるのなら・・。

「あいつには、してやれる事全部してやりてーから」
長く待たせておきながら心配ばっかりかけておきながら、戻れる確証なんて全然無い。
たとえ帰れてもそれはきっと蘭の隣では無いかもしれない。
それでも・・・俺の大切な幼馴染で、俺の大切な・・・妹のような姉のような・・そん
な人だから。

だからこそ

「あいつには幸せになって欲しい。」

こんなとこで亡くしてしまうなんて自分が耐え切れない。


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     20巻 蘭ァーん!! 『5』
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「うん。解ってるつもりだよ。だから止めたいけど止めない。」
振り返れば柔らかな瞳を見せたKIDの笑顔。
とろけるような微笑みはまるで自分の決意を褒めてくれているようで誇らしい。

「悪いけどフォロー頼むな」
「ああ。バッチリ任されたっ。」
こいつ以上に信頼できるヤツはいない。
頼もしい相棒。
この世で一番の。


甲板に降ろして貰い、真っ先に向かうのはすでに海に漬かった客室。
水圧で開かなくなったドアを無理やり破壊し、息を吸い込み感覚で時間を計りながら探
索を開始した。

水の中漂うその姿を見つけた時、歓喜と恐怖で心臓が止まりそうになった。
手当たりしだい伸縮型サスペンダーで一まとめにして出口へと引きずりだす。
1人ずつなんて救出している時間は無かった。

未だ無事な甲板へとどうにか全員を引きずり上げ、斜めに傾いているせいでまたもや水
中に落ちないようにと配慮してからようやく遅まきながら生存確認を開始した。
まだ沈んで間もなかったのかもしれない。意識は失っているものの、誰もがピンピンし
ていた。

「蘭っっ蘭っっっ」
「ん・・・」
「この船に乗っていたのは5人で間違いないか?」
「え?」
まだ中に残っていたら大問題だ。
「あ、うん。船長さんと船員さん2人とあたしと園子の5人。」
小さな船を借り切って優雅にクルーズ予定だったのだろうが・・・。
スヤスヤと寝息すら立てている暢気なお嬢様を見下ろしコナンはハハハと乾いた笑みを
浮かべた。

「すぐに救助隊を呼ぶから蘭ねぇちゃんはもう少し寝てていいよ。」
「救助隊って・・コナン君いったいどうやってこんな所に?」
その言葉にあいまいに笑ってからトランシーバーのスイッチをオンにした。


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     20巻 蘭ァーん!! 『6』
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「生存者5名。全員無事だっっっ」
トランシーバーの向こうから息を飲む気配がする。相当驚いたのだろう。
それでも無駄口を叩かないのが頼もしい。
『らじゃ。もうすぐ着くから待ってろよ』

今にも沈みそうな船でこのまま探索してくれるのを待ってるなんて不可能だ。
KIDには探索隊をどうにかここまでひっぱってきて貰うよう頼んでいた。
たとえ蘭が乗っている船ではなかったとしても、他の一般人が被害にあっていたかもし
れないのだから。

「ああ。頼む。」
『それから…』
「ん?」
『さすが、俺の名探偵っっ』
「バーろぅ。だれがお前のだ。」
『俺のだもんっ。俺のサイコーの相棒っ。』
思わず吹き出してしまう。
あんまりバカであまりにも優しいから。

「ま、ありがたく受け取ってやるぜ。」
サンキューな。

とても誇らしげに言われたから。
自慢気に言われたから。

頬が緩んでしまうのを抑えるのが大変だ。



「コナン君?」
「すぐに迎えがくるから安全な場所にいて」
「うん。」


無理だと思っていてももしもの準備は怠らないヤツだから。
確実にすぐに来る。

そう無条件に信じられるヤツが側にいてしかも自分の相棒だということがありがたい。

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     20巻 蘭ァーん!! 『7』
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「だれと連絡とってたの?」
「・・・相棒、かな?」
奴の言葉を口にしてみて、なんか笑えて来た。


「名探偵。遅くなりました」
「や、充分早いって。救助隊は?」
「もうじき。後々の為に退散しましょう」
「ああ。」
フワリと甲板に降り立ち迷うことなくコナンを片手で抱え込んだ天下の怪盗KID様。
もし園子が目を覚ましていたらこんな状況だというのにキャーキャーうるさかったこと
間違いなしである。

「え!?なんで・・・」
怪盗KIDがこんな所に。と唇で呟く蘭に
「蘭ねぇちゃん。僕がここにいたこと秘密にしてもらえるかな?」
「それって」
「小五郎のおじさんにお家で留守番しておくって約束しちゃったし、それに・・・色々
聞かれちゃうと困るから」
チラと白い怪盗に視線をやる。

そりゃそうだと納得した。


「じゃぁ。また後でね」
「お先に失礼しますよお嬢さん方」
遠くで声が聞こえる
おおーーい。なんて必死な叫びが。
もしかしてお父さん?
まだ荒れた波の上を不安定ながらも一隻の船が近づいてくるのが蘭には見えた。

逆方向にはすでに点へと化した白い怪盗の姿。
グッドタイミングで退散したとしかいえない。
なんて抜かりがないのだろうか。とぼんやり蘭は思った。

ああ、そういえばお礼いいそびれちゃったな。コナン君には帰ってから言えばいいかな?
それにしても・・・・



「相棒…ねぇ」
スラリと立った怪盗とその片手に簡単に抱き上げられたコナンを思い返して、蘭はなん
だか複雑な気分におちいった。