◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 23巻 一人にしないで・・・ (前編) ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「園子さん!園子さんっっ大丈夫ですかっっ!?」 蘭からメールをいただいて、真は全てを投げ出して駆けつけてきた。 来る途中にクルマにぶつかったような気もするがそんな場合じゃないのでそのまま駆け抜けてきたくらいだ。 病室の前で小さな子供を轢いた(何か違う)時は焦ったが、幸い子供に怪我は無く、そのまま笑顔で分かれてきた。 確か毛利さんのところの子供だったような(急いでいたのでうろ覚えらしい) 「え?真さん?」 意識不明の重体と聞いていた園子はベッドから上半身を起こしこちらを見ていた。 「い・・意識は・・」 「あるけど」 「・・・・よかったぁ」 へたりと座り込んだ真に園子は感動より先に申し訳なさを感じた。 蘭に頼み込んで真に嘘の情報を教えて貰ったのは自分だ。 まさか彼がここまで必死になってくれるとは、願ってはいたけどきっと無理だと思っていて。 なかなか帰ってきてくれない彼が、メール一本でこんなにスピーディーに。 まるでドラマか映画の世界。 主人公が羨ましいと思っていたけれど、実際に来てもらって置いて罪悪感がヒシヒシと。 おそらく真は修行そっちのけで来たのだ。 自分のことを全て捨てて走ってきてくれたのだ。 園子が嘘をついたから。 「ま・・真さんっっごめんなさいごめんなさいごめんなさいっっっ」 「園子さん?」 いきなり抱きついて謝られ真は困惑するしかなかった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 23巻 一人にしないで・・・(後編) ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「ごめんなさい真さん。蘭に無理やり頼み込んで嘘ついてもらっちゃったの。 本当は意識不明なんて嘘。ピンピンしてるのっっ」 「え?」 あんな事があったので一応精密検査を、と両親に勧められ、じゃいっそ1日 入院って形でついでにきっちり検査しちゃおうかなー なんてのが真相である。 確かに船が嵐に巻き込まれてあちこち体を打ちつけたし、頭も実はけっこうぶつけた。 だから精密検査に異議はない。 それにかこつけて真をおびき出した(嫌な言い方だが)のは自分のわがままだった。 さんざん「やめておいたほうがいいよ園子」という蘭に。 「お願い。ひと目でいいの。真さんに会いたいの。」 と必死に頼み込んだ。 ただ、あの時、海の中に船ごと沈み「ああ、もうこれまでかな。」なんて思って。 他でもない彼の笑顔が頭に浮かんで、もう一度でいいから見たかったなぁ、 会いたかったなぁなんて思ったから。 次に会うのが何ヵ月後かも解らないから何でもいいから理由をつけて会いたかったのだ。 それだけ。 「いいんですよ園子さん」 「え?」 「園子さんが無事で元気な姿をみれただけで、それだけで満足ですから。」 「・・なんで。」 「さっきそこで小さな子供から話を聞きました。」 「子供?」 「この部屋の人は一昨日、嵐の海で死に掛けたから精密検査を受けるんだよ。って」 何一つ嘘ではない。 後数分、助けが遅ければ全員命を落としていたと医者は断言していた。 それを思い出すたび背筋が冷えて、怖くなる。 自分だけではない、もう少しで船員達と・・・・蘭が・・・蘭まで命を落として いたかもしれないのだ。 自分がさそったせいで。 小さな船をかりてクルーズしようよっなんて言い出したせいで。 「・・・怖かったんですよね。今も。」 今も、そう。 怖くて。 だから。 「真さぁぁぁぁん。ごめんなさいっっお願い今だけは一緒にいて。1人にしないで・・・」 「ええ。だから呼んでくれてよかったんですよ。こんな園子さんを1人にしておくなんて 俺には出来ません。」 おしまい |