黒羽快斗という男





「なあ・・お前あいつの性格どう思う?」
ちょっと最近気になって仕方なかったものでつい尋ねてしまった。
お隣に住むマッドサイエンティストに。




三つの名を持つその少女は肩までの茶色い髪を揺らしながら振り返った。
「あいつと言うと?あの人のことかしら?」
「たぶんその人のことだろうな」
コナンがあいつと言うからには親しい人である。
さらには性格を尋ねられると言うならばそれは一筋縄ではいかない性格の持ち主。

(彼しかいないわよね。そんな人。あえて言うならば変態ね。男のしかも子供に手をだすくらいだし。しかも犯罪歴現在更新中の犯罪者。もう一つ言うならば・・・紙一重の天才って所かしら)

そこまで考えると少女・・灰原哀はスッと眼をあげ、目の前に立つ眼鏡の少年を見つめた。
「なんで突然そんな事を?」
「いや・・ずっと聞いて見たかったんだけどな。なんとなく今思い出したから」

歯切れ悪そうな彼、コナンに哀は
(嘘ね)
と見当付けとりあえず話を続けた

「あなたは?あなたは彼のことどう考えているのかしら?」
質問を質問で返す。こういうときの常套手段だ。
「俺?そうだなー・・脳天気なバカ?」

以前哀がコナンについて某少年に述べたのに似たような返答だった。
あの時は『脳天気な推理オタク』と答えたがこちらはバカときたか。

「そう、そういう見方もあるわね。私個人としては彼は非常に興味深いサンプルの一つね」
「は?」
心なしかコナンの腰が引けてきた。

「例えば、彼はさまざまに隠し持っている面があるわよね。彼の持つスキルは私にはとうてい計り知れないわ。」
それはコナンも認めるところだ。
「どこまでが本気でどこからが冗談なのか区別を付かないように行動するところもミステリアスで小憎い演出よね」

別に哀の興味を引くためにやっているわけではないだろうが。
おちゃらけているかと思えばぬかりない。
真面目な話をしてたかと思うと突然間抜けな冗談を言う。
(さっきまでふざけてたのに突然真剣な顔で押し倒してきやがったり・・な)

げんなり顔で昨日の事を思い出すとコナンは頭をフリフリ思考を戻す。



「それは俺も認める。本気と冗談の区別がいまいちつかねー上に今ひとつ真剣味が伝わってこねーよな」
「そうね。こちらが真剣に話しているのにちゃかしたりする時もあるし」
あれは本気で実験台にしてやろうかしらと思うくらいむかついたわ

と付け加えられコナンは引きつった笑みを貼り付け、とりあえず後であいつに忠告だけでもしておいてやろうと心に決めておく。



「後はギャップの激しさも実に観察しがいがあるわね」
「そ・・それで?結局のところどうなんだ?」
「ああ、彼の性格についてだったわね。一言でいうならば押しては返す波のようなものかしら」
「波?」

あまりに綺麗な例えにコナンは目が点になる。

「もしくは波にただようクラゲ?」

一気に格下げされた彼に乾杯!!
あまりの落差にコナンの頭はなかなか付いていけない。
だがクラゲの方が彼らしいとコナンは納得する。

「つかみ所が無いところがそっくりだな」
「そうね。一見フワフワ漂って害が無いように見えて実は刺胞毒を隠し持っているいるあたりも似ているかもしれないわね」
「ああ。あれって命にもかかわるらしいから侮れねーよな。刺される回数増すほどにやばいらしいし」
「・・・そうね。そんな所も似ているかしら」

「は?」

「彼を敵に回すと怖ろしいと言うことよ」
「ああ。まあそれは思わないでもないけど」

味方でよかったと思ったことは一度や二度ではない。
実際お役立ちだし、文句もいわず(コナンの為に(笑))働いてくれる。



「で?なんでそんな事を知りたかったのかしら江戸川君?」
「だから―――――」
「だから?」

さっきの言葉を繰り返そうとして哀の微笑みに背筋を冷やした。
騙されてくれるはずがないのだ。このお人が。



「いや・・その・な。昨日・・」
「昨日?」
「ちょっといろいろあってな」
「ええ」
「そんであいつの本心がどれなのかさっぱり解らなくてな・・」
「ええそれで?」
「お前なら解るかなぁ・と」

「私は心理学者じゃないからさすがに彼の性格を完璧に掴むことは不可能ね。それなら貴方の方が詳しいんじゃないかしら?四六時中一緒にいるわけだし」

一緒にいたくているわけではなく勝手にひっついてくるだけだ。という視線をうけつつも哀は微笑んだ。

「彼が心を許しているのはあなた一人。本当の彼を見ることが出来るのはあなたぐらいじゃないの?違う?」
正論である。ぐうの音も出ないほどに。
だがその本当の彼が問題なのだ。



「それで結局、昨日何があったのかしら?」
何気なくそらした筈なのに、ふふっ言ってごらんなさい。と詰め寄られコナンはあとじさる。

「・・いや・・その・・大したことじゃ・・」
「大したことじゃなくても私は知りたいのよ。」
「・・・・」

「最近彼の観察日記も付けることにしたの。それに是非書き加えたいエピソードなのよね。是非とも昨日のこと聞かせてもらうわよ」



観察日記!!!


目を見開き詰め寄る哀を見返した。
「彼には内緒にしておいてもらえる?警戒されるとやりにくいし」
ふふ。と不敵に笑う彼女。



このことは、とりあえず彼には言わないことにしておいた。・・あまりに可哀想だから。
更にもう一つ非常にひっかかるお言葉があったがそれも聞かないで置くことにした。
自分の平穏のために。

『彼の観察日記も〜』もってなんだ?「も」って。
他にも付けているのかぁぁぁぁぁ。





「す・・すまん灰原。俺、急に用事思い出したから帰るわ。じゃあなぁぁ」
素早く去る。
コナンの予想よりも遙かにあっさりと見逃した哀はその後彼の後ろ姿に呟いたという。



―――――おおかた押し倒されて危ない所だった・・てところが真相でしょ。彼の本心?そんなの見たまんまじゃないの。ただ一人の前でだけバカになる。それだけで解らないのかしらねあの脳天気で鈍感な推理オタクは―――――

単に聞くまでもなかっただけらしい。

心理学者じゃなくとも理解できてしまう。それはコナンを愛する彼のおバカな行動を逐一みせられているがゆえ。そんな物を日々見せられうんざりしている哀は更に辛辣なお言葉を続ける。

―――――どうせ来るなら最後までしてから来てくれればいいのに。―――――

そうすれば江戸川コナン観察日記も素敵なエピソードがいくつか追記出来るという物。






「黒羽君。コソコソしていないで出てらっしゃい。江戸川君はもう行ったわよ」
「ああん。なんでバレてるのかーしら。ハロン哀ちゃん。」
「お久しぶりね。それで、何故約束を破ったのか教えてもらえる?」

開口一番とても冷ややかなお言葉を頂いておきながら快斗は悪びれた顔一つみせず頭を掻く。

「破ったわけじゃないんだけどなぁ」
「私は言った筈よ『江戸川君に手を出すときは事前に私に一報を』と」
「だって昨日のは不可抗力だって。なんとなーくそんな雰囲気になっちゃってさぁ」
「・・・そうまあそう言うことにして置いてあげてもいいわ」

寛大なような押しつけがましいような言葉に快斗は肩をすくめる。

「ありがと♪そうそう観察日記の事だけど。ちゃんと昨日のエピソード追加しておいたからねん」
「・・・・あら。ご丁寧にありがとう。よく見つけだしたわね」
「俺そーゆーの専門よ?」

脳天気な笑顔に騙されてはいけない彼は世紀の大怪盗なのだから。
例え世のどんな泥棒に盗み出せなくとも彼ならいともたやすく手に入れてしまう。
今回ちょっと厳重すぎたかしらってくらい厳重に保管したのにこの事態。

しかも観察日記に関してのコメントはなく、さらには追記までしてくれる。
これが江戸川コナンならばその観察日記は即座にこの世から抹殺だろう。
こういう飄々とした所がつかみ所がないと言われるゆえんなのだ。

「そうだったわね。まあ良いわ。江戸川君の観察日記コピー欲しいなら今印刷するわよ?」
「いい。さっき読んだから頭の中に詰め込んだ。新たに書いたらまた見せてね」

あっさり言われたが悠にページ数にして105ページのあの大作を頭にインプットしてしまうのだから哀としては内心舌をまく。


「いいわよ。」
だが悔しいからそんなそぶりは全く見せない。
「んじゃまたねー」

去っていく彼。
きっとさきほど帰ったコナンを追いかけるつもりなのだろう軽やかに走り出す。

―――――結局のところ黒羽快斗の性格なんて一筋縄でいかないんだから「理解不能」の一言で表せばいいのよね―――――

自分には関係ないのだからそれでいいのだ。

それに解らないから面白い。

そう思わない?―――――いえ・・それに気付いているから文句をいいつつも付き合ってるのよね江戸川君。

そんな自分の考えが何やら楽しくふふっと笑い出してしまう。



『観察日記』観察の対象はあの二人。
非常に興味深いサンプルが二つもあるなんてなんてラッキーなのかしら。
灰原哀は幸せそうにほくそ笑んだ。


黒羽快斗と言う男。
結局のところ彼は、この怖ろしい科学者と唯一対等に会話を出来る人間なのかもしれない。










結局何が言いたかったのか。それは私にもわかりません(涙)
なんとなく書きたかったのです。
でもスッキリ。
昨日一体コナンと快斗の間に何があったのか気になりますが、
それはご想像にお任せいたします。
まあ未遂ですし(笑)
By縁真(えんま)