11月1日晴れ。
今日久しぶりに電車に乗った。
バカイトが変な事しやがった。
むかついた。
でもその後ケンカしたらなんかすっきりしたから後々の追求は止めてやることにした。
甘いよな俺。
(新一の日記より)
電車でGo
「あー。むちゃくちゃ混んでやがる・・・。」
満員電車にさらに乗り込む人々を見つめ新一は心底嫌そうに顔をしかめた。
「なあ。本当にこれに乗るのか?」
駅のホームでそんな電車を眺めていた隣の男に声をかける。
「ん?」
振り返った顔は新一とそっくりな黒羽快斗。
二人で一緒にいると双子の兄弟にしか見えない。
しかもいい男の為ちょっと街を歩いているだけで女の子達はおろかスカウトの人たちにまで声をかけられるかけられる。
正直新一はうざくて仕方がなかったが、隣の奴が全部体よくあしらってくれたためとてもスムーズにここまでこれた。
便利な奴だよな。一家に一台ってか。飯は作れるわ、うざいのは追い払ってくれるわ、部屋の掃除はしてるれるわ、あーそういやこないだなんか布団まで干してくれたな。
いやぁ本当に便利便利。
そんな失礼な事を新一が考えているとはつゆ知らず快斗は困った顔で目の前の電車を指さした。
「だってこれ乗らないと夜ご飯間に合わないよ?」
「だよな・・。」
新一はため息をつきつつ諦めてギュウギュウのすし詰めの米の一部になることに決めた。
とりあえず角確保しとかなきゃね。新ちゃんこーゆーの苦手だから。
快斗は要領よく人をかき分け手すりとドアの隙間にねじりこみ、そこに新一を押し入れた。
とりあえず背後は人じゃない状態になりホッとする新一に丁度抱き合う形で守っている快斗は微笑む。
「今日はパーティーだもんな。仕方ねーよ。」
「うん。解ってるけどこれは辛いな。」
いつもなら別に夜ご飯の時刻なんか気にしない・・というか本に夢中の時は食べないでそのまま朝になってたりする事が多い。
だが、今日は久しぶりにみんなで集まってワイワイやると女達が決めたらしい。
らしいというのは今日の朝突然に夜パーティーやるから遅くとも7時までには帰ってきなさい。
と命令口調で蘭と青子に言われたからだ。
勝手に決めて勝手に参加者に入れられていた俺の立場ってなに?とか新一と快斗は思っていたが逆らえるはずもなく大人しくうなづいていた。
しかも会場は工藤家らしい。
せっかく休みの日なんだから家で一日ゴロゴロしようとしていた新一は邪魔の一言で家から追い出され渋々快斗と寒い中出掛ける事にしたのだった。
なんだっけ?紅茶の日がどーの言ってたな。
結局なんか理由つけて遊びたいだけだよなあいつら。
・・って言うよりさどうせやるならハローウィンやりゃよかったのにな。
あーもしかして平日だから諦めたのかあれは?
やれやれそう思いつつ新一は快斗の肩に頭を埋めていた。
「遅刻したら多分蘭ちゃんがものっっっすごい形相で攻撃仕掛けてくると思うんだよな。」
俺にはきっと青子が怒鳴りこんでくるだろうけど蘭ちゃんほど強くないしなんとかなるよなー
一人暢気に付け加える快斗がにくい。
「・・・・蘭な。なんであいつあんなに凶暴に育ったんだろう。やっぱあの母親に似たのか?」
「父さんも強いんでしょ?」
「あーー一応な。それなりに強いとこは見せてもらったけど本番にボロクソに弱い。」
「蘭ちゃんは本番には更に強い人っぽいもんね。」
「ああ。120%引き出すからなあいつは。普通殺人犯とかにおそわれたら緊張して身体動かなくないか?」
「俺は動くけど?」
キョトンとした顔の快斗に新一は苦笑をうかべる。
「いやお前に聞いても無駄だったな。一般的女性の話な。男もそうだろうけどふつーーなら反撃とか出来ないと思うんだよな。いやあのおかげでかなり助かったけどよ。」
特に力の全然ないコナンだったとき。
蘭に何度助けられたことか。
自分の非力さに悲しくなったけど蘭が強くてよかったとほんとうに思ったものだ。
自分の身を守ってさらに友達も守って、心底怖いだろうに前に出て闘う。
そんな蘭の姿は格好良かった。
細かい事に気がつくし家事も出来るし優しいし。
文句無くいい女だよな蘭って。
しみじみ新一は思う。
あんな幼なじみ持ってる自分って結構幸福かもしれない。
更にそんな素晴らしい幼なじみは自分がコナンだった時もずっと帰ってくるのを待っててくれたのだ。
隠れて沢山泣いていたのを知っている。
いっぱい強がって、それでもふとした瞬間にやっぱり涙が出てきて。
コナンだった俺には絶対見せなかったけどきっと色々悩んでたんだと思う。
なのに今。
なのにっっだ。
そんなすっっげーいい女ふって何故か俺はこんな奴と共にいるんだよな。
なんでだ?
乗りたくない満員電車の中新一はそんな事をしみじみと考えていた。
すし詰め状態の電車は扉が開いたら何人か人が転げ落ちそうなほど詰め込まれていた。
もう入らないっと言うのに次の駅に着くたびに駅員はギュウギュウと人を押し込んでいく。
そのたびにせっかく快斗が確保した角から押しやられ二人はどんどん真ん中のほうへと移動してた。
仕方あるまい不可抗力。
不自然な体勢のせいでぜったいどこかが筋肉痛になるだろう。
足がついて無くても立っていられるし。
うーん満員電車マジック。
・・と。
降りる予定の駅まで後3駅くらい残したころだろうか新一は妙な違和感を感じた。
ん?なんか・・・変。。
新一は眉をよせた。
「快斗っっ。」
これだけ人が沢山いるのに何故か誰も喋っていないため静かな電車の中、小さな声で目の前で抱き会う形でくっついている快斗にささやいた。
「何?」
どうかしたの?離れないようにと新一の背中を抱いていた快斗は丁度首の辺りに新一の唇があり息がかかったのかくすぐったそうに笑った。
ちょっぴり頭を下にたれ新一の耳元に声を吹き込む。
その時。ぎゅうぎゅう詰めの人の間から快斗は見てしまった。
新一の後の男が新一に無体な真似をしているところを。
こっっっの親父ぃぃぃぃぃ。
実際は親父と言うほど歳食ってはいないがここはそれ快斗の心情はまさしくそんな感じなのだ。
心穏やかでいられるはずが・・・ないっっ。
だが満員電車どうするか?背中の手をなんとか動かして撃退。いやしかしそんな簡単に動く余裕はない。
ちくしょうマジシャンだろ俺っ。
なんとかしやがれっ。
IQ400あるらしい頭をフルに回転させる。
「新一少し動ける?」
「なにをっ」
多分新一は嫌らしい動きをする太股辺りにある手は快斗の手だと思っているのだろう。
頬を染めて睨み付けてきている。
その強い瞳がまた可愛らしい。
「無理?」
「むりだ。」
苦しそうにささやく声が快斗の喉元を温かくする。
「仕方ないな。」
俺でなんとかするか・・とその男と新一の背中でつぶされている両手を新一の背中からそっと下へ下へとおろしていく。ミリ単位でしか動かない手が電車が揺れるたびにつぶされて痛い。
やっぱり結構きつい。
うあーーこりゃ明日筋肉痛になるぞ。
「快―――――」
「しっ騒いだらばれるだろ?」
耳元に息を吹き込むようにささやくとくすぐったいのか目をギュッと閉じる。
胸元あたりで鞄を抱いている新一の手は片方快斗の服をつかんでいた。それがまたいじらしい感じがして快斗は思わず笑ってしまう。
だがその笑いを聞き取る余裕もないのか新一はただ眉を寄せていた。
「ん・・や・・。」
「声は押さえて。」
なんでこんな所で。
泣きそうな瞳で見上げるが快斗が止める様子を見せないためしぶしぶ自分の手で口元をおさえる。
その間も快斗の手はじりじりと下へと降りていた。
ようやく太股まで降りた右手でチカンを撃退し、もちろんそいつの顔をしっかりチェックするのも忘れない。
多分24.5歳くらいのサラリーマン風の男。
意外だったのはそいつが結構整った顔立ちだったこと。
いや俺にはかなわないけどな。心のなかで快斗はもちろん付け加える。
だが顔がいいから許せると言った問題ではない。
ちくしょう人が減ったら覚えてやがれ。とりあえず名刺うばって脅してやるか?
バラされたら社会的名誉もなにもないってなもんだ。
男の尻さわって喜んでんだからな。
しかもその相手は俺のだいっっじな工藤新一。
許されるわけがない。
とりあえず俺と服部とあとー蘭ちゃんと哀ちゃんとーーうーん白馬とぉ後はーー。
新一に手を出したら誰が敵にまわるか・・・と頭の中で一人ずつ数えていく。
その間もどうやら快斗の手は動き回っていたらしい。
らしいというのは快斗に自覚がなかったからだ。
いつの間にか耳元までピンクに染まった白い肌と少し荒い息。
それに潤んだ瞳がやめろっと訴えている。
多分今声を出したらあえぎ声になってしまうのだろう。
必至に口元を押さえる新一が愛しくて仕方ない。
「やだ?」
「ん・・。」
こくこく頷く。
今にも涙が溢れ出しそうなほど目尻に溜まっている。
このばれるかもしれないという緊張感が新一にさらなる興奮を促しているのかいつもより感じているようだ。
試しに弱い部分にそっと触れてみる。
「く・・。」
快斗の胸元に顔をうずめて必至で声をこらえる新一。
(やば・・すごい興奮する。)
止まらなくなりそうな自分に喝を入れて快斗はようやく手の動きを止めた。
どうせ次の駅で降りなければいけないのだから。
お楽しみは帰ってから。
ウキウキと考える。
でも―――――
その前にこの男だけはどうにかしないとな。
ガシューと扉が開き掃除機に吸い込まれるかのごとく人々が外へと流れ出していく。
一緒に流れに身をまかせて外へ吐き出される時に側にいたあの男の胸ポケットからそっと名刺だけをゲットする快斗。
へっちょろいぜ。
覚えてやがれよ。
後で後悔させてやる。
その名刺を口元にあてにやりと笑う。
そんな彼をさっきのせいか新一は未だに潤んだ瞳のまま首を傾げみあげていた。
「なんだそれ?」
名刺なのは解るがさっきまでそんな物は持ってなかったはずだ。
「なーいしょ。」
片目をつむると混雑のどさくさまぎれに新一の頬にそっと唇をよせた。
「快・・っ。」
慌てて頬に手をやり周りを見回すが運良く見ていなかったのか単にぶつかったと思ったのか誰も注目していなかった。
「お前なんなんだよっさっきの事といい今のもっっ。」
ばれたらどうすんだっ。
改札を出てあのムンムンした人の熱気から脱出できた二人は新鮮な空気を思う存分吸いつつ一方的なけんかをはじめた。
新一はひたすら怒鳴り快斗はただ困った顔で笑う。
だがどうやらあのせいで名刺の事を忘れてくれたらしい。
「だって新ちゃん可愛かったんだもん。」
あの男の事は内緒にしておこうと決めていた。
教えたら新一が不機嫌になるだろうし、報復は自分がしたい。
仲間を集めて作戦会議だな。これは。
不敵に微笑むと真っ赤になって怒鳴る新一の手をつかみ走りだした。
「ほらっ蘭ちゃんが待ってるよ。」
「ごまかすなーーー。」
「でも後10分しかないしさー。」
「あっやべっ。仕方ねーさっきの事は後でだっ。」
「えーもう忘れようよー。」
「却下。」
「新一ーー。」
「うるせー走れっきりきりとっ。遅刻したらお前のせいにすっからなっ。」
「なんでだよー。新一が最後の店入るってきかなかったせいじゃないかっ。」
「お前だってあの店で物買ってたから共犯だっ。」
「えーーあれは新ちゃんに買ってあげたんだもん。俺のじゃないもーーん。」
「きゃぁぁっかぁぁぁ。」
「却下返しっっ。」
「なんだそれはっ」
二人は口げんかしつつも楽しそうに笑いなら走っていく。
なんとか時間に間に合った二人は工藤家の玄関の前で顔を合わせてプッと吹き出した。
ひたすらケンカしながら走り続けたせいかいつもなら走っても10分以上かかるところを6分で着いてしまったのだ。
やれば出来るじゃん。
ピーンポーン。
「はーい。」
奥から明るい少女の声。
蘭の怒りからはなんとか逃れられたようだった。
「おかえりっ。いらっしゃい」
「ただいま。」
「おじゃまします。」
温かく出迎えられて二人はそっと扉をしめた。
集まっているメンバーは新一・快斗・白馬・紅子・蘭・青子・灰原・・・・
「あれ?服部は?」
「まだなの。多分もーすぐつくと思うけど。」
すっかりパーティーの準備が整っている部屋へと足を踏み入れ感心している新一を横目に快斗はタダ一人遅刻らしい服部の所在を確かめた。
「ふーん。時間に律儀なあいつが珍しいじゃん?」
机に並んでいるポテトに手を出そうとして青子に怒られたらしい新一は唇をとがらせて近寄ってきた。
「そうだな。いつもなら5分前にはちゃんといるもんなあいつ。」
意外な事にこの中では白馬の次に時間にしっかりしている服部。
しかもこちらが遅刻しても寛容なところが彼のいいところ。
白馬だと絶対に文句をつける。
「こーんばんんわー。」
チャイムも鳴らさず勝手知ったる他人の家とばかりに上がり込んできた服部は大阪から東京間を今までバイクでぶっ飛ばしてきた疲れを微塵も見せず笑顔でみんなに挨拶をかわしていた。
「よお。服部めずらしく遅刻だな。」
「あっ堪忍な。道がえんらい混んどってなー。普段5分かかるところが30分かかるんやで?たまらんわ。仕方ないから裏道がーーーっと走ってきてなんとかこの時間や。」
はーしんど。
とか言いつつも笑顔で身振り手振り説明する。
「お疲れさま。寒かったでしょ?はい。ココア。」
「おーきにー蘭ちゃん。ほぁぁ暖まるわー。」
身体の芯まで冷え切っていたのかほにゃぁとした顔でココアのコップを頬に当て暖まっていた。
そしてその後パーティーで楽しく過ごした彼らはさりげに体力のない新一が疲れたーとダウンしたのを見てお開きにしようか・・と言った具合になった。
騒ぎ疲れたのかピクリともしない新一をとりあえず寝室まで運び横にする。
快斗はすぐにとって返し帰ろうとする人々(工藤家に宿泊予定の服部は優雅にテレビを見ていたが)をひきとめた。
「今から作戦会議だっ。」
「は?」
突然の事に驚く面々に快斗は要点のみサクッと言った。
「今日新一が電車でチカンにあった。こんな事許せるか?」
もちろんそんな事を聞いてだまっている人はここの中にはいない。
「なんですってーー許せるわけないでしょ。」
と蘭。快斗と新一の仲を認めた心優しき(?)少女はどうやら今は哀達とともに同人へと走っているらしい。今年の冬コミは快×新で決まりっとか叫んでいたようだ。相手が快斗なら許せるけど他の男なんて許せないっっ。
「許せないーーなにそれっそりゃ工藤君は綺麗だけどさー。」
と手をブンブン振り回して青子が叫ぶ。彼女も蘭と共に本を作成しているため快×新意外は駄目っ派だ。但しこれは幾分嫉妬も含まれているかもしれない。女性を差し置いて男性に手を出すなんて不届きな奴だっっと。
「許せないわよね。チカンだけでも人類の敵なのによもや工藤君に手をだすなんて。」
据わった目で哀。もちろん工藤君ファンの哀は女性の敵+たった今自分の敵となったその男への報復手段を一瞬にして脳裏にめぐらせていた。
「まったくです許せません。工藤君になんて事を・・・。」
可哀想にっと白馬が同情する。もしかすると自分も経験ありなのかもしれない。
「あらあらいい度胸してるわね。彼に手を出すなんて。」
もちろん許せませんわ。と怪しい笑みを浮かべる紅子。彼女を敵に回すとどんな攻撃が来るか解らない。なにせ魔女。突然腹下して会社を休むはめになるかも。
「許せんに決まっとるやろ。そんで黒羽どうしたん?」
ぐっと右手をにぎりしめ、服部は当然仕返しはしたんやろ?と尋ねる。
一斉に騒ぎ出した面々の声をまるで聖徳太子かのごとく快斗はにやにや笑いながら全て聞き取る。
「満員だったからなそいつの首根っこつかむこともできなかったからとりあえず。」
ぴっと名刺を見せる。
「すってきた。」
「「「「「「よくやった。」」」」」」
犯罪は敵ですっの白馬までもが口をそろえて快斗を褒め称える。
「一応新一には俺がやった事になってるから漏らすなよっ。」
あいつにバレたら怒り狂ってこの名刺の男の所へなぐり込みに行くか不機嫌になって自分にとばっちりがくるかそんなところなのだから。
一人一人の目を見て真剣に頷いたのを確かめ快斗はホッとした。
「それで作戦会議だ。こいつに報復を。」
「もちろんですっ。」
「当然やっ。」
「後悔させてあげなきゃね。」
「どういう手でいこうかしら。」
口々に攻撃的な事を口走る彼ら。
実に頼もしい味方達である。
新一は良い友に恵まれたと言える・・・かな。
快斗は苦笑するときゅっと顔を引き締めさっそく一番打撃が与えられそうな手をいくつか出していくのだった。
結局は類友。
快斗もその頼もしくもデンジャーな友人達と同じ穴のむじななのだから。
さてはてその後あの男がどうなったか・・は
皆さんのご想像に任せたい。
一つだけ言えるのは彼は実に運が悪かった・・と言うことだけ。
よりにもよって新一に手を出したのだから。
彼の運命やいかにっっっ。
end
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