闘う男
なんてことないいつもの休日だった。
夏休みに入っても相変わらず工藤新一という男はいつも忙しそうで。
おかげで快斗はヒマにあかせて(おいっ)いつも以上にKIDとして精力的に働きに出ていた。
新一が忙しいのは今まで幼くなっていたせいで、足りなくなった出席日数を補うためと、
元に戻ったための、後遺症などのチェックのため毎日灰原哀(こちらは自分の意志により、宮野志保には戻らなかった)の精密検査を受けていたからである。
朝学校に行って帰りに博士の家で検査をうけ、帰ってくるのは夜の7時頃。
それから出された宿題やって家の事やって・・・と快斗と遊ぶどころではなかったのだ。
解ってはいても快斗としてはふてくされてしまう。
だって夏だ。
しかも夏休み。この年の夏休みはもう一生こないというのに新ちゃんと遠出の一回や二回したいものではないか?それがどうだ遠出どころの騒ぎではない。
「うーーーーーーーーーーーーー神様のばかやろぉぉぉ。」
とりあえずあたる相手がいないので手近(?)な人物にあたってみた。
月にほえる怪盗KID。
もし誰かに見られていたら気でも狂ったかと思われるところだ。
別に期待していたわけじゃないからそんなに落ち込んではいない。
だがハズレの宝石を見るとなんだか人生すべてが巧くいかないような気がしてどんどんむかついてくるのだ。
くはーーなんか事件でも起こんねーかなーそしたら新一の側にひっついてられるのになー。
学校ではさすがに付いていくわけにはいかない。
だが現場では違う。この博識な頭脳が役に立つかもしれないし、新一に頭の回転は負けていないと思うからきっと少しぐらい手助けもできるだろう。
そんでそのまま夜ご飯くらい一緒に食べれるし良いことづくめじゃないか?
そんなふざけたことを快斗は考えていた。
アホである。
考え無しである。
それがどれだけ甘い想像であるか・・・なんて彼はこの時これっぽっちも考えていなかったのだから。
かくして事件は起こった。
それは快斗にとって予想外のカタチで。
『工藤新一は預かった。返して欲しくばパンドラを持ってこい』
・・・・・は?なんですと?
さすがの快斗も頭の中が真っ白に染まった。
パンドラ?預かった?だれに?
ちょっとまってぇぇぇぇぇぇ。
混乱する頭を押さえグルグルふる。
落ち着け俺っっっっ。
よーするにこれは誘拐・・ってことで、そんで犯人はパンドラを身代金代わりに要求しているんだよな?どこにあるんだよそんなもん?
ないもの渡せと言われても・・・。
いや待てその前に考えねばならないのは、新一が捕らえられたのはあの組織ということだ。
あいつ無事なのか?
必至に止まりそうになる思考を活動させる。
あまりの事態に動揺が隠しきれないらしかった。
いつものように誰もいない工藤家に行って合い鍵で中に入ろうとしたときだ。
学校へ行く前に新一は新聞を見るはずなのに今日に限ってまだ玄関にささりっぱなしだった。
「?っかしいなー寝坊してんのか?」
眉をよせつつ新聞を引き出したその瞬間一通の真っ白い封筒が新聞に引っ付いてきた。
「なんだこれ?」
差出人は無かった。
宛名もない。
とりあえず新聞と共にそれを持って家の中に入ると新一を捜し始めた。
しかし家の中は無人。
ちょっと調べてみるとどうも昨日の夜帰ってきた形跡が見えなかった。
「哀ちゃん家に泊まったとか?」
どうにも嫌な予感を感じつつも可能性を口に出してみる。
あごに手をやり数瞬考えた末、ポケットに入れていた携帯を取りだした。
お隣さんなのだからちょっと外へ出ればいいものを横着して快斗は文明の機器を使用した。
「あっ俺。新一いる?・・・あ・・そう。うん家にいないから。昨日寄ったんだよね?え?」
相手の返答は思いも寄らない言葉だった。
『昨日の検診には来てないわ。てっきりさぼりかと思ったのだけれど』
哀の言葉に快斗は蒼白な顔で叫んだ。
「じゃあどこにいんだよあいつっ」
『・・・・・ちょっと待ちなさい。一応毛利宅へ電話してみるから。それと念のため服部君にも。』
「あ、そっかうん。解った」
もしその二人の所にいなかったら次は外国へいるという新一の両親を捜し出して連絡をつけるしかない。
また事件に巻き込まれているのかもしれないから。
前回のように体が小さくなる程度ですめばいい・・だが・・・。
恐怖のあまり震える体を腕で抱え込み切れた携帯を持ったままその場に立ちつくした。
パサ・・。未だ持ちっぱなしだった新聞の間から白い封筒が落ちた。
「あ。」
どう考えてもこれは快斗の目に怪しく映った。
いや、なにか手がかりの一つでもいいから見つけたい快斗の心には川で流されている藁の気分だったのかもしれない。なんでもいいから手当たり次第・・・そんなところだろうか。
本当なら人様の手紙を見るのはマナー違反。
だが今は緊急の事態である。ごめん後で沢山謝るから勘弁っ。
ビリビリと焦る心を抑えつつ慎重に封筒を開ける。
中に入っていたのは四つ折りのこれまた真っ白い紙が一枚。
そこにあの脅迫文が書かれていたのだ。
指定日時と場所が簡潔にその下に書いてあった。
「なんてことだ」
どこで自分達の関係を調べたのか(いやバレバレか)これは間違いなく怪盗KIDに当てた手紙であることだけは確かであろう。
慌ててもう一度哀に電話をかけ事情を説明すると向こうからまたもや思わぬ反応が返ってきた。
怒鳴られた。
『なんですってぇぇぇ。今すぐ取り返してきなさいっ』
・・・・そんな簡単に言ってくれますがあなた・・。
『工藤君の体はまだ本調子じゃないのよっ。ムリがたたって倒れたらどうするの』
でもね。倒れるどころか下手したら俺死んじゃうんですけど。
『つべこべ言ってる暇があったらすぐに行動しなさい。大体パンドラ持っていないんでしょ?
それじゃあ問答無用で工藤君取り返すしか方法はないわ。』
ごもっとも。
『こういうのは早ければ早いほどいいのよ。消印は?』
「なかった」
『そう。それでもなんとか割り出しなさい。できるでしょあなたなら?』
出来るけどね。なんか怖いです哀ちゃん。
今が大変な事態なのは快斗にだって解っている。だがあまりの事に未だ頭の中がぐちゃぐちゃなのだ。
頭の中が交通渋滞おこしているみたいだ。
「即座に行動・・・了解っ」
そして快斗はその言葉通り突風のごときスピードで相手の位置と犯人の人数を割り出した。
もちろん新一についている発信器が一番のお役立ちだったのは言うまでもない。
「たっくさん発信器つけておいたからね。ザコ相手なら一個か二個は免れていて当然。」
新一自身も知らないいろいろな場所につけられた発信器は盗聴器にもなるすぐれものだったのだから。それがどうやら7個も残っているようだった(いくつ付けたんだ・・)。ということは、相手はざこのざこのざこのざこのざこのざこのざこである。
ちょろいね。
ごくありふれたビルだった。
その中の一室はなにもない部屋だった。
床には血のように赤い絨毯がしいてあり、壁には高そうな絵画が飾ってある。
そして他にはなにもなかった。
テーブルもソファも本棚も。・・・窓ですら。
あるのはひたすら壁と一つの扉のみ。
完璧な密室である。
―――――まさかこういう手でくるとは思いませんでしたよミスター―――――
「だ・・だれだっっ?」
当て身でもくらったのだろう意識を失っている新一を覗きに来たその男はカチャリとドアを開けた瞬間どこからともなく飛んできた声に慌て辺りを見回した。
見えるのはいつもの風景と床に転がる彫刻のように整った顔の少年だけ。
後手にしばられ転がされた新一の顔は意識がないまでも苦しそうに歪んでいた。
「KIDなのか?どこにいるっ」
―――――さあ?とりあえずそれは返して頂きますよ。―――――
部屋に響くその声はどことなく笑いを含んでいる。
バカにしているような響きをうけ、その男は顔を赤くして新一を引き起こした。
後から抱え込むと息を吸い込み大声で怒鳴った。
「でてこいっっこいつがどうなってもいいのか」
尻ポケットにはいっていた折り畳みナイフを取りだし新一の首もとに当てる。
―――――どうするおつもりで?―――――
未だ余裕のあるKIDの声。もしこのまま男が力をいれれば間違いなく新一の命はないでろうにKIDはまったく慌てもしない。
「こいつが大切なんだろう?」
―――――誰がそんな事を?彼は利用価値があるだけのただの物ですよ。例えここで無くしてしまったとしても別段困りはしません―――――
その声は淡々と響く。
あまりの冷淡さに男の背筋がぞっとするほどだった。
「―――――は・・話が違うっっ」
―――――誰がそんな事を?―――――
もう一度先ほどの問いを投げかける。
言わなければなにかされると思ったのかその男は恐怖のあまり叫ぶように口を開いた。
「それは―――――」
言いかけた瞬間男の体は激しくけいれんするように跳ねた。
今まで捕らえられていた新一は慌ててそこからするりと抜け出し男の心臓部分を見やった。
とても今まで気を失ってたとは思えない素早い動きだった。
「ちっ」
小さく舌打ちをすると新一はすでに絶命しているその男を床へと蹴り倒す。
容赦は全くなかった。
次いでもう少しで自分の命を奪うところだった武器を持つ男達をみやり、新一はにやりと笑みを作った。
「この親父殺るのはいいけどもう少しで俺までやばかったんだけどね?」
男の心臓が撃ち抜かれていたということは新一の肩か心臓あたりを狙って撃ったということだ。
うまくかわさなかったら今頃あの男のように床に転がっていただろう。
「お前はKIDなのか?」
「おや?工藤新一じゃないの?俺って?」
楽しげに新一・・・・KIDは答えた。
敵は現在5人。すでに銃を構えいつでも発砲できる用意だ。
快斗は新一の変装をとくと一瞬で白い怪盗へと姿を変える。
「お待たせいたしました。お待ちかねの怪盗KID参上です。」
未だ余裕のある微笑みを崩さないKIDにまるであの組織のように黒いスーツの軍団はイラだったように無意味に銃をカチャリと鳴らす。
KIDはそれに軽く目を細めるとタイミングを見極めるようにゆっくり心のなかでカウントを始める。
3・2・1っ
「I't show time!!!」
高らかと通る声で叫んだ瞬間かくしてあったトランプ銃をポンと取りだし何人かの拳銃をはじき飛ばしておく。
そして予定通り煙幕を辺りに漂わせると白いマントを翻し人々の間を抜けていく。
ピシッ・・・モノクルに銃弾がかする。
もう少しで吹っ飛ぶところだったそれをとっさにおさえお返しにトランプ銃を送り返して置いた。
悲鳴は聞こえたが煙の向こうのためどこにあたったかは快斗にも解らなかった。
もちろん敵はプロ。正確にKIDの居場所を感じ取りその後も幾度か撃たれたがなんとかKIDは急所だけは外すことに成功した。
不敵な笑みはただのはったり。
本当は超ピンチだった。
作戦といえば肉を切らせて骨を絶つ。
自分が少々傷ついてもいいから新ちゃんを無事に取り返すということだ。
8割方成功である。
思った以上に肉を切られたのが誤算だったが歩けない事はないので大丈夫だろう。
とりあえず新一だけは先に避難させたから安心だが、それでもあの青ざめた顔の新一を思い出すだけで快斗は心配でたまらない。
あのヤロー俺の手であの世に送りたかったぜ。
だが自分の手を汚すのは怪盗KIDにあるまじき行為。
丁度あの男達が手を下してくれたからこちらとしては好都合だった。
黒羽快斗はいざというときどこまでも非情なれる男である。
特に新一が絡むと。
逃げた先の避難場所として予定していた一つの部屋の鍵をちょちょいのちょいっと開け中にすべりこむ。
「うはー血で白いスーツが汚れちまったよう。あーこれ落ちねーよなー」
ちくしょーぶつくさつぶやくKIDは先ほどまで敵に囲まれ死に追い込まれていたとは思えない脳天気さだった。
けがの量はひどいのだが、本人慣れたもので体の痛みより服の汚れのほうが気になって仕方ないらしい。
「この後が心配だけど、ま、あいつらも下っ端の下っ端だろうし。大丈夫か。」
今回はあの男の単独犯。
それだけはハッキリしていた。だからこそ制裁を下されたのだから。
あの男達は本気で自分を殺すつもりではなかった。ただあの場から追い出す事に専念していたように思う。
だからこそなんとかこの程度のケガで逃げ切れたのだ。本気だったら今頃ここにはいないだろう。
そこまで冷静に分析してから快斗は盛大なため息をついた。
なんてやっかいな敵なんだ。
パンドラをまだ手に入れてない旨は先ほどの部屋にこっそり置いてきた手紙に書いてある。
向こうが信じるかは解らないが、信じて貰う他ないだろう。
・・というか何で俺が手に入れた事になってる訳?そこからして解らないのだ。
まあ、いっか。
元からか新一の脳天気がうつったのか哀が聞いたら怒髪天つきそうな事をつぶやきKIDは壊れたモノクルと赤く染まったスーツを脱ぎ捨て組員の一人に変装して堂々と表口から退散してきたのだった。
本当は工藤新一はKIDにとって取るに足りない人物と組織に印象づけたかったのだが、そう巧くいく物ではないらしい。結局新一を逃した事がバレてしまったからまた新一は狙われるかもしれない。
ただでさえ心配の種は多いのに。
事件なんて起きないほうがいいようん。
ほんの昨日考えたばかりの言葉を思い切り否定し快斗はこの先の不安な未来に憂いていた。
平和な日々はあとどのくらいもつのだろうか。
なんとか情報手にいれて早くあの組織つぶさねーと。
パンドラ見つけだして壊すだけじゃダメなんだよな。
新一のためにも。
今までのばし延ばしにしていた答えを出す。
新一という自分の弱点でもあり希望でもある男のために決意新たにこれから闘うのだ。
カタキである組織と。
自分のプライドをかなぐり捨てれば今まで以上に行動範囲は広がる。
そんな食えもしないもの大切にとっておかないでさっさと行動に移ればよかったぜ。
自分のささやかな誇りすらも道具として扱える男はそっと自嘲気味に笑みをつくった。
夏休み。暇なんて言ってられなくなるなこれは。
獲物を狙った瞳で遠くを見つめ唇をそっと舐める。
ちょうど切ったところだったらしく血の味が口の中に広がった。
家路につくと快斗の光が待っている。
暗い泥沼のような世界を知っていながら闇に染まらない大切な大切な人が。
傷ついた自分を叱ってくれていたわってくれて、心配してくれる彼が。
まってろよあいつに手を出したこと後悔させてやるからな。
家に入る前に氷のようにとがった瞳を空にむけ心の中でつぶやく。
人を人と思わない冷酷な表情は快斗の本性がくっきりと現れる。
こんな俺だけは一生新一にはみせない。自分の汚い部分を知られたくないから
快斗は立ち向かう。
強大な敵へとたった一人で。
近くの光がどれだけ彼の事を気遣いどれだけ彼の事を知っているのか知りもしないで。
やがていつか気付くだろう。
すべて知られている事実を。
いつの間にか手を貸されている事実を。
その時彼がどう行動にでるか。
それを思い新一はひっそりと笑いまるで快斗のような凍った瞳を闇へと向けるのだった。
俺とお前は同じだよ。まるで双子のようにな。
俺が光?とんでもない。
俺にとっては快斗・・お前が光だ。
太陽のように輝く光。
二人は互いの胸に抱く大切な光のために闇へと闘いを挑み続ける。
けれども、とりあえず今は短い休息の期間。
一番心を許せて一番本性を見せれない相手とゆったりすごそう。
体に闘う力をため込むために。
end
・・・すみません意味不明で。
何が書きたかったのか解りませんね。
私にも解りません。ただKID様の血塗れイラストに触発されて(笑)
こんなものですみませんがどうぞお納めください竜胆様。
2002.1.20 By縁真