その日はクリスマスの数日前
何の気なしにつけたラジオから流れてきたクリスマスソング
それを聞いたあいつが懐かしそうに話したこと


”クリスマスツリーの起源はドイツだって言われてるらしいよ”

”小さいころに親父に一度連れて行ってもらったんだ。すげえきれいだった”


”いつか、一緒に行こうね・・・・”




あれから五年が経った。

自分の隣に、あいつはいない・・・・・







Tannenbaum







今日はクリスマス・イヴ。

新一はドイツの小さな街にいた。広場の中央に大きなクリスマスツリーが飾られ、電飾できらきらと輝いている。その周りにはクリスマス市が開かれていた。

その店のひとつで新一は、グリューワインを買った。冷えたからだが芯から温まっていく。






いつか2人で来ようと言っていた。それから少し経ってから、あいつは行方不明になった。




怪盗という裏家業をやっているせいで命を狙われることは前から何度もあった。しかしいつもあいつは何度となくその危機を切り抜けてきたのだ。だから、安心してしまっていたのかもしれない。




その日、あいつはいつもどおりに出掛けていった。笑顔で、すぐに戻ってくるといって。
だが、いくら待っても帰ってくることはなかった。不安になって現場へといってみると、近くのビルが
爆破されたと知った。
消火活動は困難を極め、消し止められたのは夜が明けてからだった。
幸いそこは廃ビルだったため、被災者はいないだろうと思われた。
だが、焼け跡からキッドのものと思わしき割れて焼けたモノクルが発見された。
そして、衣服の切れ端も。

警察が周辺をくまなく捜したが、それらしき人物は見つからず、モノクルなどが落ちていた場所が
ほぼ爆心であったため、爆死したものとされた。そのため、遺体も残らなかったのだろう、と。



だが、新一は信じなかった。遺体もないのに、死んだなんて信じられなかった。
いつか帰ってくると信じていた。
だから、密かに行われた”黒羽快斗”の葬式にも顔を出さなかった。







あれから五年。
キッドが現れなくなった今も、新一は待ち続けている。部屋もあの日出て行ったときのまま。
新一は大学へと進学したが、一切の交友関係を切った。
親しくしていた友人、そして幼馴染でさえも。






クリスマスの数日前、ふとあの時の会話を思い出す。ドイツへ行こう。そう思い立ち、そしてすぐに
行動に移したのだった。



「言っていたとおりだな。本当にきれいだ・・・・」



街の中を歩いていた新一の耳に、ふと聞こえてきた歌があった。







O Tannenbaum,  o Tannenbaum,

Wie treu sind deine Bla"tter!

Du gru"nst nicht nur zur Sommerzeit,

Nein, auch im Winter, wenn es schneit.

O Tannenbaum, o Tannenbaum,

Wie treu sind deine Bla"tter!







それは、あのときにラジオから流れていた曲。自分をここまで誘ったもの。涙が頬をつたった。




「かい・・と・・・!」




いつまで待てばいい?いつになったら帰ってきてくれる?いつになったら・・・・・・・・

今まで耐えてきたこと。決して泣くまいと。でも、もう限界だった。


























「どうして、泣いてるの・・?」


























声が聞こえたとともに、後ろから温かなぬくもりに包まれた。
新一は、ゆっくりと振り向く。そこには少し大人びた感じのする待ちわびた人の笑顔。









「っ・・てめぇのせいだろ!」







「・・・ごめんね。」









ますます涙があふれてくる新一を今度は正面から抱きしめる。苦しいほどに強く。
2人はしばらくそのままだった。












「かなりの怪我を負ったんだけど、なんとか生きててさ。でもやつらの目をくらませるために色々残しておいたんだ。すべて片付いたから、新一の家に行ったんだけどいなくて。もしかして、ここかな、と思ったんだ。」

ここのこと、前に話したからね。


「そう、か。」



新一が泊まっているホテルへと戻り、快斗は今までのことを話して聞かせた。新一は、強く快斗にしがみつく。



「もう、行くなよ?どこにも行くな・・・・。もし、どこかに行くときは・・・・」



快斗の目をまっすぐに見てささやいた。



「俺も、連れて行け・・・・」

もう、ひとりは嫌だ・・・・・・・・



快斗は新一を強く抱きしめ、強くうなずいた。



その日、2人は強くお互いを求め合った。冷えた体を温めるように。
そして、今までをうめるように。









O Tannenbaum, o Tannenbaum,
Wie treu sind deine Bla"tter!
Du gru"nst nicht nur zur Sommerzeit,
Nein, auch im Winter, wenn es schneit.
O Tannenbaum, o Tannenbaum,
Wie treu sind deine Bla"tter!

O Tannenbaum, o Tannenbaum,
du kannst mir sehr gefallen.
Wie oft hat nicht zur Weihnachtszeit
Ein Baum von dir mich hoch erfreut.
O Tannenbaum, o Tannenbaum,
du kannst mir sehr gefallen.

O Tannenbaum, o Tannenbaum,
dein Kleid will mich was lehren.
Die Hoffnung und Besta"ndigkeit
gibt Kraft und Trost zu jeder Zeit.
O Tannenbaum, o Tannenbaum,
dein Kleid will mich was lehren.


もみの木 もみの木 いつも緑よ
もみの木 もみの木 いつも緑よ
輝く夏の日 雪降る冬の日
もみの木 もみの木 いつも緑よ

もみの木 もみの木 こずえ静かに
もみの木 もみの木 こずえ静かに
喜び悲しみ やさしく見守る
もみの木 もみの木 こずえ静かに

もみの木 もみの木 繁れ豊かに
もみの木 もみの木 繁れ豊かに
雨にもくじけず 風にも折られず
もみの木 もみの木 繁れ豊かに






END
01/12/21








クリスマスソング第3弾です。
有名な「モミの木」ドイツ語バージョン。(いや、こっちが本当か・・・)
ドイツの街の様子は想像です。行ったことがありませんので(^^;
でも、きれいだとは聞いたことがあります。
しかしこの話、書いていて恥ずかしかった(///)
なれないことは、しない方がいいのかもしれません(苦笑)




期限すぎていたのにおねだりして頂いてしまいました。
すみません友華さま。
ありがとうございますっっ。
このお話大好きなんです。
(By縁真)