「あれ?」


朝目が覚めた新一は隣にいるはずの人物がいないことに眉をひそめ、あたりを見渡した。そして机の上に置かれたカードを見つける。


「なんだ、これ?」



”米花駅へ”



たった一言だけのカードの横には鍵が置かれてあった。


「これは、ロッカーの鍵?快斗のやつ、どういうつもりだ?」


これらだけではなにをしたいのか、その意図が読み取れない。だが、それは謎があれば解きたくなる名探偵の興味を引くのに十分だった。


「おもしれぇじゃん。」


新一は口元に笑みを浮かべた。すぐに着替えて家を出る。向かう先は米花駅。


「この鍵とあのメッセージだと、米花駅内にあるこの番号のロッカーを開けてみろってことか。」


そこになにがあるというのだろう?新一は少し楽しみだった。


「快斗のことだから、どこかで観察してんだろうな・・・」









「ご名答♪」


快斗はとあるマンションの一室で、鳩に取り付けたカメラの映像を見ていた。
写っているのは名探偵。


「最後まで、来てくれよ?」









米花駅までついた新一は、早速残されていた鍵のロッカーを開けてみた。だが、入っていたのはまたロッカーの鍵と”江古田駅へ”と書かれたカードだけだった。


「なんだよ、またか。」


少しがっかりする。だが新一は再びそれらを持って移動をはじめた。






江古田駅でも同じだった。また別の駅へ行けという指示と鍵。それが5回ぐらい続いた。新一は東京内を歩き回り、だんだんと疲れてくる。


「あのやろう、一体何のつもりだ・・・!次も同じだったらもう帰るからな!」


疲れからなのか、だんだんと切れてくる。

7つめの指示があった駅に到着したころにはすでに日が暮れていた。新一は
結局一日中移動し続けていたのだ。
そこのロッカーに入っていたのは今までとは違い、前より長いメッセージだけ。



”古き月11の18までに、雄大なるひしゃくのもとへ来られんことを・・・・・”



「これは・・・・・?」









快斗は新一が最後のメッセージを受け取ったのを見届けてモニターを消し、
部屋を出る。
ある場所へと向かうために。










今の時間は0時5分前。快斗はとある高台にいた。まわりに人影はなく、ひっそりと静まり返っている。空には満天の星空。

そして、すぐに見つけられる、北斗七星。

後ろから近づいてくる気配に快斗は微笑んだ。


「待たせたか?」

「いや?時間ぴったりだな。」


振り向いた先には愛しい人。寒そうに肩をすくめている。


「あのメッセージ、わかってくれてうれしいよ。」

「ふん、あんなのすぐにわかるさ。古き月11の18は旧暦の11月18日。つまりは
1月1日。雄大なるひしゃくは、あの、北斗七星だろ?そしてこの場所は・・」


言葉の途中で快斗は新一を抱きしめた。

この場所は、快斗とその父盗一の思い出の場所。
まだ幼かった快斗はこの場所によく父と星を見に来た。真正面に見えるのは
北の空。そのなかでいつも快斗が一番に見つけていた星が、北斗七星。名前に一文字もらった星座。
そのことを新一に話したのもここ。快斗が他人をここへ連れてきたのは、新一が初めてだった。


「ったく、人を散々歩きまわさせやがって。」


快斗に抱きしめられながら、それでもそのことに抵抗はせず、文句を言う新一に苦笑いがもれる。


「いい運動になったでしょ?最近家から出てないみたいだったからな。」

「当たり前だ、このくそさみぃ時に・・・」

「でもきちんと付き合ってくれたよね?」

「それは!」


新一の唇に指を押し当て、それ以上言わせないようにする。そして腕時計を見た。


「・・・5、4、3、2、1・・・明けましておめでとう、新一。」

「・・・・・・おめでとう。」


にっこりと微笑む快斗に、新一は少し照れたように顔をそむけ、小さい声で
答えた。
互いの手を強く握り、手すりの近くまで行く。空の星と地上の星、両方がきれいに輝いていた。


「来てくれてホント、うれしいよ。ここで、一緒に新年迎えたかったから。・・・今年も、よろしくね・・・?」


新一も快斗を見上げた。そして、苦笑する。


「・・・・ああ。」


ふたりは今年最初のキスをした。








END