Representative
<後編>
コンコン
速水こと新一が自分に当てられた部屋でくつろいでいるとノックがあった。
今は新一の姿だが、相手がわかっているのかそのままドアを開ける。
「よう、来ると思ったぜ。」
「・・・やっぱり新一か。」
「なんだよ、わかってたんだろ?ま、入れば?」
新一は快斗を促して部屋に入れた。快斗はベットに寝転がり、新一はベットに腰掛ける。
「しっかし驚いたよ。まさか新一がディーラーとはね。用事ってこのことだったんだ。声も全然違ってたから、少し自信なかったよ。」
「声は博士に作って貰ったこの変声機を使ったんだ。俺はキッドみたいに何種類も声を出すなんてことは出来ないからな。」
新一が見せたのは喉につける形の変声機だ。
「で、なんでこんなところでディーラーなんてやってるんだ?バイトってわけでもなさそうだし。」
「・・・・俺はただの代理人だよ。」
それ以上なにも言わない新一に快斗もなにも問い掛けない。
「・・・・・入った時思ったけどここ寒くねぇ?」
「ああ、窓開いてるからな。ここはさすがに山の中だけあって星がきれいに見えるんだ。
だからおめぇが来るまで見てた。」
そう言うと新一は開いている窓のそばまで行き、空を見上げた。それを見た快斗もそばにより後ろから新一を抱きこんだ。
「快斗?」
人肌が温かいのか新一は振り払おうともせずにそのまま快斗の腕の中におさまっている。
「もう何度も言っていることだけど、絶対に無理はするなよ。」
「クスクス、耳たこだな。しつこいぞ。」
「ムッ、心配なんだよ!」
ふと快斗が後ろから新一の唇に軽く触れる。しかしまた新一は抵抗しない。
「珍しいね。いつもならすかさず蹴りが飛んでくるのに。」
「なんだ、蹴飛ばしてほしかったのか?」
「・・・そうじゃなくて。どうしたの?」
「さあな。」
2人でクスクス笑ってもう一度唇を触れ合わせる。
「それより、新一があんなにポーカー強かったなんて知らなかったぜ?」
先程のポーカーゲームで勝負がなかなかつかず、いつのまにか集まった見物人の前で最後はなんとか快斗が勝ったのだ。
「ああ、昔から父さんに教えて貰ったりしてたからな。おめぇも強かったよ。さすがはマジシャンというところか。」
「お褒めにあずかり光栄です。」
また顔を見合わせて笑った。
ドォン
「「!!」」
ふと下のほうから何かが爆発するような音が聞こえた。
「なんだ!?」
「玄関のほうからだ。快斗、俺は着替えてから行くから先に行っててくれ。」
「わかった。」
玄関に行くと武田や白馬、青子たちがすでに来ていた。
「快斗!どこに行ってたのよ!部屋に行ってもいないから心配したじゃない!」
「わりぃ、ちょっとな。それよりなにがあったんだ?」
「なんかね、玄関の外にあった荷物が突然爆発したらしいの。」
「探君・・・」
「やはり起こってしまいましたね。」
「やはり?おい白馬、お前何か起こること知ってたな?」
「・・・・実は武田さんに相談されていたんですよ。何者かに狙われているかもしれない、と。」
「ほぉ〜・・・それでお前の頼みを快く聞いてくれたわけね。」
「とりあえず皆さんここから出ましょう。なにが起こるかわかりませんから。」
白馬の誘導で、別荘にいた人は外に出た。外は大勢の人が出てきたせいかざわついている。
「あれ?峰岸さんがいないよ?それに、ディーラーの速水さんも。」
きょろきょろとあたりを見回していた青子が言った。
「・・・・・・・」
「まさか峰岸さんが!?いや、速水さんということも考えられますね。とりあえず、僕はいったん戻って捜して・・黒羽君!?」
白馬の制止の言葉を振り切って快斗は屋敷の中に入っていった。
(新一!!)
「ふん、あとはこれを爆発させれば・・・・」
「そこまでですよ、峰岸さん。」
「!お前は、速水!!」
「皆外に出ましたから、ここを爆発しても何の意味もありませんよ。」
「ふん、殺そうなんて思っちゃいないさ。ここに来ているのは皆地位のあるものばかりだ。武田は信用をなくすだろうよ。ま、これくらいで終わらせようと思っちゃいないがな。だから、」
ふと新一の喉もとに小さなナイフを当てた。
「邪魔するやつは消す。」
ずっと見ていたままの新一が口を開いた。
「あなたがそこまで武田さんを憎むのは、あなたの父親のためですか?」
ピクッと峰岸が反応した。
「あなたの父親は武田さんの会社から解雇された。しかしそれは、あなたの父親が不正を働いたから。そしてそれを告発したのが武田さんだった。」
「・・・うるさい・・・」
「武田さんも落胆したはずです。なにしろ武田さんはあなたの父親のことを心から信頼していたのだから。」
「黙れ!お前に俺の気持ちがわかってたまるか!親父が捕まってから、母はショックで倒れ、今まで交友があった者たちは手のひらを返したように俺たちを扱う。それもこれもみんな!」
「それは逆恨みというものでは?それにあなたは努力して、今は有名会社の秘書にまでなったじゃないですか。」
「そうだ、俺は努力した。武田の会社に入るために!」
「・・・・武田さんはあなたのことを知っていたのでしょう、おそらく。」
「なに?」
「あなたの素性も目的もすべて知っていたのかもしれません。知っていてあなたのすべてを受け入れたのでは?」
「そんなはずは・・」
―私には昔、とても信頼していた親友がいた。
しかし彼は私のもとを去ってしまった。だから、君が来てくれてうれしいよ・・・・
そう言って武田は自分に向かって笑ったのだ。あれが父のことだというのか?
「峰岸さん、あなたもうすうすわかっていたのでは?だから、はじめは殺すつもりだったのに出来なかった。」
「・・・・お前、一体何者だ?どこかで・・・」
ふと父親が警察に連れて行かれたときのことを思い出す。悲しげに見つめる武田の横に立っていた若い男。
「工藤・・・優作・・・」
「の、代理人ですよ。さあ行きましょう。きっと武田さんが待っています。」
「もう、あの人は俺を許さないさ。」
「それは、本人に聞かないとわかりませんよ?」
そう言ってにっこり笑う新一に峰岸も薄く笑った。そして部屋から出ていった。そのすぐ後に快斗が部屋に入ってきた。
「解決か?」
「さあな、それは武田さんが決めることだ。」
「代理人って工藤優作氏の代理人だったんだ。」
「ああ。昔扱った事件だってさ。ホームズの本に釣られちまったんだよ。」
「ま、思い直してくれてよかったな。」
「・・・いや、これ見てみろよ。峰岸さんが用意していた爆弾。こんなものじゃここを吹き飛ばすなんて到底無理だ。結局、無意識でも、武田さんを貶めようという気持ちがなくなっていたのかもな。」
その後、自首するといった峰岸に武田はやさしく笑いかけた。
峰岸が爆発させたのは玄関先にある小さな荷物1つ。そんなに警察に世話になることはないだろう。峰岸はそんな武田の前で泣き崩れたのだった。
ディーラー速水の姿は屋敷から消えていた。峰岸の爆弾とともに。
「速水さん、どこに行ったんだろうね。」
「僕が捜しに行った時もどこにもいませんでしたよ。玄関に戻ったら、峰岸さんが戻ってきていただけでしたし。」
帰り道、皆消えた速水のことで盛り上がっている中、快斗は1人笑っていた。
「黒羽君?君はなにか知っているのですか?」
「さあな!」
その後しばらく、工藤邸で暇な時はポーカーゲームが繰り広げられた。
END
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