2度目の高校生活も、慣れてしまえば違和感は消える。

 2度目であるだけに慣れるのも早く、工藤コナン(外見年齢15歳)は入学して1週間も過ぎないうちに、HR中にうとうとするずうずうしさを身に着けていた。
「あー工藤」
 すると、教壇を下りようとしかけていた担任の小川氏から呼びかけられる。
「はいはい」
 その上、手招きまでされるので、嫌々ながらコナンは後をついて廊下に出た。
 同じ学年の他のクラスはまだHRが終わらないらしく、廊下にはほとんど生徒の姿はない。
「今朝、職員会議で急に言われたんだけどな」
 あさっての方を向いて、中年の国語科教師が何とも歯切れの悪い言葉を紡ぐ。
 俺は国語の教師とは昔から相性が悪いんだよな〜などと思いながら、コナンは次の台詞を待って。
「お前、球技大会委員をやれ」
「は?」
 そして言われた言葉に絶句した…。
「ゴールデン・ウィークの間に授業をするのも馬鹿らしいから、学年で球技大会をやるのだそうだ。」
 この先生はベテランだが、昨年まで中等部にいたとかで、高等部の事情には明るくない…らしい。職員会議で言われたから伝えているという様子がありありと見て取れる。
 しかし担任の事情なんて知ったことではない。
「なんで俺が!?」
 噛み付くように抗議の声を上げたコナンだったが。
「ま、よろしく頼むな!」
 ポン、と日誌で肩を叩くだけで、小川先生は職員室へと戻って行ったのだった…。





 …なんで俺が球技大会委員なんてやんなきゃなんねーんだ?
 
 放課後、担任に指示されたとおりに会議室へと向かいながら、コナンの内心では不平不満が渦巻いていた。
 とにもかくにも、めんどくさいの一言に尽きる。
 係とか委員とか、昔から大嫌いだった。諸事情により小学生のフリをしていた頃でさえ、できる限り逃げ回っていたものである。
 好きな推理小説を読んだり、事件に首を突っ込んだりする時間が減るのがもったいない。
「…めんどくせー」
 …あの先生、絶対人選を間違えている!
 はぁぁ、とため息を吐きながらドアを開けると。
「灰原〜?」
「…あらホント、奇遇ね…」
 同じ境遇の灰原哀の姿がそこにあって、コナンはドアを開けた姿勢のまま固まった。
「お前まさか、お前が球技大会委員!?」
 自分がやるよりも、更に恐ろしい気がする。
 信じられないとコナンが呆然としていると、彼女は無表情に言った。
「私だって好きで引き受けたわけじゃないわよ。」
 それはそうだろう。たとえ天と地がひっくり返っても、哀が球技大会委員などというものを進んでやりたがるとは思えない。
 窓側の席で黄昏ている彼女の隣の席に腰を下ろして、コナンは横目で哀を見た。
「お前はなんで?」
 コナンの場合は問答無用で、抗議してもきれいに無視されたわけだが、哀はどうしたのだろうと思って尋ねる。
 すると彼女は、疲れたとういうように目を閉じて、こう答えた。
「出席番号なのよ。まったく、無意味な制度を考えるわよね、日本人って。」
「…なるほど…」
 元々アメリカ育ちで、しかも2度目の義務教育も海外で終えた彼女らしい意見である。
 そしてなぜ彼女が出席番号で選ばれるのかというと、現在の本名が「阿笠哀」となっているからだ。
「にしても、この年齢(トシ)にもなって球技大会かよ〜」
 委員もだが、球技大会そのものもめんどくさい。
 コナンは冷んやりした机に頬をつける。
「この年齢にもなって、セーラー服を着ている方がどうかと思うけど?」
 下方から見上げてくる視線に、私も嫌なのよ、と返す哀。
「まーなー」
 実年齢を考えれば、高校に在籍すること自体が異常なのはそのとおりである。
 コナンは机に突っ伏したまま目を閉じた。



「あれ、1組の工藤だろ?」
「…あの2人って、付き合っているのかなぁ?」
 廊下側の席から、そんな2人の様子を窺う男子生徒たちがいた。
「2人とも外部進学だろ?中学が同じだったとかじゃねーか?」
「阿笠って美人だよな〜」
 この2人には、あの2人の会話は聞こえていない。…聞こえていたら大変だろうが。
「こんな委員なんて嫌だったけど、こうなりゃチャンスじゃん?」
 などと一般生徒が平和な会話をしていると。
「コナン君〜vvv」
 ガラガラと音を立ててドアが開いたと思ったら、女の子のはしゃいだ声が会議室に華やいだ空気をもたらした。
 窓側の席に迷わず走っていくのは吉田歩美。中学からの内部進学生だ。
「歩美ちゃんまで!?」
 何故「まで」という表現になるのかギャラリーには分からないが、がたっと椅子を引いてコナンは立ち上がる。
「コナン君が委員になったって聞いて、立候補したんだ!ね?」
 歩美は嬉しそうにキラキラした目をコナンに向けて、それから後ろを振り返った。
 彼女の後ろには大人しそうな女子生徒がついて来ている。歩美と同じで内部進学の塚原真紀というが、彼女もなかなかの美少女だ。
 …吉田と塚原まで!!
 ラッキー♪という顔でニヤリと笑い合う男子生徒2名。
「なんで知っているんだ?」
 どこからそんな情報が伝わったのかと、ギャラリーなんて眼中にはないコナンは首を傾げた。
 コナンは自分では誰にも言っていない。まだそれほど友人もできていないし、今更そんなに友人を欲しいとも思わない彼である。
「職員室で小川先生が言っていたんだよ〜!ほら小川先生って、中等部でずっとウチの学年の担任だったし」
「…あのオヤジ〜!!」
 歩美の正直な言葉にコナンは地団太を踏んで悔しがる。
 言いふらす余裕があるなら説明しろ、と今からでも抗議に行きたいところである。
「…ま、たまには普通の学生みたいな経験をしておくのもいいんじゃない?」
「お前はまた、他人事だと思って!」
 薄情なことを言う哀を睨んでいるが、唇を尖らせるその顔は子供のようである。
「だって他人事だもの。」
「は〜い〜ば〜ら〜!!」
 低い声で名前を呼んでも、どちらが優位かなんて明白だ。
 すると、歩美が不安そうな面持ちでコナンを見た。
「コナン君、もしかして歩美たちと一緒に委員をやるの、嫌なの?」
 彼女がうるうると瞳を潤ませているのは演技ではない。
「ええと」
 …やべえ、泣かせた?
 内心で冷や汗を流しながら、コナンは無理やり笑みを作った。
「そんなことないよ、歩美ちゃん。ほら俺とか灰原は外部生だからさ、よくこの学校のこと分からなくて…」
「相変わらず外面だけはいいのね。」
 何とか慰めようと必死で言い訳するコナンの背中に、ぼそっと呟く哀。
 …覚えていろよ、灰原!
 コナンはこめかみがヒクヒクと引きつるのを感じながらも、笑みを崩さない。どうも昔から歩美にだけは弱いのだ。
「ホント?」
「歩美ちゃんに嘘なんて吐かないよ…」
 自分でも胡散臭いと思いつつ、コナンがどこぞの結婚詐欺師のような台詞を口にした、まさにそのとき。


 ガラガラガラ
「集まってるかー?」
 殊更ゆっくりとドアが開けられて、聞き覚えのある声が耳に入ってくる。
 コナンはギギギと音がしそうなほどぎこちない動作でドアの方を振り返った。
「あれ?コナンちゃん?」
「…マジ?」
 ファイルを手にしたままコナンと哀とを目を丸くして見つめてくる若い数学教師の姿に、コナンは哀の姿を認めたとき以上に愕然とした。
 コナンと哀、歩美、そして黒羽快斗。8年前の因縁が恐ろしい。
「…ここまでくると、偶然というのも馬鹿らしいわね…」
 コナンの隣では哀までため息を吐く。
 そんな2人の内心を知っているのか知らないのか、快斗はニコニコと楽しそうにこっちに向かってくる。
 入ってきた瞬間のやる気ゼロの雰囲気は一瞬で消えているところが彼らしい。
「コナンちゃんが執行委員で来てくれるなんて〜vvv退屈な仕事もバラ色になるよ!」
 緩みまくった表情でそんなことをほざいてくる快斗だが、これでも教師である。
「まさかテメーの陰謀じゃねーだろーな?」
 胡乱げに尋ねたコナンに、快斗はブンブンと首を振った。
「俺だって執行委員の顧問なんて、めんどくさいから嫌がったんだよ!だけど若いからって押し付けられてさー。でもコナンちゃんと一緒ならいいけど」
 教師の世界も所詮サラリーマンである。上には逆らえないのだ。
「てか『ちゃん』とか言うなよ!いいトシした男に使うもんじゃねーだろ!」
 コナンはじろっと快斗を上目に睨む。
 小学生の姿だった頃ならともかく(あの頃だって非常に不本意だったが)、男子高校生に対して「ちゃん」付けなどするものではない。実年齢がタメの相手なだけに、自分だけ子ども扱いされているようで余計に腹が立つものだ。
「えー!?だってコナンちゃん相変わらず可愛いしvvv」
 コナンとしては常識的な要求だったと思うのだが、快斗は頷こうとはしない。
「気色悪いこと言うな〜!!」
 可愛いって何だよ、と机を蹴り倒さんばかりの勢いで叫ぶコナン。
「じゃあ綺麗って言った方がいい?」
「どっちも却下だ!」
 憤慨して即答を返すと、快斗は、えぇー?などと首を傾けてコナンの同情を引こうとしてくる。それが更にコナンの気に障った。
「どっちも褒め言葉じゃねーだろ!!」
「ねえ、そんなことはどうでもいいけど、執行委員って何?」
 そこに割り込んで、哀が快斗に問いかけた。
 …「そんなことはどうでもいい」って。
 彼女の冷たい言葉にコナンは不満だったが、よく思い返してみれば彼女の疑問はもっともなものだ。
「そうだよ、俺、球技大会委員だろ?」
 執行委員なんて単語は初耳だった。
「え?聞いてないの?」
 そして、快斗が答えるよりも先に、歩美が不思議そうに訊いてきた。
 歩美の友人も、他の委員と思われる男子生徒たち(彼らはちょうどそのとき、「何故、工藤は先生に対してあんなに偉そうなんだ?」「工藤ってもしかして最強!?」と囁き合っていた)も、何故知らないのだという顔である。
 コナンと哀は思わず顔を見合わせた。…嫌な予感がする。
「球技大会って、生徒会の仕事なんだよ?」
 そんな2人の予想に違わず、歩美はとんでもないことを言ってくる。…親切心から教えてくれている、わけだが。
「え?」
 生徒会って何だよと訊きたいが、訊くのは怖い気もする。
 すっかり血の気の引いた顔でコナンが固まっていると。
「あのねコナン君、球技大会委員っていうのは生徒会執行委員の別称なんだ…」
 すごく言いにくそうに、快斗が説明を加えた。
「執行委員ていうのは要するに生徒会の下部組織みたいなもんで、1年生は各クラスから1名ずつ出さなきゃならないことになっているんだよ。ほら、1年は生徒会の役員がいないから、学年行事ができないだろ?それで…」
「ちょっと待て」
 抑揚のない声でコナンがその説明を遮る。
 何となくコナンの一挙一動を息を潜めて見守る一同の前で。
 据わりきったコナンの目が快斗を捕らえた。
「なんで俺がそんなのやんなきゃなんねーんだよっ!?」
 切れる寸前、どころか、どう考えても切れている。
「え…と、でもそれ俺のせいじゃないよ?」
「うるさい!どーにかしてこいよ、黒羽!!」
 コナンはすでに理性などというものはなくなって、仮にも教師を呼び捨てにしていることにも気付いていない。ま、今更ではある。
「そんな無茶を言われてもさ…」
 いくらコナンの頼みでも無理なものは無理なのである。
 快斗が弱り切って目で哀に助けを求めると、彼女には横を向かれてしまうし…。
「黒羽!俺の言うことがきけねーのか!?」
「いえ、そりゃ愛するコナン君のためなら、できることは何でもしますけど!!」
 でも不可能ってものも…と続ける快斗だったが。
「…愛する…?」
 また別のところからツッコミが入る。
 誰かと思えば、1年6組代表の塚原真紀。ことの成り行きを黙って見守っていた彼女も、さすがにその台詞は聞き逃せなかったらしい。
「ええっ?もしかしてコナン君、黒羽先生とラブラブなの〜!?」
 そこにショックを受けた歩美が追い討ちをかける。
「ち、違うよ歩美ちゃん!!」
 慌ててコナンは歩美の方に向き直り、言い訳しようと試みるが。
「もしかして先生とラブラブだから執行委員が嫌なんだ?」
 邪気のない瞳で見上げられて、うっと言葉に詰まった。
「ええっと…」
 ここで否定したら、委員を断れなくなる。が、肯定したら…。
 …黒羽とラブラブだなんて冗談じゃない!
「諦めて執行委員でも何でもやった方がいいみたいね。」
 最後に哀の出した結論に、コナンは泣く泣く頷いた………。





 こういうわけで。
 翌日には全校に「工藤コナン最強伝説」(教師より強いから)が広まり、さらに一部の女子生徒の間では「1年1組の工藤君と数学の黒羽先生はデキてる説」が囁かれることになったのだった(笑)。



                                            Happy End.


(コメント)
 微妙に続きそうな雰囲気ですが、とりあえずはこれで終わりです(笑)。
 そして果たして噂は真実なのか?お好きなように解釈して下さいませ。

                                         2002年2月27日
                                           小夜 眞彩


続きそうです本当に。続き見てみたいですよ。
最強伝説はいいですがデキてる説はきっとコナン君暴れまくりでしょうね。
噂しあっている人をかたっぱしからとっつかまえて否定してそうです。
でも相手が女子では手も足もでないか。
反対に質問責めにあうかも(笑)
  By縁真


 
In a high school 2
(教師と生徒)