高等部生徒会1年執行委員・1年6組代表塚原真紀。
彼女は中等部時代から純和風の美少女として学校中の有名人だった。
…しかし、彼女は只者ではなかった…。
最近、女子の間で密かに囁かれている噂がある。
いわく『数学の黒羽先生に恋人出現!?』
驚くべき勢いで全学年に広まったこの噂の出所が、他でもなくこの寡黙な美少女風の真紀だということを知る者は数少ない。
だが彼女がそんな噂を広めたのには、涙なしには語れない事情があった…。
実は真紀は、3年前から黒羽先生のファンだった。
彼女の中等部入学と、黒羽先生の着任は同時期だった。入学して早々に学級委員を押し付けられた彼女は、たまたま中等部の職員室に挨拶に来ていた黒羽先生を見かけて、見事に一目ぼれしたのである。
当時、彼女は12歳。
黒羽先生は22歳で独身だった。しかも顔もスタイルも申し分なく、性格も明るくて話も面白い。これでファンが付かないわけがなく、高等部だけではなくて中等部でもかなりの人気を誇っていた。
が、当の先生はというと、無数の女子の熱い視線も軽く受け流しつつ、軽そうに見えて(笑)浮いた噂のひとつもなかった。まぁ、単にサワヤカという形容詞では語れない人物だということは間もなく明らかにされるわけだが。
で、そんな数学教師に降って沸いた始めての噂。
高等部1年1組工藤コナン。ついでに言うなら、真紀と同じく生徒会執行委員のメンバーでもある。
入試は全教科満点という秀才で、とにかく容姿端麗。そのままアイドルにでもなれそうな彼だが、縁なしの眼鏡がどことなくインテリジェンスな雰囲気を醸し出している。真紀は彼が新入生代表として壇上に上がった姿を目にしたとき、あまりの美少年ぶりに驚いて、そのまま貧血を起こしそうになったほどだった(笑)。
黒羽先生の噂の恋人は、何を隠そう、この美少年だった!!
もしかしなくても教え子で(授業は担当していないらしいが)、どれほど美形でも、れっきとした男子生徒である。
真紀が執行委員(兼球技大会委員)に立候補したのは、中学からの友人である吉田歩美に誘われたこともあったが、第一の目的は黒羽先生に近づくことだった(笑)。
その上、超有望株の美少年・コナンがもれなくついてくるのである!!
先生は教師という立場もあるし、10歳も年齢が離れているし実現不可能だとしても(何が?)、コナン君は充分に実現可能だ!
コナンは本当に好みのタイプだった。真紀はおとなしそうに見えても、きっぱりとメンクイだ。
…まぁ、歩美との友情を考慮して、自分からは動かないとしても、コナン君の方から来るなら拒まないわ、という感じである。
それなのに。(ああ、それなのに。)
よりによって、理想の2人がアヤシイ関係だなんて………!!
友人の歩美はショックを受けていたようだったが。
真紀は…何て美味しいシチュエーションなの!?と密かにかなり喜んでいた(笑)。
そんなこんなでスタートした1年執行委員会。
当の本人たちは知らずとも噂はかなり広まっていたが、あまりに美味しい噂だったため、男子生徒や教師などには絶対の秘密として隠し通されていた(笑)。
したがって、現在のところ至って平和に執行委員会活動は進められており、近づいてきた球技大会の準備のために、今日もまた放課後を潰して集まることになっていた。
そして今日。歩美が掃除当番だというので1人で会議室に向かった真紀だったが…。
「ねーねー遊ぼうよ、コナンちゃんvvv」
ドアの前に立った瞬間に耳に入った台詞がこんなだったため、ピタッと動きを止めた。
断るまでもないだろう、黒羽先生の声だ。
…思わず真紀はドアに耳を付けて会話に聞き入った(笑)。
「そーいう呼び方すんなって言ってるだろ!」
甘えモード全開の黒羽先生に対して、素っ気ない口調で返すコナン。
「え〜かわいいからいーじゃん」
「ケンカ売ってんのかてめーは!」
「愛情表現だってそろそろ分かってくれないかな?」
「くだらねーことばっか言ってんなら出てけよ!」
まるで痴話ゲンカのような会話に(いや、本当に痴話ゲンカなのかもしれないが)、真紀は周囲の状況も忘れてただ聞き入る。
「下らなくなんかないよ…俺8年、待ったんだよ?」
突然、真剣な色を帯びる黒羽先生の声。
「コナン君に会えなくなってから、8年間ずっと探していたのに、信じてくれないんだ?」
…8年。本当だとしたら、まだ真紀たちが小学生の頃の話だ。
「…だってあれはお前が…」
コナンが否定しないということは、本当に8年前に何かあったのだろうかと、真紀は訝しく思いながらもドリームが膨らむのをヒシヒシと感じていた…。
…8年間も思い続けたまさに純愛!ビューティフル!!
「コナン君、8年前は俺に生命を預けてくれるつもりだったんだよね?」
事情は全く想像できないが、それにしても。
「…お前があのとき、逃げなければ…」
強気だったコナンの声が小さくなった。
真紀は一言も聞き逃せないと、ピッタリとドアに張り付く。
「ごめん。謝ってもやり直せないけどさ…でも、こうしてまた会えたんだから。もう1度、俺にチャンスをくれない?」
「今更、何を言い出すんだよ!」
まさか外で聞き耳を立てている人間がいるとも思わずに、会議室の中で2人の世界は盛り上がっている。
「…もしかして、もう俺のこと嫌いになった?」
その言葉とともに、ガタ、と机が動く音がする。
黒羽先生が動いたのか、コナンが逃げたのか。
「…………」
何か囁かれたようだったが、小さい声で聞こえない。
惜しい!!と悔しさに拳を固めた真紀の背後から。
「…何やってんの、塚原さん?」
どうでもいい男子生徒その1(真紀視点)、関口和仁が不思議そうに声をかけてきた。
「………」
邪魔である。人畜無害なその顔を見て、真紀はまずそう感じた。
中の2人がせっかくいい雰囲気なのにここで邪魔されては堪らないし、自分が中の会話を聞くのにも邪魔だ。
どうしようかと思っていると。
「中に入らないの?」
更に後ろから阿笠哀がやって来るのが見えて、それが真紀には神の使いのように思えた!
(哀ちゃん、今、あの2人がいい感じなの)
(あら、それは邪魔しては悪いわね)
(そうなの、だからこの邪魔者どこかに捨ててきてくれない?)
(任せて)
…どういう魔法か知らないが、哀は真紀と視線だけでそれだけのコミュニケーションを取り合うと、無理やり関口君を引きずってどこかへ消えていく。
ありがとう、同志よ!
…何だか恐ろしい同盟ができつつあるような気がするが、それはさておき。
「馬鹿やろー!」
突然の悲鳴のような声に続いて。
「工藤の分からず屋!!」
ペシっと痛そうな音が聞こえてきて、さすがに真紀も固まった。
そしてバタバタとうるさい足音が近づいてきて、ガラガラと…
ドアが開いて中から黒羽先生が飛び出してきた瞬間に。
「………」
「うわっ!」
無言で真紀が出した足につまづいて、黒羽先生はひっくり返った。
そんな先生には構わずに、真紀は中を覗き込む。すると左頬を赤く腫らしたコナンが心から驚いたように真紀のことを見つめてくる。
真紀は一言も口を開かずに彼の元まで歩いていって。
「先生」
ちらっとドアのところに視線を向けてから、呆気に取られているコナンの首に手を回して引き寄せて、軽くその唇にキスを贈った………。
「なっ…」
とたんに真っ赤になるコナンにクスっと笑みを見せて。
「コナン君を泣かせたら、私がもらっちゃいますから!!」
呆然として動けない黒羽先生に、高らかに宣言した…。
The End.
(コメント)
タイトルから思いついて書かずにはいられなかったギャグです(笑)。どこからどう読んでもラブラブ快コなのに、果てしなく何かが違う…。
一歩間違えば、シリアス快コになるんですけどね(笑)。
そして、密かに続く…。(どうやら気に入ったらしいです、このシリーズ)
思った以上に真紀ちゃんがいい位置を占めていて縁真はドキドキです。
哀ちゃんとツーカーの仲の上、黒羽先生に足を引っかけて転がすという大胆な技。
そして二人が怪しい仲と知り「美味しいっっ」と思ってしまうあたりもうバッチリです(何が(笑))
By縁真
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