日常=非日常




 日常。

 学生である俺。


 非日常。

 白い衣装の俺。






「馬鹿だな」

 目の前で胸焼けしそうな珈琲を口にする名探偵はあっさり言い切った。
 俺はティオレを口にする。
 甘い。
 少し砂糖を入れすぎた。

「お前、そんなに境界線を引きたいのか」

 名探偵を見れば口蓋を微かに上げたすけた笑み。
 だが、眼差しはきつくはなかった。

「境界線?」
「そう」

 頷きカップに口をつける。
 そのさまは可愛らしいがそれは胸のうちに留める。
 下手な一言は逆鱗に抵触する。
 一口だけ口に含みテーブルにカップを置き、背凭れに身体を預けて腕を組む。
 まこともって偉そうな態度。これに慣れてきている俺もどうかと思うのだが。
 すいっと目を細めて俺を見る。

「自覚がねえってあたり末期だな」

 肩を大仰に竦める姿は小憎たらしいが様になるから不思議だ。

「お前が日常非日常と称した二面性を個々に独立させた場合、少なくとも、俺はお前が日常と称する『黒羽快斗』とは面識はねえってことで、俺はお前にとって非日常側の住人になるわけだ」

 反論しようとした俺の先を片手で制す。
 黙って聞けと言うことらしい。

「だが実際はどうだ?
暇さえあればこうして『俺』と会ってるだろ。この時点で、お前の行動自体が独立した世界への干渉であり、二面性の崩壊となる。それでもお前は俺と会うのは止めない。この行動を矛盾と感じていない。はなから、矛盾とも思っていない。それなのに、昼と夜との境界線を引こうとする。
で、堂々巡りの悪循環って訳だ。いい加減に矛盾に気付けよと言いたいが、気付かないからの言動に何を言っても無駄だな」

 処置なしと断言して足を組みなおす。
 即断即決に口を挟む間もなかった。
 俺の日常非日常。
 昼と夜の俺の違いは明らかなのに、その境界線はないと名探偵は言う。
 ならば目の前の彼はどうなのか?
 俺の視線の意味に気付き、やけに自信満々の笑みを刷く。

「俺はどうなんだって言いたいんだろ?生憎、俺は俺。誰になんと呼ばれようが変わらない。大体、固有名詞などその他大勢に埋没する個々を判別させるためだけに与えられた音に過ぎない。その音に囚われる謂れなどない」

 そういう事だと俺を見る。

「お前がなんと言おうともお前はお前であることに変わりはない。なぜなら二面性を持つお前を俺は知っている。日常非日常と称しても俺にとってはただの日常に過ぎない。昼だろうが夜だろうがな」

 にっと口元を上げる名探偵に俺は言葉を失った。
 彼の言葉は俺という存在の肯定。
 別にわかって欲しいとかそんなものは今までなかったし、これから先もない。所詮他人の立場に立って考えてみましょうなんて言われてもわかるわけがない。本人にしかわからないからだ。
 俺と名探偵なんて水と油。
 理解しよう、理解されようなんてさらさら思いもしないが、俺が居ることを肯定する存在は貴重だ。
 まじまじと目の前の彼を見詰めてしまった。
 そんな俺の目の前で珈琲を呷り、名探偵は付け加えた。

「まあ、存在意義に疑問を持ったら一言言ってくれ」
「慰めてくれる?」

 小首を傾げる俺に名探偵は軽く笑う。

「バーロ。警察に突き出してやるよ」

 後腐れなくていいだろと。
 絶句。
 そして、じわじわと笑いが込み上げる。
 やっぱり、いいね。お前のそういうところって。

「名探偵ってば最高っ」

 腹を抱えて笑った俺は煩いと怒鳴られた。




 ふいっと名探偵の視線が窓越しの通りに移り、にっこり笑みを零して手を振る。
 あまりの無邪気な笑みにつられて見れば名探偵の幼馴染が駆け寄ってきた。

「そっちに行くから」

 大きな声で硝子越しに彼女に伝え、よっと椅子から立ち上がる。
 一瞬俺を見る顔がふてぶてしく笑みを象る。

「生きている以上自分の居る場所が日常なのさ。どんな状況でもな」

 伝票を指差す。

「相談料」
「はいはい。今日は貴重なお時間を割いていただき誠にありがとうございます」

 慇懃にお辞儀をすれば鼻先で笑われた。
 小生意気。
 正直に思った俺に名探偵はにこっと無邪気に笑って踵を返す。
 小走りで出入口に向かう途中で振り返り手を振る。

「じゃ〜ね。快斗兄ちゃん」
「はいはい、元気でね。コナンちゃん」

 ひららっと手を振る俺にくすりと笑みを零し駆けて行ってしまった。




 高校生から突然小学生になっても変わらない名探偵。

「あいつの順応性は尋常じゃねえけどね」

 俺は伝票片手に次回の予告の内容をどうしようかとそんなことを考えて、ふと気がついた。

 突然怪盗をやり始めた俺。
 俺もあいつのことは言えないな。


「誠心誠意を込めて予告でもつくりましょうかね」


 これが俺の日常。


2002/04/06








縁真さまへ

地雷「19876」贈呈品で御座います。
拙い文章ですがお受け取りください。

八重垣菅流




ありがとう八重垣様っ。
こんな素敵な小説頂けて幸せです。
なんて言うか見事に最後まで騙されましたっっ(笑)
絶対新一だと思っていたのにコナンちゃぁぁぁん。
素晴らしいです八重垣様。
二人の会話が一般的高校生の規格を大いに外れているような所がまた
知的っって感じで格好いいですねぇ。特にコナンちゃん。本当に探偵さんだわと
思わされました(それじゃあ一体なんだと思ってたんだ(笑))

By縁真