関口:ところで疑問があるんだけど…

真紀:何?

関口:『K&Kラブラブ推進委員会』っていうけどさ、あの2人、仮にも教師と生徒なのに、学校で堂々とラブラブしていていいの?

真紀:残念ながら、まだ堂々とラブラブはしてないのよ…コナン君が手ごわくてね(ため息)

関口:…でも黒羽先生の行動を見ていたら、気付く人間もいると思うんだけど…

真紀:ああ、そうね。女子の間では一応、『工藤コナン君は数学の黒羽先生の恋人らしい』ってウワサが通説になっているんだけど

関口:…あるんじゃないか、ウワサ…

真紀:フフ。でもコナン君には別のウワサもあるんでしょう?

関口:………………(無言のまま真っ赤になる)

真紀:コナン君を色っぽくしているのは黒羽先生なのよね〜vv

関口:そ、それはそうかもしれないけど…!!

真紀:というわけで、今日も張り切って『K&Kラブラブ推進委員会』の活動に励みましょう!!

 

 

In a high school 8(ウワサの真相スペシャル〜突撃レポート・お昼のインタビュー〜)

 

 

 当然だが、高校には昼休みというものがある。

 それどころか昼休みがない学校なんて有り得ないわけだが、特筆すべき事項として、この高校には、高校には珍しく(?)昼休みに全校に流される「お昼の放送」なるものが存在していた。

 これまた当然ながら、「お昼の放送」は放送委員会が仕切っている。

「というわけで」

 中間試験が終わった6月の初めのある日に開かれた委員会で、委員長・中林が言った。

「来週の月曜日の例のレポートは、全校生徒が注目する例のウワサの真相を突き止めることにします。」

 異論のある人はいませんか、と続く台詞に。

「賛成で〜す!!」

 誰一人として異論を唱える者がいなかったのは言うまでもない。

 

 

 

 ――そういうわけで6月最初の月曜日。

 

 今日もまた、定例の委員会のため生徒会1年執行委員の面々は、いつもの会議室に集まって弁当を広げつつ話し合いをして――いなかった。

「工藤、遅いな〜」

 大きなおにぎりにパクつきながら、太田が誰にともなしに言う。

 すると、その隣でサンドイッチを手に取った関口がため息を吐いた。

「黒羽先生もな…」

 何となく疲れたような顔で呟いた言葉は、会議室にシーンとした空気をもたらす。

 そう。

 どこで何をしているのか知らないが、顧問の黒羽先生と、何となくなし崩し的に責任者となりつつある工藤コナンが来ていないのだ。

 おかげで会議が始められない。

「心配しなくても、そのうち来るわよ」

 冷淡ともいえる哀の台詞は、会議が始められないことをマジメに困っている者がこの場には1人もいないことを端的に表している。

「きっと2人で仲良くどこかでこっそりランチしているのねvv

 そして続く真紀の一言に、相変わらず純情な(?)関口と太田が同時にむせた。

 一々動揺していては身がもたないのだが、若い彼らには真紀の発言は刺激が強すぎるらしい(笑)。

「え〜ここで食べればいいのにね!」

 そんな男子の反応と対照的に、真紀の隣では、どこまで理解しているのかイマイチ不明な歩美がちょこんと首を傾ける。

「あら、ラブラブvvランチタイムを邪魔しちゃ悪いよ、歩美ちゃん!」

「………まぁ、こんなところでイチャイチャされても困るしね……」

 真紀と哀がそれぞれ意見を述べると、歩美はふーん、と相槌を打ってジュースの紙パックを手に取る。

 そこで何とはなしに沈黙が訪れたのだったが………。

 

 

 

「さて、今日もお昼の放送の時間がやって参りました!」

 マイクを手に、1名の男子生徒が廊下を歩いていく。

「毎週月曜日のこの時間にお届けする『突撃レポート・お昼のインタビュー』、レポーターの2年5組瀬戸弘樹です♪」

 その後をぞろぞろと機材を抱えた男子生徒がついていっており、何とも異様な光景が狭い廊下で繰り広げられていたわけだが。

「さて、今週の突撃レポートはすごいです!!私、瀬戸弘樹の渾身の力を振り絞ってお送りしたいと思います!」

 マイクを握り締め、かつ、マイクを持っていない方の手まで握り締めて力強く語るレポーター瀬戸の声が廊下に響き、マイクから機材を通じて全校へと放送される。

「今日は決死の覚悟を持ちまして、現在、恐らく全校生徒の注目を一身に集めているであろう美少年、1年1組工藤コナン君に突撃レポートをしてみたいと思いますっ!!」

 

 

 

 

『今日は決死の覚悟を持ちまして、現在、恐らく全校生徒の注目を一身に集めているであろう美少年、1年1組工藤コナン君に突撃レポートをしてみたいと思いますっ!!』

 ブッ

 その放送が会議室に流れた瞬間、関口と太田はそろって食後のお茶を吹き出した。

 さすがの真紀も咳き込んでいるし、哀も目を丸くしている。

「え?コナン君なの?」

 歩美がきょとんとして言うが、誰も答えを返すことができなかった。

 何と言うか、まさに寝耳に水。当人がここにいないから確認できないが、きっと当人にしても不意打ちだろう。

 まあ、だからこそ『突撃レポート』というわけだが。

『工藤君は外部から進学した1年生で、まだこの学校に通うようになって日が浅いわけですが、皆さん、工藤君の存在はご存知だと思います!』

 執行委員の面々が何とも言えない表情で互いに顔を見合わせている中で、レポーターの説明は続いていく。

『成績優秀、頭脳明晰、容姿端麗エトセトラ…と、彼をいい意味で形容する言葉は尽きないわけですが、それにしても!!』

 …それにしても?

 思い当たる節は山ほどあって、何となく嫌な予感を感じていると。

『入学してまだ日が浅いにもかかわらず、彼にまつわるウワサの数は1つや2つではありません!今回はその真相に一歩でも近づくべく、私のジャーナリスト生命をかけても、彼の素顔に迫っていきたいと思いますっ!!』

 …やっぱり…。

 引きつった笑いを浮かべながら、太田と関口は同時にため息を吐いた。

 真紀は何やら難しい顔で考え込んでいる。

「ねぇ哀ちゃん、ウワサって何?」

 1人だけ、あまりよく事情を把握していない歩美が哀に訊いた。

 哀はクールな表情のままで僅かに眉を動かす。

「そうね…」

 口元に人差し指を添えた彼女は、少し考え込む素振りを見せる。

 長い付き合いなだけに、諸事情を考慮して、回答を決めなければならない。

「簡単に言えば、工藤君がモテるってことかしら」

 …しかも同性にね。

 という哀の心の中の注釈は、歩美以外の全員に正確に伝わった。

 ま、どんなものであれ、共通認識は大切である。

「てことは…放送委員、ここに来るのかな?」

 引きつった顔はそのままで、何とか少しは冷静さを取り戻した関口がドアの方を振り返った瞬間。

『はい、1年執行委員会が行われている会議室前にやってきました!』

 という声がスピーカーから流れた。

 

 

 

 ドンドン

 ドアの材質のせいでどうしても重くなってしまうノックの音。

 ほとんどドアを叩いているようなものだが、現在の問題はそんなことではない。

「…どうする?」

 ドアから最も近い場所に座っている太田が恐る恐る女子の顔色を窺うと。

「とりあえず私が行きます!」

 真紀がさっと席を立ち、スタスタとドアのところまで歩いていく。

 さすが、行動力ではこの中で抜きん出ているだけのことはある、迷いのない姿だ(笑)。

そして彼女は躊躇わずにドアを引いた。

 ガラガラ

『こんにちは1年執行委員の皆さん、そして失礼しまーす!放送委員、突撃レポート・お昼のインタビュー、レポーターの瀬戸ですっ!』

 レポーター瀬戸の声が素の声と、マイクを通しての声と、スピーカーから放送される声との3重になっている。

「はい?」

 何の御用でしょうというふうに、美しい微笑を湛えて真紀は小首を傾げた。

さすが塚原真紀、完璧におとなしい美少女を演じて切っている。

「え、えっと…」

 そのかわいらしい雰囲気に呑まれたかのように、一瞬、レポーターが凍りついた。

「工藤君にインタビューさせて頂きたいんですけど…」

 しかしレポーターの瀬戸弘樹、『ジャーナリスト生命をかけて』という言葉はダテではなく、すぐに立ち直って会議室の中に足を踏み入れた。

 そして、人口密度の低い教室をぐるっと見回す。

「あれ、工藤君はお休みですか?午前中はいたと思いましたが?」

 おかしいな、と顔を顰めるレポーターおよび機材係の疑問はもっともなものである。

 コナンが来るはずなのに来ていないという現状は、他でもない執行委員の一同の方がよく分かっているのだ。

「えっと、コナン君はちょっと席を外しているんですけど…」

 一同の内心を代表して、困り顔の歩美が答えた。

 ここにいる中で唯一歩美だけが事情を把握していないだけに、その返事に他意はなく躊躇いもない。

「あれ?ま、いいか…」

 首を捻りながらレポーター瀬戸は、ずずいっとマイクを近くにいた真紀に向けた。

「では工藤君を待つ間、1年執行委員の皆さんに少々お話を伺いたいと思います。まず、あなたは…」

「1年6組代表の塚原真紀です!」

 はにかんだ様な笑みを見せながらも、真紀の口調はやたらときっぱりしている(笑)。

 その勢いに気圧されたかのようにちょっと体を引いてから、営業スマイルを真紀に向けてレポーターは質問した。

「では塚原さん、1年執行委員の中で工藤君はどんな人ですか?」

「彼はみんなの宝物みたいな存在です!!」

 にっこり。

 極上の笑みを添えて真紀が答えると、レポーターの目がきょとんと見開かれる。

「宝物、ですか?」

 予想外の返答だと思っているのがありありと伝わってくる。

「工藤君は私たちのアイドルで、私たちはいつも彼の幸せを応援しているんです」

 そんなレポーターのとまどいなんて無視して、真紀は後ろを振り返った。

「ね、関口君、太田君?」

「…ええ、そうなんです実は。」

 同意を求められて、乾いた笑みを浮かべながらも肯定する太田。

 関口もコクコクと頷いてみせる。

「執行委員は工藤を中心に回っているっていうか、まぁそんな感じで…」

 …嘘ではない!と心の中で言い訳をしているのはどうなんだろうという感じだが、ま、確かに嘘ではないだろう。

 それぞれ思惑と意図は全く異なるのだが、工藤コナンという存在が執行委員の他のメンバーに与える影響の大きさは並ではないのだ。

「というわけで、工藤君の幸せは執行委員全体の幸せ。工藤君の幸せの障害はすべて執行委員の敵とみなしますvv

 太田と関口の反応に満足げに頷いてから、真紀はまたにっこりと笑ってとんでもないことを言い出した。

 明るい口調で怖いことを平気で言うのが彼女の強さだ(笑)。

「はぁ…では次に、そちらの方は…?」

 冷や汗を額に浮かべて、レポーターはそれでも笑みを崩さずに今度は歩美にマイクを向ける。

「1年5組の吉田歩美です。私はコナン君と小学校が一緒で…」

「おお!幼なじみですね!」

 今度はまともな話が聞けそうだと、レポーターの顔が本気で輝いた。

 やはり真紀のことは怖かったらしい(笑)。

「幼なじみっていうか…同じクラスで。実は初恋の相手なんですvvv

 歩美は真っ赤になって、恥ずかしそうに告白する。

「コナン君は昔からカッコよくて、いろんなことを知っているし何でもできて、歩美のこと守ってくれたりとか、とにかく素敵なんです!」

「ほうほう!!」

 思わぬ収穫に顔を綻ばせるレポーター瀬戸だったが。

 そんなに世の中甘くはなくて。

「今も皆の人気者で、私もコナン君のことが大好き〜!!」

 湯気が立ちそうなほど真っ赤な顔で、歩美は言いたいことだけを言うと、照れ隠しのようにレポーターの背中をバンバンと叩く。

 これが全校に放送されていることを意識しているのかどうか、かなりアヤシイところではあるが…まぁ、それも今更なのでよしとして。

 ゲホゲホと咳き込んだレポーターは苦しそうに目の端に涙を浮かべつつ、最後の1人の元へと移動した。

 最後の1人…それは。

「あら、私にもインタビューしてくれるのね?」

 哀はこれほどの喧騒を他人事のような顔で眺めていたが、マイクを向けられた途端にニヤリと唇の端に笑みを乗せる。

 それは見た者をヒヤッとさせる凄みを持つものだったが、レポーターはぎこちない笑顔を貼り付けて頷いた。

「はい、宜しければ何か一言お願いします」

 学年的には先輩のはずなのに、すっかり下手に出ているのは無理もないだろう。

「そう…一言、ね」

 哀は横目でちらっと教室の前にある時計を確かめる。

 昼休みが終わるまで後10分。予鈴が鳴るまでは5分。

 …この時間を乗り切ればごまかせるってことよね。

「私と工藤君との出会いは、そう、忘れもしない8年前のことだったわ…」

 コナンにとって真の味方といえる可能性のある最後の1人は、どうやら今日はコナンを助けることに決めたようだ。

 遠い目をして語りだすかと思いきや。

「8年前に出会ったなんて言うと簡単なことのように聞こえるかもしれないけれど、全然そんなものでは済まないのよ。私たちが出会ったことによって電磁波が発生して磁界の変化を生じて周りの空間を変えていったの。」

 淀みなく紡がれる台詞は、しかし凡人には理解しがたいものだった(笑)。

「ああ、電磁波っていうのは振動電流があると、その電界の変化が磁界の変化を生じて、その磁界の変化が電界の変化を生じて、周りの空間に伝わっていくことなのだけれど、まあ、今更マクスウェルの理論なんて説明するまでもないわよね。」

「いえ、あの…」

 何かを言いたげなレポーターの抵抗など、哀が聞いてやるはずもない。

「ところで、電磁波と自由電子のことなんだけど、金属に電磁波があたると、自由電子は質量が小さいから敏感に反応し、電界と逆向きに力を受けて加速運動をするのはご存知かしら?電磁波の電界は時々刻々と大きさや向きをかえるのだけど、電子は電界の変化に応じて同じ周期の振動をすることになるわ。」

「ですから、その…」

「あら、まさか自由電子を知らないということはないわよね。実は私の専門は化学であって物理は少しかじった程度でしかないのだけど、その私でさえ自由電子について論文を書いたことがあるほどですもの。でもその論文はどちらかといえばイオンがメインテーマで…」

 キーンコーンカーンコーン

 哀がイオンの説明に移ろうとしたとき、幸か不幸か予鈴が一同の耳に届いた。

「あのっ、大変失礼ではありますが、予鈴ですので我々はこれにて…」

「あら、それは残念ね」

 すっかり青ざめた顔でマイクを手に、放送委員レポーター瀬戸弘樹とその他は会議室から出て行く。

 もちろん苛めるつもりで苛めた哀は満面の笑顔でその背中に止めを刺す。

「また来週いらっしゃい。今度はぜひ私の専門分野である遺伝子工学を講義してあげるから………」

 …来週どころか、二度とここへは来たくないんじゃないか?

 哀を除いた他の執行委員が全員そう思ったが、懸命にも誰も口には出さなかった…。

 

 

 

The End

 

 

(コメント)

 しつこいまでに記念企画シリーズ、今回は4000HIT記念企画です!

 主役2人の影も形もないままに、ウワサの真相スペシャルをお送りしました。これまで好き放題してきた工藤さんと黒羽さん両名と、敵か味方か分からない『K&Kラブラブ推進委員会』のせいで、すっかりアヤシイ関係が校内に知られ渡っているようですが、そんなウワサに対する全校生徒の反応は…ということで、放送委員会を出してみました(笑)。

 ところで哀ちゃんのトークですが、私は物理選択ではなかったので参考書から適当に引っ張って来ましたが合っているんでしょうか?物理、苦手だったので…(苦)。

 

2002年4月4日

BEYOND THE BLUE SKY≫管理人

小夜 眞彩

お見事です。お見事ですお見事ですお見事です哀ちゃんっっっっ!!!
あまりの彼女のすばらしさに心から拍手を送りたい。
瀬戸君頑張ったね。哀ちゃんにインタビューしようなんて
本当に勇気ありまくりだよっ←ポイントずれてる。
そして今こんな大変な時に暢気にラブラブご飯を食べているだろう二人。
もしそこに踏み込んでいたらきっと瀬戸君大変な事になっていたでしょうね(しみじみ)
By縁真