聞き慣れた高木刑事の車の発信音が聞こえた。
あと数十秒もしないで最愛の人が玄関のドアを開け、帰ってくる。
快斗は出迎えのために玄関まで出てきていた。…帰ってきた恋人を、早く抱きしめたいから。
 
けれどいつまで立っても玄関の扉は開かれない。
 
 
 
 
再生
 
 
 
 
(…高木さんの車だったよねぇ?)
 
 
仮にも怪盗なんて裏家業をやっている身。
聴覚だって十分鍛えているはずだから車のエンジン音くらい間違えるはず無いのに……。
 
そう思いながらつっかけを履いて玄関のドアを開けて外を見ると。
 
 
「………新一?何してんの?」
 
 
疲れて帰ってきたはずの新一が、花壇のところで座り込んで何かしている。
快斗の声を聞いた新一はそのまま作業を続けながら答える。
 
 
「んー……再生。」
 
 
はい?と首を傾げながらも背中越しに新一の手元を覗くとそこには。
 
 
「……アゲハ蝶?」
 
 
土に汚れた新一の手の中で、静かに鮮やかな色を見せている蝶が横たわっていた。
 
 
「……今帰ったらさ」
 木戸の所にいたんだ。
 
 
ゆっくりと手を下ろして、今し方掘ったばかりの穴の中へ蝶を寝かせる。
それから、優しく土をかけてやった。
 
 
「………」
 
 
快斗は新一の隣に座って一緒に土をかける。
少しずつアゲハ蝶の色が茶色くなっていった。
 
 
「はじめは、ただそこで休んでるだけだと思ったんだけどさ」
 
 
鮮やかな色が隠れきってしまって、見えるのは土の茶色だけになった。
………もう、あの色は見えない。
 
 
「――よく見たら、死んでた」
 
 
新一は手についた土を落とすことなく手を合わせた。
快斗もそれにならう。
 
 
「……キレイだったね」
 
「ああ、……今にも舞いそうだったな」
 
 
目を閉じて話す。どちらの声も、静かだった。
 
――目を閉じて、その瞼に浮かぶのは。
色とりどりの花の周りを飛び回る、色とりどりのアゲハ蝶。
 
…ゆっくりと先に目を開けたのは快斗。
 
 
「――だから“再生”なんだ……」
 
 
今分かったというように言った。
 
 
「そう。……また、この庭で飛び回って欲しいから」
 
 
現在の工藤邸には色とりどりの花が咲いている。
快斗が住み着いた頃に“折角広いんだから”と、1人でいつの間にか作り上げた花壇。
最近は新一もどこからか種をもらってきては花壇に蒔いている。
そんな庭だから、たくさんの野鳥や虫が食物連鎖を繰り返していた。
 
 
「……俺たちも、いつかは再生するんだよね」
 
 
ぼそりと快斗が言った。
 
 
「するだろうな、当然」
 
 
ようやく目を開けた新一。
ゆっくりと立ち上がって、やっと気付いたように手についた土を払う。
 
 
「…………いつかはそうなるとしても」
 
 
振り向くと快斗がまだ座ったまま、さっきまで蝶がいたところを見ていた。
 
 
「俺は今、新一と出会えたことを素直に喜びたいな……」
 
 
立ち上がって顔を上げた快斗は、本当に嬉しそうに笑っていた。
新一が払っていた手に快斗の手が重ねられる。
快斗はいつもよりも優しい声で囁いた。
 
 
「ずっと、ずぅーっと…一緒にいよう?」
 たとえ、死が二人を分かったとしても、何度“再生”を繰り返しても――。
 
「――――……バーロォ。当たり前のこと言うな」
 
 
無愛想に表情を崩す新一に、快斗は笑みを深くする。
 
 
「んじゃ、まずは手を洗おう?」
 新一の手、まっくろだよ〜?
 
 
重ねていた手を握り、先を歩く快斗につれられて二人は家の中に入っていった。
 
 
 
 
花壇の端っこにある、花の咲かない場所。
そこで眠るものたちは、ずっと見守っていた。
すべてを超えて想い合う、最高のパートナーたちを――。
 
 
 
 
 
おしまい
 
 
 
 
 
 
あとがき
 
えー。
はぴばと銘打ってる割にはなんか少し暗いかもです。
おうちで二人でパーティーってのも考えたんですが
それじゃ面白くないかなと。
アゲハ蝶ってキレイですよね。
飛び回っているのを見ると思わず足を止めて見入ってしまいます。
(おかげで横断歩道を渡り損ねたことも(笑))
ではでは、新一君、ハッピーバースデイ!!
 
2003.5.4.  赤森翌架
 

うわー素晴らしい小説をありがとうございます赤森さまっっ
全然暗くないですよっむしろ癒し系っっ
ほんわかしてきます
ちゃっかり住み着いて同棲している快斗君に乾杯っ
そして二人が出会えた事と新一が生まれてきた事におめでとうと言いたいですっっ
縁真より