お子様の気持ち
 
 
「黒羽君!!」
 
 
冬の寒さが抜けきらない2月の終わり頃。
 
 
「…うっせぇな…」
 
 
いつもながらの鬱陶しい声に、快斗は振り返りもせずに言った。
 
 
「またKIDから予告状が来ましたよ」
 
「知ってる。青子が騒いでた」
 
「予告日は今夜。そうですね?」
 
「俺が知るか、見てもないのに」
 
「今回はこちらも本気です。…逃がしませんよ」
 
 
ようやく。快斗は振り返って話しかけてくるヤツを睨む。
いつもいつも俺のことばっかりつけ回してくる嫌なヤツ。
 
 
「…だから?KIDがそうそう簡単に捕まるかよ」
 特に、お前なんかにはな〜。
 
 
一瞬だけ目を細めた快斗が、次の瞬間にはいつものようにおどけて言う。
そんな快斗にもひるまずに白馬がいう。
 
 
「僕が捕まえるのはKIDじゃありませんよ」
 僕が捕まえるのは――
 
「快斗にーちゃーん!!」
 
 
白馬の言葉を遮って、まだまだ幼い高い声が聞こえた。
 
 
「コナンちゃんv」
 
 
呼ばれた本人が振り返ると、ランドセルを揺らしながらぱたぱたと駆け寄ってくるコナンの姿が。
思わず駆け寄ってぎゅーっとしたいのを我慢して、快斗はコナンの前にしゃがみ込む。
 
 
「迎えに来てくれたんだ、コナンちゃんv」
 
「うん!今日は快斗にーちゃんとお泊まりだから嬉しくって」
 走って来ちゃった。
 
 
にぱっと笑うコナンに快斗も知らずに頬が緩む。
 
 
「ほら、早く行こう!!」
 
 
コナンに手を引かれて歩き出そうとする快斗に、
 
 
「ちょ、ちょっと待って下さい!!」
 
 
白馬が言った。
一人は忘れてたと、もう一人は今気付いたとばかりに振り返る。
 
 
「なんだよ」
 
「なんだよじゃありません!僕の話はまだ終わってないんですよ?!」
 
 
白馬が睨む。
ふと足元を見ると、さっきまで快斗の手を引いていたコナンがこちらを見上げている。
そして。
 
 
「快斗にーちゃんはこれから僕とお泊まりなの。邪魔、しないでくれる?」
 
 
一瞬、先程の快斗と同じように目を細めると。
すぐににっこり笑って快斗の元へと戻っていく。
 
 
「いこ、快斗」
 
 
コナンに促されて快斗も歩き出す。
 
 
「じゃーな、白馬」
 
 
後には呆然としている白馬だけが残された。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「…で、やっぱ助けてくれたわけだ。コナンちゃんってば」
 
 
しばらく歩いてから快斗が言った。
 
 
「…現場でもそうだけど、結構うざいだろ。あいつ」
 
 
少し考えてからコナンが言う。
快斗は頭の後ろで腕を組みながら言った。
 
 
「そーなのよー。KIDの予告状が出るたびに、いちいちねちねち言いやがって…」
 
「………。
 なあ、マジで今日、ウチに泊まりに来ねぇ?」
 
 
ぴたりと、快斗の足が止まる。
 
 
「…………………………はい?」
 
「だからぁ、俺ん家に泊まれって言ってんだ」
 
 
少し頬を赤くしながら言うコナン。
さっき白馬に言ったのはその場しのぎの出任せのはずだと快斗は思っていたのだが。
 
 
「…………………………いいの?」
 
「俺がいいって言ってんだ」
 
 
ふいっとそっぽを向いて先を歩き出すコナン。
それを後ろから掬い上げる。
 
 
「っ、放せ!!///」
 
「んもう、コナンちゃん大好きvvv」
 
「…いってろ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
凍えるような風がひっきりなしに吹き付けるビルの屋上。
 
 
「これはこれは白馬探偵…。お早いお着きですね」
 
 
少々笑いを含んだ声が白馬のかんに障る。
 
 
「…多少は手こずりましたけどね。――今度こそ、年貢の納め時です」
 
 
昼間白馬が言っていたように、今回の警備はいつもより厳しかった。
だからといってその程度で止められるものではないのだが。
この、怪盗KID様は。
 
 
「手こずった、ね。……あれくらいのものに手こずるなんて、」
 さすがですね?
 
「なっ」
 
 
今回の暗号はそれほど難しくなかったはず。
あまり難易度が高いと解いてくれなくて困るから。
 
 
「…それでよく探偵などやっていけますね…?」
 
 
くすくすと笑うKIDに白馬は何も言えない。
 
 
ふと。
 
KIDは白馬の後ろにある、この屋上への入り口を見た。
 
 
 
「……真の探偵とは、彼のような方を言うんですよ」
 
 
白馬はKIDの言葉につられて後ろを見る。
丁度、そのドアが開こうとしていたところだった。
 
そして姿を現したのは――
 
 
「今晩は、名探偵」
 
「……相変わらず面倒なことしてくれたな、KID」
 
 
――たった7歳に過ぎない小学生だった。
 
 
「何のことでしょう?」
 
 
KIDはおどけて言う。
 
 
「――『海に』落ちるか?」
 
「……ああ、あの社長のことですね?」
 
 
思わず引きつりそうになった顔をポーカーフェイスで隠してKIDが答えた。
 
 
「………。あの社長は前からいろいろと黒い噂があったが」
 
 
コナンもそれに一応合わせて話を続ける。
 
 
「――狙ったんだろ?」
 
「別に他意はなかったのですが。
 ただ、可憐な乙女を悪代官の元で泣かせているのは、私としては放っておけなかったんですよ」
 ――たとえ私好みの赤いドレスを召されて無くても、ね?
 
 
KIDの口の端が緩やかにつり上がる。
 
今回の獲物はとある社長の下にあるものだった。
裏の世界でも少しは名が知れていて、最近は表でもいろいろと動くようになっていたから
警察も注意していた人物。
 
はぁ、とコナンは小さくため息をついて言う。
 
 
「お陰で一課は大騒ぎだ」
 陰でいろいろと、人の命が動いてたみたいだからな。
 
「だからといって、あなた方も放っておくことは為さらないでしょう?」
 
「トーゼン」
 
 
コナンはKIDのすぐ目の前まで進み出る。
それとほぼ同時に遠くのほうから赤いサイレンの音が聞こえてきた。
 
 
「…そろそろ私は退散させていただきましょうか。
 熱烈なファンの方々がやってきてしまいますし」
 
 
勝手にしろ、と口の中でつぶやくコナンを見て。
 
 
「次回もまた、楽しませて下さいね」
 
 
KIDはビルから飛び去っていった。
 
 
 
 
 
 
「コ、ナン…君?」
 
 
やっと我に返ったとでもいうように白馬が呟く。
 
 
「なぁに?白馬のお兄ちゃん」
 
 
にっこりと笑いながら振り返るコナン。
 
 
「君は…いったい……」
 
 
言葉を詰まらせながらも白馬は続ける。
 
 
「君は、何者なんだ……?……KIDとどういう――」
 
「白馬さんはさ?」
 
 
笑顔を崩さずにコナンは言う。
 
 
「KIDのこと、どう思ってる?」
 
「え」
 
 
いきなり何を言うのかと白馬は戸惑う。
 
 
「どうって……。
 捕まえなければいけない犯罪者だと……」
 
「だからだね」
 
 
え、と顔を上げる。
 
 
「だから貴方は彼に追いつけないんだ」
 
 
コナンは白馬をじっと睨むようにして言った。
 
 
「ボクね、KIDのことたぁくさん知ってるよ?
 世界一のマジシャンで、最高の魔術師で。
 すっごく優しくて強いんだけど、――それ以上に寂しがり屋さんなの」
 
 
コナンがまるで自分のことのように言う。
……とても、優しい目をしながら。
 
 
  あいつは俺と同じくらい意地っ張りなんだ
  誰にもそれと分からないように隠して
  今までたった一人であの組織と戦ってきた
  たった、独りで……
 
 
「白馬さんは、そんなKIDを知らないし、分かろうともしない。
 ……だから、」
 
 
こんな奴と、あの気高き魔術師が話してるなんて。
……考えただけでムカツク。
 
だからこれ以上ないほどにっこり笑って、いってやる。
 
 
「そんなんだから、あいつのことも、『ヤツ』のことも……理解出来ねーんだよ」
 
 寧ろ、理解して欲しくもねーな。
 
 
 
さっきまで此処にいた白い魔術師と同じような気配をさせながら、たった7歳の子供とは到底思えない言葉を残して
コナンはいつの間にか立ち去っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
翌日。
 
 
「昨日、コナンちゃん俺より遅く帰ってきたでしょう。
 ……何してたの?」
 
二人そろって工藤邸から出てきて。
送っていくという快斗に素直に甘えながらコナンは学校へとむかっていた。
 
 
「何って、別に…」
 
「嘘だ!だってあの時白馬鹿がいたでしょ!!」
 あいつに何かされたんじゃないの?!
 
 
朝っぱらから大声だしやがって。
コナンは呆れて続けた。
 
 
「……少し話してただけだよ」
 
「…………何を?」
 
 
ぐい、と顔を寄せてきた快斗に一瞬驚いて。
けれどふと思いついた悪戯に、心の中でにんまり笑って。
 
 
「俺とお前のこういうこと」
 
CHUvv
 
 
快斗の唇に何かと手も柔らかいものが触れて、すぐに離れる。
 
そういえば初めて自分からしたななんて改めて思いつつ。
目の前の固まった物体に、どうしようかと考えつつ今度は表情に出して笑ってやる。
 
 
  嫉妬してるなんて思いたくないけど。
  こうやってコイツと一緒にいられるんなら……
  大目に見てやってもいいさ。
 
でもあの白馬鹿だけは、なんとかしねーとな。
……灰原にでも相談してみっか。
 
 
 
おしまい
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あとがき
 
全然リク消化してないです(汗)
「事件物」というのは私の頭では無理です。
ので残りの二つを合わせてみようかなーなんて考えたのですが。
……全然「白馬君→快コ話」じゃないですね……。
後半、何故かコナンちゃんだし。
題名と内容合ってないし。
しかもいったい何日オーバーしてるのでしょう……。
――ごめんなさいぃぃ(逃)
 
 赤森翌架



いえーーとんでもないです
二周年記念にこんなに素敵な小説ありがとうございます。
やっぱり現場が基本の二人ですよねー
それに白馬くんっっやっぱり好きです彼

縁真より