Mes rapports (訳)僕らの関係
 日が沈み、暫く経つ。


 自分の足の踏み場も分からないような暗闇の中。
 コナンは、迷いなく真っ直ぐに歩いていた。


 ガサガサ…


 葉を掻き分ける音が響く。
 静かな林の中。


「…。」


 そもそも、事の発端は今朝。
 コナン宛の謎の手紙

 差出人の名前は無し。
 簡潔に、住所のみが書かれていた。
 そこへ来いということらしい。
 幸い、蘭にも小五郎のおっちゃんにも見つかっていなかったから、適当に言い繕って出かけた。

 たどり着いた場所は、とある私有地。
 立入禁止の札が、乱暴に外されていた。

 迷いなくそこへ入ったコナン。


 そして、ずっと歩き続けているのである。





「…。」

 届いた手紙に、何かを感じた。
 微かに匂う、血の臭い。
 紙に染みついていた、小さな血痕。




 しばらくして、匂いが強くなった。
 血の臭い。


「…近くだな…。」


 ポツリと呟くと、コナンは目をこらした。
 予想が正しかったら、たぶん近くにアレがある。


「…。」


 数分後。

 ……………見つけた。
 あの手紙を書いた、その人を…。


「……くそっ、やっぱりか…。」


 と…。


「……っ………。」


 光を翳した数秒後、ピクリと、手が動いた来だした。


「っ、まだ生きてる!?」


 脈を確認すると、微かに動いていることが知れた。
 大量の血を流しつつも、まだ助かる可能性はある。
 急いで森を出て救急車を呼び、コナンは辺りを見回した。

 だれか、応援が必要だ。

「……っち。ちょっと、引けるけど…。仕方ねぇか…。」

 コナンは、とある人物に電話を掛けた。
 すぐに来いと。









「…遅い。」

 空から舞い降りたそいつに悪態を付くと、コナンは歩み寄った。

「突然呼び出されましてもね…。」
「仕方ねぇだろ。お前しか妥当な人間がいねぇんだから…。」
「一体何が…?」
「匂うだろ?」

 コナンの言葉で、キッドはその匂いを微かに感じ取った。

「…血、ですか。」
「あぁ。奥に男が倒れてる。」
「どなたです?」
「毛利探偵事務所の近くに住んでる、一人暮らしのおっちゃんだよ。数回話しただけだったんだけどな…。」


 何となく、妙な感じはしていた。
 何かに怯えているような、そんな感じが、その男性には常にあった。

「まさかとは思ったけど…。」
「…ふむ。それで、私はどうしたら?」

 キッドの言葉に、コナンの瞳が鋭く光った。

「犯人の目星はついてるんだ。後は証拠と…。」

 その犯人の元へ行くための交通手段。

「…………って、私は交通手段のためだけに呼ばれたわけですか…;;」
「だけじゃねぇよ。お前の腕も必要なんだよ。」
「…ふぅ。」

 肩をすくめたキッドに、コナンはクスリと笑みを零した。

「兎に角。オレを抱えて飛べ。救急車は呼んであるからここはもう大丈夫だろう。」
「…分かりました。どちらへ?」

「東。」







 ハンググライダーで飛び立って、数十分。
 とあるビルに降り立った二人は、ビル内へと足を踏み入れていた。

「社長室は…っと…。」

 キョロキョロ辺りを見回しつつ進んでいくコナン。
 社長室を探しているらしいが…。

「…犯人とは、社長様なんですか?」
「ん、いや。そうじゃなくて…っと…。」

 コナンは社長室の文字を発見した。

「よし、ここだな。…キッド、ここ開けてくれ。」
「……。名探偵、これ…不法侵入ですよ…?」
「何を今更。」
「大体、貴方だって鍵開けくらい出来るでしょう?」
「オレは探偵。」

 なんだか矛盾している気がするが…。
 キッドは、兎に角、鍵を開けることに。
 手早く鍵を開けると、暗い室内へと侵入した。


「ここの会社の社長。知ってるよな?」
「えぇ。大手企業ですし…。」
「じゃぁ、社長の声で、幹部三人を呼び出してくれ。」

「………………………はい?」

「オレは他にすることがあるんだよ。さっさとしろ。」
「…はぁ…。」


 幹部三人とは、社長の傍らに常にいた男三人の事。
 キッドは、不思議に思いつつも社長の声色で三人に電話を掛けた。
 今すぐ社長室へ来るように、と。


「……。」


 電話をかけ終わって、奥の部屋へ行っていたコナンが戻ってきた。

「どうだった?」
「…何やら、酷く驚いた様子でしたが…。…一体何が?」
「…やっぱりな。」
「?」

 コナンは、今さっき行っていた部屋を親指で指さした。
 行ってみろ。

「…。」

 言われたとおり、キッドは部屋を覗いてみる。
 すると…。

「………名探偵。」
「んだよ?」
「……貴方ねぇ…。」

 そこには、メッタ刺しにされた社長の姿が…。

「説明くらいしててください。」
「まぁ、いいだろ。兎に角、社長を殺した犯人は今呼び出した三人。血相変えて来るだろうから、社長の姿で迎え入れてやれ。」
「……はぁー…。」
「ちゃんとやれよ?」
「……はーい…。」







「…っどうなってるんだ、一体!」

 会社内エレベータにて。
 コナンの思惑通り血相変えてやって来た三人は、真っ青な顔で今か今かと最上階に着くのを待っていた。
 確かに、この手であの社長を殺したはず。
 目の前で死んでいく様を見ていたのだから、間違いない。

「……しかし、あの声は…。」

 確かに、社長のものだった。
 声といい、口調といい、社長以外には考えられない。

「兎に角、行けば分かるだろう…。」


 ポーーン………。


 到着の音。
 ゆっくりと開いたドアから、大急ぎで出ると、三人はバタバタと社長室へ走った。
 三人の手には、ナイフやらロープやら…。
 もし、もしも、社長が生きていたのだとしたら。
 次こそは、確実に息の根を止めなければ…。



「……。」


 ドアの前。
 ゴクリと息を呑み、ゆっくりとノックをした。

 すると…。

「入りたまえ。」

 いつもと同じ、社長の声。
 その声に、三人は「ひぃっ」と、小さく声を上げた。

 ゆっくりと、扉を開く。


「「「…。」」」

 中は、デスクの電気のみが付けられていた。
 椅子が、くるりとこちらを向いた。
 座っているのは、紛れもない、自分たちの社長…。

「しゃ、しゃ……社長…っ。」
「い、いい一体…何故…っっ!」
「…っ。」

 ガタガタと震える三人に、社長は素知らぬふりで尋ねた。

「…何故…とは、一体どういうことかね?」
「い、いや……。あの……。」

「とにかく。そんなところに突っ立ってないで、こちらへ来なさい。」

 社長の言葉に、三人は震えながらも歩み寄った。


 ………と。


 社長のデスクの前。
 暗くて見えなかったが、近づくと確かに見える。

 スーツを着た、男の遺体。


「「ヒィ!!」」
「なっ………な………っ!」

 見間違うはずもない。
 その男は、自分たちが殺害した社長だった。


 椅子に座っていた男が、ニヤリと笑みを浮かべた。


「だ、だだだ誰だ!!」
「そ、そうだっ!何者だ!?」



「その人には、ちょっと手伝って貰っただけだよ。」



 そこへ、小さな子供の声がした。
 余りにもこの場には不釣り合いな幼い声に、三人は拍子を抜かれて声のした方を見た。

「こ、子供!?」
「おじさん達が殺したんでしょ?その社長さん。」
「「「っ…!!」」」

「あ、誤魔化そうとしても無駄だからね。向こうの部屋で凶器も見つけたし、証拠もちゃーんと残ってたから。…それに。」

 それに…?
 三人は、子供とも思えぬ雰囲気に気迫負けしていた。

「目撃者が、ちゃんといるからね。」

「「「何!!??」」」

「おじさん達が、ナイフで刺してあの山に運んだんだよね?…でもね、まだ生きてたんだよ。今は病院で手当を受けてる。」

「「「……………。」」」

「あのおじさんとボクね、少しだけお話ししたことがあったんだよ。そのときに、ちょっとだけ聞いた。この会社のこと。社長さんのこと。そして、貴方達のこともね。」

 だから、分かったんだよ。
 貴方達が犯人だって…。

 子供らしい口調とは裏腹に、その子供の目は鋭く強い。

「運ばれる最中。おじさん達の目を盗んで、メモを書いたんだよ。そして、運ばれる車の中から、それを投げ捨てた。そこが、丁度僕が住んでるところの真ん前だったんだよ。下校時間のちょっと前だったから、風に飛ばされる前に、ボクがその手紙を見ることが出来た。だから、間に合ったんだけどね。」

「くっ……!」

 三人の内の一人が、懐からナイフを取り出した。
 そして、向かう先は、コナン…。

 ヒュン…。

「っ…!?」

 手に痛みが走り、ナイフが落ちた。


「この状況で悪あがきなど、みっともないだけですよ?」


 手に当たったのは、トランプ。
 飛んできた先を見ると…。

 スーツを剥ぎ取って、バサバサッと白いマントが靡いた。

「「っか、怪盗キッド!!??」」
「ヒィ…ッ!」

 ガタガタッと、腰を抜かして崩れ落ちた三人。
 コナンは、ふぅ…と息をついた。


「それじゃ。もうすぐ警察が来ると思うから。刑事さん達に全部話してね。」
「名探偵。我々のことも話されるとマズイのでは?」
「……あぁ、大丈夫だって。誰も信じねぇから。」
「…………そういう問題ですか。」
「一通りの説明はしてあるから。事件についてしか聞き入れないだろ。兎に角、おれ達はさっさとズラかるぞ。」
「はい。」


 コナンを抱えて、窓から飛び立ったキッド。
 三人は、腰を抜かしたまま唖然とその姿を見つめていた。

 警察がそこへたどり着いたのは、そのすぐ後。










「あ。」

 遠くで、盛大な花火は打ち上がった。

「………あーあ……。」

 キッドに抱えられたコナンは、心底いやそうな顔をした。

「新年、ですねぇ。」

 一方、ニコニコと微笑んでいるキッド。

「ったく……。オメーと年越しかよ…。」
「おや。お気に召しませんか?」
「お気に召すわけねぇだろ。」
「私は、貴方と新年を迎えられて光栄ですけど。」
「そりゃ良かったなー……。」
「はい♪」
「……。」



「ところで。どちらへお送りすれば?」
「あぁ、博士んとこで頼む。」
「はい。」


 阿笠邸の庭。
 バサッと降り立ったキッドは、コナンを下ろした。

「あぁ、一つ。」
「ん?」
「私は、貴方のアッシーになるために携帯の番号をお教えしたわけはないのですが…。」
「警察にバラされないだけ有り難いと思え。」

 悪いとも思っていないコナンの様子に、キッドは溜息をついた。
 まぁ、はじめから分かってはいたが。

 キッドは、ふと思い出したように懐から何か取り出した。

「それでは、私から貴方に…。」
「?」

 渡されたのは小さなメッセージカード。

「"お年玉"です♪ …それでは、今年もよろしくおねがいしますね、名探偵!」

 そう言い残すと、キッドはポンッと姿を貸した。



「……………………………………………………………。」



 残されたコナンは、カードを見つめつつ、心の中で叫んでいた。

 ふざけんなっ、オレのことバカにしてんのか!?
 何が"お年玉"だ!

 さすがに、近所迷惑になるので口には出さないが…。


「……ったく。」


 礼くらい言わせろ。
 お前が来てくれて、助かった。ありがとな…って。


「あーあ…。」


 今年も一年、大変そうだなぁ…。
 初日がこんなんじゃ…。
 でもまぁ、悪くはないか…。


 コナンは、カードに書かれてある暗号を見て、笑みを浮かべた。







 A HAPPY NEW YEAR !!

新年明けましておめでとうございます。
新年早々、妙な話を送りつけて申し訳ないデス…;;
直接お送りしたものですので、サイト転載はどうぞご自由に♪

それでは、今年も宜しくお願い致します。

明野 実[ SISTERMOON ] 拝