「ただいまぁ〜。」
勝手知ったる他人の家。快斗はチャイムも押さずにサクサクと工藤家のリビングまで辿り付いた。
いつもの様に、読書中のコナンが居て、快斗が来ても気付かないフリをしていた。
人の家なのだから「ただいま」は本来可笑しいのだが、まぁ、もう慣れっこと言う事で。
読書熱中中のコナンが快斗に返事を返すはずも無く、快斗はちょっと寂しい思いをしながら、いつもの事と思いつつ飲み物を調達すべくキッチンへ向った。
「かぁ〜いぃ〜とぉ〜〜〜!何なんだよ!コレはッ!!」
しかし戻ってきた快斗を向えたのは、コナンの子犬のようなキャンキャンとした声。
「へっ?えっ?何って?」
いきなりそんな事を言われてもなんなのか分からない。分かっているのは怒っている事と、持って来た紙袋が荒らされている事だけ…。
紙袋の中にはいくつものチョコレートやチョコ菓子が入っていたが多分それは義理チョコ。ラッピングの力の入れ様でコナンはそう判断した。だからそれは良い。コナンだって今も新一だった頃も五万と貰ったから。
青子からのと思しき、更にシンプルなラッピングだが(っていうか、ラップで包んであるだけ)、中身は快斗好みの甘ったるそうなガトーショコラもただ料理好きな彼女が快斗を実験台にして贈ったものだろう。
だがしかし、一つだけ、えらく気合の入ったラッピングにの物を発見した。箱のサイズもやたらとデカイ。カードまで付いていたから白馬のだと直ぐに分かったが。いや、男からと言う時点で、本命だろうと予測される。
「え?だって、明日って女の子がみんなチョコくれる日だろ?明日休みだし…って。」
例年であれば2月14日の当日に渡されるが、明日14日は土曜日で学校が休みだ。なので快斗は本日学校でチョコを貰った。
「じゃぁっ!この白馬からのはっ!」
ぶちッと切れ気味にコナンは叫んでいた。内心、後で魚型のチョコでも贈ったろかと思っていたり。
「それもチョコだろ?」
何が何だかさっぱり、な快斗は小首を傾げながらなぜコナンが怒るのか考えていた。まぁ確かにチョコはチョコだ。
「だぁかぁらぁ〜、どーして白馬からまで貰ってるんだよッッ!」
そろそろ喉が痛くならないのかな?と思いながら快斗はまだ頭に「?」を浮かべていた。怒っているのは分かるが理由が分からないので弁解のしようも宥める方法も分からない。
「え?だって、白馬、クラス中に配ってたぜ?」
マグカップに入ったチョコレートドリンク(クラスの誰かがくれた素で作った)を啜りながら、快斗は白馬から貰うと怒る理由について考えた。
「は?」
コナン、思考一時停止………。
「なんか、イギリスじゃ性別関係無しに渡すって言ってたし…。」
で、結局クラスの女子達から『義理チョコ』の存在が日本にあることを聞かされ(白馬くんからのチョコが欲しい!な女の子達の策略だったりする)、クラス中にありがとうの気持ちを込めて配ったとか。
快斗にはただ単純にチョコが好きだからと言う理由で大きなチョコをくれた…と快斗は言う。がしかし、それが間違いなのを知らないのは快斗だけ。カードの「好きです。」が何よりの証拠。彼にしてはシンプルな告白だが。知らないものは言わない。
「怒ってる時には甘いもの!」
まぁ兎に角。怒られるのがイヤなので目の前のチョコを一つ開封して、カリッとしたアーモンドにチョコをコーティングされた菓子をコナンの口に放り込んだ。
で、そのままコナンの唇の端に掠めるようにキスを一つ。
これもバレンタインの贈り物になるのだろうか?人様が快斗にあげたチョコと言えど。
(第一、甘いもので期限が直るなんて、快斗か女の子か子供ぐらいじゃないのか?)
でもそう思いながらも間違い無くコナンの心は落ち着いて来た。
「で、何に怒ってるんだ?」
さっき開けたチョコをカリカリとお互いに摘みながら快斗は聞いた。
「…だから、オレ以外から本命チョコなんて受け取るなよ…。」
「…えーっと、ホンメイチョコって何?」
快斗にとって知らない言葉に、「?」を五つ程浮かべて、そっぽ向いているコナンに聞いた。
その聞いた言葉にコナンは「はぁぁ?」と快斗の方に振り向いてしまった。
「えーーっと、快斗…明日は何の日か知ってるよ、なぁ…?」
ちょっと話の根本自体が不安になってコナンは躊躇いながらも快斗に訪ねた。事実その不安は現実なのだが。
「だから、みんながチョコくれる日だろ〜?」
コナンは脱力した。いや、撃沈した。
その後、明日がバレンタインデーなんて日で、基本的には女の子が好きな男の子にチョコ片手に告白する日〜とかなんんとか小学生でも知っている事を説明した。
更には確かにチョコとか義理チョコとか女の子から男の子っていうのは日本独自の文化で外国ではどちらからでも恋人同士で贈り物する日だと言うのも正解だと言うのも説明した。
「えっえっえっ〜〜!詰まり何か!?この白馬のチョコは……」
やっと事の理由を知った快斗は顔を赤くして口元に手を当てて、机に突っ伏していた。まさしく「力が入らなくて倒れこんでいる」な状態で。
怒っている理由がどう考えても嫉妬と言う当たりが一番うれしかったりした。
「……えーーっと……新一はくれないのか…?」
コナンは快斗を横目で見ながら、ふいっとまたそっぽを向いて座っていたソファのクッションの下からポイッと小さな箱を投げ渡した。
そっぽ向いていたから快斗はコナンの顔の温度が上昇して赤かった事を知らない。もっともそのためにそっぽ向いていたのだが。
ガサゴソと無言のまま開けた快斗の目に入ったのは、小さなカップチョコ3粒。でもそれはどうやら手作りな感じがする。
「新一、もしかして作ってくれたの…?」
じーーっとチョコを見ながら、感動の余りワンテンポずれている頭でコナンに訪ねた。
「蘭が作ってたから一緒に作ったんだよ…。だから味の保証はねーけどな…。」
一粒だけ箱から取り出して、快斗はカップを外して口へ放りこんだ。オレンジの風味をつけた砕いたアーモンドの上に溶かしたチョコを流しこんで、上にはオレンジの皮の砂糖漬けが乗っかっている。
カリカリとしたアーモンドとトロリと口に溶けるチョコがとても美味しい。
一口食べた快斗はニヘラと締まりの無い顔をして、コナンに抱き付いていた。
「うぅ〜アリガトォ〜〜」
快斗はすりすりと頬をコナンに寄せていた。
コナンには快斗の漂わせる、今食べたチョコの香りだけで充分だった。快斗と違って特別な甘党でもないのだ。だから甘い香りがあるなら食べるまでも無い。
「…どぉいたしまして。」
ごろごろと懐いている快斗をコナンは蹴り倒すでもなく、珍しくそのままにしていた。
内心、快斗はオレのだっ!と思っていたし、ちゃんとチョコで餌付けできて奪還できた事を喜んでいたのだが。
いつも蹴り倒すのだってちょっと照れてるからだ。たまには自分の感情に素直でも良いかもしれない。
(しかし、まさか気障の代名詞の怪盗KIDが「バレンタインデー」を知らないとは…。)
- END -
〜2月11日 建国記念日〜
キッチンから甘い香りがして目覚めたコナンは、快斗に「今日遊ぶのやっぱり却下。」と電話を入れて返事を聞く前にブチッと切った。
「蘭ねーちゃん、僕も作ってみたい!」
予想通り、キッチンでは蘭がチョコを作っていた。
「え?良いけど…コナンくん、バレンタインは女の子が男の子に渡す日よ?」
「だけど、快斗にーちゃん、チョコ好きだし…。義理チョコなら良いでしょ?なんか作るの楽しそうだし。」
ま、それもそうね、と蘭はコナンに予備のチョコレートを手渡した。袋ごと電子レンジで溶かせるチョコレート(本来はコーティング用)は子供にも簡単に扱える。
蘭がコナンでも作れるような簡単なチョコを本から選んでくれた。一応は義理チョコと言うことになっているので大して気合の入っているものも作れない。もっとも本命チョコだと言っていたとしても技術的に無理だが。
蘭に火は危ないからと言われ、アーモンドを炒るのだけはやってもらい、後はカップに順番に詰めていった。
自分でも一つ味見してみると結構美味しく出来ていて嬉しかった。
と言っても美味しく出来た要因の多くはアーモンドを作ってくれた蘭だろうから、一粒は蘭に手渡した。もちろん、評価してもらうのも兼ねて。
「うん、美味しいよ。良かったね、コナンくん。」
「えへへっ」
蘭の美味しいと言う言葉に素直に嬉しい笑みが零れた。
出来あがったチョコは蘭が作ったものと一緒に冷蔵庫の中で13日まで眠っていてもらおう。
- END -
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快コで白→快のバレンタインデー(前日)。
コ快とも取れますが、まぁ、どっちでも。
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