警察内部でひそやかに囁かれる噂。


0と通称で呼ばれる11桁の数字の羅列。


それは日本の警察官ならば憧れの数字。


トップシークレット扱いで、片手にも満たない人数の者だけが知ることを許された数字。



使うことを許された者だけが、知ることが出来る数字の組み合わせ。





限られた者しか知らないからこそ、守られる秘密は、KIDでさえもその数字の意味を知ることが出来なかった。










ZERO









0の噂を知ったのは、偶然。

それは、たまたま傍受していた警察無線の中で交わされた会話の中に出てきた。

前々から、情報は流れていたが果たしてそれが本当にあるのか疑わしかった。


なぜなら、0の噂はどれも荒唐無稽で、まさか本当に実在しているとは思わなかったからだ。





怪盗は逃走経路で誰も追ってこないのをいいことに、フムと顎に手を当てて考え出した。


「11桁の数字の羅列、通称ゼロと呼ばれている。その数字の組み合わせは、すべての真実を導き出す。どんな犯罪だろうと、ひとたびその数字を押せば瞬く間に解決する。しかし、ごく一部のものしか使うことも知ることもない・・・か。そんな魔法の数字なら、全員に知らせておけば楽になんじゃねーのか」



つい先ほども、無線から聞こえてきた話は、警察独自の隠語なのかすらわからないが、わかる処だけ要約すればそんな感じのものだった。



「それに、ゼロは恋人よりも上ってどういう意味なんだ?」

恋人よりも・・・・・・家族?妻?愛人?

「そんなはずないよな。まさか警察が・・・」

意味不明な言葉にKIDは首をひねるしかない。

とそこにどこか楽しげな声が掛けられた。


「警察だからこその宿命ってやつかもな」

「これはこれは、名探偵まさかこられているとは思いませんでしたよ」

気づが付かなかったとはおくびにも出さず、マントを払って怪盗は優雅に礼をして見せる。


「偶然ここの近くだったからな。ついでだし見に来てみた」


「そうですか、ならば偶然に感謝せねばなりませんね」


答えながら、ついつい忘れてしまっていた儀式を執り行う。

宝石を月に翳し、見えない赤にシニカルな笑みを漏らす。




そして、そういえばと怪盗は、探偵を振り返る。


「・・・名探偵は、ご存知なんですか?」

学校帰りなのか、早退したのか制服姿のままの探偵がそこにはいた。

「何をだ?」

ぽいっと軽く探偵に今夜の獲物を投げ渡した。

「警察のごく一部しか知られていないといわれるゼロについてです」

キャッチボールのように、探偵も受け取った宝石をなぜか投げ返してきた。


「ああ、あれか。そりゃ全員に知ってもらっても困るし、全員が知ってたら完全にプライバシーの侵害だからなだからな」

投げ返されても困るともう一度投げると、

「そう言われますと、名探偵個人に関係する数字なんですか?」

こっちはここに来たこと知られちゃならねーんだと、再び投げ返された。

「個人っていうか、俺そのものか?」

パシリと受け取って、仕方ないと怪盗は普通にポケットの中に宝石をしまった。

「名探偵そのもの」

怪盗ですら知らない、探偵自身を指す数字を一部の警察関係者は知っていることに、ピクリと反応する。

無造作すぎる扱いに探偵は眉を顰めたが、投げ合いをしていた時点でそんなこと言える立場じゃないと、でかかった言葉を飲み込んだ。

「・・・・・どのくらいの人がそれを知っているのですか」

探偵の飲み込んだ言葉を悟って、怪盗は改めて宝石をハンカチに包みなおすと、ポムと手の中から消し去った。


「警察関係で、いまの処教えたのは目暮警部に高木刑事、それから佐藤刑事ぐらいだな」

少し目を見開いてから、ちゃんと交換したし、一方的に教えてくれって言われてもムカつくだけだしと、探偵はシビアに言った。

その言葉に、更に怪盗は悩む。

ムカつくと断言されては、教えてくれとも言いづらい。


「警察関係者以外は、蘭に園子だろあと、灰原も知ってるし、阿笠博士と父さんと母さんは当たり前だし・・・あ、園子と蘭が知ってるのは別の奴だったか」

探偵も探偵でなにやら深く考え出した。

主要人物は知っていると見て間違いないが、別のやつという言葉が気になる。


「ゼロの他にも何かあるんですか?」

同じような機能を持たせた数字が、複数存在することは可能なのだろうか。

「公に知られているのと、プライベートと分けるだろ普通。因みにゼロって言うのは警察の人だけだぜ。他はゼロって訳じゃねーだろーし」

公に知られている番号もあり、探偵自身を指す数字・・・まさか910じゃないだろう (笑)

それが、探偵を指す数字だって探偵自身が自覚してるわけねーし。

「他の方々はゼロとは呼ばないんですか?」

「普通呼ばないだろ。登録すりゃどの数字にもなる」

怪盗の言に、探偵に不思議そうに首をかしげた。


何かわかってきた怪盗は、嫌な予感を感じた。


「・・・・・・と、もしかすると通称ゼロは、もう少し長く通称が最初はあったのではないですか」


あまりにくだらないと言ってはなんだが・・・


「確か、短縮ゼロ」



やっぱり。

思ったとおりだと、怪盗はがっくりと肩を落とした。


無邪気な探偵の顔に、きっと裏で密かに囁かれる噂を知らないのだろう。




しかし、その噂に間違いはないと怪盗は断言できる。






11桁の数字の羅列、通称ゼロと呼ばれている。

その数字の組み合わせは、すべての真実を導き出す。どんな犯罪だろうと、ひとたびその数字を押せば瞬く間に解決する。

しかし、ごく一部のものしか使うことも知ることもない。

まるで魔法のような数字。


一部警察関係者の携帯の短縮0番に登録されていることから付いたのだろう通称。

ゼロは恋人よりも上、おそらくそれは短縮1番に恋人の番号を登録することが多いからだろう。

しかし、探偵が上げた警察関係者たちが、1番に恋人もしくは妻の番号を登録しているかは別の話だ。






「携帯の番号だったんですね。それも、緊急用の」




「なんだと思っていたんだ?」




「・・・なんだと思っていたんでしょうね」



ほふりとため息をついて、怪盗は遠い目をしていた。















END








縁真より
これは〜オチに笑いました。
絶対にシリアスな話だと思ってたのにそうきたかっっ
見事に良い意味で裏切られましたよ。
ゼロ。
それは最後の手段っっっ