歩美:コナン君、この前の月曜日、どうして来なかったの?

コナン:あ、ごめん歩美ちゃん…実はあの日は急に先生に呼び出されて…(教育実習生も先生には違いないだろ、と言い訳しつつ)

関口:先生ってまさか黒羽先生?

コナン:違うよ。てか、アイツもさぼりじゃん!

歩美:え?もしかしてやっぱり先生も一緒だったの?

コナン:………………(汗)

関口:放送を聞いて逃げたってわけじゃないよなぁ?

コナン:放送って何の?(きょとんとして)

歩美:コナン君の!!

コナン:俺…何かしたっけ?

関口:…工藤は知らない方が幸せ、なんだろうな…(ため息)

コナン:だから何が?

 

 

 

In a high school 10(続・突撃レポート・お昼のインタビュー〜交際宣言〜)

 

 

 

 放送委員会とはジャーナリストの集団である。

 どこの世の中にも、情報こそが力だと信じ、情報収集と情報頒布に情熱を賭ける人間というのは存在する。それがジャーナリストの原点である。

 というわけで放送委員会。たかが高校生のお遊びと思っていては痛い目を見ることになるだろう…。

 

 

 こちらは放送委員会専用会議室。

「今週は失敗しましたが!」

 何十人もの生徒たちの前、壇上で1人の男子学生が、右手でバンっと机を叩き、左手でマイクを握り締めていた。

「来週こそは必ず!!ジャーナリズムの名に懸けて、必ずや1年1組工藤コナン君の秘密を解明してきますっ!!!」

 力強い宣言に、会議室全体から歓声と拍手がおぉーっ!と湧き上がる。

 そして最前列に座っていた委員長がうんうんと頷きながら立ち上がった。

「それでは瀬戸君、次の月曜日こそ期待しているよ!」

「はい!お任せ下さいっ!!」

 壇上から降りた瀬戸弘樹と放送委員長はがっちりと固く握手を交わした。

 

 

 

 

6月8日金曜日の放課後。

「…っていう話を小耳に挟んだんだけどさ〜」

 来月に控えた体育祭の準備作業をするために、執行委員の面々はいつもの会議室で雑用をしていたのだが、そんな中で太田が隣の関口にこっそりと囁いたのがこの台詞。

 放送委員会がまた突撃インタビューにやってくる、という話である。

「えぇ?まだ諦めてないのかよ、アイツら」

 関口がげんなりとした表情になるのも無理はないかもしれない。

 なにしろこの前の月曜日、無敵の天才美少女こと阿笠哀によって撃退されたはずなのに、あれで懲りないとは恐れ入る。工藤コナンの周りには一筋縄ではいかないというか、一癖も二癖もある強者ばかり揃っているが(コナン本人を含めて)、中でも最強なのは黒羽先生ではなく阿笠哀その人ではないか…と密かに関口は思っていた(笑)。

「まぁ放送委員って変人揃いだって有名じゃん?仕方ないのかも。」

 と、太田がため息を吐いたところに。

「あら、おもしろそうな話ね…」

 背後から低い声で囁かれて、ビクっと2人は震え上がった。

「つ、塚原さん………」

 どもりながら同時に振り返る。そこにはプリントを手にして微笑む塚原真紀の姿があったが、2人にはその笑みが悪魔の笑みにしか見えない。

「心配しなくても大丈夫よ、放送委員会のことは私に任せて!」

「そ、そんな大きい声出したら…」

 工藤にバレる、と真紀の言葉に青くなる2人に。

「ふふ。月曜日が楽しみね〜v」

 真紀は、やはり悪魔のようなことを言って、心底おもしろいという表情を浮かべた。

 

 

 

 今日の委員会活動は雑用だけだから、顧問の黒羽先生は来ていなかった。

 …というか、別の仕事があったからここにはいない、という方が正しい。

 何しろ、「愛しいコナン君の一秒でも長く傍にいたい」などというフザケタ理由で毎回毎回飽きもせずに委員会に顔を出し、あまつさえ今となってはラブラブオーラを隠しもしない数学教師だが。

 黒羽快斗。これでも2年のクラス担任をしているのである。2年生は試験後のこの時期、進路指導のための二者面談をしていた。

 そう、黒羽先生による面談。

 それを聞いた工藤コナンがひどく疲れた顔で空を仰いだシーンを執行委員の一同は目の当たりにしたが、コナンの脱力も無理もない、と誰もが思った。

 ま、それは余談である。

 というわけで、真紀は校内で二者面談をしている(はずの)黒羽先生の姿を求めて、こっそりと会議室を抜け出した。

 もちろん誰にも言わずにこっそりと、である(笑)。

「あ、真紀ちゃん、もう終わったんだ?」

 …と思ったら、会議室を出てすぐに黒羽先生に出くわしてしまった。

 まぁ、真紀としてみれば手間が省けて素直に喜ぶべきだろう。

「いえ、まだ終わっていませんけど」

 悪びれもせずに真紀は言った。それどころか、黒曜石のような輝きを帯びた瞳で先生を見上げてさらに続ける。

「私、黒羽先生に用があって…」

 

黄昏の放課後(今日は雨だが)、ひとけのない廊下。

 見つめ合う若い教師と女子生徒。

 

 …なんて、知らない者が見たら、それこそ教師と生徒の禁断の愛の告白シーンかと誤解しかねない光景だが。

「何かな真紀ちゃん?もしかして俺のコナン君に手出したりした?」

「まさか、私そんなに無謀じゃありません。」

 にっこりと。2人とも怪しいほどに完璧な笑顔なのに、どこかうすら恐ろしい空気が流れているのは何故なのだろうか…。

「ていうか私以外に警戒すべき人がいると思いますけど?」

 公平にみてコナンの隣に並べても遜色はないほどの美少女が、無邪気な表情で告げてくる内容に、ほぅ、と快斗は呟いた。

「俺のコナン君に横恋慕するヤツがまだいたんだ?」

「体育の教育実習で来ている服部先生、あの人コナン君狙いですよね?」

 そして間髪入れずに返ってくる言葉に、本気で目を見張る。

「…なんで分かった?」

 主に剣道など、男子の体育を担当している服部平次に彼女が接する機会はないはずだ。ましてや彼とコナンとの関係(アヤシイ意味ではない)を彼女が知るはずもないのに、何故こうも簡単に断言できる?

 僅かに動揺を見せる黒羽先生に、真紀は艶やかに微笑んだ。

「それは企業秘密です。」

 …実は情報源は、水面下で勢力拡大中の「K&Kラブラブ推進委員会」の情報網だった(笑)。

「…まぁそれはいいけど…」

「ていうか先生、委員会サボって服部先生とバトルしていちゃダメですよ〜」

 快斗が追及を諦めようとしたときに、さらに追い討ちをかける真紀の一言。

「………てかホントに何故それを?」

 黒羽快斗25年と11ヶ月の人生で、こんな平凡な(?)女子高生相手に苦戦するのは初めての経験だ。

 魔女でもないし、天才科学者でもないはずなのに、何故!?と思ってしまっても仕方がないことだろう(笑)。

「おかげで放送委員の相手を私たちがしなきゃならなかったんですからね!」

 まぁ放送なんて聞いてなかったでしょうけど、と真紀は言った。

 

 

 

 

 

 そして問題の6月11日月曜日の昼休み。

 それでもやはり、生徒会1年執行委員会のメンバーはいつもの会議室に顔を揃えていた。

「だいたい真夏に体育祭なんかやったら暑くて死ぬだろ〜」

「そんな今更なこと言わないでよ、私が決めたわけでもないし。」

 まずは弁当を食べながらの雑談から始まる。

 今日はマジメに会議に参加しているコナンは哀とどーでもいい会話をしていたが、ふと視線を感じて振り向いた。

「何だよ、関口?」

 そこには関口と太田がいて。

 箸を置いて首を傾げると、曖昧な笑みを返される。

「何でもないよ…」

 なぁ太田?などと言い合っている彼らの姿に疑念は晴れなかったが、コナンは首を捻りつつも昼食を続けることにした。

 

 

 …黒羽先生が来ていない。

「どういうことだと思う?」

 コナンの視線を逃れてホッとしながら、関口が小声で太田に囁いた。

「うーん…てか、工藤は放送委員のこと、何も知らないんだよなぁ?」

「知っていたらのんびり弁当なんて食ってないだろ、いくらなんでも。」

 あの性格なら即刻逃げているはずだと、関口は思う。

「あー!やっぱ教えておいた方がよかったかな、先週のあのこと」

 今更だけど、と太田が苦悩に満ちた顔を見せると。

「俺としては塚原さんが怖いんだけど…」

 これ以上はないというほどまでに声を落として関口が言う。

 そして2人で顔を見合わせてハハハと乾いた笑いを漏らしたところで…。

『皆さんこんにちは、「突撃レポート・お昼のインタビュー」、レポーターの2年5組瀬戸弘樹です♪』

 ――あの声がスピーカーから流れてきた。

 

 

 

『先週は諸般の事情により任務を完遂できませんでしたが、今日こそは!と固い決意を胸にやって参りました、会議室前です!』

 ミニトマトをつまんだ箸を持つ手が宙で止まった。

「は?」

 コナンは思わずスピーカーを見遣り、さらには会議室中をぐるりと見回す。

 平然と食事を続ける真紀と歩美、固まっている太田と関口、そして無反応の哀。

『本日の突撃レポート・お昼のインタビューは1年執行委員の工藤コナン君の謎と魅力に迫ります!!』

「…何それ?」

 きょとんとする蒼い双眸が、問いかけるように隣の少女に向けられる。

 先に食事を終えてウーロン茶を飲んでいた彼女はふぅとため息を吐いた。

「…懲りないわね。」

 そんなにイオンの話が聞きたかったのかしら、と続く台詞がますます理解できなくて、コナンは呆然としたままノックされたドアを見つめた。

 

 ところが。

 

『そんなにコナン君の魅力を語って欲しいんだったら、最初から俺のところに来ればいいのに〜vv』

 次にスピーカーから流れてきた声に、コナンはガクっと音を立てて机に倒れ込んだ。

「お弁当箱がひっくり返るわよ。」

 冷静な哀のツッコミなど聞いてはいられない。

「あのアホ〜!!」

 真っ赤になって、コナンは頭上に取り付けられたスピーカーを睨み上げた。まるで、そうすればそれを通して、その向こうの恋人に届くのではないか、というように。

『く、黒羽先生〜っ!?』

 悲鳴交じりのレポーターの声が空気を震わせる。

 というか、ドア越しにもその悲鳴は聞こえてきていた。

『何もそんなに驚くことはないだろ、瀬戸君?コナン君のためなら、黒羽快斗もうすぐ26歳、この世の果てまでだって駆けつけるよ〜』

 ハハハと快斗の笑い声までドアを隔てた向こう側から聞こえてくる。

 思わず執行委員全員がその方向に注目した。

『せ、先生!!もしかして…もしかして、やはり例のウワサは本当だったんですか〜っ!!?』

「…ウワサ?」

 瞬間、嫌な予感に顔を顰めるコナンだったが。

『どのウワサのことかな?』

『先生と工藤君がラブラブだというウワサです!!』

「なにぃっ!?」

 レポーター瀬戸の力強い言葉にガタンと椅子を跳ね除けて立ち上がった。

『ん〜そうだねぇ…それは本当はコナン君と俺との2人だけの大切な秘密なんだけどね…』

 ブチ

 もったいぶったような快斗の声を聞いて、コナンの堪忍袋の緒がついに切れた。

 ガタガタガタ(いつもより乱暴に開けているので)

「黒羽てめぇ、何とんでもないこと言ってやがるっ!!」

「あ、コナン君vv」

 この状況でも恋人を迎えるときは心からの笑顔という黒羽快斗、さすがである。

「何でもいいから今すぐ否定しろ!ていうか全校に流れているんだろ、この放送!?」

『…まぁお昼の放送ですから、校舎の中には聞こえているはずですけど…』

 怒りで顔を真っ赤にしたコナンに詰め寄られて、瀬戸はとりあえずそう答えたが。

『あ、それで工藤君、突撃レポートなんですけど黒羽先生との関係は?』

 一瞬にしてジャーナリストの使命を思い出してコナンにマイクを向けた。

『え?』

 突然マイクを向けられて、さすがに一瞬、反応に困ったコナンだった。

 

 が、しかし。

 

『だから、こーいう関係だよねvvv』

 ちゅ。

 快斗は呆然とするコナンを抱き寄せてキスをした………。

 

 

 

 ――カメラ。

 

『なんでカメラ持って来なかったんだ俺のアホ〜っ!!』

 

 放送委員「突撃レポート」担当・瀬戸弘樹。

 衝撃の瞬間を映像に収められなかったことを悔やむ彼の涙ながらの絶叫が、その日の放送の最後を締めくくったのだった(笑)。

 

 

 

The End.

 

 

(コメント)

 5000HIT&シリーズ2ケタ突入記念スペシャルでお送りしました、第10話。いつも以上に甘め(?)に仕上がっているかと思いますが、いかがでしょう(笑)?

 とりあえず敗者復活戦というわけではないのですが、放送委員の再チャレンジ。それから、まき様リクの真紀ちゃんと黒羽先生を書いてみました。黒羽先生と真紀ちゃんって、真剣勝負だとどちらが強いんでしょうかね…?

 最後に、いつも皆様ありがとうございます。こんな駄文で恐縮ですが、お受け取り下さいませ。

 

2002年4月14日

≪BEYOND THE BLUE SKY≫管理人

小夜 眞彩