「今宵、空の下で・・・」

 

真夜中のビルの屋上、風に乗ってパトカーのサイレンが聞こえてくる。

一定のリズムで上下する、明るい青のアクアマリン。
下に落ちてきたそれを受けとめるては、また上へ放り投げる。

「なぁ、名探偵。」

呼びかけたのは、器用にフェンスへ腰掛けている、さっきから走り回る、パトカー達の求めている人物。

「何だ?」

突然の言葉に、宝石に向けていた意識を、前方の人物――怪盗KIDに移す。

「おまえって、探偵やってる割には、犯罪行為けっこうしてないか?」

「それが?」

「探偵がそんなことしていいのか?」

既に答えのある質問に、コナンは僅かに、背後の壁から浮かしていた体を、また壁に預ける。

そして、宝石を指先で玩び、言葉を選ぶ様に、ゆっくり話し出す。

「俺は、犯罪者が許せない、なんてちゃちな・・・つったらそう言う奴に悪いが。
そんな正義感で、動いているわけじゃねー、殺人を犯す人間を、許せないんだ、その人を、殺人に駆りたてるような事実も、な。
てか言ったろ?俺は、殺人専門なんだよ。」

上手く言葉に出来なくて、ちょっと顔をしかめる。
自分で分かっていても、それを、言葉と言う、不安定なモノにして表すのは、ひどく難しい。

(まぁ、”自称”では頭良いらしいから、わかる、だろ。)

あからさまに、理解を催促するのは忍びなく、キッドのからの言葉が来るまで黙る。

「それじゃ、俺を追いかけてくる探偵くんは、俺を捕まえようとしてねーのか?」

「いんや、てめーのその面、警察に突き出そうとしてないわけじゃないぜ?」

その言葉に、キッドは肩をすくめる。

「にしても、いちいち探偵を小馬鹿にしたような言い方だな。」

不機嫌オーラ最高潮で睨み付ける、小さな名探偵にキッドは楽しそうに、口元を笑みの形に変える。

「探偵に、良いイメージが無いんでね、でも、名探偵は好きだぜ。」

「はぁ?んだそりゃ。」

「あれ、俺の気持ち、わかんないの?名探偵♪」

どうやら随分と上機嫌らしい怪盗に、脱力の余り落としそうになる宝石を、ポケットに避難させる。

「前から思ってたけど、お前、頭おかしいだろ。」

「失礼だな・・・っと、もう良いかな。」

「ん?」

コナンは腕時計を見て、何かを始めるキッドに目を向ける。
何故か今日は、他愛も無い話を重ね、いつもよりかなり長い時間キッドはいる。
その理由が気になって、自分も帰るに帰れなくなってしまったのだ。

(その間中、キッドを捜してる警部達が、何て可哀相なんだ。)

絶えず風に乗って聞こえるサイレンの主達に、本気の同情を覚えてくる。
でも、キッドがここに居るのを知らせるわけでは無い。

「名探偵、やっぱおまえ気付いてないだろ、俺がずっとここに居る理由。」

「気付いてたら、とっくに帰ってる(きっぱり)」

その返答を返すまでの時間、わずか0.1秒。

「・・・いいけどさ、別に、それより。」

既に手の中にある、お馴染みのトランプ銃で撃ち出されたのは、一輪の花。

「・・・これは!」

コナンの足元にあるのは、ドライフラワーとしてよく見かける、紫色の小さなスターチスと、その脇についた、黒い球。
そこから突然煙が噴き出し、コナンの周辺を覆う。
閃光弾かと思い目を閉じていたコナンは、鼻についた煙の臭いで、読みが外れた事を悟る。

「・・・ったく。」

煙が消えれば、キッドの消えた屋上が見えるだろうと、
コナンは動かずに、足元におぼろげに見える紫に手を伸ばそうとして、真横に感じた気配に急いで体制を直す。

「まだ気が付かねーんだな、名探偵。」

「は?」

顎に手を添えられて、キッドの方に顔を向けられる。

「Happy birthday 名探偵。」

目の前にあるキッドの顔に困惑しながら、にっこり、と楽しそうに笑っているキッドに悪寒が走る。

「!!?」

コナンの唇に触れた、キッドのそれ。
強すぎないが、しっかりと触れる相手の唇に混乱する。

「俺の言葉は、本物だぜ。コナン。」

コナンの混乱が拭いきれる前にキッドはその場から離れる。
煙幕は既に消え去り、赤面したまま硬直したコナンのみが、屋上に居る。
屋上から飛び去ったキッドは、上機嫌で帰路についていた。

「は〜、かっわいかったなぁ、コナンちゃん♪でも、あそこで耐えた俺も偉いな、うん。
ま、コナンちゃんが俺の感触忘れない内に、も一回会いに行こっと♪。」

 

現・・・五月四日 十二時七分

屋上にいる少年は、唐突に古典的な仕草で、手の平にこぶしをぽんっ、と打ちつける。

「・・・・・そうか!今日は俺の誕生日か。」

既に、忘れられてます。キッドさん・・・

スターチス(紫)・・・五月四日の誕生花。



地雷24968ゲッターの「利さま」より頂きました。
私の大好きな形式です。
コナンが鈍感。KID様哀れ(笑)
どこまでも気付かないコナンと一人宇宙の果てまで空回りするKID様。
いいコンビですよね。
というか笑いました。「そうか俺の誕生日か」に。
どうやらコナン君はそちらの方に気を取られてすでに
他のことは忘れ去っているよう・・・KIDぉぉぉ君が可哀想でたまらないよ。
利様素敵な小説ありがとうございました♪
By 縁真