コナン:大阪から服部が来たと思ったら…

太田:…なんか大変なことになっているよなぁ…

コナン:てか、あの関口だしな

太田:何があっても俺だけは関口の味方だけど!

コナン:太田と関口って本当に仲がいいよな(感心したように)

太田:あっ!でも工藤とも仲良くしたいから!!

コナン:…俺も一応、関口の味方のつもりだけど?(小首を傾げて)

太田:いや、そーいうことじゃなくて…(しどろもどろに)

コナン:あれ、太田、顔赤いけど大丈夫か?(お約束v)

太田:…そーいえば工藤、あの教育実習生ってどういう関係なんだよ!?黒羽先生はともかく、アイツ馴れ馴れしいんじゃないか、少し!(ムッとした顔で)

コナン:………太田の反応って、黒羽みたいだよな………









In a high school 12(大阪から来た男〜強引に解決編〜)









形の良い顎に右手をあてて、右肘には左手を添える。

 いつもの会議室でコナンはお決まりの推理ポーズで座っていた。

 推理ポーズといっても現在の悩みの種は単なる事件ではなく、曲がりなりにも友人の危機なのだ。

珍しくもコナンは他人のために真剣に考え込んでいた。





 ―関口和仁のじーさんてのが、堺でも名の知れた組のドンでな。



 親友の語りが頭の中でエンドレスに繰り返される。



 ―関口のばーさんは籍を入れとらんかったから、一人娘を連れて東京に行ってもうて、すっかり縁は切れとるらしいんやけど。





 その関口の祖父が倒れて、跡目争いが起こっているらしい。関口の祖父に他に血縁はなく、唯一の後継者と目されているのが平凡な高校生。

「縁は切れても血の繋がりは切れないってことか…」

 本当に厄介なことだと、意図せずとも自然にため息が漏れる。

 はっきり言って、恋愛関係と血縁関係だけは理性とは切り離されたところにあるのだ。26年の人生でそれを嫌というほど思い知らされているので、コナンとしては少々頭の痛い問題である。

 空もどんより。関口の前途も多難。

 肘をついたまま窓の外を眺めていると、目の前に暗雲が漂っているような気分になり、コナンは重いため息を吐いた。

 ガラガラ

「おーっす!あれ、工藤1人?」

 そこに現れたのは太田だ。どういう気紛れか太田はコナンの隣の席につく。

「俺1人…ていうか、お前こそ関口は?」

 上目遣いで見上げてくるコナン。

太田は無意識に顔を赤らめて、ええと、と深呼吸を繰り返した。

「…てか別に俺たちセットじゃないんだけど。関口は数Bが赤点でリンケンの補講受けているよ。」

「林先生か…厳しいらしいよな?」

 気の毒に、とコナンも心からの同情を示すが、今の問題は数学などではない。

「そうだ太田、ちょっと訊きたいんだけど…」

 関口のことを1番よく知っているのはコイツではないかと気付いたコナンは、幾分声を潜めて言った。

 その様子を見て内緒話だと察した太田はコナンの方に顔を近づける。

「え、何?」

「どんな些細なことでもいいんだけど、最近関口の周りで変わったこととか起きているとか知らないか?」

 会議室に誰も近づく気配がないのを確認してから、コナンは太田の耳元に最大限顔を寄せて質問した。

「関口?」

 …ていうか、ドキドキするから、あまり近くに寄らないで欲しいんですけど…。

 とは言えずに(笑)、太田は必死で動揺を隠して問われた言葉を反芻した。

「関口がどうかしたのか?」

 …なんで俺じゃなくて関口のことなんだよ〜!?

 訊き返しながら、心の中ではコナンに心配される関口に大人気なくも嫉妬していたり。

「ん…ちょっと心配になっただけなんだけど…」

 言いにくそうに視線を逸らすコナンの仕種は、むしろ『はにかんだ様な』とでも表現するのが相応しいものだ。

 …関口のやろぉ〜!

 コナンの色気にクラクラ眩暈を起こしかけながらも、太田はその根源であるらしい関口に激しい嫉妬を覚えて両手を握り締める。…いや実のところ、それはまったくの濡れ衣なわけだが…まぁ太田にそれが分かるはずもない。

「工藤がそんなことを言うぐらいだから、何か事情があるんだろう?俺も力になるから教えてくれよ!」

 せめてコナンと秘密を共有したい!という切実な願望に忠実になろう。

「太田…お前って…」

 …結構、友達思いなんだな…。

 何も知らないコナンは感心して太田を見つめ、太田はじっとコナンを見つめる。

 甘い空気ではないけれど、会議室には2人きりでいい感じだ(笑)。

「分かった…。だけど関口には言うなよ?」

「俺は口かたいんだよ」

 きっぱりと頷いてみせる太田に、コナンはふっと肩の力を抜いて薄く笑う。

「冗談みたいな話なんだけど…」

 そう、冗談みたいな話。自分にとっては別に特にどうということでもないが、平凡に生きている高校生にとってはドラマの中のこと、みたいな。

「関口、ヤクザに狙われているらしいんだよ」

「は?」

 予想外の告白に、目を見開いた太田はまず、自分の耳を疑った。

 次にまじまじとコナンを見つめるが、コナンの顔は真剣そのもので、とても嘘を吐いているとか、からかっているとかという雰囲気でもない。

「マジ?」

「俺も信じたくないけど、大マジらしい」

 お互いなんとも形容しがたい表情だが、コナンの信じたくないという気持ちと太田のそれとは次元が違う。まあ、そんな細かいことはどうでもいいだろう。

 突然の嵐のような展開に太田はゴクリと唾を飲み込んで、額に手をあてた。

「マジかよ〜!」

 関口と知り合って3年。こんなことになろうとは思ってもみなかった。

 …かといって、ここで関口を見捨てるわけにいかないのは間違いないわけで。

 う〜と、口の中で小さく呻いて、不意に太田は顔を上げた。

「あ、そういえば最近アイツんちに無言電話が掛かってくるって…」

 珍しくもないことかと聞き流していたが、この事態では事情が違う。

「無言電話?それは性質が悪いな〜」

 てか、陰湿じゃねぇ?とコナンは顔を顰めている。

「工藤の話と関係があると思う?」

「それは分からないけど…まぁ用心するしかないわけだし…そういうわけで、しばらく一緒に登下校しようぜ?」

尋ねたら、そんなふうにコナンに言われて。

「ああ!」

 了解の言葉に不自然なほど力がこもってしまったのは、太田としては仕方のないところだろう(笑)。











 それから1週間が過ぎた。

 6月13日(水)の放課後、コナンと太田と快斗と平次の4人は会議室でひそひそと密談を交わしていた。傍から見ればなんとも妙な組み合わせだが、最近すっかりお馴染みになっているのだ。

「こんなに俺が頑張っているのに!」

「なかなか尻尾つかめへんな〜」

 気が短いコナンが殺気立っているのは断るまでもないとしても、関口の身の安全が保障されるまでは大阪に帰れない平次も、苛立ちを隠せない様子である。

「明らかに見張られているんだけどね〜」

 そんな2人に対して、いまいち緊迫感に欠けるのは基本的には事件になんか興味のない黒羽快斗。この件だってコナンが関与するから手を貸しているだけで、本当だったらまったくの他人事だと判断して平次に近寄りもしないだろう。仮にも自分の教え子が狙われているというのに、冷たいというしかない。

「黒羽お前、マジメにやってねーだろ!」

 快斗の正体というか、怪盗キッドだったという前歴を知っているコナンは胡乱げに恋人を見遣る。キッドが本気を出せばチンピラ程度のヤクザなんてすぐに捕まえられるのではないかと疑っているのだ。

「そんなことないよ〜」

 俺だって関口君のことを心配しているし、などと言われても、露骨に視線を逸らされたら真実性に欠ける。

「あまり手を抜いているなら、お前どっか行けよ!邪魔だし!」

 ムスっとしてコナンが横を向いた快斗の頭を小突いた。

 すると快斗は双眸を潤ませて振り返り、コナンの手首を捕らえて訴える。

「ええ〜!?嫌だよ、俺のコナン君が服部に攫われたら困るもん!」

「アホ!刑事が誘拐なんて犯罪するわけないやんか〜!」

「てか、いつ俺がお前のものになったんだよ!?」

 間髪入れずに平次とコナンからツッコミが入る。

 …だけど工藤は先生の………(恥ずかしくて「恋人」とは言えないらしい)なのでは…?

 心の中だけでツッコんだ太田だったが。

「コナン君は昔から俺のハニーじゃんvv」

 恥を知らない快斗の台詞に、恐る恐る平次の様子を盗み見た。

 今更何を言おうとも、この前の月曜日には放送委員の前であんなコト(またしても「キス」と言うのが恥ずかしいらしい)までしてしまったのに、とは思うけれど、どういうわけかコナンの古い知り合いらしい平次に向かってそんなことを言ってもいいものだろうか。

 黒羽先生が恋敵として警戒している、この本職は刑事の教育実習生だって、あの放送を聞いていたわけではあるけれど…。

「工藤がお前のモンやって認めたわけやないけどな…」

 ギロリ、と音がしそうなほど力の入った視線が快斗に向けられる。

「工藤を奪うんなら、俺は正々堂々と奪ったるわ!」

「服部てめぇ、いい根性しているじゃねーか!」

 コナンを挟んで右と左で睨み合う2人。

 空間にヒビが入るかと心配してしまうくらいに険悪なムードが会議室を支配するのに、太田はオロオロするしかなかったが。

「ていうか!!俺のことより今は関口のことだろ〜!」

 バンっと机に手をついた当のコナンの正論に、さすがに快斗も平次も黙り込んだ。



 …が、そこに。



 ガラガラガラ

「今、俺のウワサしていなかった?」

 渦中の関口がドアを開けて入ってきて、4人は気まずさを隠せずに視線を交し合う。

 その様子があまりにあからさまだったので、自分の耳が正しいことを確信した関口はムッとして叫んだ。

「なんだよ、皆で俺に隠し事なんかしてさ!」

「別に隠し事ってわけじゃ………」

 ない、と続けようとして、太田はハッとした。

「あれ?どうして関口に隠しておかなきゃならないんだっけ?」

 墓穴としかいいようのない台詞を口にしつつ、太田はコナンを振り返る。

 …太田もアホだな…。

 逃げ道のないことを悟ったコナンは眉間にしわを寄せて、うーんと小さく呻いた。

 そして。

「…ていうか、初めから関口に事情を話しちまえば良かったんじゃ…?」

 しばし考えた結果、出した結論がこれである。

「そうだよな、だって本人に隠したらガードしにくいに決まっているし。大体、関口が悪いわけじゃないんだし」

 うんうん、と自分に言い聞かせるようなコナンの言葉に、関口は毒気を抜かれて間の抜けた声を出した。

「………何が?」

 関口は陰口でも叩かれているのかと思ったから怒ったわけで、まさか自分がヤクザに狙われているなどとは考えもしないから、コナンのこの反応は解せないものだ。

「いいよな、服部?」

「…せやなぁ…」

 コナンが承諾を求めて見上げるのに、平次はポリポリと頬を掻いた。

「ホンマは嫌やけど…」

「あ〜っ!てか服部てめぇ、もしかして!!」

 平次が何か言いかけたところに、快斗の大声が割って入る。

「初めから関口に言えばいいって分かっていたのに、コナン君の傍にいたいから、わざと言わなかったんだな〜!?」

 叫びながらガタッと音を立てて立ち上がって、トコトコと平次に歩み寄った快斗は両手でその頬を力いっぱい抓った。

「そ、そんなことあらへんで〜!」

 頬を抓られてもがきながら、平次は懸命に否定するが。

「………気付いていたんだな、服部………」

 その額から冷や汗が流れ落ちるのを認めたコナンは、半目で親友を睨みつける。

「いや、その………」

「ていうか、俺が何?」

 不安そうな面持ちの関口に遮られて、引きつった笑みを浮かべる平次の言葉はまたしても続かない。

 更には快斗がバンバンと机を叩きだす始末で。

「そんなことより、服部の下心の方が問題だろ〜っ!!」

「下心って人聞きの悪いこと、言わんといてや!」

「えーと、だけど関口のことより工藤を優先している時点で、公務員としてはどうかと…」

 もはや本題からはるか彼方へ逸れた会話が進行する中。



「あーもう、うざってー!」



 コナンはサラサラの黒髪をガシガシと掻き毟って叫んだ。

一瞬にして会議室はシーンと静まりかえり、全員がコナンに注目する。

「決めた、大阪行くぞ!」

 その視線を受けたコナンは拳を固めて宣言した。

「は?」

 一同、まさに呆然としか表現しようのない顔でコナンの一挙一動を見守るが。

「いいな関口!?」

 有無を言わさず口調で関口に詰め寄って、彼がコクコクと頷くのを確認すると、コナンは高らかに言った。

「よし、大阪のヤクザなんて俺が潰してやる!」







 というわけで。

 次回、執行委員一同、ついに大阪上陸へ!









(コメント)

 本気です!(笑)何がって、大阪編が。

 それはさておき、何ともアホな話になっていますが、これでも8000HIT記念でございます。シリーズ12話は解決編…これで解決しているというのでしょうか?(汗)

関口君が主役のはずだったのに、気がつけばすっかりコナンを巡る三つ巴(快斗vs.平次vs.太田?)の争いに。事件はどうした?という疑問は受け付けません(笑)。

 とにもかくにも、皆様、いつもありがとうございます。未熟ながらも小夜眞彩、精一杯このシリーズを続けていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。



2002年5月3日

≪BEYOND THE BLUE SKY≫管理人

小夜 眞彩

哀ちゃんと真紀ちゃんが出ていないというのに見事に笑いました。
いつもはセットの二人組。しかし今回は片割れがちょっと出張りましたね。
今回は頑張りましたね太田君って感じです。
しかし快斗どこまでも余裕がない男だ(笑)
平次もお前事件なんてどうでもいいだろうっって感じの態度に大笑い。
コナーンくーーん。足をひっぱってんのは快斗より平次の方だぞ絶対にっ(爆)
By縁真