歩美:黒羽先生、私、体育の教育実習で来ている服部先生に昔、会ったことがあるんですけど…

快斗:う〜ん、そうだね、よく憶えているね、歩美ちゃん

歩美:たしか「西の高校生探偵」だったんですよね!?

快斗:…「名探偵」ではなかったけどねぇ…(しみじみと)

真紀:あら先生、「東の工藤、西の服部」って呼ばれていたと思いますけど?(ニヤリ)

快斗:それは気のせい!(キッパリ)服部なんかが新一と比べられるわけないって…!

歩美:「新一」って、もしかして行方不明だっていうコナン君の親戚のお兄さん?

真紀:私でも名前は知っていますよ、「工藤新一」…あ、コナン君と姓が同じ…

快斗:それはまぁ、親戚だからね…(ポーカーフェイスをフル稼働)

真紀:それで先生、結局のところ、どうなんですか?

快斗:何のことかな?

真紀:服部先生がコナン君のこと、好きなのかってことですけど?

 

 

 

In a high school 11(大阪から来た男・その2〜怒涛の事件編〜)

 

 

 

 大阪府警難波署所属・服部平次巡査部長。

 かつて「西の高校生探偵」と呼ばれた彼は8年経ってすっかり大人になり、父親の跡を継ぐべく立派な(?)新米刑事になっていた。

 その彼がここ東京にやってきた理由は…もちろん、遊びに来たわけではない。

 

 …せやけど、なぁ…。

 

 学校という慣れない、けれど懐かしい雰囲気の空間を歩きながら、平次は偶然の再会を想ってニヤリと笑った。

 仕事も大切だし探偵としての性は平次にも健在だ。だが、そんなことよりも、ずっと会いたくて堪らなかった人と会うことができた、という運命の方が重要だと思ってしまう。

 なにせ8年ぶりなのだ。8年間、生死も不明だった相手なのだ。

 こんなところで普通に高校生なんてやっているとは夢にも思わなかったけれど、会えて本当に嬉しい。

「…けど、そんなことより工藤は事件の方が優先なんやろけどな…」

 相変わらずの反応を思い出して、また小さく笑う。平次はコナンのそういうところも好きだったのだ。

「ま、それやから事件があれば工藤と一緒におれるんやし♪」

 事件様様や!と刑事という職業に似つかわしくないことを蕩けそうな笑顔で呟いた平次は浮かれ切った足取りで体育館へと向かっていたのだが。

「…ていうか、あんたホントに何しに来たわけ?」

 突如現れた人影に行く手を遮られて、ほえ?とマヌケな顔で足を止めた。

「………黒羽快斗?」

現職の刑事で『探偵』の平次が気配の欠片も感じなかった相手は、昨日の昼に弁当を持ってコナンを探しに来た同年代の数学教師だった。

一見すると普通の…いや、見た目もかなり変わっているのだが、とりあえず普通ということにしておこう、若い数学教師。

「一応、先輩扱いして欲しいんだけどね…」

 わざとらしくため息を吐いている快斗は、当然のことながら平次の本当の身分も目的も知っているわけで。

「…あんたも大概、性格悪いわ」

 これはまたおもろいヤツや、と平次はニヤリと唇の端を吊り上げた。

 コナンを介して知り合った2人だが、昨日の昼休みが有耶無耶のうちにランチタイムだけで終わってしまったので、実はろくに自己紹介もしていない。

とりあえず名前と現在の身分は把握しているが、この数学教師がどういう経緯でコナンと知り合って、現在コナンとどういう関係なのかは不明なのだ。

 もっとも快斗は平次のことなど8年前から認識しているわけだから、実はかなり快斗の方が有利な立場にあったりする。

「俺の大切なコナン君に手を出そうなんて不届き者に親切にしてやる理由もねーしな!」

 …しかし黒羽快斗、コナンが絡むとその余裕をうまく活かせなかったりもする。

「工藤に手…って、あんなあ…」

 男やんか、とげっそりとした顔で平次は快斗を見遣った。

「でもお前どう見ても新一のことが好きだろ〜!?」

 それはもう、8年前から。

 密かにコナン(=新一)を見守っていた快斗は、必要以上にコナンにまとわり付いていた平次のことを改めて思い出し、むう〜っと唸りながらバシバシと壁を叩く。

「壁に八つ当たりせんといてや…一応は教師なんやし、備品に傷つけてもアカンやろ?」

 呆れたように言いながら。

 ここまでくると、平次もさすがに快斗がただの教師でないことには気付いていた。

 …まぁ、細かいことをいえば今は本当に『普通』の教師なのだが、全然普通ではない人生を送ってきたから、今更『普通』には戻れない、というべきだろうか。

 だいたい、何よりも。

「………にしても、『新一』って………」

 その先を続ける前に平次はゴクリと唾を飲み込んだ。そして快斗の何でもなさそうな顔を睨みつける。

快斗も快斗で気が立っているので、怪しまれるかもとか、装わないと、とかいうことはきれいに忘れて、ジロリと睨み返した。

「あんた工藤んこと、ホンマに知っとるんか?」

 その視線に怯むことなく、平次は一層眦を険しくして尋ねる。

 あのコナンがあの『工藤新一』であるということは、恐らくトップシークレットと言ってよいだろう。第一、10歳も年齢が違うのに同一人物だと普通は疑ってもみない。

 快斗は優越感にシニカルな笑みを浮かべて言った。

「服部平次君、あんた以上にな。新一のすべてを知っているのは俺だけだし、俺のすべてを知っているのも新一だけなんだよ。」

 …本当は哀ちゃんの方がコナン君のことは知っているかもしれないけど、とはプライドにかけて明かさない(笑)。

「………あんたホンマ、何者なんや?」

 はぐらかされるのを覚悟の上で様々な意味を込めて平次は疑問を口にした。

 この笑み、この性格、この言動。そして何よりも『工藤新一』とのただならぬ関係。

 どれを取ってみても只者ではない。

 …まあ、あの工藤が傍に置くのだから、害はないのだろうが。

 すると快斗は、今度はまた別のレベルでニヤリと笑って見せた。

「ハニーのことは何でも知ってて当然だろう!」

「…はぁ?」

 対して、目を丸くする平次。

「誰が『ハニー』だ、誰が!?」

その背後から物凄い勢いで走って来たコナンが、叫びながら快斗に蹴りを入れた。

 ゲシ

「…って〜!!」

大げさではなく涙を浮かべて、快斗は蹴られた脛を手で押さえる。

「コナンちゃん、少しは加減してくれよ…」

「さっきの言葉を取り消せよ!」

 コナンは真っ赤な顔で快斗を鋭く睨んだが。

「ん〜。だったらストレートに『恋人』って言った方がいい?」

 頬に手を当てた快斗がそんなことを言い出すので、がくっと肩を落とした。

「お前なぁ…そんなことばっか言うと、悪行の数々を洗いざらい全部バラすぞ!」

「それもまた愛だよね〜!」

 コナンの脅迫にもめげないどころか、快斗は両手を胸の前で組んで、逆にキラキラと目を輝かせる。

先ほどまでのシリアスな雰囲気は微塵も残っていない。

「…アホちゃうか…」

「悪い服部、コイツ本当に馬鹿なんだ。」

 義務的にツッコむ平次の肩をぽんと叩いて、コナンはさて、と周囲を窺った。

 現在、HRが終わって放課後になったばかりの時間である。今日は火曜日で委員会もないから、平次に事件のことを聞こうと思ってやってきたところに偶然この会話が耳に入ったのだった。

 後者から体育館へと続く廊下にはたまたま人の姿がなかったが、これから部活に向かう運動部の生徒たちがゾロゾロと通っていくだろう。

 かといって、例の会議室には他の委員のメンバーが来ないとも限らない…特に塚原真紀とか(笑)。

「しょーがねーな、黒羽!」

 コナンは自分の世界に浸っている快斗のスーツの袖をぐいっと引っ張った。

「何?やっと俺たちの仲を認めてくれる気になった?」

 にっこりとコナンを見下ろした快斗だが。

「数学科教員室、貸せよ」

 愛情の欠片も見えないそっけない口調でコナンは要求だけを突きつける。

「…コナン君、浮気はダメだよ!?」

 むう〜っと頬を膨らませて快斗が言うと、コナンは即、言い返した。

「誰がそんなことするか!事件の話を聞くんだよ!」

 人に聞かれたらまずいだろ、と数学科教員室に向かって歩き出すコナンの後を快斗と平次は慌てて追いかけるハメになるが。

「…てか工藤、それはコイツとの関係は『本気』やって認めるってことにならへんか?」

 ボソっと平次が入れたツッコミに、返答は返ってこなかった…。

 

 

 

 

「で?」

 他の教師が在室することなどないのではないかと疑いたくなるほど誰もいない教員室に落ち着いて、コナンはおもむろに平次を見上げた。

「大阪府警の刑事がわざわざ出向くってことは、相当の事件なんだろ?教えろよ、協力してやるからさ!」

「…さすがコナン君、偉そうだね〜」

 その横から、はい、とコーヒーを差し入れながら、快斗がしみじみと感心している。

「ホンマは守秘義務があって部外者には話せんのやけど、まあ工藤やったらええかなぁ…」

 平次は迷うかのように視線を漂わせ、ポリポリと頬を掻く。

「工藤の協力があったら、簡単に解決するかもしれんしなぁ…」

「つべこべ言わずに早く教えろよ!」

 …コナン君、こういうところばかり今も昔も変わりません(笑)。

「そうだよ、服部は『迷』探偵だったけど、新一は『名探偵』なんだからさ!」

 別に事件に興味はないのにコナンの隣に座った快斗が茶々を入れる。

「いいから、お前は口を挟むな!」

 呆れたように快斗に釘を刺すと快斗はたちまち不満そうな表情を見せるが、コナンはそれを無視して平次を促すように見上げた。

「それで?」

 何でもいいから早くしろ、とでも言いたそうな視線である。

「ん〜そうやなぁ」

 そんな視線を向けられても、まだ少し躊躇うように平次は間を置いてから、真剣な目をコナンに向ける。

「昨日、工藤の隣にいた3組の生徒がおったやろ?工藤も知り合いみたいやったけど」

 思いがけない内容にコナンはきょとんと瞬きをした。

「昨日…隣にいたって、関口のことか?」

 平次と会ったときのことだから、あの体育の時間以外にはありえない。だとすれば隣にいた生徒とは執行委員の仲間の関口和仁に他ならないが。

「…もしかして、関口が関わっているのか?」

 

 執行委員1年3組代表、関口和仁。

多少お人よしのところがあるが、気のいい、ごく普通の男子生徒に見える。

 

 そんな関口がどう事件に関わっているのかと、眉を寄せたコナンに。

「実は、その関口和仁って生徒、堺のヤーさんに狙われとるんよ。」

 声を1段低くして、平次が告げた………。

 

 

 

 

To Be Continued...

 

(コメント)

 続くのか!?と非難が山ほど届きそうな「インハイ」シリーズ第11話です。事件編と銘打っておきながら、ほとんどが『元・西の高校生探偵』服部平次vs.黒羽先生の低レベルな争いとなっておりますが(笑)、続きは第12話、解答編をお待ち下さい!

 さてさて。当サイトもついに6000&7000HITを達成しました。これまで地道に続けてきたこの企画も1回お休みを入れざるを得ないほど(苦笑)、皆様のご愛顧のおかげでカウンターが回っております。本当にありがとうございます!!

 

2002年4月29日

BEYOND THE BLUE SKY≫管理人

小夜 眞彩