クリスマスを貴方と……3






運の悪い事に警察の突然の呼び出しを受けてしまった新一は、海外に居る両親の元へは行けなかった。

新一が海外へ行く事は一部の人しか知らないのに、変な所で優秀な警察は今まさに出国ゲートを通りそうになった新一を、間一髪で捕まえる事が出来たのであった。
これには新一も苦笑い。
「事件を呼び寄せる体質」の新一は、「警察からの呼び出を頻繁に受ける体質」でもあったのだ。


どうしても協力して欲しい。


決まっていた家族とのクリスマスは目暮警部の言葉と共にキャンセルになり、新一はお馴染みの高木刑事に迎えに来られ、断る暇もなく現場へと戻る事になったのだった。



























「……………………」

どうしよう。

しきりに自宅の電話を睨んでいるのは、当家の住人である新一だった。

「……………………」

行ったり来たり。
ウロウロウロウロ……………。

電話の前を往復する事数百回。

1時間前は落ち着きもなく彷徨っていた新一だったが、今はすっかり動かぬ岩と化していた。

頭を駆け巡るはたった一つの番号。

かけてしまえば案外簡単なものだったと思うだろうが、かける前には勇気がいるものなのだ。
そう力説するのはめったに自分から電話をかけない新一。
新一はかれこれ4時間もリビングから動けないでいたのだ。




ああ、ちくしょう!もう3時じゃねえか!




悩んで悩みまくっているうちに今度は『深夜の電話は端迷惑』な時間帯に突入してしまって、更に電話できない状況になってしまった。






でも、諦める事は到底出来なくて…………。






新一は苦笑いをするのであった。





受話器を取ってやっぱりやめる。

どうしてもかけられない電話番号。




「くそっ………こんなの俺じゃないんだよっ……」




そしてまた受話器を握るのだ。
その繰り返しを続けて。


ガチャンと乱暴に受話器を置いたまま顔を伏せた。


「 なんでこんなに…………っ…………」

そして何かに耐えるかの様に新一の綺麗な眉は顰められる。

苦しそうに吐く息も白く。

暖房もつけずにひんやりとした部屋で新一は立ち尽くした。




こんなに苦しんでいる新一はめったに見られないだろう。
知り合いがいたらこんな彼の痛々しい表情に、なんとかしたいと思ってしまう程。
現在不在の恋人が見たら放っときはしない。
「大丈夫?」そう声をかけて抱き締めてあげる事だろう。


しかし、快斗はいない。


新一自身が家に帰る様に言ったからだ。


心配する母親とクリスマスを過させる為に。


先週快斗の母親と偶然会った新一。
誘われるままにお茶を飲み和やかに会話をした。
最近のことから事件のことまで話し合う程仲の良い二人。
しかし、彼女の話が快斗の事になった時のあの顔は忘れられないだろう。
なにげなく息子の事を聞いてきた彼女。
しかし、瞳は寂し気で……。
やっぱり息子が居なくて寂しいんだと思った新一は、快斗に帰る様に言ったのだ。新一も両親に呼ばれていたからちょうど良いと思っての事。

一筋縄ではいかない恋人をどうやって帰すか父親に相談したりした。
そう、「ノエル」云々は快斗を母親の元へ帰す為の口実だったのだ。

しかし、実際は両親の元へは行けずこうして自分の家に帰ってきたのだが、こんなにも一人の家が寂しいモノだとは思わなかった。
おまけに自分の感情が思いもしなかった事に占められていたのに、新一は愕然としたのだった。


まさか。


自分が。


こんなにも…………。














「なんで………こんなにも逢いたいんだよっ………」















こんなにも快斗に逢いたいと想うなんて………。

笑い話じゃないだけ質が悪すぎる。


声を聞くだけなんて耐えられない。
聞いてしまったらますます逢いたくなるから。


逢いたい。

逢いたい。

逢いたい。

逢いたい。

逢いたい。




逢って笑って抱き締めたい。

触って温もりを感じて安心したい。















あの腕の中で………あいつだけを感じていたい…………。









































「快斗……お前に…………逢いたい……よ……」








































ふわり。

























突然、優しい腕が降りてきた。













暖かい腕が新一を包んで。












離さないとでも言うかのように体に回された。












首筋に優しくキスが落ち。












そして、強く、強く抱き締められた。












耳に掛かる息が熱くて。












新一の視界はぼんやりと揺れる。



















「…………………ただいま」


知ってる声が聞こえ新一の心は揺さぶられた。



何も言えない。

いつだって突然すぎるから。

いつだって欲しいモノをくれるから。












「新一………………?」

どうしたの?


確か言葉はそう続いたと思った。



でも確実じゃない。











だって俺は…………………。



















振り向いた新一は目の前にいた恋人を押し倒していた。


あっけに取られる快斗をよそに新一は自分からキスをする。


そりゃ、言葉なんて聞いていないだろう。







欲しくて、欲しくて。



今、新一が想う事は快斗の事だけ。



確かめるように新一は何度も何度もキスを貪る。



快斗がここにいると感じたくて。















驚いてキスを受けていた快斗は、優しく微笑んで新一から主導権を奪った。
快斗も新一に逢いたくてずっと我慢していたのだ。


なんでもないように振る舞っていたが、ずっと心が痛かった。

逢いたくて。

逢いたくて。

逢いたくて。



でもたまにはこんなのも良いかと思う。
いつも何処か恋人に無関心の新一が、自分と同じくらいの感情を持っていたと解ったから。
多分この事がなければずっと解らなかっただろう。

自宅から文字通り飛んで来た快斗は、新一はもう眠っているものだと思っていた。
しかし、着いて家を覗いて見ると電話の前で何やら新一は呟いていた。

なんだろうと思って気配を消して近付いた快斗の耳に入ってきた言葉は、そのまま快斗を硬直させるのには十分な威力を持っていた。


だって今までそんな新一を見た事なかったから。



だから嬉しくて抱き締めた。



そしたら新一は答えを返してくれた。
それは言葉じゃなかったけど。

(まさか押し倒されるとは………………)


くすりと笑って快斗は愛しい恋人を抱き寄せた。



それに伴いキスも深くなる。



やがてお互いに体を求め合いだす。



いつもの二人。



冷たい体が熱を帯びて二人の影は重なりあった。

















「今日はずっと一緒にいよう………」

















それはどちらの言葉だったのか?





イブは逃したけどクリスマスは終わってはいない。


二人のクリスマスはこれからなのだから。






うわ言のように相手の名前を繰り返す新一の声が嬌声に変わる頃。
窓の外にはふわりと今年最後の雪が降りはじめた。







今年のクリスマスはどうやらホワイトクリスマスのようだ。





















しかし残念ながら昼には消えてしまうこの雪を、二人はついに見る事はなかったのだった。


















クリスマスを貴方と……3

2001.12.20


桃子にしては結構早く終わりましたね^^
最後はラブラブになったかしら?こんな話書く事ないからドキドキです……。
……って言うか見た人は記憶を彼方に葬り去って下さい。
だって〜〜恥ずかしいから〜〜〜〜(////□////)
ちなみにクリスマスが終わったらこの作品はゴミ箱行き〜〜〜!
イラストもまとめてポポイのポイ!ですな。

見て下さってありがとうございましたvv




新ちゃんラヴリィーですよねー。
電話の前でうろうろしちゃって可愛いー。
快斗君新ちゃんの独り言が聞けてよかったね。
お母様に感謝しなきゃ。
と思いました。快斗母いい感じです。