我だけを愛する
他者を愛することなどありえない
戦いこそ全て
それが己の生きる意味
それが
俺の名に
課せられたものなのだから
世界が変わらない限り変わることない
俺の生きる道なのだから
我・愛・羅
帰還すれば驚愕の瞳が集まった
もしかするとこんな目を向けられたのは初めてかもしれない
砂という絶対防御の持ち主の俺
視線を合わせるだけでも殺されると恐怖する住民たち
姉兄ですら怯えるのだからそれも仕方ないことなのだろう
ボロボロのカラダを両方から支えてもらってなんとか立っている状態の自分
砂を出すチャクラももう全く無い状態で、今なら確実にやれる
だからてっきり里に戻ったらすぐに抹殺されるかと思っていた
「テマリ、カンクロウ。もういい」
やられるならいっそ潔く
二人を巻き込まずに一人で受けよう
そのくらいの思いは二人に対してある
自分たちも怪我しているというのに木の葉の里から必死でここまで運んでくれた。
夜中も寝ずの番で隣についていてくれたのを知っている
「あたしはあんたのお姉ちゃんなんだからね」
テマリはあたりまえでしょと笑う
「一応これでも兄だしな。たまには兄らしいことさせてくれてもいいじゃん?」
カンクロウはそっぽを向く
「すまない」
もう何度目になっただろうかの言葉に二人は頬をかきながら顔を見合わせた
「もうっ素直な我愛羅ってかっわいーー」
反撃できないことを知っているからだろうかテマリは人のボロボロの体を
ぎゅうぎゅう締め付ける。
いや本人はきっと抱擁のつもりなのだろう
「テマリ。我愛羅が窒息するまえにやめるじゃん」
「なによっ生まれたときから可愛くなくてきっと永遠に可愛くないだろうもう一人
の弟っっっ」
「・・・・」
「カンクロウなんて全然可愛くないんだもん。いやよわたしこんな弟」
「それはこっちのセリフじゃん」
「なぁぁぁんか言った?」
「全くなんにも言ってませんっ」
慌てて攻撃範囲内から逃げだすカンクロウ。
それを見て呆れる半分、苦笑半分。
そんな自分の表情にまた二人が驚いたような顔を見せ、テマリの激しい抱擁を受ける
嵌めになったり・・・。
こんなやり取りが驚いたことに酷く居心地よくて、なんだかむしょうに嬉しかった。
「我愛羅は大丈夫なのか?」
あいつと闘った後の俺はもう全てがどうでも良い気がした
起こすことの出来ないからだを引きずって近づいてくるあいつ
なにがしたいのか分からないから怖かった
いや、こんなにボロボロにされたことがなかったから死の恐怖を感じたのかもしれない
今ならだれでも簡単に俺を殺すことが出来るだろう
テマリかカンクロウが俺をさっさと始末するかもしれない
あいつらは父が俺につけた監視役なのだから
機会があれば葬ろうとしている
そう思っていた
己を思い人を思い泣くあいつに
目を奪われた
いや、もしかすると心も
そのあふれる涙はポタリと地面に吸い込まれ土へと帰ってゆく
何故人のために泣ける?
人のために命をはれる?
幼いころから変わることない周囲の視線
それは苦痛も悲観も嘆きも憎悪も
全ての負の感情を思い起こさせる
それは喜びも幸せもなにもかも
人として大切な全てを奪ってゆく
解っているそれが俺
生まれたときから課せられた俺の宿命
最初におまえを見たとき
お前は光り輝いていた
日の光を十分に浴び
こんな醜い感情と縁遠い人間だとそう思っていた。
いや、そう感じさせられていたのかもしれない。
今はまだ良くわからない
だが、
ボロボロの俺をかばうように背負う兄
ボロボロの俺を気遣う姉
何故だろうか
そんな瞳初めて向けられたから戸惑う。
「痛いか?」
テマリの言葉に
数瞬考えて
それから
小さくうなづいた
そうだ、これが痛いという感情
ずっと知りたかった
知ったら何かが変われる気がした
俺は何かが変わっただろうか?
我だけを愛する
それは永遠
他者を愛することなどきっとない
そう思っていた
世界が変わらない限りそんな日はこない
そう思っていた
だけど
お前が、
お前の言葉が
お前の瞳が
お前の心が
世界を・・・・・
俺の・・世界を変えた
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