「ご苦労だったのう」 「いえ。年甲斐もなく楽しませて頂きました。」 目の前で膝を折るのはたしかに歳を重ねた男。 もちろん火影と呼ばれるすでに妖怪の域に達した老人に比べれば若造のうちだろうが。 「それにしても急だったが・・・」 「ええ。ご迷惑おかけしてすみません。私事で申し訳ありませんが、実は今年初曾孫が・・・」 ホクホクとそれは嬉しそうな報告に妖怪ははてとくびを傾げた。 「お主そんな歳じゃったか」 「いえいえまだ60すぎですよ。私が30の折に養子を取りまして。その子が早々と孫を生んでくれてその孫がつい先日23の誕生日に結婚。」 「いわゆるデキチャッタ婚というやつか・・・」 苦笑とともに似合わないことばを口にしたが目の前の男はコックリ深く頷きその時の衝撃を事細かに話しだした。 「分かった分かった。可愛い孫の子供の面倒をみるために引退したい、と。そういう訳じゃな」 「はい」 まったく、と内心ため息をつきながら火影様は頭をめぐらせた。 (うーむ。後任は決めておったがちと早い・・・後2年欲しかったな) あと2年耐えてくれなんてとても言えない。 彼にはこれまで数えきれない程世話になっている。 今回のアカデミー護衛の件だってそうだ。 子供に変化して子供のフリをしながら良家の子を守る。それは口で言うほど簡単な事ではないのだ。 何人もいる護衛対象を逐一チェックし、近付いても変に思われないよう関係を結び、それでいて近すぎず。 なにかあった際は誰にもけどられ無いよう隠密に動く。熟練した彼だからこそできた任務だ。 この任務にはもちろん依頼主がいる。 子供達の親・・・ と言うわけではなく依頼はアカデミーからである。 学校側としては良家の子息はありがたい鴨であると同時にやっかいの種だった。 何か起これば責任は学校側にある。 そして未来ある優秀な忍びを消されるのを否とした火影の意志でもある。 よってこの任務はSランク並であるにも関わらず破格の値段で請け負っている。 火影としても優秀な暗部を一人この任務に取られてしまい痛いのだが、将来のための投資と割り切っている。 それに後任は・・・ 「今期入るのは篁のご子息。更に来期には日向の分家のご子息と、今までになく忙しいこととなるでしょう」 「実はその次の年がやっかいでな、日向本家に、油目、犬塚、秋道、奈良、山中。それにうちはが・・・」 そこまで聞いて老人は青ざめた 「そ、それはっっ」 力あるもの達が一挙到来の時代と言うことだろう。木の葉の未来は明るいが、護衛するほうはたまったもんじゃない。 「一応護衛候補は決めておる問題の再来年にはもう一名追加。計二名。だがしかし・・・」 ちょっと早すぎる。 押さえきれないため息がこぼれ落ちる。 そこまで言われると気になるのが人情だろう。 それにしてもそう考えると自分の時は楽だったなぁ。多い時でもせいぜい校内に3人までしか対象は居なかった。 大変だ後任のものは。 「よろしければその哀れな後任の名を教えて頂きたいのですが」 出来るかぎりの知り得る事を伝授しておきたい。 「ああ。後程受け継ぎのために合わすつもりだからかまわぬが、あの子じゃよ」 最後の部分は声を潜め微笑を浮かべる。 まるで取って置きの秘密とでも言う態度に老人は心当たりを探った。 「あの子・・・ですか?」 「あの子なら変化も必要ないし、そろそろ表へ出そうと思っておったしな」 一石二鳥とばかりにほくそ笑む。 そこでようやく分かった。 「なるほど。確かにそれは早すぎますね。まだあの子は7つでしょう?」 「この間7つになったばかりじゃ」 暗部二年生〜とシカマルとその家族と楽しそうにケーキを食べていたのを知っている火影はさっきのお返しとばかりにホクホク孫とも呼べる子供の成長をしゃべりだした。 「そうですか元気そうで安心しました。」 「いささか元気が溢れすぎているがのぅ」 嬉しい悲鳴と言ったところだろうか。火影は苦笑とともに吐き出す。 「何にせよ。あの子がいま笑顔でいてくれるならそれでいいですよ」 昔の状況を知ってるだけに男のことばはずっしりくる。 「そうじゃな」 火影も目を細めながら頷いた。 「あのさぁ・・・俺が居るってわかっててやってるでしょ」 行儀悪く窓からよっこいしょと入ってくるのは暗部の衣裳とお面をまとった少年。 いつもなら20代に変化しておくのだが今日の相手が昔馴染みのじーさんだったのでそのままの姿である。 フードをおろせば目立つ金の髪がこぼれ落ち、面を外せば碧の瞳が自分達を射ぬく。 もちろん腐っても忍びの二人は丁度火影が孫自慢をしているころ彼が窓に張りついて入るタイミングを伺っていたことに気が付いていた。 それでいてまだべらべらと話していたのだから良い度胸である。 「はて何のことかのう」 「とんと見当もつきませんねぇ」 「・・・狸じじい共め」 「心外ですね。火影様ほどではありませんよ。隊長どの」 「うっせ。俺には50歩100歩にしか見えねーよ」 「・・・難しいことわざを知っておるのぁ」 「あんた俺をバカにしてんの?まいんちシカマルとあの監視役相手にしてりゃ語彙もふえるに決まってんだろ」 「うーむ。あまりよい影響を与えなさそうな二人ですな」 「おかげでこの通り小生意気になって困っとるわい」 「ははは。火影さま。そんなジジ馬鹿全開の笑顔で言われても説得力がありませんよ」 またもや孫自慢が開始されそうな空気を感じ取りナルトは聞かなかったフリで話を続ける事にした。 「・・・んで、よもやカワラのおっちゃんが前任だったとは思わなかったけど、俺は誰を守るわけ?」 どうやらその辺りは聞いていないらしい。 「とりあえず来年お主と共に入学する篁の一人息子と一学年上にあたる川名の娘じゃな」 「・・・とりあえずってのが引っかかるよなぁ」 「その計2名じゃ。容易いものじゃろう?」 「さぁ?やってみなきゃわかんねーな。うずまきナルトに対する教師陣の対応もどうなるか分かったもんじゃねーし」 「・・・すまんの・・・」 「いや、そこらへん理解して任務引き受けたから気にすんなよじっちゃん。あーあ。それにしてシカマルがいればなぁぁ」 絶対楽しかったのに。 不満そうに唇を尖らせるナルトにカワラは目を丸めた。 こんなにも表情豊かなナルトは初めて見たかもしれない。 「仕方なかろうあやつは別任務なのだから」 「むぅぅぅ。意地悪っ。とりあえず俺は何年留年してもおかしくない程の落ちこぼれを演じとけばいいんだよな?」 「そうそう。それでも忍者になるのを諦めない頑張る少年を演じるのが一番この任務には向いているんですよ」 イーッと三代目に歯を見せると後半はカワラに向かって尋ねる。 そんなナルトの様子に思わず頬を綻ばせていたカワラはニコニコと頷いた。 「あー疲れそう・・。」 額に手をやり天井を仰ぐ。 「慣れですよ。慣れ。」 「うーカワラのおっちゃんなんてこの任務13年も続けたっていうし・・俺もまさかそんくらいやらされるのか?」 「まさか。お主はせいぜい5、6年程で卒業してもらうつもりじゃよ。」 「・・・せいぜいって。しかも卒業?俺にアカデミーだけじゃなく下忍にまでなれっての?」 「そうじゃ"うずまきナルト"として1から頑張ってもらう。」 「うっわ。めんどくせぇ。シーーカーー助けテェェ」 さんざん嘆きまくった後ブーブー文句をたれるだけたれ、ようやく退散したナルト。 「な。」 「ええ。」 残された年寄り組みは顔を合わせ笑い出した。 確かに 「『いささか元気が溢れすぎて』ますね」 子供のあまりの変化にカワラも三代目と変わらぬ優しい瞳でそう呟いた。 |
ジジーべた甘パートつぅー(笑)。
カワラさんは当然ながらオリキャラです。
なんか火影さまとの掛け合いが楽しかった♪