「カカシく〜ん。またまたお願いがあるんだけどぉ」
はた迷惑な男が肩をすくめ申し訳なさそうに手を合わせる。
断言しよう。
ただのフリだ!!
この人が本心から申し訳ながっているわけは絶対にないっ
「・・・・・・」
だがしかし、あからさまに嫌そうな顔を見せた所でこの男に通用するはずもなく
「あのね、あのね」
勝手に用件を述べ始めた
「またまたナルくんを預かって欲しいんだ」
ニッコリと思ったよりまともなお願いごと。
ああ、それなら。
また散歩かと思いお安い御用だと引き受けようとしたその時
この男、いつもながらのホコホコの笑顔で車一台軽々破壊できるだろう威力の手榴弾を投げつけてきた。
「ほんの2、3日ほど」
「はいっっっ!!?」
手榴弾のあまりの威力にカカシ車は思わず盛大に叫んでしまった。
「おじゃましますっ」
「はい。いらっしゃい」
父親に似ず(←重要ポインツ)礼儀正しく玄関で頭を下げる幼子にカカシは決して他人には見せないような顔でにこりと微笑んだ。
初めての人様の家へのお泊りに勝手が分からないのだろう困った顔をするナルトの頭を後ろから押し部屋へと導くとナルトをその場に残し台所へと向かった。
「ちょっとそこに座っててね」
「うん」
あらかじめ用意しておいたクッション。
無造作におかれた素っ気ない色合いのそれにチョコンとすわりキョロキョロするナルト。
その様はなにやらひどく愛らしかった。
「楽にしてていいよ」
「うー・・・うん」
大人しく正座をして肩をこわばらせる様子にそう言ってはみたものの、どうしていいか本人にもよく分からないらしくナルトは困ったように頷いた。
「はい、ミルク。熱いから気をつけてね」
「あ、ありがとーかぁし」
「どういたしまして」
ナルトが好きだと聞いて用意しておいたミルクを滅多に使わない台所で温めてみたりなんかして。
かいがいしい自分がちょっと不思議でたまらない。
でも
「おいしい」
ホワッと微笑むその笑顔を見れただけでその苦労は苦労にならないのである。
自分にはもちろん手間をかける気の無いカカシはインスタントのコーヒーにポットのお湯をザバザバ注ぎそれを持ってナルトの隣に座った。
「かぁしフワフワは?」
「へ?」
「これっフワフワのーっ」
自分の足元を指さすナルトにようやくカカシは納得する。
座布団のことね。
「ん?ああ、俺はいつも使わないから」
「痛くない?」
「ぜぇぇんぜん。平気だよ」
慌てて自分のを渡そうとするのを押しとどめ
心配させないようにパタパタ手を振る。
それにふぅんと頷くと持っていたカップをほっぺたに当てて「あったかぁ」と微笑んだり、コップをおいて何故か両手で床をたたいてみたり。
何がしたいの?
と思いながら見守っていると
「なんにもないね」
と、突然ポツリとつぶやいた。
「んー?」
「かぁしんち。なぁぁぁぁんにもないっ」
「あーうん。忙しくて家にあんまりいないからね」
必要最低限のものしかない殺風景な部屋。
暖房器具で調整され、暖かいはずなのに寒さすら感じるようなこの空間に目の前の子供は小さな体をさらに縮めるようにして座っている。
「寒い?」
「んーん」
寒くはないけど・・
なんと説明すれば良いのか分からないらしく首を緩やかに振る。
コクリともう一口暖かなミルクを飲んで、体内からの熱にホゥと緩やかな笑みを見せた。
その瞬間に室内の温度が上がったような気がしたのはカカシの気のせいだろうか?
初めてこの家が暖かいと感じた気がする。
寒いなんて思ったことないのは、この暖かさをしらなかったから?
白い頬がピンクに染まり暖かそう。
金の髪もあの人譲りだというのに何故かあの人には感じない温かみを感じる。
青い瞳も寒色なのにその瞳に自分が移っていると思うだけで体温が上昇する。
うわー。ナルトって俺の暖房器具だね。
「おいで」
「う?」
「ここ、ここ」
ぽんぽんと自分の膝をたたけばパッと満面の笑み。コトンとカップを床に置き迷いなく近づいてくる。
それに気分を良くして自ら乗り上げるのを待たずエイッと抱きかかえ自分の腕の中に閉じ込めた。
(うわ。暖か・・・)
子供の体温とミルクの香り。
ギュッと抱きしめればギュッと抱きしめかえされて。
ああ、幸せの絶頂。
うーん至福の一時だぁねー。
その暖かさをじっくり堪能していると
キュッと髪の毛を引っ張られた。
こらこら禿げたらどーする。
「あのね。ナルね。あっちゃん持ってきたの」
「はぃ?」
あっちゃん?
カカシの腕に嬉しそうに顔をうずめていた子供の突然の言葉にかなりカカシは混乱した。
「ナルの宝物なのっっ」
「そうなんだ」
あっちゃんとは何ぞや?と思いながらも相槌をうつ
「かぁしにも貸してあげるね」
大切な子供の大切なもの。
それは当然ながらカカシにとっても大切なものとなり。
とても嬉しい。
「ありがとう」
「うんっミミちゃんと、カーくんもいるから一個かぁしにあげるっ」
やっぱりその正体はさっぱりだけどうれしかったからまた言う
「ありがとう」
「いっぱいいっぱい、いーーーーーーーーっぱいナルの宝物あげる。そんでお部屋いーーーーーっぱいにするの!!」
その言葉に目を瞠って
それからちょっとだけなきそうになった。
金の髪に顔をうずめて
「うん・・・・うん・・・・ありがとう。ナルト」
何にも無い部屋に君のものが一つずつ増えてゆく。
全部大切で、捨てるなんてとんでもなくて、
これって・・・・・
「引っ越すとき大変そっ」
今から嬉しい心配しちゃったり・・・・
そんな自分に思わず赤くなった顔を押さえて笑ってしまった。
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