禁句ってあるよね。

禁句




人それぞれ禁句ってあるじゃない?
それってさホント人それぞれでさ。

例えば僕の場合言うまでもなく禁句は「でぶ」
言われた瞬間頭がカーーッてなってつい攻撃しちゃう。
ダメだよなぁと思っても止められないくらいにムカッてする。
僕の幼なじみのイノの場合はーそうだなぁ体型の事言われたら凄いよー。
よくシカマルが被害にあってる。
頭いいのに要領悪いよねシカマルって。

えーっとそれで僕が何を言いたかったかって言うとー。
そうっ今話題に出たシカマルの事。
シカマルってね僕のもう一人の幼なじみでね、小さいころからずっと一緒にいたけど、昔っからやる気なさげで、全て「めんどくせー」で片付けちゃうような性格なんだ。
だからさシカマルって何いわれても飄々としてるし、怒るのすらめんどくさそうだし、きっと禁句なんて無いんだろうなーって思ってたんだよ。

うん。あってもきっと「ま、いっか。めんどくせーし」で済ませちゃうんだろうなーってそう思ってた。

だから本当に驚いたんだ。




「今日の任務はこの川のどぶさらいだ」
「ええーー」

アスマ先生がそう言った瞬間イノが盛大に叫んだ。
普段イノを宥める役の僕ですらそれはちょっとやだなぁと思ったくらいだからきっとシカマルなんてめんどくささ100%って感じで渋い顔してるんだろうなーって振り返ってみたら寝てた。
いやー立ちながら寝るなんて器用だよね。
って問題じゃなくて

「シカマルっおーーきーーてーー」
「・・・んあ?俺寝てたか?」
「寝てたよ凄く気持ちよさそうに熟睡してたって」
「あー。やべ頭朦朧としてやがる・・・」

なんでそんなに眠いのか知らないがシカマルはいつもこんな調子だからだれもまたかって感じで苦笑して終わってしまう。

「で、今日の任務はドブさらいだって」
「・・・・めんどくせぇ」

そう告げれば予想通りの渋い顔。
うんうん。やっぱりこの顔するんだよね。

「アスマ先生ったら乙女になんて仕事させるんですかっ」
「はー?乙女?誰のこと言ってんだ?乙女ってのはーもうちょっと胸が育った大人の女性のことだろ?」
「ッキー。セーーくーーはーーらーーよーーーー!!こんど紅先生に告げ口してやるぅぅぅぅ」
「まぁまぁイノ。アスマ先生も悪気はないんだし・・(たぶん)」
「だってだってー」
「シカマルもなんかフォローしてよ」
「んぁ?んな本当のこと言われたくれーで怒んなよ」
寝ぼけた瞳で禁句炸裂。
なんていうか・・・うん。助けを求めた僕が悪かったんだよね。

その後更に怒りの増したイノを宥めるのに多大な苦労をようした僕は朝からすでに疲れ果てていた。

ああ、もうアスマ先生もシカマルも分かっててイノを怒らせるようなこと口にするんだから。
からかって楽しむのはアカデミー生までにしておいて欲しいよね。


そんで文句を言いつつもようやく任務を始めて、お昼休憩の時だったと思う。
おいしくご飯を食べてた僕たちの傍を通りかかった里の一般の人たち。

その人たちが僕らの知ってる名前を口にあげたんだ。

「うずまきナルトを―――――」


その瞬間多分僕たち4人は一気にだんぼ耳になったと思う。
だってさ、ナルトに関してはホント里の人たちって最悪だから。
同じ班の人たちはしょっちゅう文句言ってる。
イノも親友の春野さんからよく愚痴られてるらしい。

『むかつくっったらありしゃしないわよ。もーーーあいつらぜってーーーいつかぶっころーーーーす!!』
とかよく言ってるもん。
ねー傍に大好きなはずのうちはがいるんだけど?とか思ったんだけどそのうちはですら深く何度も頷いていたのだからきっと同じ意見なのだろう。

僕はねあんまりそう言う場面に会ったこと無いから実感がわかないんだけど、聞いてるだけでホント食欲なくなってくるほど腹が立ったんだから直面したらしばらくご飯食べれなくなっちゃうかもしれない。


ヒソヒソと交わされる大人の会話。
気配からして5名。
ここに僕らがいることに気づいてるだろうにきっと忍の耳のよさを知らないのだろう。
一般人の数倍聴覚は発達してるんだよ僕たち。

「今度の日曜に決行だ。何人くらい集まる?」
「そうだな声かければ近所の連中はいくらでも集まるだろ」
「じゃあかけれるだけ声かけて」
「まぁあいつぶっ殺せば俺たち英雄だぜ」
「だよな狐退治の英雄だよな。きっと4代目も喜んでくださるだろう」
「4代目の命を奪いながらもノウノウと生きやがって。」
「そうだ。あんなのは早く殺してやるのが正しい木の葉の里の住人の役目だ」
「そうだそうだっ」


憎悪の塊。
悪意の塊。

背後から聞こえてくる会話の意味は分かってなかったけど、それでも彼らが誰に対してそれを向けていて、何をしようとしてるのかなんて簡単に解かった。

そして・・・・彼らがどれだけおろかな思考を持っているかもよおおおおおおぉおおおく理解した。

目の前が真っ赤になって。
頭が真っ白になって。

多分今、後ろ向いたら即座にそいつら殺害してしまうくらいに怒ってたんだと思う。
もってたおにぎりが地面に転がるのも気づかないくらいだったんだもん。

木の葉の里の住人に手をかけるのは当然ながら禁忌である。
抜け忍並に思い罪だということも知っている。
だから自分の気持ちが落ち着くまで絶対に後ろは向けなかった。
必死に真っ白な頭の中で冷静な自分が言ってた。

「デブ」っていわれたらカーーってなって殴りこみに走るのに。
今、怒ってるのに逆に冷静になってる。
どうやったら一番苦しむ死に方を与えられるだろうなんてゆっくり考えている自分がいる。

きっとそう。
でぶよりもずっとずっと僕にとっての禁句。

多分その間30秒くらい。
何度も深呼吸を繰り返して、ようやく少しだけ自分の衝動的な怒りを押さえ込めた僕はとにかくそいつらの計画を阻止しようと背後を振り返った。

その瞬間目にしたのは。

「・・・・・・・・・・・シカマル?」

里人の首筋にクナイをあてがっているシカマルの姿。
いつもの眠そうな瞳で、かったるそうな動きで。
でもそれが余計に怖い。
多分シカマルすっごく怒ってる。
静かに切れてる。


「ちょシカマルなにやってんのよっ」
「まてまて少し冷静になれ」
イノとアスマ先生が慌てた声で制止している。

「十分冷静だぜ俺は。」

低い低い声。
立ち上る激しい怒りのチャクラが黒く渦巻いているのが見えそうなくらいに。

殺気というものに少しは慣れている僕たちですら身震いするそれに、一般人が耐え切れるはずも無くクナイを当てられていないほかの4人は地面にへたり込んでいた。
失禁していてもおかしくない。

「なぁお前らさ。一番いっちゃいけねー事いったし、一番やっちゃいけねー事やろうとした。俺はな。まず大抵の事は大目に見るぜ。理不尽にぶん殴られようが、大事な将棋版が燃やされようが、貴重な忍術書を破られようが、大抵の事はめんどくせーから追求しねー。でもな。俺にとってそれだけは言っちゃならねー禁句をおめーらは吐いた。」

めんどくさそうな声音で。
でもグッと押し付けているクナイは更にめり込んでいる。

「あいつを殺す?ハハッ」

怖いっすっごく怖いんだけどシカマルっ。

「いやもうどうしてくれうようなこいつら。知ってっか?木の葉の掟、第53条。木の葉の住人の殺害計画を立てたもの。木の葉の里を追放処分。ちなみに殺害しちまった場合は死罪な。」
「あ、あいつは木の葉の住人なんかじゃないっ。化け狐だっ」
「・・・・・・・・・・・・・」

無言で見下すシカマルのその視線は冷え切っていた。
僕だって多分同じような目でそいつの事見てるとおもう。

「アスマ先生。その人殺しちゃだめなの?」
「チョージお前まで何を言ってやがんだ。気持ちは分かるが殺したら死罪だろ」
「そっか。じゃ半殺しならいいかな」
「・・・・・・あー確か半殺しの場合に関する掟は載ってなかったよな」
ポリポリ頭を掻くアスマ。
こういう時のアスマはとても好きだ。
ナルトを守る側についてくれるから。


「あのね。この間ねパパに心乱心の術を教えてもらったの」
「イノ?」
「それ試してみてもいーい?」
突然何を言い出すのだろうといぶかしげにイノを見た。
声音はいつものように明るくて、無邪気。
でもその顔は・・・全然笑ってなかった。


む・・無表情で怒ってる。
もしかして10班って切れると皆冷静派?

「あーそうだな。一般人にどのくらい効くのか効力を試すのは必要だよな。」
里人に忍術をかけるのは禁じられている。
だがそれは禁じられているだけであり、本人の良心に委ねられる暗黙の了解の掟。

でもアスマはそれを大義名分片手に笑みながら許可する。
それほどご立腹ということ。

「シカマル。ここはイノに任せてとりあえずこっちおいでよ。」
「・・・・・・・ああ。」
少し考えた末にシカマルは僕の言葉に頷いてこちらにくる。

開放されて彼らは一様にホッとしていた。


「はっ狐なんか庇って何考えてやがんだ」
「このことは火影様に報告してやるからなっ」
「里の人間に忍が手をだしたらいけないことくらい俺らだって知ってんだぜ」

馬鹿だね。
僕たちが思いなおして開放したなんて思ってんだ。

「イノやっちゃって」
「ま、事後のフォローは俺がなんとでもしてやるさ」
「・・・・・・・」

三人の据わった目を受け同じく据わった目のイノが丁寧に印を組みながら抑揚に欠けた声でボソリと呟いた。
「心乱心」






イノの術で心を乱された彼らは仲間内で同士討ち。
死んでくれても全然構わないからそのままにして僕たちはドブさらいの続きを始めた。
シカマルはと言えば相変わらずのボーっとした顔でドブをすくっては捨ての動作を繰り返していたのだが、そのうちふいに口を開いた。

「悪ぃイノ。手ぇ汚させた」

別にドブさらいのことじゃない。
さっきのことだってきっとイノも先生も気づいてる。
イノは殊更明るく笑ってみせた。

「えー?別にあたしは寧ろすっきりしたけどー?」
「そうだよねー本当なら僕だって火遁の一つくらい浴びせたかったくらいだし」
「お前ら過激だろ。こういうときは拷問部屋に押し込めるのが一番穏便だぞ」

「アスマ先生陰険ー。でも今度からそうしましょ」
「そうだね。僕はそっちのほうが気持ちがいいな」
「そうなったら拷問部屋のほうは俺が知り合いに掛け合ってやるからな」
「アスマ先生太っ腹!!」

多分に本気な会話を明るく交わしていると

「お前ら」
シカマルは困ったような顔で苦笑する。
シカマルがさ、ナルトをとっても大切にしてるの結構僕たち知ってるんだよ。
でもさシカマルには負けるかもしれないけど僕たちだってナルトの事大切にしてる。

それこそ掟すら破っても構わないくらいに。



禁句ってあるよね。
それってさホント人それぞれでさ。

僕の禁句は「デブ」って言葉。
でも気づかなかったけどもう一つあったみたい。




シカマルの禁句を知ったその日。
僕たちの共通の禁句を知った。