「やめた方がいいってばよ」 「なんでよっ」 「いや。何て言うか・・・イノこそさ、なんでそこまでして入りたいってば?」 「あたしのプライドがかかってるのよっ」 「はぁ?」 「だってこんなに毎日押しかけてるっていうのにあたし一度もあんたの家に入ったことないのよーーー」
そう。山中イノは未だ婚約者の家に入ったことがない。何気なさすぎて驚きの事実に気がついたのは情けない事に昨日のこと。 しかも人に言われて・・・だ。 「なんでサクラは良くてあたしはダメなのよー!」 激しく泣き叫ぶ少女にナルトは溜息をつきたくなった。 そうか元凶はサクラちゃんだったのか・・・ 他愛もない会話だった。 毎日温室に通い詰めていることを告白すればサクラから 「ああ、あいつって見掛けによらずマメだものね。温室だけじゃなくて家ん中もいつ行っても綺麗だし」 それに無意識に「そうよね〜」と返してからハタと気がついた。 あれ? あれれ? あたしあいつん家に入った事あったかしら? 「なんて事っっっ」 そう。飲み物や茶菓子はいつも温室にある小さなテーブルで頂いてたしお手洗いもきちんと温室横に備え付けられてるし今まで家に入る必要がまったくなかったのだ。 まだ夕飯一緒に食べる程仲良く無かったし。お昼は外で食べた方が気持ちいいって手早くおにぎり作ってくれて気持ち良い草原で食べてたし。 全く気がつかなかった。 「なによ。それで婚約者なんて言えるの?」 「うぐっ」 それにあたしは返す言葉もなかったっつーの。 ああもうっ悔しーー!! 温室には毎日のように入っていると言うのに。 (まいったなー) と言うのがナルトの正直な気持ち。 偶然と思ってるだろうが今まで室内に入れなかったのは意図してのことだ。 だいたい 男性の一人暮しの家に未婚の女性が一人であがるなんて言語道断。 ・・・なんて言うのが、かなり時代錯誤なナルトの思考であった。 故に 「シカマルやチョージと一緒ならいいってばよ」 2人きりにならなければ良いと妥協しているのでサクラがサスケやカカシと家を訪れるのを良しとしている。 だが、そんな事を知らないイノは 「なにそれっあたしはシカマルやチョージのおまけだって言うの!?」 そう思っても仕方あるまい。 「いやそうじゃなくてー」 「なんでサクラは良くてあたしはダメなのよーー」 とうとう泣きだしそうな表情で尋ねられナルトは弱った。 「サクラちゃんも1人だったら家に入れないってばよ」 「・・・どういう事?あんたまさか・・・」 驚愕全開の表情を見せる少女に一体次はどんな勘違いをしてるのやら、とひそかにワクワクドキドキである。 「お・・・男好き?」 その瞬間、周囲の温度が明らかにグッと下がったのをイノはきっと永遠に忘れられない事だろう。その時浮かべていたナルトの恐ろしいまでの笑顔と共に。 「・・・へぇ・・・イノにはそう見えるんだ?」 あまりの発言に思わず仮面が外れそうになった。 どこをどうしたら『男好き』と思うのだ? 「だ、だってね。女の子は一人じゃ家に入れないけど男はいいんでしょ?贔屓(ひいき)じゃないっずるいっ。」 「イノ。俺だってむさいヤローより可愛い女の子の方がいいに決まってるってばよ?」 「そうなの?」 キョトンと不思議そうに尋ねないでくださいイノさん!! 男として悲しいですっ。 「だってあんた男共と仲良いじゃない」 「まぁ普通には」 「・・・あれが普通ぅぅ?」 眉をよせ、明らかに訝し気なイノに今度はナルトがキョトンとする。 「普通だってばよ?」 ナルトの友人は皆さんあんな感じである。 我先にとナルトの隣を争い、彼等なりの感性で1番親しいポジションに座る。 それは彼等の両親も同じこと。 奈良シカクと山中イノイチに比べたらルーキー仲間の争いなど可愛いもの。 しかも人からの好意に疎すぎるナルトはそこまではっきり表してようやく (俺ってもしかしておっちゃん達に好かれてるのかなあ?) なんて程度にしか気がつかないのだ。 「とにかく鳥肌が立つよーな事言うなってばよ」 「ふーんだ。じゃ男好きじゃない証拠にあたしを家に入れてよ」 「ダ・メ」 「・・・頑固っ」 「なんとでも言えってば〜」 っくーーーこいつがここまで頑固だったとは初発見だわ。 それもまた良し。なんてササヤカに好意を上昇させている場合ではない。 「もー・・・こんなんじゃぁ」 うずまき宅におじゃま出来る日はいつになるやら |
これだけ通いつめていたというのに今更知ってしまったイノさん(笑)