木の葉の里には最強の忍びがいる。
そんな噂が駆け巡ったのは数年前からの事。いつの間にやらいて、たった数年でメキメキと伸びていき、今では里の稼ぎ頭というその人物。
名をナナシ。
字(あざな)をつけようにも人物の特徴も使う技も判らないという、これぞ忍びといったヤツだ。
そしてこれまた相方にドクと言う奴がいて、やたらめったら強いと言う。
最近現れたアオと言う奴と合わせて三人が木の葉のトップと言って間違いないだろう。
「「「「「あこがれるよなぁ・・・・・」」」」」
そんなおとぎ話のような忍びの噂を聞くたびに彼らはホゥっとため息をつく。
ああ、いいなぁ木の葉。
いいなぁ俺も木の葉の忍びに生まれてナナシとかドクとかと一緒に任務してぇぇぇ。
彼ら・・・砂の里の忍び達の頭はちょっと沸いてるのかもしれなかった。
ナナシを探せ!!
最近、砂の里の暗部の間ではとあるブームが到来していた。
その名も、
『ナナシを探せゲーム!』
内容はと言えばその名の通り木の葉の里に忍び入り、暗部面の下のナナシを拝見しようというもの。
ただの度胸試しのようなものなのだが、正真正銘、命がけである。
実際に、ほどほどの力量の暗部なら見つけ出せず一定期間で帰還し、ハイパー級の暗部たちは未だ帰らずという・・・。
姿を見られたら即抹殺と言うナナシの噂が信憑性を増した現在である。(←ミステリアスでカッコいいとまたもやナナシの株があがったらしいが(笑))
それでもゲームに参加するチャレンジャーは未だに後を絶たないというのだから、なんというかアホである。
そしてここにも新たなアホ・・・もとい勇気あるチャレンジャーが一人
「行ってくるぜっ」
と元気に飛び出して行った。
大丈夫なのか砂の里は?
◇◆◇◆◇
「ぐおぉぉぉぉ何でこんな最悪に天気が悪いんだぁぁぁ」
木の葉の里へ忍び込む。実を言えばそれだけで十分に命がけである。いくら最近同盟を結んだとは言えお願いして、はいどーぞと入れて貰えるほど信頼はされていない砂。しかも彼は暗部である。そんな怪しい人間を(しかも理由はきっと口にできまい)新しい5代目の火影様はどー見るか?
彼は思う。
「怪しすぎて俺ならぜってー入れたりしねー。っつーか見つけた瞬間即抹殺だっての」
そうだろう。そうだろう。だからこそ彼は忍び込んでいるのだから。
そんな訳で最悪な天候の中、彼はなんとか隙を見つけ忍び入り(腐っても暗部だな)なんとか木の葉の里へと足をつけた。そこまではいい。問題はこの後だ。どこに潜むか。
とりあえず手近な家でも探してちょっと情報を手に入れるか。
目の前に広がるのは森。延々と木しか見えない。だが彼のとてもよい視界には小さな明かりが見えていた。多分民家の。
「っし。頑張れ俺っ」
◇◆◇◆◇
雨の中恒例の散歩をしていた二人はゴミのように転がる物体を目に留めた。
片方は金色の、片方は黒色の髪をしたまだ幼い二人の少年はジッと地面を見下ろした。
「なんだコレ?」
「あ?行き倒れか?」
「みてぇ。どーするってば?」
春とはいえ、夜は冷える。更に雨で体温が奪われ最悪死にいたる。はぁとため息をつきながら雨でベチャベチャの物体を肩に担ぎ黒髪の少年を振り返った。
「・・・ってお前もう抱えあげてるじゃねーか。お持ち帰り決定だろ。」
「まぁこのまま死なれたら夢見悪そーだし。それに、コレたぶん砂のだし」
「だろうな。ったくめんどくせーなぁまたかよ」
「うん。最近ほんと多いよなぁ。砂って暇なのか?」
「今はあっちもてっぺんいなくて大騒動だろ。暗部の状態がつかめてねーんじゃねーのか?」
「ふぅん。それにしてもこんだけ暗部がチョロチョロ入って来てんのにうちの里警備甘くね?」
黒髪の言葉にそっけなく頷くと金髪は首をかしげた。
「木の葉だって5代目がようやく就任したばっかだからな。そうそうキチンとは機能してねーんだよ」
「ふぅん。まぁいーや。帰ろシカ。これチョー冷たいってば」
またもやどうでもよさそうに相槌をうつ金髪。
「っつーか乾かしてから担いだほうがよかったんじゃねーのか?」
「や、めんどくさかったし」
「俺の言葉とるなよな」
「へっへーだ。」
「ま、さっさと帰ろうぜ。冷えてきたしな。せっかく久しぶりに夜が休みなんだから」
「ん。散歩打ち切りは残念だけどシカと家でゴロゴロもたまにはいいかもな。」
「ナルト。」
「ん?」
「それ居る間、また夜の任務減らしてもらっとくぞ」
「さんきゅーシカマル」
黒髪の少年・・・シカマルの言葉に金髪、ナルトは嬉しそうに微笑んだ。
◇◆◇◆◇
不意に目が覚めたら知らない家にいた。
どうやら昨夜目的の家にたどり着く前に倒れてしまったようだ。
砂からここまで結構ハードな道のりだったからなぁ。
疲労が出たか・・・。
情けないと己を叱咤しながら体を起こす前に視線をめぐらせてみた。まずは今の状況を把握しなければいけない。無害な人間の家なのか?
頭上に自分の忍具があるのを確かめホッとする。愛用の刀が無くなっていなくてよかった・・・。と次の瞬間
「目ぇ覚めたってば?」
突然ヒョッコリ視界に現れた顔に驚きのあまり跳ね起きてしまった。
気配しなかった・・・・と思うのだが・・・。
一定の距離をとり無意識に手に取った刀を抜いていた。
「わっわわわっ」
思わずといったようにコロンと後ろに転がった少年。偶然だろうか?彼がうまく後ろへ避けてくれなければ切っ先は彼の顔を傷つけていたことだろう。いくら動揺したからって助けてくれた人間を怪我させては申し訳なさ過ぎる。
「しかっしかっこいついきなし攻撃してきたってばーーー」
「んーそうか」
後ろに手を付いたまま刀を持った俺を無視して背後に座る少年(もう一人いたのかっっ)に言いつけるように叫ぶ。だがその少年は手元の本から顔をあげぬまま適当な相槌だけ返してきた。
「聞けーーそんでもって心配しろってばっっ」
「や、元気じゃねぇか」
「だってビックリしたってばよっ」
「怪我してねーんだろ?問題ねーって。で、あんた刀仕舞ったら?」
キャンキャン騒いでいたのは金の髪の少年。こんなに綺麗な金色初めてみたかもしれない。もう一人は漆黒の髪の少年。彼の静かな声音に促されようやく手にしていた刀を仕舞いこんだ。
それから
「すまない。かなり動転していたようだ」
謝罪まで出来るようになった。
おお、ちょっと冷静になったな俺。
っつかマジ避けてくれて助かったぁぁぁ。こんな小っちゃなガキ傷つけたら後悔するとこだったぜ。
「むーー。いいってばよ。それよりおっちゃん砂の人だよな?」
「え?」
「だって砂の額宛が手荷物に入ってたってば」
ぐぐ・・手荷物を見られてしまったのはこの際仕方ないのかもしれない。行き倒れた自分が悪い。
「じ・・実は任務でここに来ているんだ秘密にしておいてくれないか」
「はい嘘っっ。俺ってば知ってんの。おっちゃん変なゲームに参加してんだろー」
なぜそれを・・・。
「最近ここらへんによく来るってば。そんで綱手のばっちゃんに砂の人めんどー見るように頼まれてるってば」
「は?」
全然わからなかった。
よく来る?綱手のばっちゃん?めんどー?頼まれる?
「ナルト。その説明で分かれってのが無理だっつーの。よーするに5代目火影の綱手さまがこう言ったわけだ。なんだか最近ナナシっつー暗部を探りにくる砂の忍びが沢山いるからそいつらの管理をお願いするってな。」
「管理?」
「別に悪意もって来てんじゃねーんだろ?以前来た砂の忍びに聞いてるから知ってるけど、とりあえず来るのはいいが木の葉の里に迷惑をかけないことを前提にゲームをやれってのが今の火影様からのお言葉だ」
黒髪の少年の淡々とした言葉になんとなく現状況を把握してきた。っつーことは強制送還はされないってことか・・・。そんでもってめんどー見るってことはここに置いてくれるのか?
「ゲームに関する説明聞くってば?」
「あ・・ああ。頼む」
「んーと。期限は1週間。それ以上は無理やり帰ってもらうってば。そんでもってナナシの正体がわかれば俺達に言って。それを俺達が綱手のばっちゃんとこに伝えに行って、合ってたらおっちゃんはめでたくナナシと会えるって事。」
ふむ。彼らは伝言役って訳か。
「で、その一週間の間の寝泊りはこの家。後はー。あ、食費くらいは入れろってばよ」
すらすら出てくる説明は慣れているせいだろう。
「いいってば?」
「ああ・・・ってゆーかうちの里のもんが迷惑かけてるみたいで・・すまないな。」
現在進行形で迷惑かけてる俺が言っても説得力がないが。
「別に、まぁ馬鹿なことしてんなぁと思うけど迷惑なんかじゃないってばよ」
ニカッと太陽のごとく笑顔。その笑顔に騙されてしまい、バカ呼ばわりされたのに気が付いたのは結構後になってからだった。
◇◆◇◆◇
「ただいまぁ」
「お帰りー。ご飯できてるってばよー」
「おーありがとよ。腹減ったぁ」
里中動き回ったせいでヘトヘトだ。途中ナルトの班のメンバーに出会ったが
「お前どこにいたんだ?」
「えー?」
「お前の7班だっけか?会ったけどナルトは休んだっつってたからよ」
「うん。ばっちゃんのお使いに行ってたってば」
企業秘密だからサクラちゃん達には内緒ーと唇に人差し指をあてる。
「ああ。なんか風邪かって心配してたから否定しちまったけど大丈夫か?」
「うん。腹痛って言っとくから。それより冷めるってばよ」
「だな・・っておいシカマル。今日もいるのか」
ちゃっかりいつもの席に座っている黒髪の少年の姿に呆れてしまう。
「あー?ああ、うちの親先週から任務でいないから飯あさりに来てんだっつっただろ」
帰るのがめんどうだとそのまま寝泊りしているこの少年。一日ゴロゴロしているように見える。
「お前も少しは手伝ったらどうだ?」
家事全般ナルトがやってるじゃねーか。
「あーめんどくせーし」
「いいってばよ。シカはそんかわし大掃除とか布団干しとかそーゆーのは手伝ってくれるからさ」
なるほど。これが二人のちょうどいい付き合い方と言うことか。
「それに本当に俺が疲れてる時はご飯作ってくれるし」
「まぁそんぐれーはな」
「作れるのか!!?」
「失礼なヤツだな」
「シカは上手いってばよー」
ふえー。このめんどくさがりがねぇ。
ナルトだってこの見た目から想像できない手際のよさを見せた上に、生まれて初めてってくらい美味い飯を作り出す。
最初食べたときは心底ビックリ。今じゃ一生居つきたいくらいだ。
「お前砂で飯屋開かねー?」
などと真剣に提案してしまうくらいにはこの子のご飯のファンになってしまった自分に苦笑が止まらなかった。
◇◆◇◆◇
「どー?見つかったってば?」
本日でとうとう5日目。金の髪の少年はここに居候してから初めてそう尋ねた。
「や、全然。一応予想つけてた奴らチェックしてたんだけどな、あれはハズレだ」
「誰?・・って聞いてもいー?」
「ん、お前の担任とチームメイト」
「あーなるほど。そういやそー言う人多かったなぁ」
「やっぱそうか」
過去俺と同じことをしたやつは多いのか。うーむ先に教えて欲しかったが無理な話か。
「で?次はどーすんの?」
「だなぁ。あんま考えてねー。どーすっかー」
「そんなに自信あったってば?」
「まぁわざわざ木の葉まで来るくらいにはな」
肩をすくめ自嘲気味に笑って見せれば相変わらず本から顔をあげない黒髪の少年が珍しいことに口を挟んできた。
「っつーかよ。あの二人だと正体隠す必要ねーじゃねーか」
なんであんたらはそんな事にも気づかねーんだ?なんて聞いてくる。
はいはい悪かったですねぇ。
「まぁ何か事情が?とか深読みしちまったわけだな。ぜんっぜん無さそうそうだったわ」
「だろーな」
「まぁ後2日あるしボチボチな」
とは言うものの自信はさらさら無い。
(あーあ。分からず帰還軍団の仲間入りかぁ。まぁそのまま行方知れずよりマシかもしんねーけど)
でも、つまんねぇーーー。と心の中で一人ごちる。
木の葉まできて成果はうまいメシだけかよ。いやすっげーありがたいけどな。
「今日のご飯はビーフシチューだってばよ。特別にから揚げもつけたげるから元気出せってば」
ニッコリ優しい言葉をかけられささくれ立っていた心が癒されるようだ。
顔はかわいく、料理も上手、気遣いもバツグンで言動は見ていて飽きない。
あーコレ持って帰りてぇ・・・。
「なぁ嫁になんねー?」
半分冗談、半分本気の俺の言葉に即座に反応したのはチョー意外なことに『めんどくせー』の少年だった。
「だめだ」
読んでいた本から顔をあげ、かなり真剣な表情。
うわーこんな顔もできるんだこいつ。
「これは俺のだからな」
グッと『だってばよ』の少年を引き寄せ威嚇モード。おーお一丁前に。
「うちの里で店開けって言った時はピクリとも反応しなかったくせにな」
「ったりめーだ。こいつが行くなら俺も行く。」
「うん。一緒に料理屋って楽しそーってこないだ話してたもんな」
「どーせなら俺は和食屋がいい」
「ラーメン屋!!」
「・・・ってこないだケンカしてたのはそれかっっ」
珍しく言い争ってる姿を目にして首をかしげていたのだ。
「「ピンポーン」」
どっちも引かず結局料理屋は却下となったらしい。
(・・・こいつらは・・・)
バカップルと一言で言ってもいいのだろうか?それぞれ別の店を開くという選択肢がでない時点で結局こいつらは仲がいいってことなのだ。
「んで、なんで突然嫁?」
「いや、メシうまいし、優しいし」
「シカもだってばよ?」
「こいつの料理は食ったことない上に一緒にいて心和まん」
「えー俺はすっげー気楽だけど?」
そう、この二人はどこで波長が合うのか知らないが物凄く気が合うようだ。
(まぁ外でのように騒がしかったらシカマルも嫌がるだろうが)
そこまで考えてハテ?と思う。そういえば何気ないせーで気づかなかったけど。
「見てみてーこれゲージュツ的じゃねー?」
桜型に切ってみせた人参をジャーンと見せるナルト。
「あ?へっそんくれー俺でもできるぜ」
俺が話しかけてもめったに上げない顔を簡単に動かし更には立ち上がるシカマル。
「どーだ」
「わぁっ!すっげー。バラだー」
「そんでこうしたら茎付きのバラっ」
めんどくせー返上で工作に懲りだす。
「なっなっこう?」
「ちげーもっとここ切って」
「うー難しいってば」
「ったく不器用だな」
と言いつつ優しい瞳で金髪の少年を見る。
外ではもっと騒がしいナルトが1トーン抑えた声音ではしゃげば、苦笑を見せつつ次々と芸術的な作品を生み出していくシカマル。
「あー人参しゅうりょー。面白かったぁ」
「ついでに他のも切ってやるよ」
「やったっ。じゃ玉ねぎ〜」
「お前苦手だもんな」
玉ねぎ切るの。と笑い出し手に取る。
「だって目にしみるし」
「そうか?」
台所に立つ二人の姿はとっても微笑ましい。
っつーか新婚宅に紛れ込んだ気分だ。
「あっとは煮るだけぇ」
歌いながら戻ってきたナルトにご苦労さんと手を上げ、あらためて思った。こいつらセットで嫁に貰ってもいいかと思ったが・・・(←大問題だろ)
「やっぱいらねーわ。お前らのイチャイチャっぷりに俺は耐え切れん」
「「・・・え?」」
不思議そうに首をかしげる二人が笑えた。
◇◆◇◆◇
「あれ?出かけるのか?」
「うん。毎日恒例の散歩〜」
「ああ、おっさん初日から夜はいなかったもんな。めんどくせぇけど行ってくる」
肩をすくめ手を引かれるままに外へと連れ出されるシカマル。
本当に仲良いなこの二人。しかしこんな時間に?夜中だぞ。
「ついでに修行すんのっ。夜でも動けるよーにっ」
「まー俺の場合影使うから特に夜での使い方が重要だし」
無理矢理ではないと元気なナルトの言葉に追加する。
「修行・・・つけてやろうか?」
なんとなく頑張る二人を応援したくなったのだ。
俺がこんな事言うの珍しーぜ。
だが二人は
「あ?おっさん他の里の忍びだろ?手の内あかせるかっての」
「そーそー秘密の特訓だってばよ」
わーむかつくー。そりゃー砂の人間だけどよぉー。
今までは「うちは」と「はたけ」の二人を見張るのに大忙しだった夜がポッカリあいてしまった俺は暇をもてあましていたのだ。
二人が出て行って数分。こんくらい間ぁ空ければ文句言われねーよな?
よっこいしょと俺は立ち上がった。
「っし。俺も散歩いくか」
夜は忍びの領域だ。もしかすると探しているナナシがいるかもしれない。ドクでもいい。
どっちかの手がかりが掴めればきっともう一人にも繋がると確信を持っているから。
そこらへんをフラフラ。ついでにあの二人の様子でもと思い修行場を覗いてみる。
「あれ?いねーな。どこでやってんのやら。」
結局特に何も見つけられぬまま帰宅。
「まだ帰ってねーのか」
結構歩いてたんだけどな。無人の家にちょっとため息。寂しいなぁ・・・。
・・って、うわーこんなんで俺元の一人暮らしに戻れるのか?ちょっぴり自信がない。ま、それは置いといてあいつらいつ帰ってくるんだ?修行っていったって長すぎだろこれは。
「ったく程々にしねーと倒れっぞ」
ポツリと呟いた独り言。
「心配してくれてありがとってば」
「計算ぐれーしてるっての」
「ぅわっ」
よもや返事が返ってくるとは・・・。余りに驚きすぎて叫んじまったじゃねーか。
「びびったー。なんだお前らいつの間に後ろに」
「へっへーん油断大敵だってばよ!!」
ガバッと背中に抱きつかれ慣れない事にワタワタ手を振り回してしまった。
「怯えてるぜ」
「えー何でー?」
「あ・・暗部ってのは生きてる人間と触れ合う機会が少ねーんだっっ」
情けない事を口にしてんな俺。
「えーおっゃん彼女いねーの?」
「・・・・ぐっ」
やっぱり言われると思った。いたさ昔は。同じ忍びでな。今は墓の下だってのっっっ。んな事忍びに夢持ってるガキに言えるかっての。
「人とさー触れ合うのは大事だってばよ。人間が温かいっての忘れちゃうと生きてる実感無くしちゃうってば」
背中にはりついてるせいでどんな顔してんのか見えないが声はひどく真剣で・・・。なんだ突然?
「おっちゃんあったかーーい」
「そりゃ生きてるからなっ」←やけっぱち?
「んー生きてるって幸せだよね」
「・・・・」
素直に同意出来ないのは俺が荒みきってるからか?
「こーやってさぁ。誰かと話すのも、笑い会えるのも諦めないで生きて来たからだってば」
「お前が言うと重みがあるなナルト。まぁこいつのメシ食っておっさん幸せだったろ?それって生きてるから出来たこと。この先もしかすっととんでもなく楽しいことがあるかもしんねぇ。それを見逃さねー為に生きるってのはどうだ?」
なんなんだシカマルまで・・・。
「って事でおっさんあんまり死に急ぐなよって俺とナルトからのありがてーお言葉でした。」
「は?」
「風呂はいっぞナルト」
「はーい。じゃおっちゃん先に風呂入っちゃうってばよ」
仲良く一緒に風呂へ向かう二人。呆然とそれを見送ってしまった。
「・・・・なんで・・・・」
あいつら知ってんだ?そんなそぶり見せたか俺?気づかれてるって事にどんどん居た堪れなくなってくる。
わっわっっ
(は・・恥ずかしーーかも)
手近にあったクッションを抱きしめぐぉぉぉと何とも言えない声をあげてしまった。
生きるのが辛かった。
人を殺めるごとに、大切な人を無くすごとに冷えていく人間としての感情。
どうせなら最高の忍びと刃を交わして終わりたかった。
きっとこのふざけたゲームに参加した人間は皆同じような考えだろう。
こんな小さな子に生を語られちまうなんてな。
俺なんかよりよっぽど大変なのに諦めないでいるのにな。
これはかなり恥ずかしい・・・。
すっかりバレてる俺のキモチをよそに二人の態度は変わらなかった。今までのように温かいご飯を三人で囲みくだらない会話を和やかに交わす。
そんななんてことない日常が・・・生きてるって実感をくれた。
「あーくそ。これに慣れちまうとヤバイってのに」
◇◆◇◆◇
とうとうやってきた最終日。
「答え解ったってば?」
尋ねて来た子供に両手をあげてみせた。お手上げデス。
「あー勘でもいいか?」
「どーぞ。一回限りのチャンスだし言わなきゃ損だってばよ」
だよな。っつーかかなり荒唐無稽な事言うつもりだぞ俺。笑われるよなこれは・・・
「一応言うだけだからなっ違ったら速やかに忘れろよ」
そんな情けない言葉に二人は嬉しそうに微笑んだ。
どーゆー意味だその笑みは?
「俺の全く使えない勘では・・・ナナシは・・・」
前置きして置き、また口ごもる。い、言いにくいー
「ナナシは?」
「あー笑うなよ。お前だと思うんだよ。『だってばよ』のうずまきナルト君」
指差した先のキョトンとした顔。うー違うよな
「や、ただの勘だからよ。お前達毎夜出かけるし、もしかしてシカマルがドクだったり〜なんて」
ああ何墓穴掘ってんだ俺?だいたい出かけただけじゃ根拠に欠けるし・・・
いや後なんか鋭かったりナルトなんか最初俺の剣交わしたし・・・
それに火影命令か知らないが決して俺の名前を聞かないし・・・。
外と中じゃ態度が違ったりするし。
うー積もり積もったちっちぇー事がすっげぇ引っ掛かったんだよ。
「ふぅん。おっちゃんの勘って意外と・・・」
「使えるんだな。まさか俺の名前まで出てくると思わなかったぜ」
「へ?ナルト?シカマル?」
2人して突然憑き物が落ちたかのような表情。
わ・・・笑ってるけど・・・怖いデス
2人はにぃっと唇を持ち上げると口をそろえて高らかに告げた。
「「大せいかーい!!」」
「・・・は?」
「いやぁ無理かもって思ってたんだけどな」
「まさかシカまで当ててくるとは思わなかったってばよ」
「ま、待て。」
待ってくれ。頭が追い付かねぇ。
「ってかマジかよ?」
自分で答えといて聞くか?って感じだけど仕方ねーって。
当たったってのにミョーに嬉しくねぇぞ。
「まぁ信じらんないのは仕方ないってば」
「大体の奴らは『まさかな』とか言いながら答えるからな」
二人で腕を組んでうんうん頷く。
「ほ、他のやつらも?」
「そー。ま、自信持って答えられたらさすがに俺らの演技力がやべーって事だし」
「だから勘でも正解なんだってば。俺って存在に疑問を抱いた。それだけでジューブン合格っ」
「は・・・あ・・・」
悪い夢でも見てる気分だ。少しだけ漏らしてくれた二人のチャクラは確かにただの下忍では有り得ないものだったし、認めざるをえまい。
・・や、まだ信じらんねーけどさ。
「で、正解した俺は抹殺されるのか?」
「・・・は?」
「あーそう言うやつ多いよな。なんでわざわざんなめんどくせー事せにゃなんねーんだよ」
「や、門外不出のナナシとドクだぜ?木の葉の里内ですら正体隠してんだろ?口封じするに決まってるじゃねーか」
だろ?フツーそうだろ?
「っつーかよ。それなら態々おっさん達にもバラさねぇって。隠すと決めたら俺もナルトもぜってー隠し切るぜ」
・・・そうかもしれない。
「じゃあ・・・」
「ああ他のヤツラは、」
フイに言葉を切ったシカマル。
次の瞬間、ザッと周囲を囲まれた。
・・ちなみに言うぞ。家の中だ。お前らどこに居たんだ?
ってかこのタイミングで登場するってことはきっちり盗み聞きしてたっちゅーことだよな?
しかも・・
「げっ」
知ってる気配がチラホラと。
そんな彼らはスッとナルトとシカマルに向かってひざを付き一礼すると、一斉に誇らしげに名乗った。
「「「「ナナシ配下、スナーズ参上!」」」」
「や、俺認めてねってばよ。っつかお前ら土足っ靴脱げっ靴っ」
思わずナルトを振り返ってしまった俺に慌てて手と首を振って否定する。
呆れて物も言えない。
砂を出てって押しかけ配下か。
一様に慌てて靴を脱ぎだす情けない彼らは確かさっき意識が飛びそうな変な名前を名乗った気がする。
なんだか記憶が飛びそうな名前を。
色んな驚きが頭の中を駆け巡ったが思わず最初に聞いてしまったほどに衝撃的な名前を・・・。
「そのダっっっサい名前は誰が?」
「・・・悪かったな」
「おい」
お前かシカマル。
「名前はともかくスナーズは重宝してんだぜ。」
「まあそれは否定はしないってば。でも砂の里が安定したら絶対返すってばよ」
「「「御意」」」
真面目に片膝をついて頭をたれるスナーズ。計14名。
うわぁよくみりゃこいつらかなり凄腕ばっかじゃねーか。
「来ると思ってたぜ『幻影のハジキ』」
「はずいからそれは言うな」
その中の1名にニヤリと懐かしい字で呼ばれた。
過去の字をナルト達に聞かれるのは穴にもぐりたくなるくらい恥ずかしい。
「そうか?」
「何おっちゃん有名人だってば?」
「まさかハジキとはな」
首を傾げるナルトと頭を掻くシカマル。
「いやお前らほどじゃ無いから気にするな。」
本気でそう思う。
必至で顔の前で手を振る俺をサラリと無視して常に冷静なシカマルはガサゴソと突然タンスをあさり始めた。
なんだ?
何が出てくるんだ?
「はい、おっさん」
「ん?」
シカマルに手渡された一枚の布。
木の葉のイメージカラーの緑。
これって・・・。
「スナーズ一員の証。腕につけとけよ」
あっさりと・・・いいのか?
「シカっおっちゃんの意思はっっ?」
「あ?いるのかそんなもん」
「シカ・・・。おっちゃん一応砂の里にも帰れるってばよ。ただちょっと記憶はいじらせてもらっちゃうけど」
それは仕方あるまい。スナーズになるか記憶消して帰るか。
二者択一か。うむと首をかしげた俺にシカマルがニンマリ笑って指を立てた。
何たくらんでやがんだこいつ?
「スナーズメンバー特典を教えてやる。」
うっわ。むっさ怪しいぞ。
特典って。
まぁナルトとシカマルの傍に居れるだけでも十分な特典だけどよ。
だがしかし、シカマルから発された正真正銘の特典に俺はあっさり陥落した。
「週に一度ナルトの手料理が食える」
その瞬間心は決まった。
「ありがたく拝命させて貰います。」
スナーズって名前はどうかと思うがナルトのメシは逃せんっ。
「うーん手駒がメシで釣れてゆくな。今までこれで釣れなかったやつ一人もいねーんだぜ」
くっくっくと意地悪く笑うシカマルは15人となったスナーズを眺めやる。
なるほどナナシの正体を当てたやつは誰一人里帰りを希望しなかったのか。
「シカァァァ」
困ったようなナルトの叫びに俺は思わず笑い出した。
「メシに釣られたのは確かだけどよ、お前達の傍なら俺は生きようと思うのも確かなわけだ。これからヨロシクな。」
「・うー・・俺の配下なら一つ誓え。あんたは砂からの一時的な借りもんだ。木の葉にいる間に命落とすんじゃねーってばよ。誓えるか?」
いやそれは忍びとして誓うのは無理だろ。
だが偉そうな口調でありながらも心配してくれてるのはわかるから・・・
「・・・頑張る」
「ん、期待してる。じゃヨロシクってばっ」
見てる者を幸せにするその明るい笑顔。
この1週間で知った。
このうずまきナルトと言う少年の境遇。
取り巻く環境。
向けられる悪意。
それにも負けないまっすぐな心。
彼ほど強く彼ほど忍ぶのが得意な者はいまい。
彼ほど度量が広く、彼ほど優しい人間も・・・。
あれほど憧れ焦がれ続けたナナシという存在。
闘いたいと思ったその存在。
それが今では・・・
彼の笑顔を守りたいそう思った。
数年後。砂のてっぺんに立った我愛羅に、ナルトとシカマルから返還された「スナーズ」と言う名の暗部達。
驚愕に彩られたかつての敵の表情にナルトは苦笑しか出来なかったという。
「あー・・まぁいろいろあったんだってば。こいつらヨロシクな風影さま?」
end |